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牡丹華(ぼたんはなさく)
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派手な下着だなとチカは思った。なにせブラカップに牡丹の花が大きくあしらわれている。色合いは控えめだが、その華やかさは目を引く。
それをつけているのがこの中では一番幼く見えるマシロだったので、なおさらチカには意外に映った。
これでササがつけていたのであれば、意外性はなかっただろう。ササはどこか妖艶な雰囲気すらある、華やかな顔立ちをしている。加えて、チカやマシロとは違い、バストもヒップも豊かである。大いなる偏見を含んではいたが、派手な女が派手な下着をつけていてもチカにとっては意外には映らない。
しかしササの下着は装飾がほとんどなく、あるとすれば谷間にあたるセンターに小さなリボンがついているくらいだ。色はほんのりと青みがかったアイスホワイト。「清楚」と言われて短絡的に思い浮かぶような色だった。
そして下着に釣られてこそこそとふたりを見ているうちにチカは気づいてしまった。
思わずさっと視線をそらしてしまう。しかし、その大ぶりの動きがよくなかったのだろう。
「ん? どうかした?」
マシロに視線を送っていたことを気づかれてしまい、チカは気まずい思いをする。
なぜ三人が下着姿でいるかと言うと、ホコリっぽい倉庫の掃除をしたあとだからだ。かすかに汗ばみ、ホコリっぽくなってしまった体を湯で洗い流すべく風呂場へ向かった三人が、今、脱衣場で下着姿になっているというわけなのであった。
足元に置いたランタンの光で浮かび上がった三人の体は、三者三様。特にマシロの体には――。
「あっ」
マシロがなにかに思い当たったらしい。その隣にいるササは小首をかしげて不思議そうな顔をしていたが、マシロのうなじに視線をやるとそこを指差した。
「キスマークがついてる」
無感情な声で指摘をするササに、今度はマシロが気まずそうな顔をした。
「えー……っ、うしろ?」
「うしろにいっぱいついてる」
「いっぱい!?」
そう、マシロの背中には下着ではとうてい隠し切れない位置に鬱血痕――いわゆるキスマークが、あちらこちらに散っていたのだった。
「うわあ……」
そう言ってマシロは恥ずかしそうにうつむいてしまった。心なしか、耳も赤くなっている気がする。
ササとは大違いだなとチカは心の中でつぶやく。
以前、ササも明らかな情交のあとをつけていたことがあった。服ではきちんと隠れる場所についていたが、脱衣場で下着姿にでもなれば隠せるものでもなく。
そのとき先に気づいたのも指摘したのもマシロだったが、ササは顔色一つ変えず平然としていた。平素の彼女の様子から考えれば、それは別におかしな反応ではなかったものの、その胆力にチカは感心したのでよく覚えている。
「ま、まあ服着てたらギリギリ見えない位置だから……」
チカは嘘は言わなかったものの、うなじのあたりは見えないかは怪しいところだと思った。キスマークのひとつは、本当に襟ぐりで隠れるギリギリの位置についていたからだ。チカはショートカットなので、ササのように髪で隠せる位置ではない。
「あーっ、もうヤダ。つけないでって言ったのに……」
マシロがそう頼んだとは思えないほど盛大につけられたキスマーク。犯人はアオだろうかとチカは思わず下種の勘繰りをしてしまう。
「コーイチのバカ」
……どうやら違うようだ。心の中で嫌疑をかけたアオに謝罪しつつ、チカは今度からコーイチを見る目がちょっぴり変わりそうだとも思った。
「アオじゃないのか」
ササが遠慮のない問いかけをする。彼女が問うた内容はチカも気になったところだが、さすがにそこまでは踏み込める関係ではないと考えて口にはしなかったことである。が、ササからすると事情が変わってくるようだ。あるいはなにも考えていないか。
「アオは『しないで』って言ったことはしないから」
「意外だな」
「そうかな? 嫌われたくないから『しないで』って頼んできたことは絶対しない、って言ってたよ」
アオは傍若無人とまでは言わないものの、他人に頼まれたからと言って小さな皮肉などを口にすることをやめるようなタイプには見えない。勝手気ままに振舞って、ヘラヘラと笑っていられる人間だとチカは思っていた。
ササも大体同じような印象を抱いていたからこそ、「意外」という言葉に繋がったのだろう。
だがどうもマシロが相手では勝手も変わってくるようである。「嫌われたくないから」。それだけ、マシロのことが大切なのだろう。
意外と言えばコーイチもだろうか。チカの中ではマシロに次いで、七人の中で相対的に常識のある枠に入れられているコーイチであるが、彼もまたマシロの前では違った顔を見せるようである。
ふたりの違った一面を意図せず垣間見てしまった気になって、チカはやっぱり気まずい気持ちになるのであった。
「なんでコーイチじゃなくてアオだと思ったの?」
「普段の行いの差だな」
ササが容赦のない返答をする。マシロもその答えには一定の納得を見せる。色々と、思い当たるところが多いらしい。そこに、ササがもうひとつの可能性を付け加える。
「ふたりとも、の可能性もあったが」
「いや……」
マシロはなにかを言いかけて、結局そのあとに言葉は続かなかった。十中八九、性的な話題であったであろうことは推測できる。だから、口にするのははばかられたのかもしれない。
「うう、気をつけてたんだけどな」
「いや、気にしてないから、うん」
どうフォローをすればいいのかわからず口にしたチカの言葉は、果たしてフォローになっていたのかどうか。
あとでマシロとコーイチのあいだで珍しくひと悶着あるかもしれない……。そんなチカの予測が当たることになるのは別の話。
それをつけているのがこの中では一番幼く見えるマシロだったので、なおさらチカには意外に映った。
これでササがつけていたのであれば、意外性はなかっただろう。ササはどこか妖艶な雰囲気すらある、華やかな顔立ちをしている。加えて、チカやマシロとは違い、バストもヒップも豊かである。大いなる偏見を含んではいたが、派手な女が派手な下着をつけていてもチカにとっては意外には映らない。
しかしササの下着は装飾がほとんどなく、あるとすれば谷間にあたるセンターに小さなリボンがついているくらいだ。色はほんのりと青みがかったアイスホワイト。「清楚」と言われて短絡的に思い浮かぶような色だった。
そして下着に釣られてこそこそとふたりを見ているうちにチカは気づいてしまった。
思わずさっと視線をそらしてしまう。しかし、その大ぶりの動きがよくなかったのだろう。
「ん? どうかした?」
マシロに視線を送っていたことを気づかれてしまい、チカは気まずい思いをする。
なぜ三人が下着姿でいるかと言うと、ホコリっぽい倉庫の掃除をしたあとだからだ。かすかに汗ばみ、ホコリっぽくなってしまった体を湯で洗い流すべく風呂場へ向かった三人が、今、脱衣場で下着姿になっているというわけなのであった。
足元に置いたランタンの光で浮かび上がった三人の体は、三者三様。特にマシロの体には――。
「あっ」
マシロがなにかに思い当たったらしい。その隣にいるササは小首をかしげて不思議そうな顔をしていたが、マシロのうなじに視線をやるとそこを指差した。
「キスマークがついてる」
無感情な声で指摘をするササに、今度はマシロが気まずそうな顔をした。
「えー……っ、うしろ?」
「うしろにいっぱいついてる」
「いっぱい!?」
そう、マシロの背中には下着ではとうてい隠し切れない位置に鬱血痕――いわゆるキスマークが、あちらこちらに散っていたのだった。
「うわあ……」
そう言ってマシロは恥ずかしそうにうつむいてしまった。心なしか、耳も赤くなっている気がする。
ササとは大違いだなとチカは心の中でつぶやく。
以前、ササも明らかな情交のあとをつけていたことがあった。服ではきちんと隠れる場所についていたが、脱衣場で下着姿にでもなれば隠せるものでもなく。
そのとき先に気づいたのも指摘したのもマシロだったが、ササは顔色一つ変えず平然としていた。平素の彼女の様子から考えれば、それは別におかしな反応ではなかったものの、その胆力にチカは感心したのでよく覚えている。
「ま、まあ服着てたらギリギリ見えない位置だから……」
チカは嘘は言わなかったものの、うなじのあたりは見えないかは怪しいところだと思った。キスマークのひとつは、本当に襟ぐりで隠れるギリギリの位置についていたからだ。チカはショートカットなので、ササのように髪で隠せる位置ではない。
「あーっ、もうヤダ。つけないでって言ったのに……」
マシロがそう頼んだとは思えないほど盛大につけられたキスマーク。犯人はアオだろうかとチカは思わず下種の勘繰りをしてしまう。
「コーイチのバカ」
……どうやら違うようだ。心の中で嫌疑をかけたアオに謝罪しつつ、チカは今度からコーイチを見る目がちょっぴり変わりそうだとも思った。
「アオじゃないのか」
ササが遠慮のない問いかけをする。彼女が問うた内容はチカも気になったところだが、さすがにそこまでは踏み込める関係ではないと考えて口にはしなかったことである。が、ササからすると事情が変わってくるようだ。あるいはなにも考えていないか。
「アオは『しないで』って言ったことはしないから」
「意外だな」
「そうかな? 嫌われたくないから『しないで』って頼んできたことは絶対しない、って言ってたよ」
アオは傍若無人とまでは言わないものの、他人に頼まれたからと言って小さな皮肉などを口にすることをやめるようなタイプには見えない。勝手気ままに振舞って、ヘラヘラと笑っていられる人間だとチカは思っていた。
ササも大体同じような印象を抱いていたからこそ、「意外」という言葉に繋がったのだろう。
だがどうもマシロが相手では勝手も変わってくるようである。「嫌われたくないから」。それだけ、マシロのことが大切なのだろう。
意外と言えばコーイチもだろうか。チカの中ではマシロに次いで、七人の中で相対的に常識のある枠に入れられているコーイチであるが、彼もまたマシロの前では違った顔を見せるようである。
ふたりの違った一面を意図せず垣間見てしまった気になって、チカはやっぱり気まずい気持ちになるのであった。
「なんでコーイチじゃなくてアオだと思ったの?」
「普段の行いの差だな」
ササが容赦のない返答をする。マシロもその答えには一定の納得を見せる。色々と、思い当たるところが多いらしい。そこに、ササがもうひとつの可能性を付け加える。
「ふたりとも、の可能性もあったが」
「いや……」
マシロはなにかを言いかけて、結局そのあとに言葉は続かなかった。十中八九、性的な話題であったであろうことは推測できる。だから、口にするのははばかられたのかもしれない。
「うう、気をつけてたんだけどな」
「いや、気にしてないから、うん」
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