二人の転生悪女 ー偽聖女のヒロイン成り代わり作戦を防げー

炭田おと

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(疲れたわ・・・・)


 アルムガルト邸の窓辺に立ち、半月の両側に、青い蝶のように両翼を広げる夜空を眺めながら、私は心の中で呟いた。


「うぅ・・・・」


 私の足元には、二人の男が這いつくばっている。


 ーーーー彼らは私を殺すために邸宅に侵入してきた、暗殺者だった。


 アルムガルト邸の警備の情報が、どこかから流出しているのか、暗殺者が邸宅の警備をかいくぐって、襲撃してくる回数が増えた。

 ホワイトレディの力で暗殺者を撃退することは難しくはないけれど、毎夜の魔力使用量が負担になっている。月に一度や二度ならともかく、最近は襲撃の回数が格段に増えたので、負担も倍増していた。


「・・・・侵入を防げず、申し訳ありません」


 背後に立つエトヴィンとフロレンツは、委縮していた。


「彼らを牢まで連れて行って」

「かしこまりました」


 アルムガルトの騎士が二人を引きずっていく。それを見送ってから、私はエトヴィン達を見た。


「・・・・邸宅の警備の情報が、外に漏れているようだわ。調査をお願い」


「必ずや、密偵を見つけ出します」


 二人は表情を引きしめ、退室した。


 暗殺の主犯が誰なのかは、考えるまでもない。暗殺者は、アリアドナと口論した日から、ほとんど毎日のようにやってきているのだから。


 ーーーー日に日に、身体の奥に蓄積されていく負担を感じている。


 魔力の消費がこんなに身体の負担になるとは、想像していなかった。そのせいで最近はよく体調を崩し、時には倒れることすらもあった。

 でも暗殺者に殺されるかもしれないのに、力を使わないわけにもいかない。


(アリアドナはなぜこんなにも頻繁に、暗殺者を送ってくるの? どうせ私を殺せないことは、わかっているはずなのに・・・・)


 アリアドナは私がもう、ホワイトレディの力を手に入れていることに気づいているはずだ。こんなにも頻繁に暗殺の脅威に晒されている私が、いまだに生きのびられている理由は、一つしかないのだから。


 だからこそ、不可解だった。


 ーーーー私を殺せないとわかっているのに、どうして暗殺を試みるのか。


 そこで、ある可能性に気づく。


(ーーーーもしかしてアリアドナの狙いは、私を消耗させることなの?)


 ーーーー命の危機を感じた時以外は、絶対にその力を使うな。


 思い出したのは、ヨルグ陛下がまだ皇太子だったころにくれた忠告だった。

 彼は、召喚術を使い続けることが衰弱に繋がることを、自分の経験から知っていた。



 彼ですら知っているのだから、原作を読みこんでいるアリアドナなら、強力な召喚術が術者を疲弊させ、時には死に至らしめることさえあることを、知識として持っていたはずだ。



(・・・・あり得る。私が衰弱したところを狙って、仕留めるつもりなのかも)


 アリアドナの本当の狙いに気づくと、今までそのことに気づけなかった自分の滑稽さを思い知って、おかしさがこみあげてきた。


(まんまと罠にはまったのは、私のほうだった?)


 アリアドナを失脚させようと、あれこれと姦計かんけいを巡らせてきた。



 でも結局はいつも、気づかないうちにアリアドナの術中に落ちていたのだ。



(休まなければならないわ・・・・)


 体力を取り戻すために、休息をとらなければならない。ーーーーだけどアリアドナに命を狙われている今、安心して体を休められるような場所が、この皇国のどこにあるというのだろう。


(・・・・身を隠すしかない)


 万が一の場合に備えて、外国に小さな家を買い、慎ましく暮らせるていどの資金も送金してある。アルムガルト家を、信頼できる代理人に任せ、外国で偽名で過ごせば、アリアドナでも見つけ出すことは難しいはずだ。

 万が一のことがあって、私が二度と、皇国に戻ってこられなくても、その場合に備えておけばいい。親戚の中から後継者を指名しておけば、アルムガルトの家門が断絶する心配もないはずだ。



(でも私がいなくなったら、クリストフやシュリアは?)


 頭に、クリストフやシュリアのことが浮かんだ。


(ううん、二人なら大丈夫よ)


 ヴュートリッヒを倒すという目標はまだ達成できていないけれど、バウムガルトナーの派閥の力は、今はとても強大なものになった。それに、結束も強い。ヴュートリッヒの派閥が、邪道なやりかたで自分達を守ろうとすればするほど、彼らの結束はより強固なものになってきたのだから。

 バウムガルトナーの騎士団も強くなったし、ヴォルケの体制も万全になった。だから、二人の命の心配はないはずだ。


(陛下はーーーー)


 次に頭に浮かんだのは、ヨルグ陛下のことだった。


 ヨルグ陛下とベルント殿下の対立構造が明らかになるにつれて、私のところにも、皇帝側、フックス側の両陣営から働きかけがくるようになっていた。両陣営とも、富豪になった私に、資金を援助してもらいたいのだろう。


 私は、意思表明をしていない。


 陛下の力になりたいけれど、彼がヴュートリッヒの力を頼る以上、ヴュートリッヒと対立している私が入り込む隙はなかった。


(まして、こんな状態になったなら・・・・)


 ホワイトレディすらまともに使いこなせなくなったら、私には価値がない。役に立ちたいと願っても、ろくな援護もできないはず。


(陛下のことは、クリストフが支えてくれるはず。・・・・今は休んで、身体を回復させよう)


 脱出の時期はいつがいいだろうと頭を悩ませながら、私は執務室を見回す。そして、山積みにされた招待状の中に、皇室から送られてきたものがあることに気づいた。



 冬に建国記念祭が執り行われるので、その招待状だろう。



(今年の建国記念祭は、とても盛大になるはず。外国の王族も、大勢招待されるだろうし)


 ヨルグ陛下が即位して、はじめての建国記念祭だ。外国の来賓らいひんに、新皇帝の即位を印象付ける場になるのだから、皇室も式典の成功に力を入れるだろうし、周辺諸国の王族達も、皇帝と関係を築くために出席するはず。


 だとすれば、建国記念祭の数日前から、港は混雑するだろう。重鎮だけじゃなく、観光目的でやってくる外国人も大勢いるから、船の入出も増加する。沿岸警備隊の仕事量も増えて、チェックがおろそかになるはずだ。


 この日なら、国外に脱出するための船を出しやすい。


(建国記念日の数日前に、外国に脱出しよう)


 そう決めて、私は計画を立てるため、メモ用紙と羽ペンを手に取った。







 建国記念祭が近づく中、ヨルグ陛下の治世を揺るがす、決定的な事件が起こっていた。


「陛下! 大変です!」


 その日、南部からもたらされた一方に、皇宮は騒然となった。



「ベルント殿下が、ついに反乱を起こしました!」



 ーーーー第四皇子のベルント殿下が、ついに行動を起こしたのだ。



 彼らはヨルグ陛下の血の正当性の噂を口実に、フックス家をはじめとする、南部の大貴族の支援を受けて、自分こそが正当な皇帝であると名乗りを上げた。


 そして南部を占領、境界に南部軍を配備した上に、穀物などの物資の出荷を禁じ、税の支払いも拒んだ。


 ベルント殿下は皇太子の座を逃し、兄に皇位を奪われたことに、不満を感じているようだった。そしてその不満を、隠そうともしなかった。


 だから彼が、何らかの形で愚かな行為に出るだろうということは、多くの人が想定していたことではあったけれど、これほどはっきりとした形で、反旗を翻すと予測した人は少なかった。


 私はこの反乱は、ベルント殿下というよりは、ギュンターのやりかただと感じた。遠回りせず、直球で敵を排除しようとするやりかたは、自分を南部の王だと信じて疑わない、ギュンターらしい手段だと言えた。



「まさかこんなに早く、反乱を起こすとは」


 まわりが動揺する中、ヨルグ陛下一人だけが、その一報を面白がっていたらしい。


 すぐに貴族達が皇宮に召集され、話し合いの場が設けられた。


「これはまぎれもない反乱です! 今すぐ出兵し、鎮圧すべきでしょう!」


 すぐに出兵するべきという意見もあったものの、兵員の確保や軍資金ぐんしきんの調達などの問題で、貴族達の足並みはそろわなかった。


 陛下が聖なる七剣を使いこなせるのだとしても、たった一人で大軍を相手にできるわけじゃない。七剣は大量の魔力を消費するため、いくら陛下と言えども間断なく使い続けることはできないからだ。だから一時的に敵軍を怯ませたり、士気を下げることはできても、それ以上の効果は望めない。


 なので戦争をするとなると、やはり敵軍以上の兵員と軍資金を確保する必要があった。



 ーーーーけれど。



「南部まで出兵するとなると、莫大な軍資金が必要になります。その金は、誰が出すのですか?」

「それはーーーー」

「兵員も足りません! 徴兵するとなると、国民の反発を招くでしょう!」

「ではこのまま、反乱分子を放置しろとおっしゃるのですか!?」

「すでに反乱軍が結成されているのですよ? 反乱軍が皇都まで進軍してきたら、どうするおつもりですか!」

「みなさん、落ち着いてください。今は一致団結すべきでしょう」


 影響力を持つバウムガルトナーやヴュートリッヒが、貴族達をなんとか団結させようとしたものの、貴族の多くが風見鶏の姿勢を捨てきれず、どちらにつくべきか迷っている様子だった。



 ーーーー出征には多額の軍資金や兵員が必要で、皇室の予算だけでは、すべてを賄えない。



 だから貴族達の協力が必要だったけれど、軍資金や手兵しゅへいを出し渋っている風見鶏の貴族達の説得には、まだまだ時間がかかりそうだった。



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