二人の転生悪女 ー偽聖女のヒロイン成り代わり作戦を防げー

炭田おと

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 そして、アリアドナとフィリップ殿下が、西部のアルブレヒト領に旅立つ日が訪れた。


 まだ離宮にとどまっていた私は、ヨルグに外出の許可をもらい、二人を見送るため、フィリップ殿下の別宅に向かった。


 到着が早かったのか、私が別宅前に行くと、随行する家臣や騎士、それに従者達がまだ荷造りを急いでいる状況だった。山のように積まれた荷物の中央に派手な馬車があり、アリアドナ達はその馬車に乗って、アルブレヒト領を目指すようだ。


 アルブレヒト領は西部の、さらに西端にあると聞いているから、きっと長い旅になるだろう。大貴族と言いつつも、その領地は広いばかりで痩せていて、領地民の数も少ないそうだ。


 そこがどんな場所であっても、アリアドナは今までのようにはふるまえないだろう。ヴュートリッヒの組織力や、神殿の威光と引き離されたアリアドナは無力だ。彼女は、手足として動いてくれる人達がいなければ、一人では何もできないのだから。



 荷造りを急ぐせわしない人々の中で、アリアドナだけが時間から置き去りにされたように、一人ぼんやりと突っ立っていた。



「結婚おめでとう、アリアドナ」


 私に声をかけられたことで、放心状態だったアリアドナは自分を取り戻したようだった。


「これからは、アルブレヒト大公妃とお呼びすべきね」


 アリアドナは無言で、睨みつけてきた。


「西の領地では、あなたが大公妃らしく、領地民に尽くすことを祈ってるわ」

「どうやって生き残ったの? 絶対に死んだと思ってたのに」

「久しぶりに会ったっていうのに、最初のセリフがそれ?」

「あなたはこれで、私に引導をわたしたつもりなのかもしれないけど、私はこんなことでは終わらないわよ」


 アリアドナは私の言葉を無視して、両眼を見開いて威嚇してきた。


「何をそんなに怒ってるの? あなたが大公妃になった、めでたい日なのに」


「大公妃ですって? 本来なら今頃私は、皇后になっていたはずなのに!」


 怒りで我を失っているのか、その声はまわりの人がふり向くほど大きかった。実際、馬車に荷物を積みこんでいた何人かの使用人が、ぎょっとした顔でこちらを見ていた。


 猫かぶりのアリアドナらしくない言動だった。計画が狂ったことに、彼女が憤慨している証拠だろう。


「・・・・身の程をわきまえなさい、アリアドナ」


 私は彼女に一歩詰め寄って、小声でそう告げる。


「本来皇后になるべきだったのは、あなたじゃなくシュリアでしょう? あなたの今までの罪を考えれば、本来なら皇后どころか、大公妃だって過分すぎる身分なのよ」


「私は必ず戻ってくるわ。ーーーーこの皇都に、皇后としてね」


 目を見開いたまま、アリアドナは口の形を三日月に歪める。


 そして、私を睨みつけてきた。私も負けじと睨みかえす。



「なんの話をしてるんだ?」



 そんな睨みあいに割りこんできたのは、ヨルグだった。



「へ、陛下!」


 ヨルグも、二人を見送りに来ていたようだ。


「・・・・モルゲンレーテの皇帝陛下に、ご挨拶申し上げます」


 さすがというべきか、アリアドナはさっと聖女の仮面をかぶり、うやうやしく礼をする。


「陛下にお見送りしていただけるなんて、光栄の極みです」

「弟の晴れ舞台だからな。アルブレヒト領に行ったらもう顔を見る機会もなくなるだろうから、見送りだけはしておこうと思ったんだ」

「・・・・・・・・」


 アリアドナはヨルグにすら、恨めしそうな目を向けた。



「大公妃殿下、準備が整いました」


 荷造りは終わり、随行する家臣や騎士達はすでに並んでいる。フィリップ殿下も、馬車の横に立ち、アリアドナを待っていた。


 ようやく、出立の準備が整ったようだった。


(これでようやく、アリアドナを皇都から追い出せるのね)


 そう思うとなんとも言えない気持ちになって、私はぐっと唇を噛みしめる。



「アルテ」


 指先に何か触れたことに気づいて、横を見る。


 いつの間にかヨルグが、隣に立っていた。不安そうに見えたのだろうか、ヨルグは私の手を握ろうとしてくれたけれど、私はまわりの目が気になって、その手を握りかえすことができなかった。



「ーーーーはっ」


 アリアドナは冷笑する。ヨルグの態度で事情を察したのか、聖女の仮面が一瞬にして剥がれ落ちていた。


「・・・・そういうこと。そういうことだったのね」

「・・・・・・・・」

「なんなのよ! 私のことをクソ女呼ばわりしたくせに、自分だってちゃっかり、シュリアの立場を奪ってたんじゃない!」


 とっさに反論できなかった。


「奪うって、どういうことだ?」


 一方ヨルグは、アリアドナの言葉で不機嫌になっていた。


「誰を選ぶのかは、俺が決めることだ。なのにどうしてアルテやあんたは、皇后になるのはバウムガルトナー侯爵令嬢だと思いこんでるんだ?」


「陛下、あなたはその女に騙されてるんです!」


 ヨルグの声を、アリアドナは甲高い声でさえぎった。


「どんなふうに誘惑されたのか知りませんが、皇后の座を奪い取るための、その女の策略です! 騙されないでください!」


「・・・・心外だな。あんたには、この国の統治者である俺が、まんまと騙されるような子供に見えるのか?」


 アリアドナの発言は、ヨルグをますます不機嫌にさせただけだった。

 フィリップ殿下なら、今のアリアドナの言葉を、自分のことを心配してくれたと受け取って喜ぶだろう。


 でもヨルグは気位が高いから、判断力のない子供扱いされることを嫌う。それは、敵の狙いも見極めきれない人間にたいする扱いで、統治者たる資格がないと言ったも同然なのだから。


「出過ぎるな。俺には、聖女の導きなんて必要ない」


 それに今までのアリアドナの悪行を知った後では、彼女の言葉が自分を操作しようとするものに思えて、不快なのだろう。


「・・・・まあ、笑いを取りに来たとしか思えない仮装姿で登場したり、大物ぶってたくせに肝心な時にへばったり、泥酔して踊ろうと言い出したあげく、吐きそうになったりすることが新手の誘惑の方法だったというなら、確かに俺にも見抜けなかったが」


「陛下、やめてください」


 アリアドナに反論するふりをして、私の黒歴史をほじくり返してくるヨルグに、抗議せずにはいられなかった。


「仮装・・・・?」


 事情を知らないアリアドナは、眉をひそめるだけだった。



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