二人の転生悪女 ー偽聖女のヒロイン成り代わり作戦を防げー

炭田おと

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 その日、ベルント殿下とフィリップ殿下は、皇宮の裏手の広場で、乗馬の練習をしていた。


 そんな二人の様子を、日傘を差した侍女達が見守っている。


 皇子達が乗馬を終えて戻ってくると、侍女達は木陰に敷物を敷き、バケットや飲み物、お皿に薄くスライスした肉などを並べて、皇子達をもてなした。

 木陰が生み出す緑色の縞模様の中で、解放的に楽しむ昼食会を、皇子達も楽しんでいるようだった。



 そんな皇子達に、黄金色の髪と、花弁のような白いスカートを揺らしながら、近づいていく少女がいた。



「やあ、エルネスタ。偶然だね」



 フィリップ殿下のほうが、先にエルネスタに気づき、手を上げる。



「殿下に、ご挨拶申し上げます」

「堅苦しい挨拶は必要ない。父上に会いに来たのか?」

「いえ、宮仕みやづかえの友人に会いに来ました。まさか、殿下達が庭にいらっしゃるとは思わず・・・・お邪魔でしたか?」

「まさか。君はもう、昼食を食べた?」

「いえ、まだです」

「じゃ、ここに座って」


 フィリップ殿下にそう言われて、エルネスタは彼の隣にちょこんと座る。






「やはりボリスはアリアドナではなく、エルネスタのほうを皇子達に引き合わせたんだな」


 私とクリストフは離れた場所から、エルネスタと二人の皇子の様子を見守っていた。



 狙い通りに、事が進んだ。皇子達の情報を流せば、きっとボリスはアリアドナではなく、エルネスタを皇子達に引き合わせるだろうと予想していた。



 エルネスタという少女をはじめてみたけれど、アリアドナに引けを取らない、可愛らしい少女だった。ただ年齢の割には、仕草が幼いように感じる。だけどその幼さが、逆に魅力的に見える不思議な子だった。



「狙い通りに進みました」

「エルネスタを二人の皇子に会わせることが、そんなに重要なのかい?」

「重要ですよ」

「なぜだい?」


 不思議そうな顔を見せるクリストフに、私はにっこりと笑いかける。


「私達は今まで、ベルント殿下とフィリップ殿下を、アリアドナから引き離そうとしてきました。だけど二人はアリアドナに私達の悪い噂を吹き込まれているから、私達の話をまったく信じてくれなかったでしょう?」

「ああ、毛嫌いされてるな。無視されることすらある」

「でもそんな殿下達も、エルネスタの言葉になら、耳を傾けると思うんです。アリアドナは表向きは、エルネスタを可愛がる良き姉を演じていますからね」

「義妹をいじめる姿は、聖女にはふさわしくないからね」

「そうです。だからアリアドナは、エルネスタの悪口を言えなかった。ーーーー二人が仲のいい姉妹だと思っている皇子達は、エルネスタの言葉なら信じることでしょう」





「アリアドナがそんなことを?」


 私達の会話の途中で、皇子達の驚きの声が耳に飛びこんできた。


「そうなんです! お姉様に突き飛ばされたせいで、膝を擦りむいたんです」


 エルネスタはスカートをめくって、皇子達に膝の傷跡を見せていた。


 スカートをまくるだなんて、貴族令嬢にあるまじき行動だった。ベルント殿下は気まずそうな顔になり、奥手のフィリップ殿下は真っ赤になっている。

 エルネスタのほうには、別に皇子達を誘惑しようという意図はなかったようで、皇子達の反応を不思議がっているようだった。


「あ、アリアドナがそんなことをするとは思えないんだけど・・・・」

「そんなことないんですよ。お姉様は普段は、すごく乱暴なんです。ミスをしたメイドを平手打ちすることも、珍しくないんですから」


 ベルント殿下もフィリップ殿下も、信じられないという顔をしていた。






「・・・・アリアドナは皇子達の前では完璧な令嬢の仮面をかぶって、本当の自分を見せようとしません」


 エルネスタと二人の皇子の様子を見ながら、私は話を続ける。


「でもエルネスタはとても素直な子だと聞いてますから、ありのままのアリアドナの姿を、皇子達に伝えてくれるでしょう。自分のことをいじめている相手のことなら、なおさらです。エルネスタがアリアドナの陰湿な一面を二人に伝えれば、二人がアリアドナにたいして抱いている、完璧な女性のイメージは、揺らいでいくことでしょう」


「なるほど!」


 アリアドナはエルネスタが皇宮主催の行事に参加することを、妨害しているらしい。エルネスタの口から、自分の本性やいじめのことを言いふらされることを、危惧していたのだろうと思う。


「しかしエルネスタが自分のことを悪く言ったとアリアドナが知ったら、私達にしたように、二人の皇子に彼女がが嘘つきだと吹き込むんじゃないか?」


「そうなるかもしれません。・・・・でもそれはそれで、成功だと言えます」


「なぜだい?」



「アリアドナが、エルネスタの悪口を皇子達に吹きこんだとボリスが知れば、ボリスはアリアドナのことを許さないでしょう。二人の亀裂が、決定的なものになるはずです」



 くるくると日傘を回して、足元の木漏れ日を揺らしながら、私は考えを巡らせる。



「〝聖女計画〟はアリアドナとボリス、二人の柱があってようやく成り立つものです。どちらかが協力しなくなったら、計画は崩れます」



 私達がばらまいた不和の種が、やがてヴュートリッヒを分断する大きな亀裂になってくれればいい。最終的には、それが狙いだった。



 それに市民に扮したヴォルケのメンバーの抗議活動も、ヴュートリッヒの事業の悪事を暴くことに貢献しているようだ。


 ボリスがさっそく、アラーニャに、抗議活動を潰すようにと指示を出してきたので、ヴォルケの団員同士の追いかけっこがはじまっている。



 クリストフの話では、ボリスは抗議活動のほうを気にしていて、最近は皇宮に出てきていないらしい。すべてが、狙い通りに運んだ。


「・・・・さすがだな。次から次へ、よく思いつくものだ」


 クリストフは顎を撫でながら、感心したようにそう言った。


「まったく、知れば知るほど、君は末恐ろしい人だよ。味方でよかったと、あらためて思い知ったね」


 それを聞いて、思わず笑ってしまった。


「次々と悪事を思いつくなんて、なんてずる賢いんだと思いました?」


「ずる賢いんじゃなくて、賢いんだ。自分を悪く言うものではないよ」



「ずる賢いという評価で、構いません。私は本来、悪役側の人間なんですから。なので身の程をわきまえて、アリアドナのように無理に聖人側に立とうとせず、悪役のまま生きていこうと決めたんです」



 私の目的は、この世界で穏やかに生きること。アリアドナのように、主人公の座なんて望んでいなかったし、実際に主人公であるシュリアに出会って、自分が主人公になれるようなそんな器じゃないことも思い知った。私には彼女のような正義感も、自己犠牲をするほどの善意もないのだから。



 ーーーーだったら分不相応に正義の側に立つことなど望まずに、原作通り、悪役として生きようと思った。原作のアルテのように裏で暗躍しつつ、シュリアが表舞台に立てる場を整えればいい。



 最終的に穏やかに、心安らかに生きられる日々さえ得られれば、私はそれでいいのだから。



「だったら、悪役が板についてきたというべきかな? 覚醒して、たった数年で悪役として開花するなんて、やっぱり君は大物だよ」


「何を言ってるんですか?」


 私も余裕の冷笑を返す。



「ーーーー私は本来なら、原作小説の最後を飾る、悪役のボスになるはずだったんですよ。このていどの悪事なんて、朝飯前じゃなければ、ラスボスなんて務まりません。悪役界では、私はまだまだ三流ですよ」



「でも、一流になることを目指しているんだろう?」


「なれるものなら、なりたいですね」


「君が悪役界のボスになったら、主人公の父親とはいえ、しょせん脇役でしかない私は、君の手下になることになりそうだな。どうかブラック企業にせず、部下にも優しいホワイト企業を目指してくれ」


「悪役界に、ホワイトを求めちゃいけませんよ。ありえないとは思いますが、もしあなたが私の部下になったなら、思う存分こき使わせてもらいます」


「ぐええ・・・・」


 クリストフの反応が面白くて、思わず笑ってしまった。



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