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しおりを挟むその日の夜、私はバウムガルトナー邸を訪ねた。
そしてクリストフと会い、バルドゥールさんをまじえて、三人で話しあった。
「暗殺の主犯がヴュートリッヒだと明かすのは、時期尚早じゃないか?」
クリストフの考えは、この前と同じだった。
「殿下が私達のことを信じたように見せかけて、私達と敵対している陣営の情報を探ろうとしているのなら? 隠家から脱出した後に、彼らと結託して、我々に復讐するつもりなのかもしれない」
「疑いますね・・・・」
クリストフはまだ、ヨルグ殿下を疑いまくっている。
「だって、相手はあのヨルグ殿下だぞ? 隠家に連れてきた当初は、隙あらば噛みつこうとしていた。あの狂犬ぶりを、もう忘れたのか?」
「でも最近はすごく、態度が柔らかくなったんです。もしかしたら私達のことを、信じてみようという気持ちになってるのかも・・・・」
「ありえないね。力技で脱出するよりも、我々を信じたふりをして油断させ、後ろから刺すほうがうまくいくと考えたんだろう」
「ものすごく疑いますね・・・・」
疑心暗鬼になりすぎじゃないだろうか。
クリストフは多忙で、めったにヨルグ殿下に会えないから、彼の中の殿下のイメージが、初日の、今にも噛みついてきそうな狂犬のままで止まってしまっているようだ。その上、顔を合わせるたびに、ウサギ仮面だのピンク仮面だのと馬鹿にされているせいもあって、イメージが回復する兆しがない。
「バルドゥール、君もなにか言ってくれ」
クリストフは、バルドゥールさんに意見を求めた。彼なら、自分と同じ意見を言ってくれると考えたようだ。
「・・・・確かに殿下は、油断ならない相手です」
「そうだろう?」
予想通りの答えに、得意げに相槌を打ったクリストフだったけれど、バルドゥールさんの次の言葉には目を丸くしていた。
「しかし、アルムガルト侯爵の言うことにも一理あります」
「なんだって?」
「ヨルグ殿下はアルムガルト侯爵の不在に気づきながらも、脱出しようとはしませんでした。それどころか侯爵のお土産を受け取り、素直に食べたんです。・・・・あの時は本当に、驚愕しました。餓死するわけにはいかないので、提供された食事は大人しく食べてくれますが、お菓子の差し入れでも最初のころはよく投げ捨ててましたからね。だから殿下はお土産のパンなんて、絶対に食べない、拘束して無理やり口に突っ込むしか、食べさせる方法はないと思っていたぐらいです」
「そ、そこまでですか・・・・?」
お土産にパンを選んだのは、あの村の土産物店に置かれている無難な品物が、それしかなかったからだ。安易な選択で、深い意図もなかった。
「我々ーーーーというよりも、アルムガルト侯爵のことを信じるようになったのではないでしょうか」
「えっ? そうなんですか!?」
バルドゥールさんのその言葉に、他ならぬ私自身が、一番驚愕した。
「アルムガルト侯爵は殿下にたいして、とても素直に受け答えしていらっしゃいますから、その素直さが逆に、信頼獲得に繋がったのかもしれません」
「・・・・・・・・」
ーーーー素直な受け答えとはつまり、ヨルグ殿下に指摘された、慇懃無礼な態度のことだろうか。バルドゥールさんなりに、オブラートに包んだつもりなのかもしれない。
「アルテ・・・・そんなところで、素直さを発揮しなくていいんだぞ?」
クリストフにも、心配そうな目を向けられてしまう。
(バルドゥールさんにまで、そんなことを言われるなんて・・・・)
私も最初は、ヨルグ殿下にアルベルタとして接するつもりだった。
なのに不思議と殿下の前に立ち、言葉をかわしていると、いつの間にか本来の自分が出てしまっているのだ。
(もしかして、これがヨルグ殿下の作戦だった?)
ヨルグ殿下の挑発するような発言は、私達に本音を語らせるための作戦ーーーーなのかもしれない。
(いや、考えすぎよね・・・・)
ヨルグ殿下は誰にたいしても、喧嘩腰だ。だから殿下からしたら、いつも通りにふるまっていたら、敵が勝手にボロを出しはじめただけなのだろう。
つまり、私が馬鹿なだけだった。
「しかし本音で接することがなぜ、信頼獲得に繋がったんだ?」
クリストフがバルドゥールさんに質問する。
「私見ですが、殿下は尊重されることを望んでいたんだと思います。殿下が望む〝尊重〟とは、皇族にたいして礼儀を尽くせ、というものではなく、判断力を持つ人間として扱え、というものだと思うんです。ここが他の皇族とは違う点ですね。ベルント殿下なら、私達にへりくだることや、皇族としての待遇を求めてきたでしょう。ヨルグ殿下は逆に、上辺だけの尊重やおべっかなどで誤魔化されるのが嫌いなようです」
「それには、私も同意します」
ヨルグ殿下は、やたら低姿勢でこびへつらってくる人達を嫌っているようだった。気が弱いだけの人にたいしては嫌悪感を見せることはないので、本心を隠して、表面的な〝尊重〟だけ見せてくる相手を毛嫌いしているのだろう。
「アルムガルト侯爵は最初から一貫して、殿下に〝判断〟を求めてますからね。起ったことを伝え、こちらは監禁をとくつもりはない、ではこの状況であなたはどうふるまうのか、ということを何度も聞いています。脱出しようとするせいで怪我を負う殿下にたいして、閣下が短慮だと責めた時も、殿下は怒らなかったと聞いています。何が最善なのか見極めてほしいという閣下の言葉に、思うところがあったからじゃないでしょうか。それに今日、侯爵は、殿下の判断力を信じて、クロイツェルの裏切り者の情報までわたしました。それが殿下にとっては、好ましい態度に感じられたのではないでしょうか?」
「・・・・なるほど」
バルドゥールさんの私見は整然としていたから、クリストフは納得できたようだった。
「まあ・・・・普段から閣僚に喧嘩腰で接することが多い方ですから、同じように喧嘩腰で返してくる閣下と、馬が合っただけとも考えられますが・・・・」
「・・・・・・・・」
「私はそっちだと思う!」
クリストフは、バルドゥールさんのもう一つの意見に食いついていた。
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