墜落ループ

やなぎ怜

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5ループめ

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 アカネとアオイ……どうにも、あの双子に泣き落としだとかは効かないらしい。

 同情を引くというか、関心を引くことには成功した手ごたえはあったものの、両者とも結果はあの有様である。

 私がまたふたりのどちらか、あるいは両方の同情心へ訴えかけても、似たような結果になってしまうに違いない。

 それどころか、ふたりの思惑が合わされば、より結末は悪いものになるような気さえして、私は内心でぶるりと震えた。

 アカネとアオイは、私の気持ちよりも恐らく自分たちの我欲を通してくる……。

 つまり、「ミドリ」を――私を「儀式」の生贄にしたいということだ。

 ふたりが私の体を求めてくるのも「儀式」の一環であろうことは、こう何度もループしていれば嫌でも気がつく。

 「儀式」の仔細は相変わらずわからないものの、ろくでもないものであることは確定している。

 ――やっぱり「儀式」は回避しないといけない……気がする。

 私の直感は絶えずそう言っている。

 しかし、それを打開する次の一手がどうしても思い浮かばない。

 まず、私が体調不良を訴えれば「儀式」を一度は延期できることは確定。

 その場しのぎであるため、「儀式」を完全に回避できたわけではないものの、私が策を練るための時間稼ぎにはなる。

 ……しかし、肝心の策が出尽くした気がする。

 そもそも私の地頭がよくないせいもあるのだろう。

 じりじりと追い詰められているという焦燥感も手伝い、気が急いてそうぽんぽんと打開策が出てくるわけもなかった。

 ――アカネかアオイを脱出の協力者に仕立て上げる、という案はいいと思ったんだけどなあ……。

 しかしそれは私の空想上、机上の空論でしかなかったわけで……。

 ――やばい、手詰まりだ。

 私の白い長襦袢の下で、冷や汗が流れ伝うような気持ちだった。

 そんな風に内心は大荒れだったが、私はこれまでの経験から安全だと思われるルートを機械的に通っていく。

 つまり体調不良を強調して「儀式」を延期させる言葉をアカネから引き出し、アオイに部屋まで連れて行ってもらい、白湯と吐き気止めを受け取る――。

 これまでの経験とその失敗から、不用意な言動を取らなければここまでは安全に行けることがわかっている。

 私はそこからまた適当な言葉で、アオイが部屋から出て行くように仕向ける。

「……逃げないでね」

 以前と同じように、アオイは私の返事を待たずに襖を閉じた。

 それからしばらくすると、今度はアカネがやってきて、私の体調を聞いてくる。

 前と同じく、アカネは襷をかけて着物の袖をたくし上げていた。

「……吐き気止め飲んだから、もう大丈夫」

 私は精一杯、アカネに微笑みかけて虚勢を張った。

 ……正直に言って、気分がいいわけがなかった。

 背が高く分厚い壁が、今私の目の前に立ちはだかっているような状況なのだ。

 八方ふさがり――。そんな言葉が私の脳裏を占めている。

 前と同じようにアカネやアオイの気を引いても、同じ結果に終わるだろう。

 彼らふたりともが「儀式」を望み、「ミドリ」を――私を逃がす気がないのだから。

 結局、村外からの来訪者である彼以外に味方が存在する可能性は限りなく低く、私は単身での脱出を目指さなければならないらしい。

 ずしりと胃の腑の上に、大きな石がのしかかったような気持ちになる。いや、むしろ大きな石を飲み込んでしまったかのような。

「――延期した『儀式』は、明日することになったから」

 ……微笑むアカネに、私は上手く微笑み返すことができなかった。

「明日……」
「うん。またすぐ準備も整うから。それに、こういうのは早いほうがいいし」

 私は心の中で「よくない!」と叫んだ。

 しかしそんな本心を、「儀式」に積極的なアカネに告げられるはずもない。

 私は自分の顔から表情が抜け落ちていきそうになるのを必死で押しとどめながら、ぼんやりとアカネを見つめることしかできない。

「それで、みんな『儀式』の準備で忙しいから、あまりミドリのことを構えないかも……」
「……それは、大丈夫。明日の『儀式』までによくなるよう、私は寝てるから……」
「そう? それならいいんだけど」

 ……私はこれまで必死に「儀式」を回避してきた。

 そういうわけで未だに「儀式」の具体的な内容はもちろん、手順だとかもまったくわからない。

 とにかく回避しなければと、必死になって逃げを打っていた。

 しかし、アカネの言葉を聞いて思い直す。

 ――もしや、「儀式」を行うぎりぎりのタイミングにこそ活路があるのでは……?

 私には時間を遡行することで、失敗してもやり直せる力が――なぜかある。

 だから、一度「儀式」が行われる手前まで経験すれば、そこからなにかしらの希望を見出せるのではないか、と淡い期待を抱いた。

 タイムリープという強力なカードを持っていると確信できているからこその、危険な挑戦……。

 今は八方ふさがりで、新たな打開策も残念ながら思いつかない。

 これは、一度試してみる価値があるのではないかと思えた。

「あ、そうだ。父さんが『儀式』の前に時間を作るって言っていたから……ミドリが休めるのはその時間までってことになる」
「え? なんの時間?」
「さあ? でも父さん、『儀式』が延期されたせいでちょっとナーバスになってるっていうか……もともと、神経質なところのあるひとだしね。ミドリがちゃんと『儀式』を行えるのか、心配なのかも」

 私は「ミドリ」の立ち位置にそっくりそのまま成り代わってしまっていたが、「ミドリ」としての記憶がない。

 であるからして、無論、「ミドリ」を育てた義理の父親がどんな人間であるかも、さっぱりわからない。

 ――えーっと、小説ではここは村唯一の神社で、双子の父親はその神主という設定だった……はず。

 必死に思い出したものの、あまりにも貧弱すぎる情報量だ。

 とは言え、あのアカネとアオイを育てた父親で、「儀式」を敢行しようとしている人間である。

 十中八九、ろくでなしだろう。

 アカネとアオイ以上に、泣き落としだとかが効きそうな気がしない。

 ――いや、でも一か八か、親の情に訴えかけるってのも……。いや、でもあのふたりの実父……。

 私は思わず考え込んでしまう。

 アカネは、「みんな『儀式』の準備で忙しい」と言った。

 もしかしたら、その忙しさにつけ込めば、今度こそ村からの脱出は叶うかもしれない。

 一方、父親に泣き落としが通じるのであれば、そこに賭けたい気持ちもあった。

 やはり単身村から脱出できたとしても、そのあとどうするんだという問題が依然としてある。

 もし父親を翻意させることができれば、もっと穏当な手段で村から逃げられるかもしれない。

 ……そこまで考えはしたものの、甘い自覚はあったし、冷めたもうひとりの自分に「そんなに上手くいくわけがない」と言われているような気持ちにさえなった。

 ――でも、「ものは試し」という言葉もあることだし、やってみる価値はありそう。それに私にはタイムリープ能力がある……。

 失敗してもやり直せる、強力な切り札。

 それが手元にあるのだと自分に言い聞かせて、私は今一度、賭けに出ることにした。


「――ミドリ、体調はどうだ?」

 低く落ち着いた、壮年から中年ごろの男性の声。

 前髪を後ろに撫でつけた、グレーヘア。

 アカネやアオイと同じ禰宜の着物を身にまとった彼こそが、双子の実父にして「ミドリ」の養父である、この神社の神主である。

 ――若いころ死ぬほどモテてそう。いや、今も俳優さんみたいにカッコいいんだけれども。

 「ミドリ」たちの父親を初めて見ての、私の感想はひどく危機感のないものだった。

「大丈夫、です……」

 繰り返しになるが、私は「ミドリ」としての記憶を持たない。

 「ミドリ」が養父である神主に対し、どのような態度を取ってきたのか、どのような口調で話しかけていたのかもわからない。

 ゆえに恐る恐るの言葉選びとなったが、神主は己の養女の変化には気づかなかった。

 ――アカネやアオイは「ミドリ」と同じ歳だったから特に言葉遣いを意識しなかったけど……これで正解みたい?

「それで、その、『儀式』は……」
「ああ、『儀式』の本番まではまだ時間がある。そう緊張するな」

 神主の顔は整っていたが、同時にひどく冷たい印象を受ける。

 言葉では「ミドリ」を気遣っている様子なのだが、なんだか声が固い。

 表情も強張っているように見える。

 ――「儀式」が成功するかどうか、気が気じゃないってことなのかな。

 そんな予測を立ててみるも、私は超能力者ではないから、神主の内心なんてわかるはずもなかった。

「――『儀式』の成功は、私たちの悲願だ」
「はい……」
「お前には辛い思いをさせるかもしれないが……」

 神主は神妙な面持ちながら、言葉尻を濁す。

 私はと言えば、「悲願とか知らねー!」とか「血の繋がりがないとは言えども娘に辛い思いをさせるなよ!」とか内心で野次を飛ばしまくっていた。

「……アカネとアオイが、できるだけ辛くならないようにするだろう」

 ……「儀式」とやらにアカネとアオイが直接的にかかわるのは、これで確定。

 問題は「儀式」の内容。それからその目的も知りたいという気持ちが、私の中に湧く。

 変わらず、私の直感は「儀式」が危険だと、回避しなければならないと言っている。

 もちろん、私もそれに同意だ。

 だが今回はぎりぎりを攻める。

 ――大丈夫。私には時間を遡って、やり直せる力があるんだから。

 鼓動を速めていく私の心臓へ、なだめるようにそう言い聞かせる。

 神主の言葉に、私も神妙な顔――単に緊張しているだけだったが――でうなずく。

「――アカネ、アオイ。入りなさい」

 私の背後で障子が開く音がした。

 私の心臓が大きく跳ねたような気がした。

 首だけでうしろを振り返るより先に、だれかが私の背後から覆いかぶさってくる。

「はあー、待ち疲れた!」
「アオイ、ミドリがつぶれそうだよ」

 私をうしろから抱きすくめたのは、アオイだった。

「ごめんごめん。――早くミドリに触れたくって」

 アカネに言われたからか、アオイの重みと体温が私の背中から離れていく。

 しかし、当たり前のように私より背が高く、ガタイのいいふたりに囲まれているのだと思うと、緊張は解けない。

 自分の肩回りに明らかに力が入っているのがわかるが、その抜きかたは今の私にはわからなかった。

 不意に、私の左耳に吐息がかかる。

「――じゃあ、『準備』しようね」

 アカネが私の左耳もとでささやく。

 思わず助けを求めるように視線をさまよわせたが、つい先ほどまでいた神主がいなくなっていることに気づき、動揺した。

「んっ……!」

 やにわに、アオイの手のひらが私の右乳房を覆った。

 もっとも敏感な胸の頂を触られたわけではないのに、アオイの指先が乳房に触れて、少し柔肉に先端が沈み込んだだけで、乳頭が硬さを持ち始める。

 ぷくり♡ と勃起しだした乳首は、長襦袢、そして上の着物の生地を軽く押し上げる。

「……寒いの? それとも、ちょっと触られただけで感じた?♡」
「そ、そんなことは――あっ♡」

 ぎゅっ♡ と左の乳首を布越しに軽く引っ張られた。

 私の左側を陣取っているアカネが、私の耳元でくすくすと笑い声をこぼす。

 アカネはそのまま、人差し指と親指のあいだに挟まれた私の乳頭を、すりすり♡ と擦り合わせるようにして愛撫を加える。

「ん♡ んぅ♡ あっ、あ……♡」

 アカネが私の乳首を責め立てるので、口からは高くかすれ気味の、甘い声が漏れ出てしまう。

 アオイの指も、アカネに負けまいとするように、私の右乳首を弄び始める。

 爪を立てられ、かりかり♡ と引っかくように乳頭をいじめられると、畳の上に正座していた私の腰はわずかに浮き上がってしまう。

「――ひぅ゛っ♡♡♡」
「逃げちゃだーめ♡ もうすぐ『儀式』なんだから、ちゃんと『準備』しないと、ね♡」
「や♡ やぁ……♡」
「わがまま言わないの♡ 『儀式』で辛い思いをしないための『準備』なんだから♡」
「ほら、お股べちゃべちゃにしていいから♡」
「い、や……♡ は、恥ずかし……♡」

 いつの間にか着物の前を開けられて、ブラジャーなんて身に着けていない乳房があらわにされてしまっている。

 そんなはしたない姿をアカネとアオイに見られているのだと思うと、羞恥心が湧いてくる。

 とっさに腕で、丸出しの乳房を隠そうとしたが、アカネとアオイの手が私のそんな動きを制止する。

「ミドリ、恥ずかしがらなくていいよ♡ ミドリの裸、すごく綺麗だから♡」
「やだっ、いや……♡」
「イヤイヤって首振って、駄々っ子みたいで可愛いね♡ こっちも見せてもらおうかな♡」
「あ……♡」

 帯を身に着けたまま、着物の裾を大きくめくられてしまう。

 途端にむあ♡ と溜まっていた熱気が外へ拡散していくような感覚と同時に、ひんやりとした外気に恥丘が触れる感覚があった。

 視線を下へやれば、嫌でも陰毛の生えた私の恥丘が目に入る。

 あまり手入れがされていないその茂みを見て――見られて、先ほどよりも何倍も強い羞恥心に襲われた。

「見ないで……!」
「えー♡ なんで?♡ こんなに可愛いのに♡」

 アオイの指先が、悪戯っぽく毛の上から恥丘を撫でる。

 私の頭の中は恥ずかしさでいっぱいで、それだけでぐちゃぐちゃになる。

「――んひぃ゛っ♡♡♡」

 私の太ももは突然の快楽に震え、不随意に力が入る。

 思わず足先をぎゅっと丸めてしまった。

「ん♡ もうクリトリス硬くなってるね♡」
「――あ♡ や♡ や、いやっ♡♡♡」
「充血してるのかな?♡ 真っ赤になってる♡」
「ひっ♡ やっ♡ あっ♡ あうぅ――♡♡♡」
「ミドリのクリちんぽ、シコシコしてあげるね♡」
「ほんとだ♡ ミドリってクリトリスちょっと大きいね♡」

 ――くちくち♡ しこしこ♡ くりくり♡

 勃起して硬さを持った私のクリトリスを、アオイは人差し指と親指の先でつまみ、容赦なく責め立ててくる。

 びくりびくり♡ と自然と私の腰はうしろへ逃げを打つが、アカネとアオイの腕に阻まれて、逃げ場がない。

「――んお゛っ♡ やめ♡ やめひぇっ♡ ひっ♡」
「あー、ミドリのおまんこ、べちゃべちゃだ♡」

 アカネの人差し指が、ぱくぱく♡ と収縮を繰り返す私の膣穴へ、引っかけるように浅く差し入れられた。

 そのままくるくる♡ とアカネの指先はいたずらに縁を描き、動くたびにくちゅ♡ ぷちゅちゅ♡ と淫猥な水音が立った。

 クリトリスと膣穴を同時に責め立てられるだけでも平静でいられなかったのに、ぴん♡ と勃ち上がって主張する私の乳首を、アカネとアオイが優しく口に含んだ。

 ――ちゅっ♡ ちゅう♡ ちゅう♡

 ――しこしこ♡ くりくり♡ くちゅっ♡

 ――ぷちゅ♡ じゅぽっ♡ じゅぷぷっ♡

「いやあっ♡ や♡ やだああ♡ いぐっ♡ いっちゃ♡ やっ♡ やあああ――――♡♡♡」

 三か所の性感帯を同時に愛撫され、私は目をいっぱいに見開いているのに、視界は白く点滅してまともに機能していない。

 背筋を伝い、腰の奥と脳全体を揺さぶられ、突き刺さるような快楽の波に翻弄される。

 私の口からは、妙に高くて甘ったるい嬌声しか出せない。

「ミドリ、イっていいよ♡」
「うんと高いところまで気持ちよくなって♡」

 ――ダメだ。

 私の脳内で、その言葉がリフレインする。

 私はアカネとアオイが与えてくる快楽に揺さぶられながらも、どうにか時間を巻き戻すべく、思考を乱し始める。

 ――ダメだ。

 それらは前回までよりもなかなか上手くできなかった。

 快楽という刺激を受信しているからなのかもしれない。

 だがそんな中でも、私はどうにか今の現実とは無関係の映像を、図像を、次々と脳裏に映し出しては、シャッフルする。

 頭の中がしっちゃかめっちゃか、ぐちゃぐちゃになっていく。

 すると次第に身体感覚がひどく遠いもののように感じられて、境界が曖昧になって――。


 ――ごとん。

 ……曖昧になっていた焦点を合わせると、彼の首が落ちていた。
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