二人の転生悪女 ー偽聖女のヒロイン成り代わり作戦を防げー

炭田おと

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 目覚めると、見慣れない天井があった。


「・・・・・・・・」

 目が覚めた後もしばらくは、魔力不足からくる眩暈と不快感に悩まされた。身体を起こす気力もなくて、横になったまま、部屋の中を見回す。

 そこは粗末な小部屋だった。土壁がむき出しで窓がなく、湿度が高いことから、地下なのだろうということはわかったけれど、家具がほとんどないから、それ以外の情報は読み取れない。生活感がまったくない部屋だった。


「ここはどこ・・・・?」


 呟きながら身体を起こした瞬間、扉が開いた。


「あ、目が覚めたか」


 入ってきたのは、クリストフとバルドゥールさんだった。私は安心して、身体を起こす。


「ここはどこですか?」

「隠家の地下だ」


 クリストフは私の前に椅子を引き寄せて、腰を下ろした。バルドゥールさんは座らず、クリストフの横に立つ。


「粗末な部屋で悪いね。空いているベッドが、ここしかなかったから・・・・」

「構いません。でも、何のための部屋なんですか?」


 ベッドと椅子しかない部屋の、用途が気になった。


「ここは独房だよ。アラーニャのような敵を捕まえた時に、閉じこめるための部屋が必要だと思って、造っておいたんだ。外から、鍵をかけられる仕様になってる」


 確かに、開けっ放しになった扉の外側に、大きな閂が見えた。


「それで、あの後どうなりました?」


 急いで問いかけると、なぜか二人は神妙な顔で黙りこんでしまった。


「どうしたんですか?」


 二人の反応に不安を誘われて、私はまた質問する。


「少しーーーーまずいことになってね」


 私が目で説明を求めると、クリストフはまるで叱られた犬のように目をそらしてしまう。


「もしかして、ヨルグ殿下の容態が悪いんですか?」


 私が最後にヨルグ殿下を見た時、彼は肩に矢を受けたまま、ぐったりしていた。急所は外れていたように思うけれど、あれからまた、体調が悪化したのだろうか。


「いや、治療は終わったし、元気だよ。・・・・元気すぎて、困ってるぐらいだ」

「そうなんですか・・・・よかった・・・・」


 安堵したのもつかの間、それでは二人は何に頭を悩ませているのだろうと、見えない問題にたいする不安が膨れ上がった。


「それじゃ、何が問題なんですか?」

「それがな・・・・」


 クリストフは背もたれにもたれて、乱暴に前髪を掻き上げる。


「いつ、どのようにして、ヨルグ殿下を皇宮へ帰せばいいのかわからないんだ」

「え!? まだ帰してないんですか!?」


 治療後に、皇宮へ送り届けたのだろうと思っていた。


「まだ、この隠家の部屋にいる」

「どうして帰さなかったんですか? 皇太子が行方不明になったと、大騒ぎになりますよ!」

「し、仕方なかったんだ! 本人は負傷している上に、意識もなかった。人に運ばせるにしても、誰かに見つかって事情を聞かれたら困るだろう!」

「ひ、人がいない時を見計らって、玄関の前に置いておけば・・・・」

「置き配じゃないんだぞ! 皇太子を玄関の前に置き去りにできるか!」


 私達は難しい顔を突き合わせて、唸り声を上げる羽目になった。


「それに、今のヨルグ殿下を皇宮に戻すのはいかがなものか・・・・殿下は負傷して弱ってるし、なによりも魔法や召喚術を使えなくなっているようなんだ」

「・・・・やはり、神封じの矢の影響が出たんですか?」

「ああ。君よりも先にヨルグ殿下のほうが起きたんだが、こちらが事情を説明する前に暴れ出したんだ。魔法や召喚術を使ってもおかしくない状況だったが、彼はどちらも使わなかった」

「あ、暴れた・・・・?」


 魔法や召喚術の問題の前に、暴れたという単語が気になって、大事なところが頭に入ってこなかった。


「ひどい暴れっぷりだったぞ。それで・・・・今は、鎖に繋いでる」

「皇太子殿下になんてことを!?」

「仕方ないじゃないか!? 殿下はチンパンジーよろしく、近くにある物を手当たり次第に投げてくるんだぞ! 怪我をしているのに、暴れるのをやめないんだ! 怪力だし獰猛どうもうだ! 今回のことで、私は確信したね! 奴は猛獣だと!」

「・・・・・・・・」


 クリストフにまくしたてられて、私は何も言えなくなってしまった。


「と、とにかくだ」

 感情を爆発させたことで、沸騰していた頭が冷却されたのか、クリストフは急に冷静になる。その声は、萎んだように小さくなっていた。


「一刻も早く皇宮に返送したいところだが、今のヨルグ殿下をそのまま戻すのは危険な気がするんだ。弱った皇子をわざわざ、暗殺の機会をうかがっている猛禽もうきんのところに送り届けてやるわけにもいくまい」

「確かに・・・・」


 皇宮に送り届ければ安全、というわけでもなかった。皇宮には、ヨルグ殿下が消えることを望んでいる、大勢の狐達が跋扈しているのだから。


「アルホフ卿は、どこにいるんですか?」

「彼も、別の部屋に拘留中だ。こちらも暴れたが、ヨルグ殿下よりも大人しくなるのは早かった」


 その言葉で、護衛よりも、護衛対象のほうが獰猛なことが立証された。


「・・・・それで、どうするつもりですか?」


 状況を確認してから、あらためてクリストフに問いかけてみる。


「・・・・う~ん・・・・」


 唸り声が返ってきた。ーーーーどうやら、結論は出ていなかったようだ。


「・・・・ヨルグ殿下の力が回復してから、皇宮に戻すのはどうだろう?」


「・・・・その間は、どうするんです?」



「ーーーー我々が、世話をする」



 声を失ってしまった。



 皇太子の暗殺を防いで、彼を無事に皇宮に帰す。ーーーーたったそれだけの、簡単な任務だったはずなのに。



 とんでもないことになったと、私は頭を抱えずにはいられなかった。



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