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しおりを挟む適当なところで帰るつもりだったのに、なぜかヨルグ陛下が、医官や世話係、さらには神官までつけてくれたせいで、帰るに帰れず、いつの間にか日が暮れていた。
空が茜色に染まるころには、私の体調もすっかり回復していた。
天幕から出ると、森から帰ってくる令息達の姿が見えた。どうやら、狩猟大会が終わったようだ。
そうして大方の予想通り、ヨルグ陛下が優勝した。
(当然のように、今回も優勝をかっさらっていくのね)
毎年、自分の腕前に自信がある令息達がこぞって参加しているのに、誰も彼に勝てない。事情があって参加できなかった時以外は、当然のように陛下が優勝してきた。
まわりが忖度したならともかく、ちゃんと優勝にふさわしい大物を仕留めてくるから、令息達も歯がゆい思いをしていることだろう。
広場に設置された舞台の上で、ヨルグ陛下はトロフィーを受け取っていた。彼の手にトロフィーがわたった瞬間に、人々は歓声を上げ、拍手を送る。
(さて、誰を秋の女王に選ぶのかな?)
今年は誰かを選ぶと宣言した以上、陛下は誰かにトロフィーを贈ろうとするだろう。
今年こそは、と思っているのか、拍手を送る令嬢達は期待を込めた、きらきらとした眼差しを陛下に注いでいる。
拍手が終わると、とたんに人々は静かになった。
優勝者はトロフィーを受け取ると、それを送る女性の名前を、進行役に告げる。そして進行役が秋の女王に選ばれた女性の名前を呼び、彼女が舞台に上がって、盛大な拍手を受けるというのが、例年の流れだった。
なので誰が舞台に呼ばれるか、人々は緊張しながら見守っているようだ。
(アリアドナにはなりませんように・・・・)
これ以上、アリアドナの影響力を強めたくないから、彼女には秋の女王になってほしくない。だから念仏を唱えるように、心の中で願い続ける。
陛下は約束通り、誰かの名前を言ったようだった。進行役の目が丸くなる。
戸惑いながらも、進行役は前に出てきた。今年は誰かが選ばれると知って、令嬢達が黄色い声を上げる。
「アルムガルト侯爵! 舞台に上がってください!」
ーーーー会場から、音が消え去った。
「・・・・侯爵? なぜ?」
「え、まさか、あの人が選ばれたの?」
人々から好奇の視線を浴びせられ、近くにいる人達のひそひそ声を聞きながら、私は冷や汗が止まらなかった。
ーーーーアリアドナが秋の女王になりませんように、と願ってはいたけれど、自分が選ばれることなんて、想定外だ。
呆然としていると、舞台にいる陛下と目が合った。
陛下はにやにやと笑っている。
(・・・・絶対嫌がらせだわ)
陛下は私が、目立つことを避けていることを知っている。なのにわざわざ私に注目が集まるようなことをしたのは、私の〝空気が読めない〟という言葉にたいする、意趣返しだろうか。
ふと、群衆の中にアリアドナの姿を見つけた。彼女は目で射殺してきそうな勢いで、私を睨んでいる。
「侯爵、舞台に上がってきてください」
逃げ帰りたいところだけれど、衆目にさらされる中で名指しされた以上、無視するわけにはいかなかった。
嫌々立ち上がり、私が舞台に上がると、にこにこと笑う陛下と目が合った。
「受け取ってほしい」
そう言って、トロフィーを手渡された。
「・・・・ありがとうございます」
「それではみなさん、新しい秋の女王に拍手を送ってください!」
私がトロフィーを受け取ったタイミングで、進行役の人がそう言った。人々はまた、拍手を送ってくれる。舞台から見下ろすと、腑に落ちないという顔をした人達がいて、いたたまれない気持ちになった。
「・・・・陛下、これ絶対、私にたいする嫌がらせですよね?」
人々に笑顔を向けながら、私が小声で問いかけると、陛下はにやりと笑う。
「嫌だったか? 悪いな、俺は空気が読めないんだ」
睨みつけると、陛下はもっと笑った。
「そんな顔をするな。侯爵に言われたとおり、今回はちゃんと、まわりの期待に応えたんだぞ」
「全然応えられてません。ちゃんとまわりの人達の顔を見てください。みなさん、きょとんとしてるじゃないですか。誰もが私がここに立っていることを、不思議に思っているんですよ。一番不可解に思っているのは、他ならぬ私自身ですが」
「狙い通り、連中の意表を突けたようでよかった」
「・・・・本当にひねくれてますね」
陛下は、素直にまわりの期待に応えるよりも、まわりの驚いた顔が見たいらしい。今回のことは、ひねくれ者の陛下にふさわしい選択だったと言える。
「期待に応えるつもりだったなら、ちゃんとまわりが望む人を選んでください。選ばれたのがシュリアだったなら、みんな納得したのに・・・・」
「令嬢は、侯爵が選ばれて喜んでるみたいだぞ」
そう言われて、舞台の前に集まった群衆の中に、シュリアの顔を探した。
陛下の言葉通り、シュリアは目を輝かせながら、一生懸命拍手を送ってくれている。
「シュリア・・・・」
「な? これが正解なんだ」
陛下は、悪戯が成功した子供のように笑った。
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