墜落ループ

やなぎ怜

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8ループめ

 目の前に遺体があるという事実は私の眉をひそめさせたが、しかし内心でほっと安堵する。

 喉の奥にへばりつくような甘ったるいお香のにおいから逃げるように、口元に手のひらをやってうつむいた。

 砂利を踏みしめる複数の足音を遠ざけるように、とん、と障子を閉じる音がする。

 そっと視線を周囲へ向ければ、お酒が注がれた赤い盃を持つアカネが近づいてくるのがわかった。

 アカネが身じろぎする衣擦れの音を聞きながら、私はまたこれまでと同じく、体調不良を強調して「儀式」までの時間を稼ごうとする――。

 正直に言って、本当に気分が悪くなっている気がする。

 私がずっと勘違いしていた可能性……それに気づいてしまったのかも、しれないのだから。

「ミドリ……気づいた?」

 一拍置いてから、私の心臓は大きく跳ねる。

 頭の中で思ったことが、そのままアカネに伝わったか、それとも口に出してしまっていたのかと、混乱する。

 私の心を見透かしたように言い当ててきたアカネを、顔を上げて思わず見る。

 美しい、中性的な顔立ちと――夜の森を不意に覗いてしまったかのような、暗くて黒い瞳……。

 これまでとなにも変わらない、「ミドリ」の義兄。

 そのはずなのに。

「……どうしたの? そんなに震えて……寒いのかな? 可哀想にね」

 指の先や足の先といった末端から、すっと血の気が引いていくような、ぞっとする感覚。

 私の体は、もはや自分でも制御不能なほどに、がたがたと震えだしていた。

 アカネのセリフは「ミドリ」を思いやるものだったが、どこか心がこもっていない、空虚な響きを持っていた。

 ――まるで台本通りのセリフを、ただ読み上げているかのような。……違う、どちらかと言えば、「こういう場面ではこのセリフを口にする」って学習させた、ロボットみたいな……。

「気づいたの?」
「ひ――」

 私の喉から引きつった声が漏れ出る。

 それは明らかな、あからさまな恐怖がにじみ出ていた。

 私の右隣に、いつの間にかアオイがいた。

 これまで、アオイは畳の上を走る音と共に、襖を勢いよく開けて登場すると決まっていた。

 私はアオイの顔を見る。

 アカネとそっくりそのまま、瓜二つの整った中性的な顔。

 それから、夜の森を見てしまったかのような、暗くて黒い瞳……。

 これまで見てきたアオイと、同じ顔……そのはずなのに。

 私の表情筋が、隠しきれない恐怖に引きつっているのがわかった。

 極限の緊張の中で生じた、奇妙な笑いが、私の胃の腑から立ち上ってくるようだった。

「ひ、ひ」

 頭からも血の気が引いていくようだ。

 私の本能は、この場から逃げろと、なんとしても逃げおおせろと言ってくる。

 けれども私の手足はがたがたと震えるばかりで、まったく役に立たない。

 今はあたたかさの欠片も感じられない畳の上で、いつの間にか正座の姿勢から脚が崩れて、私はその場でへたり込むようにして、身を縮こまらせることしかできなかった。

 私が着せられている、薄っぺらい、白い長襦袢がとてつもなく心細く感じられる。

 私は――現実の私は……「ミドリ」じゃない私は、分厚い布団の中で今もぬくぬくと寝ているはずだったのに。

 そのはずだったのに。

 ……私は勘違いしていたのだ。

 私が「思考を乱す」ことでタイムリープすれば、私の記憶以外はすべてリセットされる……。

 私は、勘違いを、していたのだ。

「そんなに震えて……ほら、これを飲めば少しはあたたかくなるんじゃないかな」

 アカネが平坦な声を出しながら、赤い盃を差し出す。

 アルコール臭のする透明な液体が、赤い盃の中でゆるく水面を波打たせる。

 私の口からは「ひ」という一語以外が出てこなくなってしまったかのように、壊れた機械のように何度も引きつった声が――いや、音が出るばかりだった。

「あー、もう完全に怖がっちゃってるじゃん」

 呆れを含んだアオイの声が、私の右耳にかかった。

 しかしそこに私を心配するような響きは感じられなかった。

 くすくすと笑いをこぼすアオイから感じられるのは、獲物を無駄にいたぶるような――隠し切れない加虐性。

 凍りついたようにその場から動けなくなった私の顎を、やにわにアカネがつかむ。

 そしてそのまま、私の顔を無理矢理に左へ向けさせたと思えば、私の唇をアカネの舌が割る。

 分厚くて、ぬるぬるとしていて――どこか、あまり温度のないアカネの舌が私の口の中に差し入れられると共に、私の鼻腔をアルコールの強い臭気が突く。

 アカネから口移しで流し込まれたお酒のせいで、かっと喉が熱くなり、私は激しく咳き込む。

「――げほっ、ごほっ、う、ううー……」
「わりと即効性はあると思うんだけど……どう? 効いてきた?」

 アカネの手のひらが、私の背中を上下に撫でさする。

 けれども私にはもうアカネのその手に優しさがあるのかどうかさえ、わからなくなっていた。

 ――どうしよう。どうすればいい? 思考を乱してまたタイムリープする? でも、ふたりの反応を見る限り、もうこの手は……。

「――ねえ、行かないで」

 右耳の穴からアオイの声がダイレクトに入ってきて、私の脳を揺さぶるようだった。

「行かないで……ここにずっといて」

 左耳元にアカネのささやき声と吐息がかかって、それもまた私の脳を揺さぶるような気になる。

 混乱と激しい動揺で、私の思考はぐちゃぐちゃになったまま、一向にまとまらない。

 そんな私の隙を突くようにして、アカネとアオイのそれぞれの腕が、私の体を取り囲んでしまった。

 それは、私を逃がさないための、檻のようだった。

「……ね、もういいよね?♡」
「もうじゅうぶんだよ。さあ――これから、僕たちのお嫁さんにしてあげるね♡」

 アカネとアオイの手が、私の体の上を這う。

 そのまま、私が着せられていた白い長襦袢の衿に手がかかり、下着なんてつけていない乳房があらわにされる。

 ふたりの指先が私の、まだ柔らかい乳輪を撫でると、きゅっと皮膚が収縮するようにして、顕著な反応を見せる。

「あ――」

 私は、なにを言おうとして口を開いたのか、自分でもわからないほど、ひどく動揺していた。

 そんな私の震える唇に、今度はアオイの唇が重なる。

 半端に開いた間抜けな私の口の中に、アオイの舌先が差し込まれた。

「ん……んぅうっ……!」

 ――ちゅぷ♡ じゅぷ♡ ぢゅううぅ♡

 アオイは舌先で私の舌を弄んでいたかと思えば、急に私の舌先へ吸いついて、音を立てて唾液をすすっているようだった。

 アオイは私の下唇を甘く噛んだり、かと思えば唇同士をじっくりと擦り合わせるようにして軽い口づけをする。

 そんなアオイとのキスに翻弄されているあいだに、私の長襦袢を留めていた細い帯が、アカネの手で外されていた。

 長襦袢の前を広げられると、冷たい外気に肌が触れて、自然と鳥肌が立つ。

 それはアカネにもわかったのか、彼の手のひらがいたわるような手つきで、私の体を撫でていく。

 たった、それだけの行為なのに――

「ん……♡ ぁ……♡」

 アオイとの絶え間ない口づけの、その合間から、私は甘くかすれた声を出していた。

「また抜け駆け……」
「むしろ、そっちのほうが抜け駆けじゃないの?」
「む……」

 アオイの顔が不意に離れ、私は大きく息を吸うことができた。

 冷たい外気が私の喉などの気管支を、凍らせて痛めつけていくような気さえする。

「――ひゃ?!♡」

 ――くちゅ♡

 私の、あまり手入れの行き届いていない茂みをかき分けて、アカネの指が秘裂に到達する。

 いつの間にか潤っていた私の秘裂を上下に撫でるのはそこそこに、アカネの指先が下からゆっくりと私のクリトリスを愛撫する。

「あ――あ♡ や♡」

 私の口から、再び甘くかすれた――嬌声が出る。

「ふうん、じゃあ俺はおっぱいをいっぱい触ってあげようかな♡」

 そう言うや、ふっ♡ とアオイは私の勃起した乳首に吐息をかける。

 どこか熱くて湿った息がかかっただけで、私の勃起乳首はそこから小さな快楽を拾い上げた。

 私はそのもどかしいくすぐったさに思わず身じろぎしようとしたが、ふたりの腕ががっちりと私の背中と腰に回されていて、ほとんど動けなかった。

「逃げちゃだーめ♡」

 つい先ほどまで私の唇をむさぼっていたアオイの口が、今度は私の右乳首を含む。

 ――ちゅう♡ ちゅう♡

 硬く勃ち上がった乳頭の中心部を、舌先でほじくられるような感覚に、私の腰が自然と浮く。

 アオイは舌先を巧みに動かし、私の勃起乳首の周囲を舐め回したり、かと思えば強く吸い上げたり、歯で甘噛みしてきたりと着実に、じりじりと私に快楽を与えてくる。

 そして空いた右手の指先で、私の左乳首を弄ぶことも忘れない。

「腰へこへこしちゃって、かわいー♡」

 ――ちゅう♡ ちゅう♡ じゅるるっ♡

 ――くりくり♡ すりすり♡ かりかりかり♡

 私の中に湧き上がった羞恥心は、すぐに与えられる快楽で、端から塗り替えられていくようだった。

「どんどん愛液が溢れてくるね♡ おっぱい弄られるの、大好きになっちゃった?♡」
「ん♡ ひぅう♡ あぅ♡ ち、ちが――♡♡♡」
「それとも――クリトリスのほうが好きかな?♡」
「ぅあっ♡ あぅ♡ ひ――♡♡♡」

 ――きゅう♡

 私をからかうような言葉のあと、アカネが人差し指と親指で私の硬くなったクリトリスをやわくつかむ。

 ――しこしこ♡ すりすり♡ くりくり♡

 そのままアカネの指の腹同士を擦り合わせられると、そのあいだに挟まれたクリトリスがぎゅうぅ♡ と先ほどよりも硬く、切なくなっていくのがわかった。

 敏感な勃起クリトリスに直接触れられ、少しだけ乱暴に扱われると、私の腰は無様に跳ねることしかできない。

 ぱくぱく♡ と収縮を繰り返す膣穴の奥から、どろり♡ と熱い愛液が溢れ出てくるのが、私にもわかった。

「やめ――やめて♡ おねがい♡ やだ……♡ おかしくなるっ♡♡♡」

 いやいやと反射的に何度も首を左右に振った。

 がっしりとしたふたりの腕を回されて、逃げが打てない私の体は、快楽を逃そうと何度も不随意に跳ねた。

 ぎゅっと固くまぶたを閉じても、視界の中で白が明滅するような錯覚をする。

「――もうこれくらいでいいかな?♡」

 やがてそんなアカネの声と共に、急にふたりの愛撫の手が止まる。

 まぶたを開いても私の瞳は熱に潤んで、上手くふたりの姿を捉えられない。

 私の肩は絶えず上下して、冷えた外気を肺に取り込むと、熱い呼気を吐き出すような、そんな状態だった。

 ゆっくりと、私の背中と腰からふたりの腕が離れる。

 そして小さな力で私の肩が押される。

 そのまま、私の体は畳の上に敷かれた白い長襦袢の上に寝かされた。

 ここまでされて、次に私の身に起こることがなんなのか、その予測が立てられないほど、私はうぶじゃない。

 なのに――

 ――どろり♡

 ……ふたりの手から愛撫を受けた私の体は、これからされることの――その想像をしただけで、膣穴から粘っこい愛液を垂れ流す。

 私の体は、ふたりに屈服しきっていた。

 それでも――

 私の理性が、ダメだと言う。

 私の本能が、危険だと訴える。

 なのに――

「はあ……もう限界♡ 俺のちんこ、こんなに勃起させた責任取ってよね♡」
「ほら、これから僕らのお嫁さんにしてあげるから……♡ 君はただそこで気持ちよーくなればいいだけだから、ね♡ なにも怖いことはないよ♡」

 私は、逃げられない。

 いつの間にか着物を脱いでいたアカネとアオイのまたぐらには、当然のように屹立した陰茎がある。

 生まれたばかりの赤ちゃんの腕くらいか、それよりも太く見えるふたりの浅黒い勃起ちんぽを見て、私の中にわずかに残っていただろう逃走の意思は萎えて、代わりとでも言うように下腹部の奥の疼きが膨らむようだった。

 ふうふう♡ と興奮しきった吐息を出す私は、いつの間にかふたりに向かって両脚を開いていた。

 股のあいだの……膣穴が切なく、はくはく♡ とわなないている。

 まるで早く入ってきてと、この隙間を埋めてくれと言っているかのようだった。

「大丈夫大丈夫♡ ゆーっくり、君の処女を奪ってあげるから♡」

 期待に瞳と、膣穴を潤ませる私に、アカネが覆いかぶさる。

 そのまま、アカネの口づけが降ってきて、私はアカネの柔らかな唇とのふれあいに、また膣穴をわななかせる。

 ――ちゅっ♡

 すっかり愛液まみれの膣口に、アカネのつるりとした亀頭が当てられて、淫らな水音が立った。

 それだけで私の心臓はとくとくと期待に早鐘を打つ。

「ほら、入ってきたよー♡」

 アカネの亀頭が、私の膣穴にぐっと押し込まれ、潜り込む。

 ――くちゅっ♡ ちゅ♡

 私が思わず息を詰めると、アカネが耳元で「ちゃんと息しなきゃダメだよ♡」とささやいてくる。

「力抜いて?♡ 大丈夫だよ……♡ これから僕らのお嫁さんになって、たくさんたくさん、幸せになるだけなんだから♡」

 アカネの勃起ちんぽの、大きく張ったカリ首までが私の膣穴に納まる。

 アカネがそのまだ浅いところで腰を動かすと、張ったカリが私の膣襞をこそげ取るように快楽を与えてくる。

 どろり♡ とまた膣奥から愛液が流れ出てくるような感覚があり、それはすぐ、ちゅぷ♡ じゅぷぷ♡ という淫音に変わってしまったようだった。

「あー、可愛いなあ♡ いいな、先に種つけできて♡」
「僕が先って最初に決めたでしょ♡ そっちもどうせ、あとでこの子を抱き潰して僕に番を回す気ないくせに♡」

 上からアオイが私の顔を覗き込む。

 いつも見るのとは上下逆になったアオイの顔の、その夜の森のような瞳が、今は細められている。

 そっとアオイの手で頭が撫でられるのがわかった。

 そこに快楽を与える意図があったかはわからない。

 それでも私の体は快楽を拾ってきて、今私の膣に入っているアカネの勃起ちんぽをぎゅうう♡ と抱きしめた。

「……ああ、頭撫でられただけでそんなによかったんだ♡」
「えー♡ もうそんなに可愛いことされたら、ほんと抱き潰すの確定だよ?♡」
「それじゃあ――もう君がどこにも行かないように、奥の奥まで犯してあげるね♡」

 ――どちゅんっ♡

 私の子宮を突き上げるような、重い衝撃。

 それと同時に、ぶちり、となにかが千切れるような錯覚があった。

 処女膜とかが破れたのとは違う……しかしなにかが、確実に、私と今、切り離された。

 そんな感覚があった。

 しかし、そんな感傷のような感覚に浸る気持ちは、アカネから与えられる圧倒的な快楽で、すぐさま流れていった。

 ――どちゅ♡ どちゅ♡ ぶちゅ♡ じゅぷっ♡

 私の口は開きっぱなしで、よだれがみっともなく口元を伝うのがわかる。

 そんな私の口に、アオイの顔が覆いかぶさって、そのまま舌と舌が絡まりあう。

 私の、まだ狭い膣穴を割り開き、拡げるように何度もアカネの勃起ちんぽが出入りする。

 私のとろとろの膣襞をかき分けて、ずちゅん♡ と何度も何度も私の子宮の入り口を責め立てる。

 私の腰はかくかくと浮きっぱなし、太ももはがくがくと不随意に震えっぱなしだ。

 けれども、私の中にはもう、逃げる気持ちはどこにもなかった。

「君の子宮でぜんぶ、受け止めて♡」

 ――ずちゅんっ♡♡♡

 アカネの勃起ちんぽが、私の膣壁を張ったカリでかき分けて、限界ぎりぎりまで引き抜かれたあと――私の子宮めがけて押し込まれる。

 子宮を上へと持ち上げられるような、錯覚。

 そんな些細な変化を神経が拾えるはずもないというのに、私の膣穴でアカネの勃起ちんぽがさらに膨らんだかのような、錯覚。

 ――びゅるるるるるる~~~~~~~~~♡♡♡

 私の子宮めがけて、アカネの精液を勢いよくぶっかけられたような、錯覚。

 ――そうだ。これは錯覚だ。ぜんぶ、夢。だって、そうじゃないとおかしい。これは……悪い夢……。

 私の思考が、乱れていく。

 ちりぢりに、乱れていく。


 けれどももう、彼の首が落ちる音は聞こえないのだった。

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