二人の転生悪女 ー偽聖女のヒロイン成り代わり作戦を防げー

炭田おと

文字の大きさ
46 / 152

45

しおりを挟む


 私とクリストフが、ヴュートリッヒ一家に不和の種を撒いている間、世間は貴族社会で流行する病の話題で持ちきりになっていた。


 貴族も平民も関係なく流行る感染症なら、皇都の人々も何度も経験してきたことだから、騒がなかったはずだ。だけど今回の病は貴族だけ、しかも一部の貴族と関係者だけという、ひどく限定的な流行り方をしていた。



 その奇妙な点が、人々の関心を引きつけるようだった。



「一部の貴族だけに病が流行るなんて・・・・原因は何なんでしょうね?」

「さあ、原因はまだわかっていないそうよ」

「まあ、じゃあ治療法もわからないまま?」

「そうなの。今のところ死者はいないそうだけれど、今後はわからないわね」

「どうせ外国から取り寄せた、高価な食べ物でも食べたのが原因でしょう」


 貴族は全員、贅沢三昧の日々を送っているという思い込みから、不摂生のせいだと考える人も多かった。



「人々のために尽くしている聖女を罵ったから、天罰を受けたそうね」



 ーーーーそんな噂をする人もいた。



「・・・・ヴュートリッヒの息がかかった神官達が、動いているようですね」

「そのようだね」


 その日私とクリストフは、馬車を降りて、市街地を並んで歩いていた。


 モルゲンレーテでは、貴族と平民が住む場所はきっちり分けられているため、市勢(しせい)の雰囲気を確かめるためには、露店や物売りが並ぶこの一角を視察するのが一番だった。



 ーーーーそして民衆の関心が、貴族の間で流行っている、原因不明の病にあることがわかった。



「ヴュートリッヒと繋がっている神官達が、ビュットナー伯爵達が倒れたのは、聖女を悪く言ったからだと各所で吹聴しているようだ。この工作活動のせいで、市民の間では、伯爵達は天罰を受けたという説が浸透しつつある」

「さっそくアリアドナが、病で苦しんでいるバルツァー男爵の邸宅を訪問して、治癒魔法で彼を救ったそうですよ。そして、感謝されたそうです」

「バルツァー男爵は今まで、アリアドナに批判的な立場を貫いていたのに、今回の件でアリアドナの陣営に引き込まれることになったな。今後は、広告塔に使われるぞ」

「ビュットナー伯爵のほうは、アリアドナの訪問を断っているそうですね」

「アリアドナの治癒力で癒してもらえば、ビュットナー伯爵の病気は治るだろう。だが、一度力を借りてしまったら、伯爵は今後二度と、彼女に頭が上がらなくなる。だから彼女の力を借りたくないんだろう」


 裏を返せば、ビュットナー伯爵にとっては、病の苦しさよりも、アリアドナに頭を下げる苦しさのほうが、こたえるということなのだろうと思う。


「・・・・しかしいつまで持ちこたえられるかな。死を予感し、恐怖に耐えられなくなったら、なりふり構わなくなる可能性がある」

「・・・・あくどいけど、うまいやり方ですよね。自分に批判的だった貴族を意図的に病気にして、救世主になれば、貴族に恩を売れるだけじゃなく、自分に批判を向けた人々にたいする脅しにもなるんですから」

「この国はまだ未発達で、超常現象や病気の原因が解明されることはほとんどないからね。我々の世界でも、科学が発達するまではそうだったように、不確かなことや迷信が、真実のように語られてしまう。しかも神にたいする信仰心は、現代人の比じゃないから、高位神官のような権威けんいを持つ人間が、〝神のご意志〟という言葉を使えば、民衆はあっさりと信じてしまうだろう」

「だからヴュートリッヒの息がかかった神官の、〝天罰〟という言葉も、受け入れられてしまってるんですね」

 前世では、干ばつや疫病が、魔女や差別されていた人達のせいにされて、魔女狩りや虐殺という最悪の結果を招いたことがあると記憶している。



 アリアドナが自覚しているかわからないけれど、民衆をけしかけるという彼女の火種を撒くような行為は、いずれ制御できない大火になりかねない、とても大きな危険を孕んだものなのだ。


「・・・・しかし、仕組んだからと言って、狙ったように自分に批判的な貴族ばかりを病にできるだろうか?」

「毒物が使われた形跡は?」

「伯爵が倒れた時に、徹底的に調査されたさ。でも、食事からは毒物は出てこなかった。もし仮に、食事に毒物が混入していたなら、一緒に食事をした家族が倒れていないのはおかしい」

「ビュットナー伯爵やバルツァー男爵のご家族には、何の症状も表れていないんですか?」

「伯爵も男爵も、朝夕の食事を妻や、幼い子供達とともに食べていたそうだが、両家の家族には一切、症状が表れていない」

「・・・・・・・・」


 食べ物に混入するタイプの毒物だったら、話は単純だった。でも、今回の件は違うようだ。


 毒物なら、食事をともにした人達全員に症状が表れているはずだし、毒物にくわしい人がとっくに、原因を特定しているはずだった。


「シュリアに頼むのはどうでしょうか? シュリアの治癒能力なら、ビュットナー伯爵を治せるはずです」


 治癒能力にも優劣があり、神官ですら高い治癒能力を発揮できる人は少数だと言われている。シュリアは間違いなく高い治癒能力を持っているはずだから、アリアドナ以上の結果を出せるはずだ。


「私も、シュリアに頼もうと考えていたんだ。だが私は、ビュットナー伯爵とはそれほど親しいわけじゃない。だから近々お見舞いも兼ねて、シュリアを連れてくる許可をもらおうと思っている。よかったら、君も一緒に来るかい?」

「ええ、行きます」

 私達はその日は馬車に乗り、帰路についた。




しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! アルファポリス恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 *他サイトでも公開中 なろう日間総合ランキング2位に入りました!

結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。

佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。 結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。 アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。 アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。

断罪前に“悪役"令嬢は、姿を消した。

パリパリかぷちーの
恋愛
高貴な公爵令嬢ティアラ。 将来の王妃候補とされてきたが、ある日、学園で「悪役令嬢」と呼ばれるようになり、理不尽な噂に追いつめられる。 平民出身のヒロインに嫉妬して、陥れようとしている。 根も葉もない悪評が広まる中、ティアラは学園から姿を消してしまう。 その突然の失踪に、大騒ぎ。

【完結】婚約発表前日、貧乏国王女の私はお飾りの妃を求められていたと知りまして

Rohdea
恋愛
────とうとうこの時が来たのね 決められた運命を受け入れて生きていくつもりだったのに──── 貧乏国の王女のウェンディ。 貧乏だろうと王女として生まれたからには、国のために生きるのが当たり前。 そう思って生きて来た。 そんなある日、婚約が決まったことを父親から告げられる。 その相手は女癖が悪いという噂の他国の王子。 複雑な思いを抱くもこれは国のためにも受け入れるべき結婚。断るなんて選択肢はない。 そう腹を括ったウェンディに対して、なぜか様子がおかしくなったのは、 護衛騎士のエリオット。 そんな彼の様子を不思議に思いながらも、婚約者となった王子、ヨナスとの対面を果たすウェンディ。 愛はなくてもせめてお互いを尊重しやっていけたなら…… そう考えていたウェンディに対してヨナスは、 はっきりと“お飾りの妃”を求めているのだと口にした。 それを聞いたウェンディは────…… ⋆˳˙ ୨୧…………………………………………………………………………………………………………………୨୧˙˳⋆ 関連作 『結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが』 『誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら』 『記念日当日、婚約者に可愛くて病弱な義妹の方が大切だと告げられましたので』 ※こちらのシリーズ作品のスピンオフとなります。 リクエストのありました、 全ての作品に出ていて記念日~ではヒーローにまで昇進した、 陽気な公爵令息エドゥアルトの両親の話。 時系列的に『誕生日当日~』より前の話。 なのでベビーは出ませんが、若かりし頃のガーネットは登場します。 (追記 その後を書いたのでベビーたちも登場しました)

[完結]私を巻き込まないで下さい

シマ
恋愛
私、イリーナ15歳。賊に襲われているのを助けられた8歳の時から、師匠と一緒に暮らしている。 魔力持ちと分かって魔法を教えて貰ったけど、何故か全然発動しなかった。 でも、魔物を倒した時に採れる魔石。石の魔力が無くなると使えなくなるけど、その魔石に魔力を注いで甦らせる事が出来た。 その力を生かして、師匠と装具や魔道具の修理の仕事をしながら、のんびり暮らしていた。 ある日、師匠を訪ねて来た、お客さんから生活が変わっていく。 え?今、話題の勇者様が兄弟子?師匠が王族?ナニそれ私、知らないよ。 平凡で普通の生活がしたいの。 私を巻き込まないで下さい! 恋愛要素は、中盤以降から出てきます 9月28日 本編完結 10月4日 番外編完結 長い間、お付き合い頂きありがとうございました。

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

あっ、追放されちゃった…。

satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。 母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。 ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。 そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。 精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。

処理中です...