二人の転生悪女 ー偽聖女のヒロイン成り代わり作戦を防げー

炭田おと

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 ヨルグ殿下は皇宮に生活の拠点を移した後も、なぜか時々、皇都にあるクロイツェルのタウンハウスに戻るそうだ。


 なぜタウンハウスに戻るのか、その理由は殿下にしかわからない。だけどまわりは、皇宮には冷遇されていた時代の嫌な思い出が残っているからでは、と憶測していた。


「そろそろ、ヨルグ殿下が乗った馬車が現れるはずです」


 その日、私とバルドゥールさんは、頭まですっぽりと覆うタイプの暗色の外套を着て、並んで路地に立っていた。



 ーーーー毒殺が失敗すると、ボリスとギュンターは次の手に出た。



 彼らは、ヨルグ殿下が皇宮と邸宅の間を行き来していることを知ると、その道の途中で襲撃する計画を立てたようだ。



 そしてその暗殺計画を、アラーニャに依頼してきた。


 バルドゥールさんは引き受けたふりをして時間を稼いだけれど、待ち時間が長くなるとボリスは、アラーニャが皇太子の暗殺に尻込みしていると疑心暗鬼になったらしい。


 そして、ボリスが別の男に暗殺を依頼したという情報が、クリストフがヴュートリッヒに送りこんだスパイから入ってきた。どうしようかと話しあい、匿名で暗殺の危険を伝えるという意見も出た。でも匿名の情報だと、やっぱり殿下には信じてもらえないだろう。


 ーーーーだから結局、私とヴォルケが、こっそりとヨルグ殿下を護衛するという結論に落ち着いた。


 二、三本の常夜灯が、どことなく所在なさげに立っているだけのこの路地を、ヨルグ殿下の馬車が通るらしい。


「今回の任務の達成条件は、隠れながらヨルグ殿下を守り抜く、でいいんですよね?」

「はい。正体を悟られないように、ヨルグ殿下を逃がせば、任務は達成です」


 待っている間に、私はバルドゥールさんと、任務の達成条件を確認しあった。


 予想外のことさえなければ、ヨルグ殿下は自分で自分の身を守るだろうし、私のホワイトレディの力があれば、任務の達成は難しくないと軽く考えていた。


「・・・・会議は終わったでしょうか?」


 一方クリストフは皇宮で、貴族会議に参加していた。


 その会議には、ボリスも参加している。アリバイ作りなのか、それとも他の有力な貴族を皇宮に引き留めておくためなのか、議題を決め、召集をかけたのもボリスだった。


「まだ終わっていないと思います。皇宮に、ヨルグ殿下が襲撃されたという一報が届くまでは、ボリスが会議を長引かせるでしょう」

「そう。・・・・襲撃者の正確な人数はわかる?」

「それは不明です。・・・・申し訳ありません」

「ううん、わからなくても大丈夫よ。気にしないで」


 襲撃者がどの場所で、ヨルグ殿下を襲うつもりなのか、それはわからない。


 でも一行がいつも通る順路から、人目に付かないことや、騒ぎに気づかれにくいポイントを探すと、道路の拡張のために住民が立ち退かされ、廃屋ばかりになっている、ここしかなかった。間違っていたとしても、用意した馬で、ヨルグ殿下の馬車を追いかける手筈になっている。


(今まではずっと、遠くからの監視がメインだったから、こうして前に出るのは緊張するわ)

 ホワイトレディは遠隔操作ができるけれど、術者と引き離されると、指示が届きにくくなる上に、強い力も使えなくなる。ホワイトレディの潜在能力を存分に発揮させるためには、近くで指示を出す必要があった。


「・・・・神封じの矢さえなければ、私達が出る必要もなかったのに」


 皇国最強の人間を相手に、ボリス達も無策で挑んでいるわけじゃない。



 ーーーー魔法や召喚術の力を封じる、〝神封かみふうじの〟というものがある。



 これで射られると、数週間にわたって、魔法や召喚術が使えなくなるそうだ。今回、暗殺のために、ボリスが大金を支払って、この矢を購入したらしい。



「ヨルグ殿下はいつも、少数の護衛しか連れていないので、神封じの矢を使われると不利になるでしょう」

「・・・・そうね」


 今の段階では、向かうところ敵なしに見えるヨルグ殿下にも、一つだけ、弱点があった。


 ーーーー彼は、自分の力を過信しすぎている。


 皇太子は普通、外出時に大勢の護衛を連れて歩く。でもヨルグ殿下が外出時に同行を許すのは、幼いころからヨルグ殿下の護衛を務め、クロイツェルの番犬という異名を持つ、アルホフ卿だけだった。


(私もアルホフ卿に、一度会ったことがあるのよね)


 狩猟大会で私がヨルグ殿下に助けられた時に、真っ先に駆け寄ってきた騎士がアルホフ卿だった。

 今まで庶子扱いで放っておかれたのに、今さら大勢の護衛をつけられても、わずらわしいと感じるのも無理はない。殿下自身も自分の強さがわかっているから、自分の身を守れるという自負があるのだろうと思う。



 ーーーーでも、その過信は危険だ。どんなに強い人間にだって、隙が生まれる瞬間があるのだから。





 やがて道の奥に、二頭の輓馬ばんばに引かれる馬車が現れた。


「あの馬車です」


 皇太子を乗せた馬車とは思えない、簡素な馬車だった。粗末ではないけれど、華美でもなく、家門を示す紋章もない。皇太子の馬車だということを隠すためなのかもしれないけれど、あれでは強盗の標的になってしまいそうだ。

 馬車はそのまま、路地を駆けぬける。


 襲撃者が出てくる気配は、まだなかった。


「襲撃場所は、ここじゃなかったのかも・・・・」

「追いかけましょう」


 私とバルドゥールさんは馬車を追いかけるため、馬に乗ろうとした。


 でも視界の端で瞬いた赤い光に気を取られ、手綱を手放してしまう。



 屋根の上から、暗闇に赤い弧を描きながら降ってきた何かが、ヨルグ殿下の馬車の前に落ちたのが見えた。



「・・・・!」


 次の瞬間、それが破裂して、赤い光を撒き散らした。



 輓馬は、爆音と光に驚いて、前足を上げて嘶く。そのせいで馬車は、通りに斜めに停車してしまった。同じように驚いた私達の馬も、逃げ出してしまう。





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