46 / 69
失われた契約者
第8話:火の祝祭
しおりを挟む
それは、王都が再び賑わいを取り戻した日だった。
街の中央広場に、数え切れないほどの松明が並ぶ。
火の光が夜空を焦がし、人々の顔を紅く照らす。
「殿下の炎に感謝を!」
「フレア王国の火は不滅なり!」
声が重なり、祝祭が始まった。
子どもたちは火の輪をくぐり、踊り子たちは炎の布を翻す。
夜風さえも、火の匂いをまとっていた。
アレスは王城のバルコニーからその光景を見下ろしていた。
目に映るのは、かつて恐れられていた“火”が、今は“信仰”として人々に崇められている姿だった。
「……これが、火の祝祭か」
> ――おまえの火を、神と呼ぶか。
> 人とは、いつも極端だな。
イフリートの声が、心の奥で低く笑う。
「悪いことじゃない。火を恐れなくなった。それだけで十分だ」
> ――恐れを忘れた火は、いずれまた人を焼く。
> おまえは、それを望むのか?
「そんなことはしない」
アレスは言い切った。
だが、声の奥にはわずかな迷いが滲んでいた。
宴は夜通し続いた。
民は歌い、踊り、火を讃える。
アレスの姿が見えるたびに、歓声が上がった。
「炎の王子よ! 我らを導け!」
「殿下の火に、我らの命を!」
その言葉を聞くたび、胸が熱くなる。
だがその熱は、喜びだけではなかった。
> ――彼らはおまえを信じているのではない。
> “火”そのものを、神として崇めている。
「それでも構わない。火は、希望の象徴だ」
> ――象徴が支配に変わるのは一瞬だ。
> おまえが民を導くのではない、民が“火”に導かれている。
アレスは黙った。
広場の炎が勢いを増し、夜空を紅に染めていく。
風が吹くたび、炎の影が壁に踊った。
(……導く、か)
そのとき、老僧が人々の前に立ち、両手を掲げた。
「皆よ! この炎は、殿下の御心そのもの!火を崇め、火に祈りを!」
群衆が一斉にひざまずいた。
子どもから老人まで、全員が頭を垂れる。
アレスの背に寒気が走った。
「やめろ……そんなつもりじゃない」
だが、声は人の波にかき消された。
> ――見ろ、アレス。
> おまえはもう“王子”ではない。
> “火の化身”として崇められている。
「違う……俺はただ、皆を守りたかっただけだ!」
拳を握りしめた瞬間、掌の契約紋が赤く光る。
炎が、彼の感情に呼応して揺れた。
「っ……やめろ、落ち着け!」
炎は王城の欄干を舐め、瞬く間に赤く染めた。
下の広場で歓声が上がる。
「見よ、殿下が火を示された!」
「神の御業だ!」
アレスは愕然とした。
(これは……違う!)
イフリートの声が低く響く。
> ――人の恐れを、信仰に変えることはできても、
> 欲を鎮めることはできぬ。
「黙れ!」
> ――おまえが怒れば、火も怒る。
「俺は怒ってなんか――!」
しかし、その言葉の途中で、炎が爆ぜた。
赤い火の粉が夜空を覆い、広場の松明が連鎖的に燃え上がる。
民は歓喜の声を上げた。
「これこそ神の炎だ!」
「火の王よ、我らを照らせ!」
アレスの胸に、痛みが走る。
契約紋が焼けるように熱い。
「……違う、俺は神じゃない!」
その叫びも、熱狂の渦に飲まれていった。
炎の勢いが次第に弱まり、夜が再び静まる。
広場には焦げた花びらが舞い、民たちは“祝福”のようにそれを拾い上げていた。
アレスはバルコニーに立ち尽くしていた。
拳の中の熱が、痛みに変わっていく。
> ――人の信仰は、火よりも恐ろしい。
> おまえが光を与えれば、彼らはすぐに跪く。
「……どうすればいい」
> ――己を見失うな。
> 火は心と共に在る。
> おまえの心が濁れば、火もまた狂う。
アレスは空を見上げた。
夜空には、燃え尽きた花火の煙が薄く漂っていた。
「……俺の火は、正しいのか?」
答える声はなかった。
ただ、遠くで小さな焔が揺れ――
まるで、迷う彼の心を映すように燃えていた。
――火は、まだ終わらない。
街の中央広場に、数え切れないほどの松明が並ぶ。
火の光が夜空を焦がし、人々の顔を紅く照らす。
「殿下の炎に感謝を!」
「フレア王国の火は不滅なり!」
声が重なり、祝祭が始まった。
子どもたちは火の輪をくぐり、踊り子たちは炎の布を翻す。
夜風さえも、火の匂いをまとっていた。
アレスは王城のバルコニーからその光景を見下ろしていた。
目に映るのは、かつて恐れられていた“火”が、今は“信仰”として人々に崇められている姿だった。
「……これが、火の祝祭か」
> ――おまえの火を、神と呼ぶか。
> 人とは、いつも極端だな。
イフリートの声が、心の奥で低く笑う。
「悪いことじゃない。火を恐れなくなった。それだけで十分だ」
> ――恐れを忘れた火は、いずれまた人を焼く。
> おまえは、それを望むのか?
「そんなことはしない」
アレスは言い切った。
だが、声の奥にはわずかな迷いが滲んでいた。
宴は夜通し続いた。
民は歌い、踊り、火を讃える。
アレスの姿が見えるたびに、歓声が上がった。
「炎の王子よ! 我らを導け!」
「殿下の火に、我らの命を!」
その言葉を聞くたび、胸が熱くなる。
だがその熱は、喜びだけではなかった。
> ――彼らはおまえを信じているのではない。
> “火”そのものを、神として崇めている。
「それでも構わない。火は、希望の象徴だ」
> ――象徴が支配に変わるのは一瞬だ。
> おまえが民を導くのではない、民が“火”に導かれている。
アレスは黙った。
広場の炎が勢いを増し、夜空を紅に染めていく。
風が吹くたび、炎の影が壁に踊った。
(……導く、か)
そのとき、老僧が人々の前に立ち、両手を掲げた。
「皆よ! この炎は、殿下の御心そのもの!火を崇め、火に祈りを!」
群衆が一斉にひざまずいた。
子どもから老人まで、全員が頭を垂れる。
アレスの背に寒気が走った。
「やめろ……そんなつもりじゃない」
だが、声は人の波にかき消された。
> ――見ろ、アレス。
> おまえはもう“王子”ではない。
> “火の化身”として崇められている。
「違う……俺はただ、皆を守りたかっただけだ!」
拳を握りしめた瞬間、掌の契約紋が赤く光る。
炎が、彼の感情に呼応して揺れた。
「っ……やめろ、落ち着け!」
炎は王城の欄干を舐め、瞬く間に赤く染めた。
下の広場で歓声が上がる。
「見よ、殿下が火を示された!」
「神の御業だ!」
アレスは愕然とした。
(これは……違う!)
イフリートの声が低く響く。
> ――人の恐れを、信仰に変えることはできても、
> 欲を鎮めることはできぬ。
「黙れ!」
> ――おまえが怒れば、火も怒る。
「俺は怒ってなんか――!」
しかし、その言葉の途中で、炎が爆ぜた。
赤い火の粉が夜空を覆い、広場の松明が連鎖的に燃え上がる。
民は歓喜の声を上げた。
「これこそ神の炎だ!」
「火の王よ、我らを照らせ!」
アレスの胸に、痛みが走る。
契約紋が焼けるように熱い。
「……違う、俺は神じゃない!」
その叫びも、熱狂の渦に飲まれていった。
炎の勢いが次第に弱まり、夜が再び静まる。
広場には焦げた花びらが舞い、民たちは“祝福”のようにそれを拾い上げていた。
アレスはバルコニーに立ち尽くしていた。
拳の中の熱が、痛みに変わっていく。
> ――人の信仰は、火よりも恐ろしい。
> おまえが光を与えれば、彼らはすぐに跪く。
「……どうすればいい」
> ――己を見失うな。
> 火は心と共に在る。
> おまえの心が濁れば、火もまた狂う。
アレスは空を見上げた。
夜空には、燃え尽きた花火の煙が薄く漂っていた。
「……俺の火は、正しいのか?」
答える声はなかった。
ただ、遠くで小さな焔が揺れ――
まるで、迷う彼の心を映すように燃えていた。
――火は、まだ終わらない。
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる