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しおりを挟むヨルグ殿下は、玉座の前に立つ。入り口から奥の玉座まで、まっすぐ続く赤絨毯の道に立つ彼らの後姿を、誰もが固唾を呑んで見守っている。
「お、おお・・・・」
堂々としているヨルグ殿下とは対照的に、陛下が慌てふためきながら、ヨルグ殿下に近づく。
「よ、よくぞ戻った。二年にも及ぶ戦を、戦勝に導いたこと、まことにご苦労だった」
「・・・・恐れ入ります」
口ではそう言いつつも、ヨルグ殿下は陛下の前にひざまずこうとしなかった。この国の統治者を前にして、ひざまずこうとしないなんて、何もかも異例のことだった。
「し、して、聖なる七剣の召喚に成功したという話を聞いたのだが・・・・」
陛下の本題は、それだった。
ヨルグ殿下は薄く笑い、無言で腕を振り上げる。
集った人々が、その仕草に首を傾げた次の瞬間、雷のように頭上から降ってきた光の柱が、広間を白く染め上げていた。
眩さに耐えられずに、私は目をつむる。
ーーーーそして瞼を開けると、光る七本の剣が目に飛びこんできた。
どこからともなく出現し、雷のように降ってきた七本の剣はヨルグ殿下を守るように取り囲んで、円状に突き刺さっていた。剣はそれぞれデザインが違い、わずかに光を帯びている。
ヨルグ殿下が下した腕をもう一度持ち上げると、七本の剣は同時に浮かび上がり、頭上を旋回するように動いた。
ヨルグ殿下の腕には、二の腕から手の甲まで、巨大な光る紋章が浮かび上がっていた。私のホワイトレディの紋章よりも、ずっと大きい。
(これが聖なる七剣の力? ・・・・近くで見ると、迫力がある)
剣は想像していたよりも、ずっと大きかった。どのていどの範囲まで飛ばせるのかはわからないけれど、雷のように降ってきた時の速度を考えると、あれだけの質量のものを、あの速度で自在に動かせるなら、確かに向かうところ敵なしだろう。
誰もが、目の前の光景に圧倒されていた。伝説の召喚術だということもあったけれど、単純に七本の光る剣が乱舞する光景には、言葉を奪う迫力があったからだ。
誰よりも動揺していたのは、陛下だった。
「こ、これはーーーーおお・・・・!」
剣を見上げ、陛下はぶるぶると震えている。彼はまるで言葉を忘れたように、感嘆の声だけ上げ続けて、ヨルグ殿下の前にひざまずいた。
「まさか生きている間に、伝説をこの目で拝める日が来るとは・・・・!」
皇子の前に、陛下がひざまずくという異様な光景に、ぎょっとする人もいたけれど、もはや陛下には、まわりの目など関係ないようだった。
「これで、皇祖の時代の強い皇国を取り戻せる・・・・!」
陛下はまるで聖人の像を拝むように、涙を流しながら頭を下げ、歓喜している。皇祖の伝説にそれほど思い入れがない私からすると、陛下の喜びようは少し異様に感じられた。でも涙するほどに、〝強い皇族〟の力を取り戻すことが、陛下の悲願だったのだろう。
その構図だけ見ているとまるで、ヨルグ殿下のほうが主君で、陛下のほうが臣下だと錯覚してしまいそうだった。
ーーーーだけど、それよりも異様だったのは、ディートマル陛下とヨルグ殿下の温度差だった。
(・・・・軽蔑の目だ)
感嘆のあまり、涙する父親とは対照的にーーーーひざまずいた父親を見下ろすヨルグ殿下の瞳に、温かさは一欠けらもなかった。錆びついた鉱物のように、鈍くすら光らず、そこにあるのは凍りつくような蔑視と、その奥でひっそりと滾る憎悪だけだった。
だけど、無理もない。彼は他ならぬ生みの親に、人生を踏みにじられてきた。何の落ち度もないのに庶子に落とされ、銀髪で赤い目をしているという理由だけで可愛がられる弟を尻目に、一人戦場で屈辱に耐えてきたのだ。
今さら、親を敬えなどと、誰が彼に言えるだろうか。
ヨルグ殿下が陛下を敬っていなくても、もう関係ない。
モルゲンレーテでは皇祖は、神のように崇められている。皇帝よりも、はるか上に位置する存在だ。その古代の神の力を、現代に再来させたヨルグ殿下に、誰かが注意できるはずもなかった。
ーーーー彼は自分の力で、皇太子に至る道を切り開いたのだ。
(粗暴ぶりは健在ね・・・・)
装いを整えないまま皇宮に乗りこんできて、拝謁に必要な手続きも儀礼も一切無視し、陛下が自分の前にひざまずいても、目線を合わせるどころか、睥睨している。荒くれ者の呼び名にふさわしいふるまいだった。
でも、理解できる気がした。
きっと彼も屈辱的な日々の中で、自分には正統派の道を進むことはできないと、私のように学んだのだろう。前に進むために、まわりの人々の評価を切り捨てる茨の道を選んだのだ。
それに、ディートマル陛下は、ヨルグ殿下のその無礼なふるまいのすべてを、許すだろう。ーーーー彼が求めていた強い皇族の再来を、ヨルグ殿下が叶えてくれたのだから。
冷遇され、問題児の烙印を押された皇子が、今後は皇宮のーーーー強大な皇国の、主役になるのだ。
間違いなく、今後の政治の流れは一変するはず。
新しい時代に期待を込めて、私はヨルグ殿下を見つめた。
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