魔宮

やなぎ怜

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 翌日、教室に間宮が現れたとき、一宏はどうしようもなく心臓の鼓動が速くなるのを感じた。

 間宮はあっというまにクラスメイトたちに囲まれて、その不在の長さを口々に心配されている。

 一宏はそんなクラスメイトたちの輪の中にいる間宮を、そっと眺めた。

 間宮は、美しかった。

 清潔な石鹸の匂いでも、こちらに香ってきそうな美しさだ。

 かっちりとした制服を着こなして、黒い髪はきっちり整えられている。

 あのとき、間宮邸で目撃した彼とは大違いだ。

 そう思った瞬間、一宏の脳裏に否が応にも間宮の痴態がはっきりと浮かんだ。

 少々子どもっぽい水色のパジャマをはだけさせて、はしたなく股を開き、白い脚をゆらゆらとさまよわせる――。

 一宏はあわてて間宮から視線をそらす。

 そうして手元にあった文庫本へと視線を落としたが、文章からは目が滑るばかりであった。

 実のところ、一宏は昨日さくじつの出来事をきっかけに、なにかが変わるのではないかと思った。

 単なる知人、顔見知りのクラスメイト同士から変わってしまう。それを一宏は期待しながら、恐れた。

 具体的にどう変わるのかまでは、やはり一宏は空想すらできなかった。

「実は、兄さんに――」。そんな告白を涙ながらにされるという妄想はできたが、そこから先は思い浮かばなかった。

 そう、一宏は未だに信じられない思いでいたのである。

 品行方正、清廉潔白が服を着て歩いているような美しい間宮が、近親姦を犯しているなどとは思えなかった。

 否、一宏は思いたくなかった。

 だから彼は夢想したのだ。実の兄に脅迫されているだとか、強要されて間宮があのようなマネをしているのだと。

 しかし一方の理性では、間宮の嬌態があれは合意の上での行為だとなにより物語っていると、理解していた。

 普段の彼からは想像もつかない下劣な物言いで、兄との性行為を喜ぶ間宮。

 それがすべてじゃないか、と、一宏の理性は言う。

 文庫本に目を落としながらも、一宏はちらちらと間宮を見ていた。

 不意に、間宮が教室の入り口から動いた。

 一宏は、間宮がこちらに来るのではないかと思った。

 そうして昨日のことについてなにかしら言う……。

 そんなシミュレーションが一宏の頭をさっと駆け巡る。

 ――しかし、間宮はそのまま教室の中央にある自分の席へ腰を下ろした。

 引き続き、彼はクラスメイトたちのおしゃべりの輪の中にいる。

 そこに自分はいないし、入れもしない。

 その動かしがたい事実を前にして、一宏は先ほどした妄想を恥ずかしく思った。

 間宮はいつも通り美しく、清潔な雰囲気をまとってクラスメイトとのおしゃべりに興じている。

 他方の一宏も、いつも通りひとりで席に座って、本を読んでいる。

 なにもかもがいつも通りだった。いつも通り――間宮と一宏は単に教室を同じくする、クラスメイト同士に過ぎなかった。

 昨日、間宮邸から自宅へと逃げ帰った一宏は、あの家での出来事に思いを馳せた。

 いや、それだけで頭がいっぱいだった。

 あの兄弟の痴態を目撃したことは、バレていないだろう。ふたりは、明らかに行為に没頭していた。

 そしてそうであるからして、もちろん一宏がくんずほぐれつを見て勃起したことなど、あのふたりにはわかりはしない。

 だというのに、明白に自分が知っているというだけで、他の人にもそれはバレているのではないかという、ありもしない妄想が頭を駆け巡る。

 ――そんなわけない。

 薄汚れた駅の、個室トイレで一宏は自慰をした。どうにも、収まりがつかなかったからだ。

 脳裏に思い浮かべたのは、最近オカズにしたネット上のエロ画像。

 しかしどうしても、先に浮かぶのは間宮の痴態という、圧倒的で、強烈なイメージ。

 中性的な、一種危うげな魅力を持つ、美しい間宮のセックス・シーン。

 兄のペニスでアナルを犯されながら嬌声を上げる間宮のイメージは最後まで消せず、射精へ至ったあとに訪れる虚無感は、今までに感じたことがないものだった。

 一宏は、今までに自分のセクシュアリティについて疑問に思ったことはなかった。

 自分はヘテロで、女の子――の体――が好きなのだと思っていた。

 事実、一宏が自慰行為の際に用いるオカズは――ほとんどが二次元の――女の子のエロ画像ばかりだ。

 世の中にはヘテロセクシュアルであっても、いわゆる「ショタ」だとか「男の」という属性を嗜好する男性はいるが、一宏にはそういった嗜癖はなかった。

 むしろ、小さいにせよ大きいにせよ、男の象徴たるペニスが股間についているというだけで、一宏は大いに萎えていた――はずだった。

 しかし一宏は、自宅に逃げ帰ってから、もう一度抜いた。

 どうにもこうにも興奮が収まらなかった。

 一宏は、明らかに間宮の痴態を思い起こしながら、ペニスをしごき、射精した。

 オカズにと引っ張り出したエロ画像の中では、妹キャラが兄に犯されていたが、そのキャラクターの顔に一宏は間宮の姿を重ね合わせた。

 兄にアナルを犯されながら、女のような切ない声を出し、中出しをおねがりする間宮――。

 そのイメージは圧倒的で、強烈で――そして、とてつもない背徳感はスパイスとなり、一宏を昂ぶらせた。

 そしてラストスパートにかかると、妄想の中で間宮兄は姿を消し、間宮のアナルを犯しているのは一宏自身になった。

「あっ、ああっ、市井くんっ」
「中出しして欲しいか? 間宮!」
「うんっ、うん! してぇっ、中出しっ……俺のアナルに市井くんの精液ちょうだいっ!」

 腰を突き入れるたびに間宮の体はびくびくと跳ねて、直腸はぎゅうぎゅうと一宏のペニスを食い締める。

 白い脚を一宏の腰にからませて、ぐいと体を押しつけるように動く間宮。

 一宏は間宮の細腰をつかんで乱暴にペニスを出し入れする。

 けれども間宮は痛がるどころか、そんな粗雑な動きにすら快楽を見出し、喜びの声を上げる。

「あっ! ああっ、やぁ~~~~~~っ!」

 か細い声を上げて間宮が達した。同時に、間宮のペニスから白濁がほとばしった。

 そして一宏も射精を迎える。海綿体が膨れ、ペニスは震えて間宮のアナルの奥を精液で汚した。

「ああっ……! 出てるぅ……。市井くんの精液……俺の中に出されちゃってるよぉ……」

 そう言いながらも、間宮はうれしそうな顔をして白く薄い腹を撫でた。

 ぐねぐねとうごめくアナルの中で、最後の一滴まで吐き出さんと一宏が腰を動かすと、間宮はまた体を震わせて喘いだ。

「はあっ……はあ……市井くん……俺を犯してくれてありがとう……」

 頬を上気させ、前髪を汗で額に張りつかせながらも、間宮は市井に微笑みかけ――。

「市井くん?」

 一宏を現実に引き戻したのは、前の席に座るクラスメイトだった。

「……あ、ごめん」

 差し出されたプリントを受け取り、うしろに座るクラスメイトへと渡す。

 一宏は教壇に立つ教師の声を聞き流しながら、ちらりと教室の中央の席に座る間宮へと視線を送る。

 白い頬、さらりとした黒髪、高い鼻に薄い唇、整った横顔……。

 一宏は股間を熱くさせながら、それを無茶苦茶にしてやりたいと、ひとり夢想する。
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