二人の転生悪女 ー偽聖女のヒロイン成り代わり作戦を防げー

炭田おと

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「ーーーーホワイトレディ」


 私は守護者の名を呼び、紋章を前に突き出す。


 すると白く輝く蝶が何千頭と、吹き出すように出現して、虚空を飛翔した。蝶達は私が指さす方向へ突き進み、アルホフ卿と襲撃者の間に、横断するように割って入る。そして彼らの視界を、真っ白に染め上げていった。


 密集する蝶が生みだす流れは、さながら、極上の絹糸で作られた真っ白な布のようだった。


「な、なんだ!? 何が起こった!?」


 突然のことに襲撃者はうろたえ、足が止まる。


「一体、何がーーーー」


 その間に、私はアルホフ卿の後ろにまわった。目の前の幻想的な光景に気を取られていた彼は、私の接近に気づくことはなかった。


「・・・・!」

 彼がようやく気配に気づいて、振り返ろうとした時にはもう、私の眠りの魔法は完成していた。


「眠って」


 その瞳に私の姿を映す前に、アルホフ卿の瞼は重く垂れさがり、頭はがくんと前に倒れる。さすがというべきか、彼は最後までヨルグ殿下を守ろうとしたようで、殿下に覆いかぶさるような格好で意識を失った。


「まったく・・・・」


 呟きながら、私は息苦しさからフードを外して、髪を風に流す。フードの中に閉じ込められていた熱気から解放されて、心地よかった。


「はじめからこうすればよかったわ」


 腕を振り上げると、白い蝶達はいっせいに空に舞い上がる。何千頭もの蝶がシャンデリアのように頭上を照らしてくれたから、視界はクリアになり、向こう側にいる襲撃者達の姿がよく見えた。


「・・・・何もかも、失敗だった」


 ヨルグ殿下の到着前に、襲撃者をあぶりだして、撃退すればよかった。あるいは襲撃者の撃破はヨルグ殿下に任せ、私は召喚術を使わずに射手を倒すことに集中していれば、こんな面倒な事態にはならなかったはずだ。

 何もかも間違えたから、私とヨルグ殿下が味方同士で互いの力を潰しあうことになり、結果、漁夫の利で襲撃者だけが得をした。


 自分の判断ミスを後悔しても、後の祭りだった。


「誰だ、お前は!」


 襲撃者達は、次は私を標的に定めたようだった。


「・・・・・・・・」


 責任転嫁だと知りつつ、私は怒りを襲撃者一行にむける。


 ーーーーいや、冷静に考えると、責任転嫁でもない。あそこにいる男達は間違いなく敵なのだから、思う存分苛立ちをぶつけていいはずだ。


「目撃者だ! 殺せ!」


 襲撃者のほうも、問答無用で斬りかかってきて、私の最後の迷いを消してくれた。


「ホワイトレディ」


 私は腕を前に突き出して、もう一度、ホワイトレディの名前を呼ぶ。


 空に舞い上がっていた蝶達が、雨粒のようにいっせいに降ってきた。その光景を目の当たりにして、襲撃者達の動きも止まっていた。


「ーーーー蹴散らして」


 命令に従って、ホワイトレディは一瞬で姿を変えていた。



 落下しながら、蝶は全身を刃物のように鋭く尖らせる。そして全体で竜巻のような渦巻を形成しながら、一直線に男達に降り注いだ。



「ひぃぃ!」


 無数の真っ白な刃を浴びて、襲撃者達の前身は傷だらけになっていた。


「た、助けてくれ!」


 刃物のような蝶にまとわりつかれて、襲撃者達は悲鳴を上げながら逃げ惑う。痛みと恐怖で逃げる気力すら失い、その場にうずくまる者もいた。


「取り押さえろ!」


 バルドゥールさんの指示で、ヴォルケのメンバーが動き出したので、私はいったん、ホワイトレディを遠ざけることにした。腕を手前に引くと、蝶達もその動きに合わせて、私のところに戻ってくる。

 すでに戦意を喪失した襲撃者達を取り押さえるのは、簡単なことだった。襲撃者達は次々と倒され、後ろ手に縛られる。


「制圧が完了しました」

「全員、捕まえられましたか?」

「いえ・・・・エベラルドを逃してしまったようです」


 バルドゥールさんは肩を落とす。


「おそらく七剣の力に恐怖し、仲間を置き去りにして逃げたのでしょう」

「そう・・・・ある意味、烏合の衆の頭領にふさわしい行動ね」


 敵の制圧が完了したので、安全になったはずなのに、なぜか動悸が激しい。手足に力が入らなくなっているから、緊張のためではなく、魔力を消費しすぎた影響が表れているようだ。


「顔色が悪いようです。・・・・魔力を使いすぎたのでは?」


 バルドゥールさんはすぐに、私の不調に気づいてくれた。


「そうみたい」

「事後処理は、我々にお任せください。・・・・といってもここまで大きな騒ぎになりましたから、今さら隠蔽することはできませんが」


 あらためて、倒壊した廃屋を見上げる。

 大きな災害が通りすぎた後のような光景だった。この惨状を、たった一人の人間が作り出したと言っても、きっと信じる人のほうが少ないはず。


「・・・・これは、もはや災害ですよ。市民も、なんらかの突発的で局所的きょくしょてきな災害が起こったと考えるはずです。だから逆に、隠蔽工作は必要ないのかも」

「・・・・そうですね」


 もう考えるのも面倒になって、私は思考をシャットダウンする。


「ひとまず捕縛した男達と一緒に、殿下と護衛も隠家に運びます。後のことは、バウムガルトナー侯爵と合流してから考えませんか?」

「ええ、賛成です」


 話をしながら、私は馬車に乗り込む。


「隠家に向かいます。それまで、お休みください」


 バルドゥールさんが馬車の扉を閉じてくれたので、私は背もたれにもたれかかり、瞼を閉じる。


(疲れた・・・・)


 そして気づかないうちに、眠りの世界に落ちていた。




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