二人の転生悪女 ー偽聖女のヒロイン成り代わり作戦を防げー

炭田おと

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 ーーーーそれから、離宮での監禁生活がはじまった。


 どんな生活になるのだろうと、私は戦々恐々としていたけれど、ここでの生活は、何一つ不足がないものだった。


 それどころか、外出できないことと、暇であることを除けば、とても快適だった。


 ヨハンナと数名の使用人が、身の回りのことをすべてしてくれるから、私は何もせずに暮らせたし、三食の食事は、それなりに美食家だと自負していた私でも、文句もつけようがないほどおいしかった。好きな時にお風呂に入れるし、高い化粧品や香水を使えるなど、贅沢三昧の日々だった。


「閣下、今日はこの化粧品をつけてみませんか?」


 ある日、入浴後にヨハンナが、化粧品の瓶を取り出した。


「これはとても高価なものなんですよ。けれど陛下が閣下のために、取り寄せてくれたそうです」

「・・・・・・・・」


 私が監禁生活の中で退屈したり、不足を感じることがないようにという配慮なのか、陛下は色々な差し入れをくれた。着るものや食べるものはもちろん、今では化粧品や香水まで、使いきれないほどの高価な品で部屋が埋め尽くされている。


(夢にまで見ていた、悠々自適の引退生活を、こんな形で叶えることになるなんて・・・・)


 仕事に追われることなく、ニートのように過ごせる引退生活を夢見ていた。そこにあったのはまさしく、私が夢見ていた自堕落な日々だったのだ。


 この至れり尽くせりの厚待遇には戸惑ったものの、私が脱出を諦めることはなかった。


(でも、脱出は難しそう)


 とはいえ陛下が宣言したとおり、警備は厳重だった。ホワイトレディの力を使えない今の私では、警備の壁を突破できない。体調もまだ優れず、ひどい時には倒れることもあるから、なおさら脱出の難易度が上がっている。

 外からの助けも、期待できなかった。私自身が関係者に、しばらくの間、外国で潜伏生活をすることを伝えていたのだから、関係者が私の失踪を不審に思い、捜してくれることはないだろう。


 だからアリアドナも、私が出国する瞬間を狙ってきたのだろうと思う。その瞬間なら、後腐れなく私を消せることを、彼女はわかっていたのだ。


 監禁生活の中で、話相手はヨハンナや他の使用人しかいないので、私は自然とヨハンナ達と親しくなった。

 ヨハンナ達と話をすることで、彼女達がもともとは皇宮で働いていたわけじゃなく、クロイツェルのタウンハウスから連れてこられたことがわかった。仕事に堅実で口も堅かったため、その点を評価されて引き抜かれたらしい。


 ーーーーわざわざ外から連れてきたということは、陛下は皇宮の役人達にも、私の誘拐と監禁を知らせていないのかもしれなかった。


(みんな、口が堅いわ)


 選ばれただけあって、ヨハンナ達の口は堅かった。余計なことは話さないようにと、あらかじめ注意されているらしく、私が脱出に必要な情報を集めようとしても、巧妙に話題をそらされてしまう。

 その上彼女達は、自分達の身の上話すらも、当たり障りのないことしか話してくれない。


(この離宮が、庭のどこにあるのかも把握できないままだし・・・・)


 私が寝起きしているこの離宮が、皇宮の広い敷地の、どのあたりにあるのかはわからないけれど、人が立ち寄らない場所にあることは確かだった。皇宮は人の出入りが激しい場所なのに、窓から一日中庭を眺めていても、通行人の一人も見つけられなかったからだ。


 もしかしたら私が監禁されていることを隠すために、この建物がある一角の出入りを禁じている可能性もある。


 ただ、暗殺の危険はなくなった。私がここにいることを、皇宮の役人すら知らないなら、当然だろう。


 アリアドナですら、私がここにいることは突き止められないはずだった。







「また、脱走未遂事件を起こしたらしいな」


 ヨルグ陛下は多忙な身なのに、頻繁に私の様子を見に来た。


 本当は脱出未遂じゃなく、景色を見るために二階の窓から身を乗り出していたら、飛び降りるつもりだと誤解されて、取り押さえられたというだけの話だった。

 でも情けない気持ちになるから、その間抜けな経緯を、自分の口から説明したくはない。


「脱走ではありません。脱出です」

「・・・・かつて俺に言われたセリフを、自分で言うはめになってるあたり、因果応報を感じるな」

「・・・・わざわざ嫌味を言いに来るなんて、陛下もお暇なんですねー」


 引きつった笑顔で応戦したけれど、しょせん負け惜しみでしかなかった。


「それで、怪我はないのか?」

「ありません。・・・・窓から身を乗り出していただけなのに、みんな大げさです。怪我したくても、できない状況ですよ」


 離宮の出入り口は衛士えじにふさがれているし、使用人もひっきりなしに出入りしている。脱出する隙がないどころか、少し怪我をしただけでも大騒ぎされるので、動きにくい状況だった。


「でも未然に防いでおかないと、そのうち本気で窓から脱出しようとして、大怪我するのが目に見えてるからな。・・・・侯爵には、自分で木に登っておいて、降りられなくなっている猫みたいなところがあるから」

「・・・・ご自分が犬に例えられたことを、根に持ってるんですね」

「猫じゃ不満か? アルムガルドの紋章にも、猫が描かれてるだろ」

「あれは豹です!」


 なんだかこのやり取りも、過去に逆の立場でかわした気がする。


「なんで不調なのに、無理して脱出しようとするんだ? 命を奪われる心配はないんだから、長期休暇をしてると思って、ゆっくり休めよ」

「私は繊細なので、監禁状態でくつろぐことなどできません」

「もう図太いってばれてるんだから、今さら繊細アピールをしても無駄だぞ。ぶつくさ文句を言いつつ、しっかりとここでの生活を満喫していることも、ちゃんと聞いてるからな」

「・・・・・・・・」


 何も言えなくなってしまった。


 ヨハンナ達が報告しているのだろう。それが彼女達の仕事なのだから、文句は言えない。



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