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side 恵一郎
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「ポイ捨てしなかっただけえらくな~い?」
ふてくされた顔で恵一郎の前にいるのは、彼が飼っている三つ子の殺し屋のうち、下ふたりだ。海と陸、ふたりして恵一郎に呼び出された時点でその用向きはわかっているだろうに、怯えるわけでも、申し訳なさそうにするわけでも、詫びを入れるわけでもなくブーたれている。
「ハア……ここ最近は大人しいと思ったら」
「……あの女が悪いんですよ」
「そーそー。空のことを利用しようとするからさあ。ただゴミ掃除しただけだってー」
そんな主張が通るわけがないということを、このふたりがわからないわけがない。わかっていて、わからないフリをしているのだ。まったくタチが悪いと恵一郎は頭を抱える。
「まったく。仮に彼女に大いに非があったからといって、パクったヤクを使っていい理由にはならないよ」
「その件については若に怒られるだろうなーって思ってた♡」
「ハア……反省しなさい」
最近、雲雀組のシマを荒らしていた売人数名を見せしめに三つ子に殺させたのだが、売人たちが売り捌いていたドラッグはそのときにすべて回収したはずであった。まさか三つ子がドラッグに手を出すとは思ってもいなかったというのもあるが、それはまったく、愚かにも油断しきった認識であったと今なら言わざるを得ない。
海と陸が、恵一郎と顔見知りのオーナーが経営するラブホテルで、ひとりの少女を廃人にした。ドラッグを打ったあと、徹底的に身体を破壊し、陵辱し、再起不能になるまで追い込んだ。かろうじて死んではいないという状態であったが、もはや普通の社会生活を送れないことは確定的だった。
恵一郎によって、どうにかこうにか海と陸の仕業であることは隠蔽できたものの、現在進行形で頭の痛い案件であることには違いない。
「ハア……」
「ため息ばかりついていると幸せが逃げますよ」
「だれのせいだよ」
「オレらのせい~」
のん気に笑うふたりを見て、恵一郎はまたため息をつく。
「空の友達だったんだろう?」
「は? あんなの友達じゃないですよ」
「まあ、知り合いだったんだろう?」
「……そうだけど~」
「空に知られたら困るよね?」
恵一郎がそう言えば、ふたりは嫌そうな顔をする。恵一郎がふたりの所業を空に伝えればどうなるか。まず空は恵一郎の言葉を疑わないだろう。そのことをふたりともわかっているからこそ、こんな顔をするのである。
恵一郎が空に目をかけているように映るのは、このためだ。空を手なずけていれば、海と陸、狂犬のようなふたりをどうにか制御できる。……しかしまあ、それを抜きにしてもこのふたりより、姉である空は素直かつ従順で感情がわかりやすいから、恵一郎にとっては可愛いほうではあった。
とは言っても、恵一郎は空にだって特別な感情を抱いているわけではない。あくまでこの三つ子は道具。恵一郎の地位を磐石にするための多くの手駒のうちの三つにすぎないのだ。
だから恵一郎は、己が係わらないのであれば、このふたりがいくら地獄を作ろうが興味はない。己が入れられる予定のない地獄については気を払わない。恵一郎のそういう態度をふたりはわかっていたはずであったが、今回は久しぶりということもあってハメを外してしまったのだろう。
「次からは気をつけるように」
恵一郎がそう言って話を〆れば、海と陸から至極やる気のない返事が上がった。
ふてくされた顔で恵一郎の前にいるのは、彼が飼っている三つ子の殺し屋のうち、下ふたりだ。海と陸、ふたりして恵一郎に呼び出された時点でその用向きはわかっているだろうに、怯えるわけでも、申し訳なさそうにするわけでも、詫びを入れるわけでもなくブーたれている。
「ハア……ここ最近は大人しいと思ったら」
「……あの女が悪いんですよ」
「そーそー。空のことを利用しようとするからさあ。ただゴミ掃除しただけだってー」
そんな主張が通るわけがないということを、このふたりがわからないわけがない。わかっていて、わからないフリをしているのだ。まったくタチが悪いと恵一郎は頭を抱える。
「まったく。仮に彼女に大いに非があったからといって、パクったヤクを使っていい理由にはならないよ」
「その件については若に怒られるだろうなーって思ってた♡」
「ハア……反省しなさい」
最近、雲雀組のシマを荒らしていた売人数名を見せしめに三つ子に殺させたのだが、売人たちが売り捌いていたドラッグはそのときにすべて回収したはずであった。まさか三つ子がドラッグに手を出すとは思ってもいなかったというのもあるが、それはまったく、愚かにも油断しきった認識であったと今なら言わざるを得ない。
海と陸が、恵一郎と顔見知りのオーナーが経営するラブホテルで、ひとりの少女を廃人にした。ドラッグを打ったあと、徹底的に身体を破壊し、陵辱し、再起不能になるまで追い込んだ。かろうじて死んではいないという状態であったが、もはや普通の社会生活を送れないことは確定的だった。
恵一郎によって、どうにかこうにか海と陸の仕業であることは隠蔽できたものの、現在進行形で頭の痛い案件であることには違いない。
「ハア……」
「ため息ばかりついていると幸せが逃げますよ」
「だれのせいだよ」
「オレらのせい~」
のん気に笑うふたりを見て、恵一郎はまたため息をつく。
「空の友達だったんだろう?」
「は? あんなの友達じゃないですよ」
「まあ、知り合いだったんだろう?」
「……そうだけど~」
「空に知られたら困るよね?」
恵一郎がそう言えば、ふたりは嫌そうな顔をする。恵一郎がふたりの所業を空に伝えればどうなるか。まず空は恵一郎の言葉を疑わないだろう。そのことをふたりともわかっているからこそ、こんな顔をするのである。
恵一郎が空に目をかけているように映るのは、このためだ。空を手なずけていれば、海と陸、狂犬のようなふたりをどうにか制御できる。……しかしまあ、それを抜きにしてもこのふたりより、姉である空は素直かつ従順で感情がわかりやすいから、恵一郎にとっては可愛いほうではあった。
とは言っても、恵一郎は空にだって特別な感情を抱いているわけではない。あくまでこの三つ子は道具。恵一郎の地位を磐石にするための多くの手駒のうちの三つにすぎないのだ。
だから恵一郎は、己が係わらないのであれば、このふたりがいくら地獄を作ろうが興味はない。己が入れられる予定のない地獄については気を払わない。恵一郎のそういう態度をふたりはわかっていたはずであったが、今回は久しぶりということもあってハメを外してしまったのだろう。
「次からは気をつけるように」
恵一郎がそう言って話を〆れば、海と陸から至極やる気のない返事が上がった。
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