二人の転生悪女 ー偽聖女のヒロイン成り代わり作戦を防げー

炭田おと

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 ーーーーサルビア村でのシュリアの活躍はすぐに皇都でも話題になり、民衆の関心はアリアドナからシュリアに移った。


 アリアドナの時のように、シュリアのことも、注目を浴びたい目立ちたがり屋の詐欺師だと疑う人達はいたけれど、そういった噂はすぐに消えていった。

 理由としては、シュリアが貧民層を救済するための、地味な慈善活動を長期的に続けてきたことが挙げられた。ただの目立ちたがり屋なら、そんなに根気強く慈善活動を続けられないと、人々は考えたようだった。


 それにシュリアは階級意識が強いアリアドナと違って、平民にも分け隔てなく接し、汚い仕事も嫌がらない。


 そういうシュリア本人の人柄が知れわたると、人々はシュリアこそ本当の聖女だと称賛するようになった。


 民衆の間でシュリアのことが話題になると、私達の狙い通り、今度は貴族階級の人々がシュリアに注目するようになった。

 それまでシュリアのことなど眼中になかった人達が、クリストフが社交界に顔を出すたびに、シュリアのことを聞いてくるようになったそうだ。


 私は今こそ、あらためてシュリアに社交界デビューをさせるべきだとクリストフに提案してみたけれど、娘が心配でたまらない彼はまだ、踏ん切りがつかないようだった。

 クリストフの心配は、痛いほどわかった。シュリアはデビュタントでアリアドナの手下に嫌がらせを受け、ひどく傷つけられたのだから。

 今回も同じことが起きて、シュリアがまた傷つくことになったら、と気が気じゃないのだろう。


 ただシュリアが社交界に出てこなくても、それはそれで、会うことができない聖女にたいする貴族達の関心は、高まっているようだった。


 ーーーー一方、シュリアの飛躍とは真逆に、アリアドナの評価は徐々に下がっていった。


 特にアリアドナが大きな失敗をしたわけじゃないけれど、同じ〝聖女〟の称号を持つ者として、シュリアと比較された結果、自然と、それまでアリアドナが蓄積してきた名声が萎んでしまったようだった。


「バウムガルトナーのご令嬢は、病人を看護するためなら、汚い仕事を嫌がらないし、平民に生意気な口を聞かれても怒ったりしないそうよ」

「まあ、それはなんというか・・・・貴族令嬢らしくない方ね」

「でも、聖女という呼び名には、ふさわしいんじゃない?」

「聖女と呼ばれる女性は、もういるじゃない」

「でも・・・・もう一人の聖女は汚い仕事を嫌がるし、階級意識が強い方でしょう? おまけに目立ちたがり屋だし・・・・」

「どちらが聖女にふさわしいかと聞かれたら・・・・そりゃあ、ねえ?」


 社交場では貴婦人達がひそひそと、そんな噂話をするまでになっていた。



 ーーーー確実にアリアドナが築き上げた名声に、陰りが生まれていた。



 階級意識が強い、汚い仕事を嫌がり、雑用を他の人に押しつける、目立つ場面だけ前に出ていくなど、シュリアが出てきたことで、アリアドナの聖女らしくない面に脚光があてられるようになったからだった。

 アリアドナも空気の変化を感じ取っているようで、クリストフの話によると、かなり苛立っているらしい。その苛立ちのせいなのか、アリアドナが社交界では必ずかぶっていた淑女の仮面まで、少しずつ剥がれはじめているようだ。

 最近もアリアドナは、あるサロンで泥酔して、知り合いの夫人に暴言を吐くという失態をしたらしい。


 ーーーー私達が何かするまでもなく、アリアドナは自滅しはじめていた。そして彼女の名声も、少しずつ悪名に変化しているのだ。







 社交界の空気の変化を、実際に肌で感じてみるため、私は久しぶりに知り合いのサロンに参加してみた。


 挨拶を一通り終えたところで、アリアドナの姿を探す。


 アリアドナは奥の、カーテンで区切られた場所にあるソファに座っていた。いつものように、取り巻きに囲まれている。でも他の貴族達は、少し距離を置いているようだ。

 以前参加したサロンとは、アリアドナの扱いがまるで違っていた。あの時は参加した貴族達がみんな、アリアドナにご機嫌伺いをしていたのに、今日は取り巻き以外は、遠巻きに眺めるだけにとどめている。


 アリアドナの権力が落ちたーーーーとまではいかないけれど、最近のバウムガルトナーとシュリアの台頭(たいとう)を見て、風見鶏の貴族達は離れはじめているようだ。


 そこまでいかなくても、多くの貴族がここ最近の流れで、ヴュートリッヒやアリアドナの今後が、思っていたほど盤石じゃないことには気づいたはず。

 その空気を感じ取っているのか、今日のアリアドナはやさぐれているように見えた。お酒を飲みすぎて酩酊しているのか顔は赤らみ、目もうつろだ。


(・・・・シュリアとアリアドナは、光と影の関係なのね)


 同じ〝聖女〟の椅子を巡って争わなければならない立場のせいか、どちらかが光を浴びれば、もう一方は日陰に追いやられてしまうようだ。聖女の称号を持つ人が何人いても問題はないけれど、〝モルゲンレーテを代表する聖女〟となれば、一人分の席しか用意されないのだから。

 そもそもアリアドナは、聖女の椅子に座るはずだったシュリアを突き飛ばして怪我させた上に、図々しくそこに居座っていただけだ。だからシュリアが本来の力を取り戻したら、日陰に追いやられるのは当然だとも言える。


「あっ・・・・!」


 アリアドナはワインが入ったグラスを持ち上げようとしたようだけれど、酔いすぎて距離感がわからなくなっていたのか、指がグラスに当たっていた。


 グラスは倒れ、ワインの赤がテーブルに広がり、絨毯にしずくが滴っていく。


「・・・・・・・・」

 貴族達はそんなアリアドナに、冷ややかな目を向けていた。


 ほんの一幕ひとまくだったけれど、今の社交界の空気を感じ取るには十分だった。


 これ以上の観察は必要ないと思い、会場を出ようとしたところで、運悪くアリアドナと目が合ってしまった。



 ーーーー酩酊してとろんとしていたアリアドナの目が、私を見つけるなり、凶暴な光を宿す。



(さっさと退散したほうがよさそう)


 シュリアの名声が回復したところで、私の悪女という評価が変わるわけじゃない。ここで私とアリアドナが対立したら、貴族達はアリアドナのほうの肩を持つだろう。


 だから私はアリアドナに捕まる前に、急いでサロンを後にした。



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