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主人公視点(2)
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……ミコトは思った。
――つまり私は異世界転生したってことだな、と。
ミコトの家はいわゆるカルト教団というやつであった。それも、終末思想に根ざすドゥームズデイカルトというやつであった。
ミコトは、教団では信者たちを死後、天国へと導くために使わされた神の子――ということになっていた。
そして永遠校舎で目を覚ます前のミコトの記憶は、「きたるべき日」で途切れている。
「きたるべき日」とはすなわち、世界が滅びる日のことを指し、そしてその苦痛の前に信者たちは自殺し、神の子であるミコトによってあらゆる悩みから解き放たれた天国へと導かれる――ということになっていた。
つまり、永遠校舎の外……元いた世界のミコトはすでに死んでいるはずである。
となれば、今の状況は異世界転生ってやつなのだろう、とミコトは解釈したのである。
なにやら現実世界と明確に繋がっているらしい永遠校舎を異世界と呼ぶかどうかについては異論があるかもしれないが、ミコトは己の身に降りかかった事象を異世界転生だと解釈した。
ミコトと同じ歳で、信者の息子であったテマリくんからこっそり貸してもらった漫画で、異世界転生についてはそれなりに知っていた。
理不尽な理由で命を奪われ、今いる世界とは別の世界へと生まれ変わり、なんかついでにいい感じの能力をもらったりする……。
ミコトはニビから手渡されたスマートフォンを見る。
ミコトは現代日本を生きていた人間であったから、もちろんスマートフォンというものの存在については知っている。
しかし、こうして自らの所有物として手渡され、触れるのは初めてのことであった。
ニビ曰く、このスマートフォンは「キツネノマド」と言い、操作できるのはミコトだけ。そして、不可視のものを可視化することができる能力があると言う。
実際、つい先ほど駆り出されてこのスマートフォン……もとい「キツネノマド」を使ってニビたちの戦闘のアシストをしたところであった。
戦闘。そう、この永遠校舎には正体不明のもやのような、影のような敵が出没するのである。
ニビたち、永遠校舎にいる生徒たちは、それらを適度に駆除している。
そして今回は永遠校舎に迷い込みながらも、まだ帰る場所を持つ「迷子生徒」の救出もした。
それらにミコト……というか、「キツネノマド」は大いに役立った。
ミコトの力というよりは、「キツネノマド」の力であるのだが、最初にニビが述べたように、これはミコトにしか扱えない代物であるらしい。
実際、ニビが触れてみれば「キツネノマド」はうんともすんとも言わなくなってしまった。
「やから、これは樹さんの力やと思っとけばええねん」
なんとなく釈然としない顔をしていたのだろうミコトに、ニビはそういって柔らかく微笑んだ。
「……でも、どうしてこの『キツネノマド』が私のものだって、私が来る前からわかっていたんですか?」
「――お前、いつまでもすっとぼけてんじゃねえよ」
ミコトを糾弾するような鋭い声がかかり、ミコトは思わずそちらを向いた。
しかしそんなミコトを背に隠すようにして、すっとニビが前へ出る。
そんなニビと、うしろに半ば隠れたミコトを、鋭い声の主である男子生徒は、忌々しげに見つめる。
「記憶がねえとか、そんな三文芝居はいいから」
「厨戸くん、樹さんの言うことが信じられへんのは勝手やけど、そうやって樹さんに当たるんは関心せえへんわ」
「ハッ。お前は信じてるのかよ? 記憶喪失とか、都合のいい言い訳」
ニビからクリド、と呼ばれた男子生徒はなぜかミコトにぎらぎらとした敵意を向けている。
ミコトは当然、クリドと呼ばれた彼のことを知らないので、なぜこのように悪感情を抱かれているのかもさっぱりだ。
しかし面識のない相手から呪詛を吐かれるのは、元の世界……前世でもしばしばあったことだ。
ミコトは今自分が置かれている立場への不明瞭さに起因する戸惑いは覚えているものの、クリドに対しておびえの感情は抱かなかった。
もしかしたら、クリドはそれが気に入らなかったのかもしれない。
再度、ミコトをねめつけるようにクリドは目を細めて言う。
「記憶がないとか嘘に決まってるだろ。クソビッチがよ」
ミコトはここで今なにかを言い募っても、火に油を注ぐだけだと判断して黙ったまま、ただ目をしばたたかせた。
実際、ミコトはまだ己の置かれた状況や、立場というものがさっぱりわかっていない。
そんな状況ではクリドに反論をする行為は、やぶれかぶれに近いものだ。
唯一反論できるのは、ミコトが男性経験が一切ない、処女であるということくらいだろう。
しかしここでそんなことを主張しても、無意味であることは目に見えていた。
「樹さんが気に入らんことはようわかったわ。迷子生徒も無事帰せたし、厨戸くんももう帰ってええで。おつかれさん」
「ハア? ……そいつはどうすんの」
「樹さんの面倒やったら俺が見るから心配せんでええよ。樹さん、樹さんが使てええ教室に案内するわ」
「私の……?」
「樹さんは永遠生徒で唯一の女子やしな。鍵かかる部屋があったほうが安心やろ?」
ニビが優しい声で説明している途中で、舌打ちをする音がした。確認するまでもなく、その音の主はクリドだった。
「おいビッチ、まだそんな下心しかねえ野郎の言葉信じてるわけ?」
クリドの中では、ミコトは記憶喪失を装っているという前提が崩れていないらしい。
しかし馴れ馴れしく――というか、なんらかのよからぬ過去という前提があり、侮蔑的に接されても、ミコトからすればクリドは初対面の相手なので、なにがなにやら、である。
「厨戸くん、樹さんの面倒見たいん?」
「そんなんじゃねえよ! ただ馬鹿見てるとイライラするってだけ」
「ほんなら俺らもう行くわ」
クリドはまた舌打ちをしたが、それ以上言葉を挟む気はないようだった。
ニビがミコトの手を引く。ミコトはそれに従い、クリドに背を向けて、夕日に染まる廊下を歩き出した。
「ごめんな、樹さん。気分悪ぅなったやろ」
「いえ……正直なにがなんだかだったので、悪くもなるも……という感じで」
「ほんまに? 気にしてへんのやったらええんやけど」
それから、ニビは先ほどのクリドと呼んでいた男子生徒の名前を改めて教えてくれた。
厨戸煙。永遠校舎に来る前からニビとは面識があるらしい。
それから――
「樹さんの『元カレ』ってやつやねん。やから、あいつのことはちょお気をつけてな?」
とニビから言われたものの、ミコトにはなにがなにやら、であった。
そのことを素直にニビに言う。厨戸とは初対面だと。だから、「元カレ」云々は違うと。
そうミコトが告げれば、ニビが足を止めて振り返った。
「……ほんまに死んだんやな」
「え?」
「俺たちが知っとる樹さんはな、俺たちの目の前で死んでん。俺ら、『永遠生徒』とか呼ばれたりはするけど、永遠校舎で致命傷を負えば死んで……消える。実際のところ『永遠』やないんや」
ニビはミコトを見つめたまま、ゆっくりとまばたきをする。
そして微笑んで言った。
「けど、樹さんは戻ってきた」
――つまり私は異世界転生したってことだな、と。
ミコトの家はいわゆるカルト教団というやつであった。それも、終末思想に根ざすドゥームズデイカルトというやつであった。
ミコトは、教団では信者たちを死後、天国へと導くために使わされた神の子――ということになっていた。
そして永遠校舎で目を覚ます前のミコトの記憶は、「きたるべき日」で途切れている。
「きたるべき日」とはすなわち、世界が滅びる日のことを指し、そしてその苦痛の前に信者たちは自殺し、神の子であるミコトによってあらゆる悩みから解き放たれた天国へと導かれる――ということになっていた。
つまり、永遠校舎の外……元いた世界のミコトはすでに死んでいるはずである。
となれば、今の状況は異世界転生ってやつなのだろう、とミコトは解釈したのである。
なにやら現実世界と明確に繋がっているらしい永遠校舎を異世界と呼ぶかどうかについては異論があるかもしれないが、ミコトは己の身に降りかかった事象を異世界転生だと解釈した。
ミコトと同じ歳で、信者の息子であったテマリくんからこっそり貸してもらった漫画で、異世界転生についてはそれなりに知っていた。
理不尽な理由で命を奪われ、今いる世界とは別の世界へと生まれ変わり、なんかついでにいい感じの能力をもらったりする……。
ミコトはニビから手渡されたスマートフォンを見る。
ミコトは現代日本を生きていた人間であったから、もちろんスマートフォンというものの存在については知っている。
しかし、こうして自らの所有物として手渡され、触れるのは初めてのことであった。
ニビ曰く、このスマートフォンは「キツネノマド」と言い、操作できるのはミコトだけ。そして、不可視のものを可視化することができる能力があると言う。
実際、つい先ほど駆り出されてこのスマートフォン……もとい「キツネノマド」を使ってニビたちの戦闘のアシストをしたところであった。
戦闘。そう、この永遠校舎には正体不明のもやのような、影のような敵が出没するのである。
ニビたち、永遠校舎にいる生徒たちは、それらを適度に駆除している。
そして今回は永遠校舎に迷い込みながらも、まだ帰る場所を持つ「迷子生徒」の救出もした。
それらにミコト……というか、「キツネノマド」は大いに役立った。
ミコトの力というよりは、「キツネノマド」の力であるのだが、最初にニビが述べたように、これはミコトにしか扱えない代物であるらしい。
実際、ニビが触れてみれば「キツネノマド」はうんともすんとも言わなくなってしまった。
「やから、これは樹さんの力やと思っとけばええねん」
なんとなく釈然としない顔をしていたのだろうミコトに、ニビはそういって柔らかく微笑んだ。
「……でも、どうしてこの『キツネノマド』が私のものだって、私が来る前からわかっていたんですか?」
「――お前、いつまでもすっとぼけてんじゃねえよ」
ミコトを糾弾するような鋭い声がかかり、ミコトは思わずそちらを向いた。
しかしそんなミコトを背に隠すようにして、すっとニビが前へ出る。
そんなニビと、うしろに半ば隠れたミコトを、鋭い声の主である男子生徒は、忌々しげに見つめる。
「記憶がねえとか、そんな三文芝居はいいから」
「厨戸くん、樹さんの言うことが信じられへんのは勝手やけど、そうやって樹さんに当たるんは関心せえへんわ」
「ハッ。お前は信じてるのかよ? 記憶喪失とか、都合のいい言い訳」
ニビからクリド、と呼ばれた男子生徒はなぜかミコトにぎらぎらとした敵意を向けている。
ミコトは当然、クリドと呼ばれた彼のことを知らないので、なぜこのように悪感情を抱かれているのかもさっぱりだ。
しかし面識のない相手から呪詛を吐かれるのは、元の世界……前世でもしばしばあったことだ。
ミコトは今自分が置かれている立場への不明瞭さに起因する戸惑いは覚えているものの、クリドに対しておびえの感情は抱かなかった。
もしかしたら、クリドはそれが気に入らなかったのかもしれない。
再度、ミコトをねめつけるようにクリドは目を細めて言う。
「記憶がないとか嘘に決まってるだろ。クソビッチがよ」
ミコトはここで今なにかを言い募っても、火に油を注ぐだけだと判断して黙ったまま、ただ目をしばたたかせた。
実際、ミコトはまだ己の置かれた状況や、立場というものがさっぱりわかっていない。
そんな状況ではクリドに反論をする行為は、やぶれかぶれに近いものだ。
唯一反論できるのは、ミコトが男性経験が一切ない、処女であるということくらいだろう。
しかしここでそんなことを主張しても、無意味であることは目に見えていた。
「樹さんが気に入らんことはようわかったわ。迷子生徒も無事帰せたし、厨戸くんももう帰ってええで。おつかれさん」
「ハア? ……そいつはどうすんの」
「樹さんの面倒やったら俺が見るから心配せんでええよ。樹さん、樹さんが使てええ教室に案内するわ」
「私の……?」
「樹さんは永遠生徒で唯一の女子やしな。鍵かかる部屋があったほうが安心やろ?」
ニビが優しい声で説明している途中で、舌打ちをする音がした。確認するまでもなく、その音の主はクリドだった。
「おいビッチ、まだそんな下心しかねえ野郎の言葉信じてるわけ?」
クリドの中では、ミコトは記憶喪失を装っているという前提が崩れていないらしい。
しかし馴れ馴れしく――というか、なんらかのよからぬ過去という前提があり、侮蔑的に接されても、ミコトからすればクリドは初対面の相手なので、なにがなにやら、である。
「厨戸くん、樹さんの面倒見たいん?」
「そんなんじゃねえよ! ただ馬鹿見てるとイライラするってだけ」
「ほんなら俺らもう行くわ」
クリドはまた舌打ちをしたが、それ以上言葉を挟む気はないようだった。
ニビがミコトの手を引く。ミコトはそれに従い、クリドに背を向けて、夕日に染まる廊下を歩き出した。
「ごめんな、樹さん。気分悪ぅなったやろ」
「いえ……正直なにがなんだかだったので、悪くもなるも……という感じで」
「ほんまに? 気にしてへんのやったらええんやけど」
それから、ニビは先ほどのクリドと呼んでいた男子生徒の名前を改めて教えてくれた。
厨戸煙。永遠校舎に来る前からニビとは面識があるらしい。
それから――
「樹さんの『元カレ』ってやつやねん。やから、あいつのことはちょお気をつけてな?」
とニビから言われたものの、ミコトにはなにがなにやら、であった。
そのことを素直にニビに言う。厨戸とは初対面だと。だから、「元カレ」云々は違うと。
そうミコトが告げれば、ニビが足を止めて振り返った。
「……ほんまに死んだんやな」
「え?」
「俺たちが知っとる樹さんはな、俺たちの目の前で死んでん。俺ら、『永遠生徒』とか呼ばれたりはするけど、永遠校舎で致命傷を負えば死んで……消える。実際のところ『永遠』やないんや」
ニビはミコトを見つめたまま、ゆっくりとまばたきをする。
そして微笑んで言った。
「けど、樹さんは戻ってきた」
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