二人の転生悪女 ー偽聖女のヒロイン成り代わり作戦を防げー

炭田おと

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「ふう・・・・」


 天幕の中の、仮眠用のベッドに腰かけて、一息つく。


「ありがとうございました」

「大会中は、ここで休んでいるといい」

「少し休んだら帰るつもりなので、お気になさらず」

「しばらくは、狩猟場の外に出ないほうがいい。念のために、侯爵の元旦那が遠くに行くのを確認させたが、あのしつこさだから、また戻ってくるかもな。鉢合わせはしたくないだろ?」


 確かに、参加を禁じられている行事に侵入してくるぐらいだから、追い出されてもなお諦めず、狩猟場の周辺をうろついている可能性はあった。


「大会が終わって、邸宅に帰る貴族達の馬車に混じってここを出れば、あいつらに見つからずにすむんじゃないか?」


 もう一度ジャコブと口論するはめになるかもしれないと思ったら、憂鬱な気持ちになった。二度と彼らの顔を見たくないから、言われたとおりに、他の貴族が帰る時間に合わせて帰宅したほうがいいのだろう。


「・・・・では、もう少しだけここにいることにします」


 私がそう答えると、陛下はうなずいてくれた。


「陛下、大会の進行について、お話があります」


 狩猟大会の進行役が、陛下に話しかけてきたので、陛下はいったん私から離れた。



 他にすることもなかったから、進行役と話をする陛下の横顔を、ぼんやりと眺めていた。



 しばらくすると、陛下は私のところに戻ってきた。


「俺は狩猟場に戻るが、医官と神官を呼んである。また体調が悪くなったら、連中をこき使ってやれ」

「だ、大丈夫ですよ。ただの立ち眩みですから。・・・・それよりも陛下は、ずいぶんと落ち着いていらっしゃいますね」

「ん?」

「南部の反乱の件で、人々が不安になっているかもしれないと思っていたんですが、陛下が落ち着いているおかげで、まわりも不安を感じずにすんでいるようです」


 反乱が起こったのに、貴族達が落ち着いていることを不思議に思っていた。


 でも今日の陛下を見て、陛下がいつも通りに過ごしているから、貴族達も取り乱さずにすんでいるのだとわかった。


「他の連中は妙な気を使って、その話を避けてるのに、侯爵は大胆だな」


 陛下は笑った。まわりに妙な気を使われることが、逆に嫌だったのだろう。


「陛下が落ち着いていらっしゃるのは、考えがあるからだと思いますから」

「それは買いかぶりすぎだな」

「では、反乱軍に対抗する方法は、特に何も考えていないのですか?」

「向こうがあそこまではっきりと、反意を示した上に、南部の兵力を集めてるんだ。話し合いの段階はとっくに過ぎたんで、こっちも討伐軍を出す以外に選択肢はない。軍事力で、叩き潰すだけだ」

「でもそうするにはこちらも、一致団結しなければなりませんが・・・・」


 反乱軍を撃破するには、莫大な軍資金が必要だ。皇室だけでは軍資金を賄えないので、貴族達に協力してもらう必要がある。だけど貴族達はこの状況になって、陛下の足もとを見はじめ、資金や兵員を出し渋っている。


「そっちのほうは、対策を考えてある」


 陛下はにやりと笑って、そう言った。


「風見鶏の貴族達を、ぎょする方法があるんですか?」

「社交界の雰囲気を見るかぎり、結局のところ、連中も世論に動かされている。世論を味方につければ、協力させることは難しくないはずだ」

「ですが・・・・」


 民衆は今の段階でも、十分にヨルグ陛下の味方だと言える。だけどそんな状況でも、貴族達はまだ、陛下に協力しようとしない。


「まあ、心配するな。方法は考えてある」


 ヨルグ陛下は自信満々に、そう言いきった。


「そうですね。陛下なら、ご自分の力だけで乗り越えられるでしょう」


 ここまではっきり言いきるからには、陛下は作戦に自信を持っているのだろう。私達の手伝いなどなくても、陛下は一人で乗りきるはず。


 杞憂だと自分に言い聞かせることで、私は不安に折り合いをつけた。


「しかし、風見鶏連中は本当にうっとおしいな。平和な時は、呼んでもいないのにべたべたとすり寄ってくるくせに、肝心な時には足もとを見やがる・・・・」


 よほど腹に据えかねていたのか、陛下は愚痴をこぼした。


「どうでもいい奴らばかり寄ってきて、本当に引き入れたい奴はどんなに譲歩しても断ってくるし・・・・」


 その呟きを聞いて、ぎょっとした。


(まさか、アルベルタのことじゃないよね?)


 違うとわかっていても、なんだか落ち着かず、話題を変えることにした。


「陛下は今年も、優勝を狙うんですか?」

「出場する以上、他の奴らには負けたくない」

「陛下はもう何度も優勝しているから、今回ぐらい、勝利を他の令息に譲るのもいいんじゃないですか?」

「なんで譲らなきゃならない?」

「・・・・皇帝陛下。あなたは、この国で一番偉い人なんです。絶対に揺らがない権力を持ってるんだから、その前では優勝なんて小さな問題じゃないですか」

「それでも負けるのはごめんだ」

「・・・・なんて心が狭い」


 即位したことで、陛下も落ち着いたかと思ったら、時々子供じみた言動をすることがある。


「わかりました。でも優勝したからには、今年こそは誰かにトロフィーを贈ってくださいね」

「誰かに贈らなきゃならないものなのか? そんな規則はないはずだが」

「・・・・確かに規則はありません。ですが毎年令嬢達は、誰が秋の女王に選ばれるのか、それを楽しみにしてるんですよ? なのに陛下が空気を読まずにガン無視するから、去年もその前も盛り下がったじゃないですか」

「・・・・空気が読めなくて悪かったな」


 陛下はふてくされて、そっぽを向く。


 でもなぜかすぐに、閃いたと言いたげな顔になった。そして、今まで見たこともないような胡散臭い笑顔を浮かべる。


「わかった。今年はちゃんと誰かを選ぶと、約束してやる」


 悪巧みをしているような陛下の薄ら笑いに、嫌な予感がした。私がけしかけたせいで、アリアドナが秋の女王に選ばれたらたまらない。


「無理はしないでくださいね」


 だから思わず、そう言ってしまった。


「別に、無理なんてしないさ。〝空気が読めない〟行動をひかえようと思っただけだ」


 私の空気が読めないという言葉を、根に持っているようだ。


「陛下、ちゃんと私の言葉を思い出してください。私は〝空気が読めない〟と言ったんじゃなく、〝空気を読まない〟と言ったんです。まわりの思惑や期待を読みとった上で、ガン無視するのが陛下でしょう?」

「無視じゃなくて、媚を売らないと言ってくれ」

「時には、媚を売ってもいいんですよ?」

「絶対に嫌だ」

「・・・・なんて心が狭い」


「ちなみに侯爵は、どんな獲物が欲しいんだ?」


 陛下は上機嫌で質問してくる。


「え? いえ、そんなこと聞かれても特に希望は・・・・」


「なんでもいいんだな。わかった」


 陛下はにっこりと笑った。笑顔だけは本当に、天使に見える。


「期待して待っててくれ」


「あの、ちょっと・・・・」


 嫌な予感がしたから引き留めようとしたけれど、ヨルグ陛下はさっさと外に出ていってしまった。



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