84 / 152
83
しおりを挟む廃屋の二階に移動して、そこからエベラルド達を見下ろした。
エベラルドは追手の男達に胸ぐらをつかまれ、問い詰められているようだ。
「・・・・悠長に見晴らしがいい場所にきたのは、あいつがボコられるのを見るためか?」
エベラルドが捕まっているのに、殿下は私が悠長に場所を移動したことに呆れているようだった。
「地形を把握するのが、大事なんです」
こちらの廃屋にも、向かいの廃屋にも、ヴォルケのメンバーが待機している。彼らは窓から顔を出し、私の合図を待っていた。
「エベラルドが逃げ出せない地形ということは、彼を口封じするために現れた人達にとっても、逃走しにくい場所ということです。ーーーーこのさいですから、完全に逃げ道を塞いであげましょう」
私は笑い、手を伸ばして合図を出す。
廃屋の屋根に二か所、何十本もの太い角材が紐で括り付けられてあった。ヴォルケのメンバーが、昼のうちに設置したものだ。
酒場から宿屋までの道を実際に歩いてみて、込み入った地形といえども、目撃されずに人を殺せそうな場所は、そう多くないことがわかった。
だから暗殺者が選びそうな場所すべてに、罠を設置しておいたのだ。
ヴォルケのメンバーが、角材の紐を切る。
解放された角材は、重力に引っ張られて、一気に落下した。
そして突っ張り棒のように狭い空間に引っかかり、路地の入り口と出口を完全に塞いでしまった。
「・・・・っ!」
慌てた男達は、すぐさま動き出したけれど、うずたかく積まれた角材の壁は、そうやすやすと乗り越えられるものではなかった。
そしてヴォルケのメンバーが、ロープで下に降下する。
「お前達、何者だ!」
動揺した男達が怒鳴るも、ヴォルケのメンバーが答えることはなかった。
もう勝負は決したも同然だけれど、向こうから仕掛けるまでは動かないようにと、ヴォルケには指示を出してある。動かない黒衣の男女に脅えているのか、男達も怒鳴り散らすばかりで、攻撃を仕掛けようとはしなかった。
私はホワイトレディを召喚するため、紋章がある腕を前に出した。
「・・・・なんでわざわざ、ホワイトレディを使う? あいつらだけでも、十分に取り押さえられると思うぞ」
殿下の言うとおりだった。ヴォルケのメンバーのほうが人数が多いので、彼らだけでも十分に、仲介役を取り押さえられるはず。ーーーーだけど。
「わかってます。だけどできるなら、仲間に怪我をさせたくありません。そのために、敵の戦意を削いでおきたいんです」
私が空に散らした白い蝶達は、夜空にきらめきを散らしながら、刃物の形になって急降下する。
「うわああ!」
そして、男達の手足を切り裂いた。
男達の戦意は一瞬で粉微塵になり、ほぼ無抵抗の状態で、ヴォルケに取り押さえられることになった。
それを確認してから、私とヨルグ殿下は下に降りる。私達が廃屋から出てくる前に、ヴォルケが男達の両手足を縄で縛り、ひざまずかせていた。
「それでは、殿下」
もはや男達に、一欠けらの戦意も残っていないことを確認してから、私は殿下のほうに向きなおる。
「質問をどうぞ」
ヨルグ殿下は男達の前に立つと、彼らを氷のような目で見下ろした。
「顔を上げろ」
男達は深くうつむいて、その指示には従おうとしなかった。ヴォルケのメンバーが彼らの後ろに立ち、髪の毛をつかんで無理やり顔を上向かせる。
ヨルグ殿下を見た彼らは、顔を引きつらせた。
「だ、第二皇子!? まさか、生きていたのか!?」
「皇太子殿下と呼べ」
恐れ多くも、皇太子に選ばれたヨルグ殿下を、いまだに第二皇子呼ばわりした男は、顎を蹴られてひっくり返った。
「ど、どうして生きてるんだ・・・・」
「生きてて悪かったな。ネズミよりもしぶといタチなんでね」
「・・・・・・・・」
「察しが悪いお前らでも、今がどんな状況か、よくわかってるはずだ」
男達は殿下の視線を避けて、また深くうつむいた。
その態度が気に入らなかったのか、ヨルグ殿下はヴォルケのメンバーが腰に下げていた鞘から剣を引き抜くと、男の喉元に切っ先を突きつける。そして顎を上げさせた。
「ーーーー誰がお前達に、俺の暗殺を命じた?」
「ーーーー」
じわりと、男の生え際に吹き出した冷汗が、鼻根(びこん)を通って、顎のほうへ流れ落ちていく。
答えを拒否すれば、自分達の命が、蝋燭の灯火よりも儚く消えると、彼らはよく理解していたはずだ。ヨルグ殿下は戦場の最前線に立ち、敵兵を容赦なく殺してきた人なのだから。
「・・・・ヴュートリッヒです・・・・」
「聞こえない。もっと大きな声で言え」
「殺しを依頼してきたのは、ボリス・フォン・ヴュートリッヒです!」
その声は、音が消えた空っぽの空によく響いた。
「・・・・・・・・」
ヨルグ殿下は主犯の名前を聞いても、眉一つ動かさなかった。だから表情だけでは、感情の変化は読み取れなかった。
「・・・・フックスじゃなく、ヴュートリッヒが主犯だったのか」
噛みしめるように呟いて、ヨルグ殿下は腕から力を抜いた。
「これで私達が暗殺の主犯ではないと、信じてもらえましたか?」
ヨルグ殿下は吐息をこぼし、肩の力を抜く。
「・・・・とりあえず、あんた達が暗殺を企んだ連中じゃないことはわかった」
「わかっていただけたようで、なによりです。・・・・それでは、剣を返していただけますか?」
ヨルグ殿下は不満そうに、顔をしかめる。
「・・・・俺には一瞬たりとも、凶器を持たせたくないって態度だな」
「喉にガラス片を突き付けられた身としては、殿下には、なるべく凶器を持ってほしくないというのが本音です」
私が手を差し出すと、ヨルグ殿下は不満を残しつつも、大人しく剣を返してくれた。私はその剣を、持ち主に返却する。
それからヨルグ殿下は、私を見た。
「あらためて聞く。ヴュートリッヒの計画を妨害したということは、あんた達はヴュートリッヒと対立している人間か?」
「・・・・今までの罪を問わないと約束してくださるなら・・・・」
「またその流れかよ・・・・」
文句を言いつつ、無理に聞きだそうとはしないあたり、あるていどの譲歩はしてくれるつもりのようだった。
「おそらく近いうちに、殿下は本来の力を取り戻すでしょう。だから力が完全に戻るまで、隠家で療養すると約束してください」
ヨルグ殿下はうなずき、歩き出した。
「・・・・ついでに、私達の今までの数々の罪状も帳消しにしていただけると、とても助かるのですが・・・・」
「減刑を考えてやる」
「・・・・・・・・」
調子に乗って交渉してみたけれど、ヨルグ殿下からは、それ以上の譲歩は引き出せないようだった。
0
あなたにおすすめの小説
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
アルファポリス恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
*他サイトでも公開中
なろう日間総合ランキング2位に入りました!
結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。
佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。
結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。
アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。
アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。
断罪前に“悪役"令嬢は、姿を消した。
パリパリかぷちーの
恋愛
高貴な公爵令嬢ティアラ。
将来の王妃候補とされてきたが、ある日、学園で「悪役令嬢」と呼ばれるようになり、理不尽な噂に追いつめられる。
平民出身のヒロインに嫉妬して、陥れようとしている。
根も葉もない悪評が広まる中、ティアラは学園から姿を消してしまう。
その突然の失踪に、大騒ぎ。
【完結】婚約発表前日、貧乏国王女の私はお飾りの妃を求められていたと知りまして
Rohdea
恋愛
────とうとうこの時が来たのね
決められた運命を受け入れて生きていくつもりだったのに────
貧乏国の王女のウェンディ。
貧乏だろうと王女として生まれたからには、国のために生きるのが当たり前。
そう思って生きて来た。
そんなある日、婚約が決まったことを父親から告げられる。
その相手は女癖が悪いという噂の他国の王子。
複雑な思いを抱くもこれは国のためにも受け入れるべき結婚。断るなんて選択肢はない。
そう腹を括ったウェンディに対して、なぜか様子がおかしくなったのは、
護衛騎士のエリオット。
そんな彼の様子を不思議に思いながらも、婚約者となった王子、ヨナスとの対面を果たすウェンディ。
愛はなくてもせめてお互いを尊重しやっていけたなら……
そう考えていたウェンディに対してヨナスは、
はっきりと“お飾りの妃”を求めているのだと口にした。
それを聞いたウェンディは────……
⋆˳˙ ୨୧…………………………………………………………………………………………………………………୨୧˙˳⋆
関連作
『結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが』
『誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら』
『記念日当日、婚約者に可愛くて病弱な義妹の方が大切だと告げられましたので』
※こちらのシリーズ作品のスピンオフとなります。
リクエストのありました、
全ての作品に出ていて記念日~ではヒーローにまで昇進した、
陽気な公爵令息エドゥアルトの両親の話。
時系列的に『誕生日当日~』より前の話。
なのでベビーは出ませんが、若かりし頃のガーネットは登場します。
(追記 その後を書いたのでベビーたちも登場しました)
[完結]私を巻き込まないで下さい
シマ
恋愛
私、イリーナ15歳。賊に襲われているのを助けられた8歳の時から、師匠と一緒に暮らしている。
魔力持ちと分かって魔法を教えて貰ったけど、何故か全然発動しなかった。
でも、魔物を倒した時に採れる魔石。石の魔力が無くなると使えなくなるけど、その魔石に魔力を注いで甦らせる事が出来た。
その力を生かして、師匠と装具や魔道具の修理の仕事をしながら、のんびり暮らしていた。
ある日、師匠を訪ねて来た、お客さんから生活が変わっていく。
え?今、話題の勇者様が兄弟子?師匠が王族?ナニそれ私、知らないよ。
平凡で普通の生活がしたいの。
私を巻き込まないで下さい!
恋愛要素は、中盤以降から出てきます
9月28日 本編完結
10月4日 番外編完結
長い間、お付き合い頂きありがとうございました。
元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜
日々埋没。
ファンタジー
「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」
かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。
その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。
レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。
地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。
「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」
新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。
一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。
やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。
レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。
あっ、追放されちゃった…。
satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。
母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。
ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。
そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。
精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる