二人の転生悪女 ー偽聖女のヒロイン成り代わり作戦を防げー

炭田おと

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 廃屋の二階に移動して、そこからエベラルド達を見下ろした。


 エベラルドは追手の男達に胸ぐらをつかまれ、問い詰められているようだ。


「・・・・悠長に見晴らしがいい場所にきたのは、あいつがボコられるのを見るためか?」


 エベラルドが捕まっているのに、殿下は私が悠長に場所を移動したことに呆れているようだった。


「地形を把握するのが、大事なんです」


 こちらの廃屋にも、向かいの廃屋にも、ヴォルケのメンバーが待機している。彼らは窓から顔を出し、私の合図を待っていた。



「エベラルドが逃げ出せない地形ということは、彼を口封じするために現れた人達にとっても、逃走しにくい場所ということです。ーーーーこのさいですから、完全に逃げ道を塞いであげましょう」



 私は笑い、手を伸ばして合図を出す。



 廃屋の屋根に二か所、何十本もの太い角材が紐で括り付けられてあった。ヴォルケのメンバーが、昼のうちに設置したものだ。


 酒場から宿屋までの道を実際に歩いてみて、込み入った地形といえども、目撃されずに人を殺せそうな場所は、そう多くないことがわかった。



 だから暗殺者が選びそうな場所すべてに、罠を設置しておいたのだ。



 ヴォルケのメンバーが、角材の紐を切る。



 解放された角材は、重力に引っ張られて、一気に落下した。



 そして突っ張り棒のように狭い空間に引っかかり、路地の入り口と出口を完全に塞いでしまった。



「・・・・っ!」


 慌てた男達は、すぐさま動き出したけれど、うずたかく積まれた角材の壁は、そうやすやすと乗り越えられるものではなかった。



 そしてヴォルケのメンバーが、ロープで下に降下する。



「お前達、何者だ!」


 動揺した男達が怒鳴るも、ヴォルケのメンバーが答えることはなかった。


 もう勝負は決したも同然だけれど、向こうから仕掛けるまでは動かないようにと、ヴォルケには指示を出してある。動かない黒衣の男女に脅えているのか、男達も怒鳴り散らすばかりで、攻撃を仕掛けようとはしなかった。


 私はホワイトレディを召喚するため、紋章がある腕を前に出した。


「・・・・なんでわざわざ、ホワイトレディを使う? あいつらだけでも、十分に取り押さえられると思うぞ」


 殿下の言うとおりだった。ヴォルケのメンバーのほうが人数が多いので、彼らだけでも十分に、仲介役を取り押さえられるはず。ーーーーだけど。


「わかってます。だけどできるなら、仲間に怪我をさせたくありません。そのために、敵の戦意を削いでおきたいんです」



 私が空に散らした白い蝶達は、夜空にきらめきを散らしながら、刃物の形になって急降下する。



「うわああ!」



 そして、男達の手足を切り裂いた。



 男達の戦意は一瞬で粉微塵になり、ほぼ無抵抗の状態で、ヴォルケに取り押さえられることになった。



 それを確認してから、私とヨルグ殿下は下に降りる。私達が廃屋から出てくる前に、ヴォルケが男達の両手足を縄で縛り、ひざまずかせていた。



「それでは、殿下」


 もはや男達に、一欠けらの戦意も残っていないことを確認してから、私は殿下のほうに向きなおる。


「質問をどうぞ」


 ヨルグ殿下は男達の前に立つと、彼らを氷のような目で見下ろした。


「顔を上げろ」


 男達は深くうつむいて、その指示には従おうとしなかった。ヴォルケのメンバーが彼らの後ろに立ち、髪の毛をつかんで無理やり顔を上向かせる。


 ヨルグ殿下を見た彼らは、顔を引きつらせた。


「だ、第二皇子!? まさか、生きていたのか!?」


「皇太子殿下と呼べ」


 恐れ多くも、皇太子に選ばれたヨルグ殿下を、いまだに第二皇子呼ばわりした男は、顎を蹴られてひっくり返った。


「ど、どうして生きてるんだ・・・・」

「生きてて悪かったな。ネズミよりもしぶといタチなんでね」

「・・・・・・・・」

「察しが悪いお前らでも、今がどんな状況か、よくわかってるはずだ」


 男達は殿下の視線を避けて、また深くうつむいた。


 その態度が気に入らなかったのか、ヨルグ殿下はヴォルケのメンバーが腰に下げていた鞘から剣を引き抜くと、男の喉元に切っ先を突きつける。そして顎を上げさせた。



「ーーーー誰がお前達に、俺の暗殺を命じた?」



「ーーーー」



 じわりと、男の生え際に吹き出した冷汗が、鼻根(びこん)を通って、顎のほうへ流れ落ちていく。


 答えを拒否すれば、自分達の命が、蝋燭の灯火よりも儚く消えると、彼らはよく理解していたはずだ。ヨルグ殿下は戦場の最前線に立ち、敵兵を容赦なく殺してきた人なのだから。


「・・・・ヴュートリッヒです・・・・」


「聞こえない。もっと大きな声で言え」



「殺しを依頼してきたのは、ボリス・フォン・ヴュートリッヒです!」



 その声は、音が消えた空っぽの空によく響いた。


「・・・・・・・・」


 ヨルグ殿下は主犯の名前を聞いても、眉一つ動かさなかった。だから表情だけでは、感情の変化は読み取れなかった。


「・・・・フックスじゃなく、ヴュートリッヒが主犯だったのか」


 噛みしめるように呟いて、ヨルグ殿下は腕から力を抜いた。


「これで私達が暗殺の主犯ではないと、信じてもらえましたか?」


 ヨルグ殿下は吐息をこぼし、肩の力を抜く。


「・・・・とりあえず、あんた達が暗殺を企んだ連中じゃないことはわかった」

「わかっていただけたようで、なによりです。・・・・それでは、剣を返していただけますか?」


 ヨルグ殿下は不満そうに、顔をしかめる。


「・・・・俺には一瞬たりとも、凶器を持たせたくないって態度だな」

「喉にガラス片を突き付けられた身としては、殿下には、なるべく凶器を持ってほしくないというのが本音です」


 私が手を差し出すと、ヨルグ殿下は不満を残しつつも、大人しく剣を返してくれた。私はその剣を、持ち主に返却する。


 それからヨルグ殿下は、私を見た。


「あらためて聞く。ヴュートリッヒの計画を妨害したということは、あんた達はヴュートリッヒと対立している人間か?」

「・・・・今までの罪を問わないと約束してくださるなら・・・・」

「またその流れかよ・・・・」


 文句を言いつつ、無理に聞きだそうとはしないあたり、あるていどの譲歩はしてくれるつもりのようだった。


「おそらく近いうちに、殿下は本来の力を取り戻すでしょう。だから力が完全に戻るまで、隠家で療養すると約束してください」


 ヨルグ殿下はうなずき、歩き出した。


「・・・・ついでに、私達の今までの数々の罪状も帳消しにしていただけると、とても助かるのですが・・・・」


「減刑を考えてやる」


「・・・・・・・・」


 調子に乗って交渉してみたけれど、ヨルグ殿下からは、それ以上の譲歩は引き出せないようだった。



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