二人の転生悪女 ー偽聖女のヒロイン成り代わり作戦を防げー

炭田おと

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 ーーーーそして、襲撃者が姿を現した。



 襲撃者はまず、剣で馬と車体を繋いでいた紐を断ち切った。そして足を蹴って馬を追い払うと、車体を取り囲む。


「ひぃぃ!」


 危険を察知した御者は、悲鳴を上げながら一目散に逃げていく。


「出てこい!」


 襲撃者の一人が叫ぶと、他の者達はいっせいに動きを止めて、奇妙な静けさが通りに満ちた。


「なんだ、なんだ・・・・?」


 路肩で寝ころんでいた浮浪者が、騒ぎを耳にして起き上がっていた。


「なんかまずそうだぞ!」

「巻き込まれないうちに逃げよう!」


 浮浪者達は逃げていく。


 私は柱の陰に隠れて、襲撃者の数を数えた。


「二十人ぐらいかな?」

「見えている範囲では。他の場所にも伏兵がいる可能性が高いので、気を付けてください」


 暗いせいで正確な人数は把握できないけれど、襲撃者は数十人いるようだった。暗色の服を着て、マスクで顔を隠している。


「襲撃者のリーダーはエベラルドと呼ばれる外国人で、一緒にいるのは、奴が今日のために集めたならず者です」

「集めた? もともと、組織ですらなかったってこと?」

「ええ、アラーニャ以上の烏合の衆です。前科者の集まりだと思われます。もしかしたら今日、はじめて顔を合わせたのかもしれませんね」


 皇太子の暗殺に関わるのに、あまりにも雑すぎる。

 呆れたけれど、でも逆を言えば、考えなしで命知らずのならず者でなければ、皇太子の暗殺なんて引き受けないということなのだろう。


「・・・・ボリスはこの作戦が成功しようがしまいが、エベラルド達を始末するつもりだと思います」

「でしょうね」

「出てこいって言ってるだろ!」


 襲撃者の一人が車体を蹴る。


 すると扉を蹴破って、ヨルグ殿下が出てきた。


 そして後から、険しい顔のアルホフ卿が飛び出してくる。やはり今日も、同行を許されたのは彼だけのようだった。


「・・・・護衛対象が、護衛より先に出てくるってどういう状況?」

「おそらくアルホフ卿は、ヨルグ殿下に馬車の中にいるようにと言ったのでしょうが、殿下が言うことを聞かなかったのでしょう」

「・・・・アルホフ卿は苦労しているのね」

「・・・・ええ、涙を誘うほどです」


 アルホフ卿はせめてヨルグ殿下を背中に庇おうとしているのに、殿下が勝手に前に出ていくからうまくいかず、おたおたしている。その姿から、彼の普段の苦労をうかがい知ることができた。





「出てきてやったぞ。・・・・俺に何の用だ?」


 取り囲まれているのに、ヨルグ殿下は堂々としていた。


「貴様ら、自分達が何をしたのか、わかってるのか!?」


 アルホフ卿がようやくヨルグ殿下の前に出て、襲撃者に向かって叫ぶ。





(がんばって、アルホフ卿!)


 勝手気ままな主君に振り回されているアルホフ卿を見ていると、あまりにも気の毒で、状況を忘れて応援せずにはいられなかった。





「貴人の馬車を襲撃するとは! 不敬罪で切り捨ててーーーー」


「ただの貴人じゃなくて、皇太子殿下、だろ?」


 襲撃者一行の先頭に立つ男が、へらへらと笑いながらそう言った。


「ーーーー」


 アルホフ卿は衝撃を受けたらしく、声を失っていた。


「・・・・へえ、皇太子の馬車だってわかった上で、襲撃してきやがったのか」


 ヨルグ殿下はアルホフ卿を押しのけ、また前に出た。


「じゃ、当然、俺がーーーー」


 ヨルグ殿下が腕を振り上げる。


 袖をまくっていたから、腕を覆う紋章が光るのが、はっきりと見えた。



 ーーーー次の瞬間、雷光のような強烈な光の柱とともに、七本の剣がどこからともなく降ってくる。剣は殿下を中心に、円形に突き刺さった。



「これを使うことも知ってるんだよな?」


「・・・・・・・・」


 七本の光る剣を見た瞬間、粋がっていた襲撃者達が急に大人しくなった。



 ヨルグ殿下が皇宮で力を披露した時、貴族達が黙りこんだように、その光景には、人から声を奪う圧倒的な迫力がある。



「最近は大人しくしてなきゃならなくて、気が滅入っていたところなんだ。暴れさせてくれる機会をくれて、感謝する」

「・・・・・・・・」





「・・・・もともと、戦場で暴れていた人ですからね。なのにここ最近は別人のように大人しくて、不気味だという意見すらありました」

「・・・・皇太子が、大人しくて不気味だと評価されるなんて、世も末だわ」


 ヨルグ殿下の性格の問題は、今はひとまずわきに置いといてーーーーあの圧倒的な力を目にして、襲撃者一行がどう出るのか、次の展開が気になった。



 ーーーーところがここで、予想外のことが起こった。



「逃げろ! 隠れるんだ!」


 ヨルグ殿下が本気を出した瞬間、襲撃者達は蜘蛛の子を散らすようにいっせいに逃げだし、廃屋の中に逃げこんでしまった。


「・・・・・・・・は?」


 その場に取り残されたヨルグ殿下は、呆然としている。


「もしかして彼らは、射手いてが狙いやすいよう、ヨルグ殿下を外におびき出すための囮だったの?」

「そうだと思います。暗殺を成功させるにはまず、神封じの矢で、ヨルグ殿下の召喚術を封じなければなりませんから」


 はじめから襲撃者は、ヨルグ殿下と真正面から戦うつもりはなかったらしい。彼らの役目は、どこかに潜んでいる射手が神封じの矢で狙いやすいよう、ヨルグ殿下を馬車の中から引きずり出すことだったのだろう。


「ということは、どこかに潜んでいる射手が動き出しているはずです」

「高い位置にある窓や、屋根の上を見てください。きっと、高所から狙っているはずです」


 狭い路地で矢を射るなら、高い位置からのほうが狙いやすいはずだ。バルドゥールさんの助言で、私は視線を上げて、不審者の姿を探す。


「周辺は廃屋だけで、住民もいません。さっきの騒ぎで浮浪者も逃げ出したでしょうから、屋根や窓に人影があったら、襲撃者と断定してよさそうです。ーーーーあっ」


 話の途中で、バルドゥールさんは何かに気づいたようだった。


「あそこに、人影が見えます」


 彼が指差したのは、廃屋の屋根だ。


「確認します」


 私は紋章を空にかかげ、ホワイトレディの蝶を放つ。蝶の目で、そこにいる人物が射手なのか、確かめるつもりだった。





「ーーーー喧嘩売ってきておいて、売り逃げが許されると思ってんのか?」


 だけどヨルグ殿下の低い声に、気が散らされる。いつものよく通る張りがある声じゃなく、絞り出すような低い声に、うなじの毛が逆立った。


 声から、怒りが伝わってきたからだ。


「逃げられると思うな!」


 怒鳴りながら、ヨルグ殿下は腕を振り上げる。



 次の瞬間、轟音が轟いていた。



「なっーーーー」


 ヨルグ殿下が力を解放したことが、腕の紋章の輝きでわかった。



 七本の光る剣が動き出し、竜巻のように旋回する。その勢いのまま、剣は廃屋の脆い壁を突き破り、柱をなぎ倒し、屋根を崩落させていった。



 その勢いに巻き込まれ、せっかく私が作った蝶も、吹き消される蝋燭の火のように、消えてしまう。


「ちょっと、やりすぎーーーー!」


「侯爵、危ないです! 巻き込まれますよ!」


 壁や柱を壊されたせいで、廃屋が傾く。


 暴風のような動きに飛ばされた木っ端が、離れた場所にいた私達にぶつかってきた。バルドゥールさんが庇ってくれなかったら、私は木っ端を浴びて、傷だらけになっていただろう。


(まさか襲撃者をあぶりだすために、廃屋を全部潰す気!?)


 廃屋に隠れてしまった襲撃者をあぶりだすにしても、力技で家屋を倒壊させていくなんて、あまりにも無茶苦茶すぎる。


「うわわっ!」


 襲撃者一行にとっても、ヨルグ殿下のその動きは予想外だったようだ。

 このままでは家ごと潰されると思ったのか、廃屋の窓や扉から、次々と襲撃者が飛び出してきた。もう正体を隠す余裕もなくなったのか、マスクもフードも外れて、顔が露わになっている。


「ぐっ!」


 そして出てきた襲撃者を、待ち構えていたアルホフ卿が剣の鞘で、片っ端から殴り倒していった。主犯の名前を聞きだすまで、生かしておくつもりなのだろう。


(まるで、もぐら叩きのようだわ・・・・)


 私の頭には、土を掘り返す農民と、驚いて土から出てきたモグラを捕まえる農民の姿が浮かんでいた。


(殿下の魔力量は、一体どうなってるの?)


 ホワイトレディを召喚しただけで、私は不調になった。ホワイトレディよりも格上の七剣を、こんなふうに暴走させたら、術者の魔力消費量も桁外れなはずだ。私だったら、干からびていたかもしれない。


 なのに本人は、けろりとしている。同じ人間だと思えなかった。



 ーーーー私やヴォルケが出る幕はなく、すでに現場は、ヨルグ殿下の独壇場になっていた。



 でも、廃屋を穴だらけにする七剣の力を目の当たりにして、どうして人々が、聖なる七剣が最強の召喚術だと言うのか、その理由がわかった。


 巨大な神獣を呼びだす召喚術も存在するけれど、おそらくヨルグ殿下の、聖なる七剣のほうが強いはずだ。敵がどれだけ巨大でも、まるでミサイルのように飛ぶ剣で、喉や心臓を貫かれれば、それで勝負がついてしまう。


 むしろ的が大きいほど、ヨルグ殿下のほうが有利になる。敵のほうは逆に、剣というサイズが小さいものを防ぐことが難しい。


 ーーーーたった一人で、高性能の小型ミサイルを七つも操っているようなものなのだから、殿下が戦場で敵兵を震え上がらせたという伝説があるのも当然だった。




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