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「あっ」
「……『あっ』てなんだよ」
心外だとばかりに軽く顔をしかめたヨシくんを見て、わたしは可愛げなく「別に」と返す。
エプロン作りに使っていたミシンを家庭科室へと返した帰り道、ばったりと出会ってしまったヨシくん。
なんだかものすごく久しぶりに顔を合わせたような気になって、思わず声が出てしまったのだ。
それは、決してイヤな気持ちから出たものではなかった。
むしろ、以前を懐かしむという、感傷的で、不快ではない情から出てきたものだった。
ヨシくんの眉間には一瞬だけシワが寄ったものの、口元は笑ったままだ。
もしかしたら、ヨシくんも久しぶりにわたしを見た、というような気になっているのかもしれない。
だといいな、となんとなくわたしは思ってしまう。
不思議だ。以前はあんなにもヨシくんのことを鬱陶しい存在だと思っていたのに。
「なにしてたんだ?」
「なんだっていいじゃん。……家庭科室にミシン返しに言ってたの」
「ふうん」
「『ふうん』って……」
教室へ戻るまでの道のりを、なりゆきで共にする。
ハルちゃんと同じ班であるヨシくんは、当然のようにとっくの昔に下校してしまっているものだと思っていた。
というようなことを尋ねると、別の班にいる友達の手伝いをしていてこんな時間まで残っていたようだ。
だから、なんだ、と言われると困ってしまうけれど、この至極どうでもいい会話をしていると、わたしの心の中にあるもやもやは、不思議と晴れて行くようだった。
夕暮れ時だが、五月の終わりなので外はまだ明るい。
それでも傾いた日を見ていると、なんとなくノスタルジックな気分になるし、なんとなく「さみしい」とか思ってしまう。
それとは別に時間としてはもう遅いので、なんとなく体は休眠モード。心なしかな頭も重い気がする。
だからたぶん、わたしがその場に流されてしまったのは、いつもと違う日常のせい。
「蔦原くん、トーコのこと送って行ってあげなよ」
「えー……?」
「『えー?』じゃない。いつもいっしょにいるんだし、いいでしょ?」
「ちょっとマコちゃ……」
「いいじゃん。送って行ってやれよ」
どういうわけだかその場の流れでヨシくんはわたしを駅まで送って行ってくれることになってしまった。
「いつもいっしょにいるんだし」……。ハルちゃんが「ああいう」ことになったあとでも、なんとなくわたしたちがセットであるという印象は薄れてはいないらしかった。
「別に最近はそうじゃないんだけど」と言えばいいのだろうが、囃し立てられる声に押されて、結局は言えずじまいになる。
ヨシくんもヨシくんで、最終的には「しゃーない」とかなんとか言って、了承してしまった。
ヨシくんがイヤがれば、「ヨシくんに悪いしいいよ」と断れたのに。そのきっかけも失われてしまった。
駅までの道は、正直に言って人通りがあるので危なくはないと思う。
でも先んじて先生が「遅くなったら男子は女子を送ってやれ」とか、余計なことを言ったからこんなことになってしまった。
まだまだ明るい駅までの道のりを、ヨシくんと並んで歩きながら、わたしは行き場のない文句を何度か飲み込む。
ちらりとわたしより半歩ほど前を行くヨシくんを見る。
不意に、ヨシくんはわたしなんかとはいっしょにいたくないかもしれない、という感覚に陥った。
だって、ヨシくんはハルちゃんみたいに美しくはないけれど、まあ、恰好はついている。
身長だってクラスメイトの中でも高い方で、体もどちらかといえばガッチリとしている方。
ハルちゃんを美しいと言うのなら、ヨシくんはカッコイイという部類に入るのかもしれない。
……ということに、不意にわたしは気づいた。
翻って、わたしはごくごく普通の女子中学生。別に美人でもないし、可愛くもない。
友人はいるけれど、本当は全然社交的じゃなくて、ひとりが好き。
成績は中の上。すごく勉強が出来るってわけでもないし、なにかに熱中しているわけでもない。
そう思うと、自分がひどくみすぼらしくて、ハルちゃんやヨシくんとは到底釣り合わない存在に思えてきた。
「ネガティブ、よくない」。そんなことを自分に言い聞かせるけれど、思考はドツボにはまって、どんどんイヤな言葉ばかりが浮かぶ。
そうして自然と足取りも重くなって、のろのろとヨシくんの後を追う形になったとき、ずっと黙っていたヨシくんが急に口を開いた。
「ハル、来てるな」
急に話を振られたわたしは、思わず「え?」と聞き返してしまう。
ヨシくんはそれにイヤな顔をすることなく、もう一度「ハル、学校に来てるな」と言った。
「ああ、うん」。わたしはその言葉にどう返せばいいのか、その言葉の真意はどこにあるのか図れずに、曖昧な言葉を口にする。
「もう学校来ないかと思った」
「え、なんで?」
「世の中には芸能人が通う学校とかあるらしーんじゃん? そういうとこ行っちゃうのかと思った」
「ああー……。まあ、おばさんならそれくらいしそうかな」
「ハルのおばさんってどんな感じなの?」
「えー? ……一般人とは違う感じだよ」
「元女優ってマジなの?」
「らしいよ? わたしもお母さんから聞いただけだけど」
「ふーん……。トーコはハルのおばさんのことよく思ってないんだ」
「え? ……そうかな」
そうだけど。
心の中でそうつぶやいたあとで、言い訳する。
「どっちかと言うとおばさんがわたしのこと、よく思ってないかなー?」
「そうなんだ。でも、付き合いは長いんだろ?」
「たしかにまあ、ハルちゃんとは昔からいっしょにいるけど、おばさんとは直接しゃべったことはないよ」
「え? そんなことあんの?」
「あるある。いつもしゃべるのはお母さん。おばさんはさ、わたしはハルちゃんにはふさわしくないと思ってるんだよ」
「恋人として?」
ヨシくんの爆弾発言に、わたしは爆発して飛んで行ってしまいそうになった。
「ないないない!」
あわてて首を横に振って、ついでに立てた右手も左右に振る。
ハルちゃんとわたしが恋人? そりゃ、ふさわしくないよ!
「そーじゃなくって、ハルちゃんとお付き合い……友達として、ね? ……お付き合いするのにふさわしくないお相手、みたいな感じ?」
「だれを友人にするかなんてハルの勝手だろ」
「まあそうだろうね。普通はね」
ハルちゃんの家は「普通」とは違う。
おばさんは美人で、ハルちゃんは美しくて……で、それでお金がもらえるくらい。
だから、庶民とは――わたしとは違う。
「『普通』はそうかもしれないけど、ハルちゃんはさ、キレイだから……。で、おばさんもモデルやってて女優もしててさ。わたしたちとは住む世界が違うって言うかね……」
「でもハルはオレたちと仲いいだろ」
「まあ、そうだけど」
「……お前はさ、自分はハルにふさわしくないとか思っちゃってるわけ?」
気がつけば、わたしたちの歩みは止まっていた。
「……そんなこと」
「あるだろ? さっき、そう言ったも同然じゃねえの?」
「……なに? だからって」
「ハルに悪いとか思わないのかよ」
「なんでそんなこと言うの」
「お前がそんなこと言ってたって知ったら、ハルが悲しむと思ったからだよ」
「――だって!」
だって。
だって、わたしは本当は「友達」と呼んでるマコちゃんたちと話すのだって、苦労してる。
なんでもない顔をして、わたしは普通ですよって顔をして、振る舞って。
マコちゃんたちのことは好きだけど、好きだけど、でもときどき普通に振る舞うのに疲れてしまう。
ハルちゃんはそうじゃないのに。
本当のわたしはひとりが好きなんだと思う。でもひとりはイヤだ。さみしいし。
でもハルちゃんがいると安心する。ハルちゃんとならなんだってしゃべれる。
ハルちゃんはキレイで、なんでもできて、なんでも持っていて。
そんなハルちゃんと釣り合うようになるには、重荷にならないようになるには、他に友達が必要で。
ひどいこと言ってるのはわかってる。
マコちゃんたちのことは好きだけど、結局わたしの一番はハルちゃん。
でも、ハルちゃんは……ハルちゃんにとっては。
わたしは、一番じゃないかもしれない。
でもそうだと悲しいから、だから、やっぱり、ハルちゃんは「普通」とは違うんだって言い聞かせてる。
そうしないと苦しい。
ハルちゃんが好きすぎて、どうしようもないんだよ。
「……なら、ハルに対して線引くのやめてやれよ」
「……だから」
「そんな奥に引っ込んでて、好きなもの取れるわけねえだろ。それともオレに盗られちゃってもいいわけ?」
「……ヤだ」
「それでいいじゃん。張り合いがないとオレもつまんないよ」
「……『普通』はさ、こういうときはさ、邪魔者を蹴落とすんじゃないの?」
「別にオレ、お前のこと邪魔者なんて思ってないし」
「……はあ?」
ヨシくんの言葉が予想外すぎて、わたしは心からの「はあ?」を吐き出す。
そんなわたしに対して、ヨシくんはちょっとだけ気まずげな顔を見せる。
恥ずかしがっている。照れている。そういう感じの顔だ。
「だーかーらー! オレはお前と話すの、イヤじゃないんだって……」
「なんで……」
「そりゃ、ハルを誘ったらもれなくお前もついてくるのとか、もれなく出しゃばってくるところとか、マジで小姑かよって思ってたけどさ。なーんかそういうの、イヤじゃないんだわ」
「わけわかんない」
「オレもわけわかんねーよ。でも、ま、三人でもいいかなって、今は思ってるワケ」
「ふーん……」
「『ふーん』て……これでも結構恥ずかしいんだけど?!」
「急に言い出したのはヨシくんだし」
「お前のこと思ってだろ?!」
「別に頼んでないし」
「はー?!」
ヨシくんは「ありえねー」とつぶやいているが、本気で憤っているわけではないことは、明らかだった。
でもひねくれているわたしは素直にお礼が言えなくて……でもこのときは最大限努力して口を開いた。
「……ありがと」
「は? ……ああ、うん。……お前が落ち込んでると調子狂うから、まあ、元気出せよ」
「別に落ち込んでたつもりはないんだけど」
そんなことを言い合いながら、また駅に向かって歩き始める。
駅前で別れるとき、わたしはまたひとつ勇気を振り絞った。
その日、わたしの連絡先に「蔦原由行」の名前が増えたのだった。
「……『あっ』てなんだよ」
心外だとばかりに軽く顔をしかめたヨシくんを見て、わたしは可愛げなく「別に」と返す。
エプロン作りに使っていたミシンを家庭科室へと返した帰り道、ばったりと出会ってしまったヨシくん。
なんだかものすごく久しぶりに顔を合わせたような気になって、思わず声が出てしまったのだ。
それは、決してイヤな気持ちから出たものではなかった。
むしろ、以前を懐かしむという、感傷的で、不快ではない情から出てきたものだった。
ヨシくんの眉間には一瞬だけシワが寄ったものの、口元は笑ったままだ。
もしかしたら、ヨシくんも久しぶりにわたしを見た、というような気になっているのかもしれない。
だといいな、となんとなくわたしは思ってしまう。
不思議だ。以前はあんなにもヨシくんのことを鬱陶しい存在だと思っていたのに。
「なにしてたんだ?」
「なんだっていいじゃん。……家庭科室にミシン返しに言ってたの」
「ふうん」
「『ふうん』って……」
教室へ戻るまでの道のりを、なりゆきで共にする。
ハルちゃんと同じ班であるヨシくんは、当然のようにとっくの昔に下校してしまっているものだと思っていた。
というようなことを尋ねると、別の班にいる友達の手伝いをしていてこんな時間まで残っていたようだ。
だから、なんだ、と言われると困ってしまうけれど、この至極どうでもいい会話をしていると、わたしの心の中にあるもやもやは、不思議と晴れて行くようだった。
夕暮れ時だが、五月の終わりなので外はまだ明るい。
それでも傾いた日を見ていると、なんとなくノスタルジックな気分になるし、なんとなく「さみしい」とか思ってしまう。
それとは別に時間としてはもう遅いので、なんとなく体は休眠モード。心なしかな頭も重い気がする。
だからたぶん、わたしがその場に流されてしまったのは、いつもと違う日常のせい。
「蔦原くん、トーコのこと送って行ってあげなよ」
「えー……?」
「『えー?』じゃない。いつもいっしょにいるんだし、いいでしょ?」
「ちょっとマコちゃ……」
「いいじゃん。送って行ってやれよ」
どういうわけだかその場の流れでヨシくんはわたしを駅まで送って行ってくれることになってしまった。
「いつもいっしょにいるんだし」……。ハルちゃんが「ああいう」ことになったあとでも、なんとなくわたしたちがセットであるという印象は薄れてはいないらしかった。
「別に最近はそうじゃないんだけど」と言えばいいのだろうが、囃し立てられる声に押されて、結局は言えずじまいになる。
ヨシくんもヨシくんで、最終的には「しゃーない」とかなんとか言って、了承してしまった。
ヨシくんがイヤがれば、「ヨシくんに悪いしいいよ」と断れたのに。そのきっかけも失われてしまった。
駅までの道は、正直に言って人通りがあるので危なくはないと思う。
でも先んじて先生が「遅くなったら男子は女子を送ってやれ」とか、余計なことを言ったからこんなことになってしまった。
まだまだ明るい駅までの道のりを、ヨシくんと並んで歩きながら、わたしは行き場のない文句を何度か飲み込む。
ちらりとわたしより半歩ほど前を行くヨシくんを見る。
不意に、ヨシくんはわたしなんかとはいっしょにいたくないかもしれない、という感覚に陥った。
だって、ヨシくんはハルちゃんみたいに美しくはないけれど、まあ、恰好はついている。
身長だってクラスメイトの中でも高い方で、体もどちらかといえばガッチリとしている方。
ハルちゃんを美しいと言うのなら、ヨシくんはカッコイイという部類に入るのかもしれない。
……ということに、不意にわたしは気づいた。
翻って、わたしはごくごく普通の女子中学生。別に美人でもないし、可愛くもない。
友人はいるけれど、本当は全然社交的じゃなくて、ひとりが好き。
成績は中の上。すごく勉強が出来るってわけでもないし、なにかに熱中しているわけでもない。
そう思うと、自分がひどくみすぼらしくて、ハルちゃんやヨシくんとは到底釣り合わない存在に思えてきた。
「ネガティブ、よくない」。そんなことを自分に言い聞かせるけれど、思考はドツボにはまって、どんどんイヤな言葉ばかりが浮かぶ。
そうして自然と足取りも重くなって、のろのろとヨシくんの後を追う形になったとき、ずっと黙っていたヨシくんが急に口を開いた。
「ハル、来てるな」
急に話を振られたわたしは、思わず「え?」と聞き返してしまう。
ヨシくんはそれにイヤな顔をすることなく、もう一度「ハル、学校に来てるな」と言った。
「ああ、うん」。わたしはその言葉にどう返せばいいのか、その言葉の真意はどこにあるのか図れずに、曖昧な言葉を口にする。
「もう学校来ないかと思った」
「え、なんで?」
「世の中には芸能人が通う学校とかあるらしーんじゃん? そういうとこ行っちゃうのかと思った」
「ああー……。まあ、おばさんならそれくらいしそうかな」
「ハルのおばさんってどんな感じなの?」
「えー? ……一般人とは違う感じだよ」
「元女優ってマジなの?」
「らしいよ? わたしもお母さんから聞いただけだけど」
「ふーん……。トーコはハルのおばさんのことよく思ってないんだ」
「え? ……そうかな」
そうだけど。
心の中でそうつぶやいたあとで、言い訳する。
「どっちかと言うとおばさんがわたしのこと、よく思ってないかなー?」
「そうなんだ。でも、付き合いは長いんだろ?」
「たしかにまあ、ハルちゃんとは昔からいっしょにいるけど、おばさんとは直接しゃべったことはないよ」
「え? そんなことあんの?」
「あるある。いつもしゃべるのはお母さん。おばさんはさ、わたしはハルちゃんにはふさわしくないと思ってるんだよ」
「恋人として?」
ヨシくんの爆弾発言に、わたしは爆発して飛んで行ってしまいそうになった。
「ないないない!」
あわてて首を横に振って、ついでに立てた右手も左右に振る。
ハルちゃんとわたしが恋人? そりゃ、ふさわしくないよ!
「そーじゃなくって、ハルちゃんとお付き合い……友達として、ね? ……お付き合いするのにふさわしくないお相手、みたいな感じ?」
「だれを友人にするかなんてハルの勝手だろ」
「まあそうだろうね。普通はね」
ハルちゃんの家は「普通」とは違う。
おばさんは美人で、ハルちゃんは美しくて……で、それでお金がもらえるくらい。
だから、庶民とは――わたしとは違う。
「『普通』はそうかもしれないけど、ハルちゃんはさ、キレイだから……。で、おばさんもモデルやってて女優もしててさ。わたしたちとは住む世界が違うって言うかね……」
「でもハルはオレたちと仲いいだろ」
「まあ、そうだけど」
「……お前はさ、自分はハルにふさわしくないとか思っちゃってるわけ?」
気がつけば、わたしたちの歩みは止まっていた。
「……そんなこと」
「あるだろ? さっき、そう言ったも同然じゃねえの?」
「……なに? だからって」
「ハルに悪いとか思わないのかよ」
「なんでそんなこと言うの」
「お前がそんなこと言ってたって知ったら、ハルが悲しむと思ったからだよ」
「――だって!」
だって。
だって、わたしは本当は「友達」と呼んでるマコちゃんたちと話すのだって、苦労してる。
なんでもない顔をして、わたしは普通ですよって顔をして、振る舞って。
マコちゃんたちのことは好きだけど、好きだけど、でもときどき普通に振る舞うのに疲れてしまう。
ハルちゃんはそうじゃないのに。
本当のわたしはひとりが好きなんだと思う。でもひとりはイヤだ。さみしいし。
でもハルちゃんがいると安心する。ハルちゃんとならなんだってしゃべれる。
ハルちゃんはキレイで、なんでもできて、なんでも持っていて。
そんなハルちゃんと釣り合うようになるには、重荷にならないようになるには、他に友達が必要で。
ひどいこと言ってるのはわかってる。
マコちゃんたちのことは好きだけど、結局わたしの一番はハルちゃん。
でも、ハルちゃんは……ハルちゃんにとっては。
わたしは、一番じゃないかもしれない。
でもそうだと悲しいから、だから、やっぱり、ハルちゃんは「普通」とは違うんだって言い聞かせてる。
そうしないと苦しい。
ハルちゃんが好きすぎて、どうしようもないんだよ。
「……なら、ハルに対して線引くのやめてやれよ」
「……だから」
「そんな奥に引っ込んでて、好きなもの取れるわけねえだろ。それともオレに盗られちゃってもいいわけ?」
「……ヤだ」
「それでいいじゃん。張り合いがないとオレもつまんないよ」
「……『普通』はさ、こういうときはさ、邪魔者を蹴落とすんじゃないの?」
「別にオレ、お前のこと邪魔者なんて思ってないし」
「……はあ?」
ヨシくんの言葉が予想外すぎて、わたしは心からの「はあ?」を吐き出す。
そんなわたしに対して、ヨシくんはちょっとだけ気まずげな顔を見せる。
恥ずかしがっている。照れている。そういう感じの顔だ。
「だーかーらー! オレはお前と話すの、イヤじゃないんだって……」
「なんで……」
「そりゃ、ハルを誘ったらもれなくお前もついてくるのとか、もれなく出しゃばってくるところとか、マジで小姑かよって思ってたけどさ。なーんかそういうの、イヤじゃないんだわ」
「わけわかんない」
「オレもわけわかんねーよ。でも、ま、三人でもいいかなって、今は思ってるワケ」
「ふーん……」
「『ふーん』て……これでも結構恥ずかしいんだけど?!」
「急に言い出したのはヨシくんだし」
「お前のこと思ってだろ?!」
「別に頼んでないし」
「はー?!」
ヨシくんは「ありえねー」とつぶやいているが、本気で憤っているわけではないことは、明らかだった。
でもひねくれているわたしは素直にお礼が言えなくて……でもこのときは最大限努力して口を開いた。
「……ありがと」
「は? ……ああ、うん。……お前が落ち込んでると調子狂うから、まあ、元気出せよ」
「別に落ち込んでたつもりはないんだけど」
そんなことを言い合いながら、また駅に向かって歩き始める。
駅前で別れるとき、わたしはまたひとつ勇気を振り絞った。
その日、わたしの連絡先に「蔦原由行」の名前が増えたのだった。
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