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プロローグ ~俺と女神と僕~
一人作戦会議in神社
しおりを挟むその後、二人で家までの道を歩いていたのだが、いまだに自分の状況が整理しきれない俺は、このままの状態で帰ることがどうしてもできなかった。一人で考えをまとめる時間が欲しい、と言った俺に、母さんから頼まれたという責任のあるミユは、少しだけ思案した後、それならとある場所を提案してきた。
「こっちの世界にこの神社は実在するんだ……」
ミユと別れ、俺は訪れたのは美癒流神社だった。
俺とミユの家から目と鼻の先にあり、御神体でもあるミユは離れたところにいても、この神社で起こることは把握が出来るのだそうだ。
先のトイレ男の件もそうだが、乙成くんの身体に俺の人格が組み込まれたことで、多少の不具合が発生しているようだった。ミユ曰く、それは「嬉しい誤算」なのだそうだが、調整を入れるまではなるべく知り合いではない相手と関わらないように、と言い含められた。とは言っても不可抗力で発生する問題もあるだろうから、もしもの時はいつでもフォローが出来るように、一人になるならこの場所で……と、この場所を勧められたんだけどな。
静かな境内で、先ほどミユに説明された話を何度も頭の中で反芻する。
新しい世界に行って、第二の人生で薔薇色の生活を繰り広げてみせる。そう思ってきたはずの世界で、まさかのBL展開が待っているとは思いもよらなかった。人生そう上手くはいかないって事だろうか。後悔したところであの時他に選択肢などなかったし、今こうして生まれ変わってしまったのだ。新しいゲームは既に始まっているのだ。
「ん……? でも、待って……?」
この世界の根本は、乙女ゲームの世界である。ヒロインがミユということ自体はそのままみたいだったし、彼女の口ぶりだと、俺が乙成優太であることには変わらない。ということは、いくらミユが俺と攻略対象の恋愛がみたい! と思ったところで、システム的には攻略対象の恋愛対象は女性なのでは?
「それに、乙女ゲームの世界だっていっても、攻略対象以外に女の子は存在してるんだよね……」
もやもやと自分の中で燻る考えを、口に出すことで整理していく。男同士の恋愛に偏見がある訳ではないが、自分が当事者になるのは少し話が違ってくる。俺が欲しいのは彼氏じゃなくて、彼女なんだ!
「……攻略対象の好感度を上げ過ぎないように調整したら、友情エンドに持っていくこととか出来ないのかな」
乙女ゲームである以上はマルチエンディングのはず。そもそも能力値や好感度が足りなければ、攻略対象と恋愛関係になることもないだろう。ただのいい友達としての距離感を保てばいいのではないか? 彼女どころか、親友と呼べるような男友達も作ることのできなかった、陰キャの俺にそんな高度なことが出来るのかはいささか心配が残るが、微かに見えてきた希望の光に俺の心は高揚した。
「そうだよ! 好感度の調整さえ気を付ければ、友達も出来るし、彼女だって作れるかもしれない……!」
なにせ乙成くんは顔が良いのだから、さぞ学校では人気者に違いない。元モブ顔の俺とは素材が違うのだ。
BL作品に馴染みはなくても、こちらは数多のゲームをプレイしてきた重度のゲームオタクなのだ。性別は無視してただの恋愛シミュレーションゲームだと割り切って考えれば、ある程度予測と対策をすることも出来そうだ。BL展開を期待しているミユには大変申し訳ないが、俺は俺の道を行かせてもらう。
絶対に! 可愛い彼女を! 作るのだ!!!
そのためには攻略対象のことだって、うまく使ってやろうじゃないか。イケメンの友達をわんさか作って、そいつらに寄ってきた女の子のおこぼれを貰う……なんという怪我の功名。
「あ~なんかよかったぁ。一時はどうなるかと思ったけど、上手くいきそうな気がしてきた。そもそも攻略対象と出会わないっていう方法もあるかもだし。よーし、こうなったら帰って色々対策考えるぞー! えいえいお……――」
「うるっっせぇよ!!!!」
「っわぁーーーーーー!!!!!」
興奮とともに声のボルテージが上がっていた俺。
自分自身を鼓舞するために、気分最高潮のままひとつ掛け声でも……と叫びかけたその時。誰もいないはずの背後から聞こえた怒声に、俺は文字通り飛び跳ねたのだった。
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