63 / 69
失われた契約者
第25話:赦しの火
しおりを挟む
夜明け前の森は、静寂の中に呼吸をしていた。
霧の奥で、鳥の羽音がかすかに響く。
そして、森の中心にそびえる“炎樹”の根元で、赤い光がゆっくりと脈打っていた。
それは――イフリートの心臓。
かつて契約を破り、人を焼き、嘆きの果てに沈んだ精霊の、最後の想いが宿る場所だった。
その光の傍らに、ひとりの男が跪いていた。
農夫であり、森を守る者――エリアス。
彼は掌に火を灯し、静かに語りかけた。
「……おまえの怒りも、悲しみも、分かる気がするよ」
風が木々を揺らす。
炎樹が、低くうなるように鳴いた。
「人は、愚かだ。奪い合い、壊し合い、火さえも武器にする。でも……それでも、俺たちは生きたいんだ」
その声に呼応するように、光が強くなった。
炎がふっと立ち上がり、男の影を包み込む。
だが、燃えない。
熱は優しく、懐かしい温もりだった。
> ――おまえは、恐れぬのか。
頭の奥に声が響いた。
イフリートの声だ。
「恐れてるさ」
エリアスは笑う。
「でも、怖いからこそ向き合うんだ。火を拒めば、闇しか残らない」
> ――闇は、火の影。
> ならば、光は……?
「光は、心の選択だ」
一瞬、沈黙。
だが次の瞬間、炎樹の枝が柔らかく揺れた。
そこから零れ落ちた火の粒が、男の肩に触れる。
> ――おまえの言葉、嘘ではないな。
「嘘なら、こんな場所にひとりで来ないさ」
彼は笑い、火を見上げた。
その目に、怯えも欲もなかった。
ただ、静かな覚悟だけがあった。
> ――……人は変わるのか。
「変われるさ。変わりたいって、願う限りはな」
イフリートはしばらく黙っていた。
かつて、アレスが同じことを言った。
“火を正しく使うために、俺は人でありたい”と。
その言葉の意味を、今ようやく理解した気がした。
> ――よかろう。
炎が再び燃え上がり、森を赤く染めた。
だが、そこにあったのは破壊ではない。
すべてを包み込むような、柔らかな光。
> ――我は、人を赦そう。
イフリートの声が、森中に響いた。
> ――火は、人の罪を焼き尽くすものではない。
> 火は、人の弱さを照らすものだ。
その瞬間、炎樹の根元から花が咲いた。
真紅の花弁が光を反射し、風に乗って散っていく。
エリアスはそれを見上げ、目を細めた。
「……きれいだな」
> ――それは、“赦しの火”だ。
> 恐れを知る者だけが、灯せる炎。
男の掌に、ひとひらの花が舞い降りた。
触れた瞬間、火のように暖かい光が広がる。
「……ありがとう、イフリート。おまえがくれたこの火、無駄にはしない」
風が吹く。
森の奥で詩板が揺れ、刻まれた言葉が赤く輝いた。
> 『火は力ではなく、灯であれ』
イフリートの声が穏やかに続く。
> ――アレスよ。
> ようやく分かった。
> おまえが求めた“火”とは、
> この赦しの灯のことだったのだな。
空へと舞う花の中に、一瞬だけ王子アレスの幻が見えた気がした。
穏やかな微笑み。
そして、消える。
> ――もう、怒りも嘆きもいらぬ。
> 火は、再び人と共に歩む。
イフリートはそう告げ、炎樹の奥深くへと意識を沈めた。
夜が明ける。
森の上空を赤い光が流れる。
それは“赦しの火”の証。
人々はそれを見て祈った。
> 「この火が、どうか誰かを救いますように。」
そして――その祈りが、遠い未来の“炎の子リオ”へと届くことを、このときまだ誰も知らなかった。
――火は、再び人を照らし始める。
霧の奥で、鳥の羽音がかすかに響く。
そして、森の中心にそびえる“炎樹”の根元で、赤い光がゆっくりと脈打っていた。
それは――イフリートの心臓。
かつて契約を破り、人を焼き、嘆きの果てに沈んだ精霊の、最後の想いが宿る場所だった。
その光の傍らに、ひとりの男が跪いていた。
農夫であり、森を守る者――エリアス。
彼は掌に火を灯し、静かに語りかけた。
「……おまえの怒りも、悲しみも、分かる気がするよ」
風が木々を揺らす。
炎樹が、低くうなるように鳴いた。
「人は、愚かだ。奪い合い、壊し合い、火さえも武器にする。でも……それでも、俺たちは生きたいんだ」
その声に呼応するように、光が強くなった。
炎がふっと立ち上がり、男の影を包み込む。
だが、燃えない。
熱は優しく、懐かしい温もりだった。
> ――おまえは、恐れぬのか。
頭の奥に声が響いた。
イフリートの声だ。
「恐れてるさ」
エリアスは笑う。
「でも、怖いからこそ向き合うんだ。火を拒めば、闇しか残らない」
> ――闇は、火の影。
> ならば、光は……?
「光は、心の選択だ」
一瞬、沈黙。
だが次の瞬間、炎樹の枝が柔らかく揺れた。
そこから零れ落ちた火の粒が、男の肩に触れる。
> ――おまえの言葉、嘘ではないな。
「嘘なら、こんな場所にひとりで来ないさ」
彼は笑い、火を見上げた。
その目に、怯えも欲もなかった。
ただ、静かな覚悟だけがあった。
> ――……人は変わるのか。
「変われるさ。変わりたいって、願う限りはな」
イフリートはしばらく黙っていた。
かつて、アレスが同じことを言った。
“火を正しく使うために、俺は人でありたい”と。
その言葉の意味を、今ようやく理解した気がした。
> ――よかろう。
炎が再び燃え上がり、森を赤く染めた。
だが、そこにあったのは破壊ではない。
すべてを包み込むような、柔らかな光。
> ――我は、人を赦そう。
イフリートの声が、森中に響いた。
> ――火は、人の罪を焼き尽くすものではない。
> 火は、人の弱さを照らすものだ。
その瞬間、炎樹の根元から花が咲いた。
真紅の花弁が光を反射し、風に乗って散っていく。
エリアスはそれを見上げ、目を細めた。
「……きれいだな」
> ――それは、“赦しの火”だ。
> 恐れを知る者だけが、灯せる炎。
男の掌に、ひとひらの花が舞い降りた。
触れた瞬間、火のように暖かい光が広がる。
「……ありがとう、イフリート。おまえがくれたこの火、無駄にはしない」
風が吹く。
森の奥で詩板が揺れ、刻まれた言葉が赤く輝いた。
> 『火は力ではなく、灯であれ』
イフリートの声が穏やかに続く。
> ――アレスよ。
> ようやく分かった。
> おまえが求めた“火”とは、
> この赦しの灯のことだったのだな。
空へと舞う花の中に、一瞬だけ王子アレスの幻が見えた気がした。
穏やかな微笑み。
そして、消える。
> ――もう、怒りも嘆きもいらぬ。
> 火は、再び人と共に歩む。
イフリートはそう告げ、炎樹の奥深くへと意識を沈めた。
夜が明ける。
森の上空を赤い光が流れる。
それは“赦しの火”の証。
人々はそれを見て祈った。
> 「この火が、どうか誰かを救いますように。」
そして――その祈りが、遠い未来の“炎の子リオ”へと届くことを、このときまだ誰も知らなかった。
――火は、再び人を照らし始める。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる