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第5章:水底に響く歌

第19話:炎と水の誓い

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湖面を割り、赤黒い炎の獣が姿を現した。

イフリート――かつて街を焼き、歌となって今も人々の絶望を吐き出し続ける存在。
その咆哮ひとつで、空が震え、湖畔の木々が黒く焦げていく。

「……すごい力……」

ミナが震える声で呟いた。

リサは木箱を抱きしめ、カイは必死に小枝を握り締めて立っている。
彼らはまだ歌の残響に囚われていた。

リオは一歩前に出る。
掌の炎を強く灯し、イフリートの瞳をまっすぐに見返した。

『――なぜ抗う。炎は奪い、焼き尽くす。それが定めだ』

低く重い声が、炎の獣から響いた。

「違う!」

リオは叫んだ。

「炎は奪うだけじゃない。照らすことも、守ることもできる!」

『……偽りだ。わたしは見た。炎に焼かれ、泣き叫ぶ人々を。お前もまた、同じ道を歩む』

イフリートの咆哮とともに、紅蓮の波が襲いかかる。
リオは掌を突き出し、アウラの力を解き放った。

「アウラ、力を貸して!」

『共に!』

金色の炎が盾のように広がり、紅蓮の波を押し返す。
水面が蒸気をあげ、湖は一瞬で霧に覆われた。

その霧の中から、蒼い光が差し込む。
水底の守り人リュシアが再び姿を現し、声を響かせた。

『リオ。炎と水は相反するが、互いを制するのではなく、支え合うことで均衡する。ここで誓え。炎を暴走させず、水を滅ぼさず。“希望のために使う”と』

リオは胸に手を当て、深く息を吸った。
仲間たちの姿が脳裏に浮かぶ。

ミナの風、リサの灰、カイの勇気――そして、自分を選んでくれた炎の精霊アウラ。

「……僕は誓う。炎を恐怖にしない。希望を照らす光として――仲間と共に、歩む力にする!」

その言葉と同時に、リオの炎が膨れ上がった。
だが暴れることなく、蒼い水流と混ざり合い、虹色の光を生み出す。

イフリートが咆哮を上げる。
しかし、その瞳の奥にあったのは怒りではなく――哀しみだった。

『……忘れられぬ。焼いてしまったものを』

「忘れないでいい! でも、立ち止まるんじゃない。僕たちと一緒に、未来を照らしてほしい!」

炎と水がぶつかり合い、やがて静かに収束していく。
湖面は光に満ち、赤黒い影は淡くほどけていった。

残ったのは、小さな赤い炎の結晶。
それをリオが手に取ると、温かい声が胸に響いた。

『……お前の誓いを、見届けよう。炎を継ぐ者よ……』

イフリートの歌は止み、湖は静けさを取り戻した。
仲間たちがゆっくりと顔を上げる。

「……終わったの?」

ミナが震える声で尋ねる。

「うん」

リオは結晶を握りしめて微笑んだ。

「炎はもう、絶望の歌じゃない。――希望の誓いだ」

その言葉とともに、朝日が湖を照らした。

水底に沈んだ街は静かに眠り、湖面に虹色の光が揺れていた。
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