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おわり
――上手く寝つけない。
そんな、不眠に悩んでの夜の散歩だった。
市販の睡眠導入剤を買って、試してはみたものの、やはりどうも上手く寝つけない。
だから、手っ取り早く体を疲れさせれば眠れるかと思ったのだ。
ひと気のない、しんと静かな歩道を進む。
道路を通る車もほとんどなく、過ぎてゆくのは大型トラックが多かった。
外灯はあったし、遠景には光り輝く街並みがあって、恐怖心はほとんどなかった。
あったとしても、それは不意に出くわす人間に対して抱くものだった。
ひときわ暗く、黒い影を落とす歩道を過ぎ去りながら、不意に視線を横に向ける。
不揃いの石を組み合わせた石垣に、石造りのいびつな階段が上に続いている。
見上げれば、同じく石でできた鳥居が、生い茂る木の葉の隙間から見えた。
夜の暗闇が濃い影を落とす階段を、のぼっていく。
この辺りに引っ越してきて五年が経とうとしていたが、こんな近くに神社があったことは知らなかった。
鳥居をくぐり、境内へと足を踏み入れる。
そのすぐ目線の先、拝殿へと続く石畳の上に、なにか黒い汚れが散っていることに気づいた。
恐る恐る、近づいてみる。
一瞬、血の染みかと怖い想像をしてしまったが、近くで見てみると血というよりは黒いペンキのように思えた。
神社の境内で、罰当たりなことをするひともいたものだ。
世のひとの道徳に思いを馳せて、けれども石畳にへばりついた黒いペンキをその場ではどうすることもできず、そっとまた鳥居をくぐって、神社から立ち去った。
――それをふたりは見初めた。
偶然だった。
それは本当に、偶然だった。
廃れた神社の境内で、喚び出されたふたりは、感激してむせび泣く崇拝者たちを、苛立ちのままに消し飛ばした。
崇拝者たちは黒い染みになって、わずかばかり境内の石畳に痕跡を残した。
そこに、ひとりの女がやってきた。
闇夜からうかがう、ふたりの目に気づかず、境内を見回したあと、呆れの含んだ息を吐いてから、立ち去った。
こんな地上に喚び出されたお陰で、ふたりはいくらか消耗していたので、女について行くことにした。
女が暮らすワンルームの部屋にふたりはしばらくいたのだが、女はいつまで経っても気づかない。
そんな状況を少しのあいだだけ楽しんだあと、ふたりは消耗した力を補填すべく、女を糧とすることを決めた。
ふたりの崇拝者は、あの消し飛ばしたぶん以外にもいて、ふたりが望めば喜んでその身を魂ごと差し出しただろう。
でも、ふたりはこの女がいいと思った。
女を、女が読んでいた小説を模した箱庭の中に閉じ込める。
それはただの気まぐれなたわむれだったが、意外とふたりも楽しめた。
――女は、その身に加護を受けていた。
ふたりが集めた崇拝者のひとりは、女の祖先が祀っていた氏神だろうと言っていたが、ふたりにはよくわからなかった。
よくわからなかったが、女が必死に何度も何度も時間を巻き戻して、やり直す姿は可哀想で、可愛らしいと思った。
非力な獲物を弄ぶ捕食者のように、ふたりは女を可愛がった。
けれども次第に、ふたりの手から逃れようとする女を加護する氏神とやらが、わずらわしくなってくる。
はやく、女の小さな胎いっぱいに、生命を宿してやりたかった。
――女には、霊感を失う瞬間が三つある。ひとつは初潮を迎えたとき。ひとつは処女を失ったとき。ひとつは出産したとき。
崇拝者のひとりにそう教えられたふたりは、とうとう女の純潔を奪い、その胎を穢した。
ぶちり、と女に繋がっていたなにかが千切れたのは、ふたりにもわかった。
女を加護していた氏神との繋がりが絶たれたのだろう。
女は時間を遡行する力を失い――永遠にふたりのものとなった。
――女が笑っている。
その腹部は大きく膨らみへそが飛び出て、両の乳房も肥大している。
ふたりがそっと女のその大きな腹の表面を撫でると、女は幸せそうに微笑った。
ふたりに愛でられて、女は幸せそうに微笑っていた。
もうどこにも行けないが、女は幸せそうに微笑っていた。
そんな、不眠に悩んでの夜の散歩だった。
市販の睡眠導入剤を買って、試してはみたものの、やはりどうも上手く寝つけない。
だから、手っ取り早く体を疲れさせれば眠れるかと思ったのだ。
ひと気のない、しんと静かな歩道を進む。
道路を通る車もほとんどなく、過ぎてゆくのは大型トラックが多かった。
外灯はあったし、遠景には光り輝く街並みがあって、恐怖心はほとんどなかった。
あったとしても、それは不意に出くわす人間に対して抱くものだった。
ひときわ暗く、黒い影を落とす歩道を過ぎ去りながら、不意に視線を横に向ける。
不揃いの石を組み合わせた石垣に、石造りのいびつな階段が上に続いている。
見上げれば、同じく石でできた鳥居が、生い茂る木の葉の隙間から見えた。
夜の暗闇が濃い影を落とす階段を、のぼっていく。
この辺りに引っ越してきて五年が経とうとしていたが、こんな近くに神社があったことは知らなかった。
鳥居をくぐり、境内へと足を踏み入れる。
そのすぐ目線の先、拝殿へと続く石畳の上に、なにか黒い汚れが散っていることに気づいた。
恐る恐る、近づいてみる。
一瞬、血の染みかと怖い想像をしてしまったが、近くで見てみると血というよりは黒いペンキのように思えた。
神社の境内で、罰当たりなことをするひともいたものだ。
世のひとの道徳に思いを馳せて、けれども石畳にへばりついた黒いペンキをその場ではどうすることもできず、そっとまた鳥居をくぐって、神社から立ち去った。
――それをふたりは見初めた。
偶然だった。
それは本当に、偶然だった。
廃れた神社の境内で、喚び出されたふたりは、感激してむせび泣く崇拝者たちを、苛立ちのままに消し飛ばした。
崇拝者たちは黒い染みになって、わずかばかり境内の石畳に痕跡を残した。
そこに、ひとりの女がやってきた。
闇夜からうかがう、ふたりの目に気づかず、境内を見回したあと、呆れの含んだ息を吐いてから、立ち去った。
こんな地上に喚び出されたお陰で、ふたりはいくらか消耗していたので、女について行くことにした。
女が暮らすワンルームの部屋にふたりはしばらくいたのだが、女はいつまで経っても気づかない。
そんな状況を少しのあいだだけ楽しんだあと、ふたりは消耗した力を補填すべく、女を糧とすることを決めた。
ふたりの崇拝者は、あの消し飛ばしたぶん以外にもいて、ふたりが望めば喜んでその身を魂ごと差し出しただろう。
でも、ふたりはこの女がいいと思った。
女を、女が読んでいた小説を模した箱庭の中に閉じ込める。
それはただの気まぐれなたわむれだったが、意外とふたりも楽しめた。
――女は、その身に加護を受けていた。
ふたりが集めた崇拝者のひとりは、女の祖先が祀っていた氏神だろうと言っていたが、ふたりにはよくわからなかった。
よくわからなかったが、女が必死に何度も何度も時間を巻き戻して、やり直す姿は可哀想で、可愛らしいと思った。
非力な獲物を弄ぶ捕食者のように、ふたりは女を可愛がった。
けれども次第に、ふたりの手から逃れようとする女を加護する氏神とやらが、わずらわしくなってくる。
はやく、女の小さな胎いっぱいに、生命を宿してやりたかった。
――女には、霊感を失う瞬間が三つある。ひとつは初潮を迎えたとき。ひとつは処女を失ったとき。ひとつは出産したとき。
崇拝者のひとりにそう教えられたふたりは、とうとう女の純潔を奪い、その胎を穢した。
ぶちり、と女に繋がっていたなにかが千切れたのは、ふたりにもわかった。
女を加護していた氏神との繋がりが絶たれたのだろう。
女は時間を遡行する力を失い――永遠にふたりのものとなった。
――女が笑っている。
その腹部は大きく膨らみへそが飛び出て、両の乳房も肥大している。
ふたりがそっと女のその大きな腹の表面を撫でると、女は幸せそうに微笑った。
ふたりに愛でられて、女は幸せそうに微笑っていた。
もうどこにも行けないが、女は幸せそうに微笑っていた。
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