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シビルは初日からトバしていた。
「フギロシャネソララ様の信徒として、その絶対力を極次元の皆様方に広くお教えするためにこのたび参りました」
なにせ名乗ってからの二の句がこれだ。続く言葉も電波――この世界にはない語だけど――としか言いようのないものである。つかみはバッチリ。クラスメイトたちはざわつくどころか沈黙した。すでにシビルの惨状を知っていたらしい教師は、なにごともなかったかのように「仲良くするように」とお決まりのセリフを口にして席へ誘導する。
みんな「仲良くするとか無理」と思ったに違いない。だって脳内で花畑を咲かせに咲かせていたわたしの思考を一瞬でも独占できたのだから、その威力たるやすさまじい。
案の定というか当然の帰結というか、シビルは転校一日目にしてボッチの地位を確立した。
シビルはぶっちゃけルックスは悪くない。それどころか美少女と言っても過言ではない。けれども中身が「ああ」だということはソッコーで知れ渡ったため、だれも声をかけようなどという蛮勇を犯すものは出なかった。
完全な「お触り禁止物件」あるいは「地雷」扱いである。ちなみに、言うまでもないがわたしもその仲間だ。
やたらとフギロナントカを賛美し、さりげなく勧誘して来るシビルに比べると厄介度は劣る扱いをされていたけれども……なんの慰めにもなっていないことは、みなさんおわかりでしょう。
わたしはシビルのことを最初に「変なやつ」だと――自分のことを棚に上げて――思った。
次いで「こんなイベントはゲームにはなかった」と思った。
年中頭が春めいているわたしは、シビルのルックスをもって彼女はモブではない存在、ならゲームにイベントとしてないのはおかしいと、まったく頭を疑う論理を展開させた。
そこから類推したのはまったく無害なキャラクターという論と、お邪魔キャラクターという論。後者の場合はシビルはわたしと同じ転生者で、ヒロインの座を狙っているかもしれない! とまで思った。
邪推がすぎるよ、と今なら言える。しかし「事実は小説よりも奇なり」。恐ろしいのは現実において後者の論が意外と的外れでもなかったと言う点だろう。この件についてはまた順番に語って行きたい。
シビルというイレギュラーな存在が現れても、しばらくの日々はわたしの知るゲームと大差がなかった。言い忘れていたが件の乙女ゲームは四季を通して攻略対象のキャラクターたちと友誼を交わしつつ、恋愛感情を育むといったものである。よって要所要所には学園内でのイベントが配置されている。
直近のイベントは「文芸会」。大層な名前をしているが、ようは読書感想文を発表し合うというだけのことだ。とはいえそこは高等教育を受けているお貴族様の集まり。選出される書物は前世のわたしからすればかなり「カタイ」タイプの本ばかりであった。
この会は単に「本を読んで感想を発表する」というだけに留まらず、途中経過を報告し合いながら推敲を重ねて行くことも重要視される。
わたしはぶっちゃけ「メンドクセー」と思っていたが攻略対象に好印象を残すため、真面目に取り組んでいた。
余談だが、わたしは勉学の面ではごくごく普通であった。問題なのは私生活やその脳内で、だからこそ教師からは直接的な苦言を呈されたことがなかった。
今ならわかる。生徒ほどのあからさまな視線は頂戴しなかったものの、教師の目もなんとも言えないものだったということが。
閑話休題。
なぜ長々と「文芸会」の説明をしたかと言えば、これがシビルと関わり合いになることになってしまったきっかけだからだ。
他の生徒たちはすでにグループが出来上がっている。その中であれこれと意見を交換し、「文芸会」までに何度か設けられる仮発表の場で出すレポートを仕上げて行く。
けれどもシビルはボッチであった。そもそも「文芸会」のなんたるかを彼女が理解しているのかさえ、だれにもわからなかった。
そこに現れたのが天使――もとい、ハリエットである。
シビルの終始電波な様子にもめげず、「レポートの調子はどう?」とか「なにかわからないことがあったら聞いてね」とか、涙ぐましいほどに細々と世話をするようになったのである。
ちなみにシビルはそんなハリエットに対して、
「すべては順調よ。私にはフギロシャネソララ様の恩寵がありますからね。貴女はどう? 困ったことがあれば私に相談して頂戴。フギロシャネソララ様もそうおっしゃられているわ」
だとか、
「わからないこと? そんなものはないわ。私にはフギロシャネソララ様がいますもの。フギロシャネソララ様の絶対力は信徒である私にも等しく力をお与えになられているわ」
といった様子であった。
そんなシビルにハリエットも最初のうちは一瞬ひるんだ様子を見せていたが、後半になると慣れたらしい。それどころか「フギロシャネソララ様はお元気?」と言い出す余裕まで見せて来た。
ハリエットは聖母であると同時に勇者でもあった。わたしだったら絶対に声はかけられないし、フギロナントカがどうのこうのと言われたらしどろもどろになる自信がある。それに比べてハリエットの偉大さたるや……。
でも常に脳内で陽気な――というか狂気の――カーニバルを開催しているようなわたしは、ハリエットがシビルを仲間に入れようとしていることに危機感を抱いた。
なぜなら「こんな変なのといっしょにいたらわたしも攻略対象たちに変な目で見られちゃう!」と思ったからだ。お前はなにを言っているんだ。「変な目で見られちゃう!」じゃねえよ! もう手遅れだよ!
けれども正気とは言えないわたしは本気でそう思い込んでいた。
一方でハリエットを無碍に扱えないぐらいの、ギリギリの良心は残っていたがゆえに、わたしは彼女に直接文句を言うようなことはしなかった。
ただ祈っていただけである。ガチで祈っていただけである。
「ヒロインであるわたしが困るような展開は個々のルート以外では起きないはずでしょ~?」ってな調子で天に祈っていた。他力本願がすぎるでしょ?! あと脳みそ沸騰してんのかわたしは?!
そんなこんなでわたしがひとり悶々としているあいだに、なぜかハリエットはシビルと親しくなっていた。
ハリエット曰く、「フギロシャネソララ様がどうとか、たまに信徒に勧誘して来る以外は普通よ」とのことだが、それがシビルが遠巻きにされる最大の要因ではなかろうか。
それを笑って「普通よ」と言ってしまえるハリエットは、今思えば「そういう」素養があったのかもしれない……。
同時期、ハリエットはなにかに悩んでいる様子だった。わたしはその悩みを知っていた。なぜならゲーム中のイベントとしてハリエットの悩みが登場するからだ。
内容は近頃後妻の座に収まった継母から冷淡に扱われているというもの。心優しいハリエットはその理由がわからずに悩んでいるのである。
しかしそれを解決すると問答無用でハリエットとの友情エンドに向かうルートに入ってしまうのだ。ゲームの設計がむごすぎる! とネット上の感想でそう叫ばれたのも無理はない。常人であれば友人が悩んでいるのをわかっていて無視するなんて出来ないだろう。けれども無視しなければ攻略対象との恋愛ルートには入れない……。それをもって「むごすぎる」という苦情が生まれたのだ。
だがわたしは無視した。
「ごめんねハリエット……でも悩み聞いちゃうとルートに入れないから……」ってアホかー!
一応、心の中で謝っていたけれど、むごすぎるでしょ?! お前どんだけハリエットの世話になったと思ってるんだ?! 悩みのはけ口くらいにはなってやれよお前ー!
ひどい、ひどすぎる。本当にわたしの脳みそどうなってたんだ?! ゲーム脳も大概にしろよ?!
と、いくら後悔してももう遅い。すべては終わったあとなのだ。
そう、ハリエットは諸々の理由からシビルに同調してフギロナントカを信仰するようになってしまったのだ……。
「そうだ、私、シビルとサークルを立ち上げたのよ」
「サークル?」
「ええ、フギロシャネソララ様を信仰する会なの。貴女も一度見学してみない? 今体験会をしているの」
しかしそんな危急の事態になってもわたしの脳内は常春である。「ふーん。興味ないわ」と完全に他人事の態度で流して、そんなことより攻略対象! とばかりにアホな妄想と皮算用にふけっていた。むごい。お前、ハリエットの世話に(以下略)
ハリエットが「こう」なってしまったのは、どうもシビルに継母の件を相談した結果、「まるで魔法のように」事態が好転したかららしい。なんでも屋敷にシビルを招待したら継母の冷淡な態度が改善され、今では母娘そろって信徒になったとか。
……どう考えてもヤバイ。ヤバすぎる。
雑誌の後ろにある怪しげな広告なら笑ってすませられるが、これは現実に起こっていることである。明らかにヤバすぎる。
それでもシビルとハリエットの通称「邪神サークル」――もちろん命名者はわたしである――の引力たるやすさまじく、気がつけばわたしは体験会に無理やり参加させられていた。
一応、ハリエットに対してこのときのわたしは後ろめたさのようなものを感じていたらしい。その罪滅ぼしとまではいかないにしても、「ハリエットに付き合ってやるか」と上から目線が過ぎる――このときのわたしが思う――寛容な態度を取ったようだ。
シビルとハリエットはわたしを歓待してくれた。ちなみに、このときの体験会の参加者はわたしひとりだった。当たり前か。
態度のクソでかいクソ女であるわたしは、当然のようにふたりの話を聞き流した。しかし今思い返すに、これはあながち失礼な態度とも言えないような気がする。
なにせ主にシビルが話す内容は「絶対力」だの「極次元」だの「オーバーレイヤーの思念体」だのの造語がもっぱら飛び交うのだ。妄想にどっぷりつかっているさしものわたしも「電波が刺さる!」と心中で悲鳴を上げたのは無理もないことだろう。
「私がこの世界に生まれい出たのもすべてはフギロシャネソララ様の御意志あってのこと。以前の私は信仰薄かりし地において志半ばにして斃れましたが、フギロシャネソララ様の御意志によってこの極次元に再び舞い降りることが出来たのです」
ハリエットはシビルの語る受難に涙ぐみながら耳を傾けている。わたしは大あくびをしそうになって慌てて噛み殺した。
「シビル様の前世はどのようなものでしたの?」
ハリエットはすでに信仰心が溢れ出て止まらないらしく、このころにはシビルのことを「様」付けで呼んでいた。
わたしはそんなハリエットを遠い目で見るしかない。わたしの知るハリエットはもういないのかな……ってなもんだ。原因の一端がわたしになくもないのが、その思考の滑稽なところだが。
しかしそんな風に話を聞き流していたわたしの耳に、とんでもない言葉が飛び込んできて、一度に目が覚めた。
「私、前世は地球という惑星の日本という国にいましたの」
「フギロシャネソララ様の信徒として、その絶対力を極次元の皆様方に広くお教えするためにこのたび参りました」
なにせ名乗ってからの二の句がこれだ。続く言葉も電波――この世界にはない語だけど――としか言いようのないものである。つかみはバッチリ。クラスメイトたちはざわつくどころか沈黙した。すでにシビルの惨状を知っていたらしい教師は、なにごともなかったかのように「仲良くするように」とお決まりのセリフを口にして席へ誘導する。
みんな「仲良くするとか無理」と思ったに違いない。だって脳内で花畑を咲かせに咲かせていたわたしの思考を一瞬でも独占できたのだから、その威力たるやすさまじい。
案の定というか当然の帰結というか、シビルは転校一日目にしてボッチの地位を確立した。
シビルはぶっちゃけルックスは悪くない。それどころか美少女と言っても過言ではない。けれども中身が「ああ」だということはソッコーで知れ渡ったため、だれも声をかけようなどという蛮勇を犯すものは出なかった。
完全な「お触り禁止物件」あるいは「地雷」扱いである。ちなみに、言うまでもないがわたしもその仲間だ。
やたらとフギロナントカを賛美し、さりげなく勧誘して来るシビルに比べると厄介度は劣る扱いをされていたけれども……なんの慰めにもなっていないことは、みなさんおわかりでしょう。
わたしはシビルのことを最初に「変なやつ」だと――自分のことを棚に上げて――思った。
次いで「こんなイベントはゲームにはなかった」と思った。
年中頭が春めいているわたしは、シビルのルックスをもって彼女はモブではない存在、ならゲームにイベントとしてないのはおかしいと、まったく頭を疑う論理を展開させた。
そこから類推したのはまったく無害なキャラクターという論と、お邪魔キャラクターという論。後者の場合はシビルはわたしと同じ転生者で、ヒロインの座を狙っているかもしれない! とまで思った。
邪推がすぎるよ、と今なら言える。しかし「事実は小説よりも奇なり」。恐ろしいのは現実において後者の論が意外と的外れでもなかったと言う点だろう。この件についてはまた順番に語って行きたい。
シビルというイレギュラーな存在が現れても、しばらくの日々はわたしの知るゲームと大差がなかった。言い忘れていたが件の乙女ゲームは四季を通して攻略対象のキャラクターたちと友誼を交わしつつ、恋愛感情を育むといったものである。よって要所要所には学園内でのイベントが配置されている。
直近のイベントは「文芸会」。大層な名前をしているが、ようは読書感想文を発表し合うというだけのことだ。とはいえそこは高等教育を受けているお貴族様の集まり。選出される書物は前世のわたしからすればかなり「カタイ」タイプの本ばかりであった。
この会は単に「本を読んで感想を発表する」というだけに留まらず、途中経過を報告し合いながら推敲を重ねて行くことも重要視される。
わたしはぶっちゃけ「メンドクセー」と思っていたが攻略対象に好印象を残すため、真面目に取り組んでいた。
余談だが、わたしは勉学の面ではごくごく普通であった。問題なのは私生活やその脳内で、だからこそ教師からは直接的な苦言を呈されたことがなかった。
今ならわかる。生徒ほどのあからさまな視線は頂戴しなかったものの、教師の目もなんとも言えないものだったということが。
閑話休題。
なぜ長々と「文芸会」の説明をしたかと言えば、これがシビルと関わり合いになることになってしまったきっかけだからだ。
他の生徒たちはすでにグループが出来上がっている。その中であれこれと意見を交換し、「文芸会」までに何度か設けられる仮発表の場で出すレポートを仕上げて行く。
けれどもシビルはボッチであった。そもそも「文芸会」のなんたるかを彼女が理解しているのかさえ、だれにもわからなかった。
そこに現れたのが天使――もとい、ハリエットである。
シビルの終始電波な様子にもめげず、「レポートの調子はどう?」とか「なにかわからないことがあったら聞いてね」とか、涙ぐましいほどに細々と世話をするようになったのである。
ちなみにシビルはそんなハリエットに対して、
「すべては順調よ。私にはフギロシャネソララ様の恩寵がありますからね。貴女はどう? 困ったことがあれば私に相談して頂戴。フギロシャネソララ様もそうおっしゃられているわ」
だとか、
「わからないこと? そんなものはないわ。私にはフギロシャネソララ様がいますもの。フギロシャネソララ様の絶対力は信徒である私にも等しく力をお与えになられているわ」
といった様子であった。
そんなシビルにハリエットも最初のうちは一瞬ひるんだ様子を見せていたが、後半になると慣れたらしい。それどころか「フギロシャネソララ様はお元気?」と言い出す余裕まで見せて来た。
ハリエットは聖母であると同時に勇者でもあった。わたしだったら絶対に声はかけられないし、フギロナントカがどうのこうのと言われたらしどろもどろになる自信がある。それに比べてハリエットの偉大さたるや……。
でも常に脳内で陽気な――というか狂気の――カーニバルを開催しているようなわたしは、ハリエットがシビルを仲間に入れようとしていることに危機感を抱いた。
なぜなら「こんな変なのといっしょにいたらわたしも攻略対象たちに変な目で見られちゃう!」と思ったからだ。お前はなにを言っているんだ。「変な目で見られちゃう!」じゃねえよ! もう手遅れだよ!
けれども正気とは言えないわたしは本気でそう思い込んでいた。
一方でハリエットを無碍に扱えないぐらいの、ギリギリの良心は残っていたがゆえに、わたしは彼女に直接文句を言うようなことはしなかった。
ただ祈っていただけである。ガチで祈っていただけである。
「ヒロインであるわたしが困るような展開は個々のルート以外では起きないはずでしょ~?」ってな調子で天に祈っていた。他力本願がすぎるでしょ?! あと脳みそ沸騰してんのかわたしは?!
そんなこんなでわたしがひとり悶々としているあいだに、なぜかハリエットはシビルと親しくなっていた。
ハリエット曰く、「フギロシャネソララ様がどうとか、たまに信徒に勧誘して来る以外は普通よ」とのことだが、それがシビルが遠巻きにされる最大の要因ではなかろうか。
それを笑って「普通よ」と言ってしまえるハリエットは、今思えば「そういう」素養があったのかもしれない……。
同時期、ハリエットはなにかに悩んでいる様子だった。わたしはその悩みを知っていた。なぜならゲーム中のイベントとしてハリエットの悩みが登場するからだ。
内容は近頃後妻の座に収まった継母から冷淡に扱われているというもの。心優しいハリエットはその理由がわからずに悩んでいるのである。
しかしそれを解決すると問答無用でハリエットとの友情エンドに向かうルートに入ってしまうのだ。ゲームの設計がむごすぎる! とネット上の感想でそう叫ばれたのも無理はない。常人であれば友人が悩んでいるのをわかっていて無視するなんて出来ないだろう。けれども無視しなければ攻略対象との恋愛ルートには入れない……。それをもって「むごすぎる」という苦情が生まれたのだ。
だがわたしは無視した。
「ごめんねハリエット……でも悩み聞いちゃうとルートに入れないから……」ってアホかー!
一応、心の中で謝っていたけれど、むごすぎるでしょ?! お前どんだけハリエットの世話になったと思ってるんだ?! 悩みのはけ口くらいにはなってやれよお前ー!
ひどい、ひどすぎる。本当にわたしの脳みそどうなってたんだ?! ゲーム脳も大概にしろよ?!
と、いくら後悔してももう遅い。すべては終わったあとなのだ。
そう、ハリエットは諸々の理由からシビルに同調してフギロナントカを信仰するようになってしまったのだ……。
「そうだ、私、シビルとサークルを立ち上げたのよ」
「サークル?」
「ええ、フギロシャネソララ様を信仰する会なの。貴女も一度見学してみない? 今体験会をしているの」
しかしそんな危急の事態になってもわたしの脳内は常春である。「ふーん。興味ないわ」と完全に他人事の態度で流して、そんなことより攻略対象! とばかりにアホな妄想と皮算用にふけっていた。むごい。お前、ハリエットの世話に(以下略)
ハリエットが「こう」なってしまったのは、どうもシビルに継母の件を相談した結果、「まるで魔法のように」事態が好転したかららしい。なんでも屋敷にシビルを招待したら継母の冷淡な態度が改善され、今では母娘そろって信徒になったとか。
……どう考えてもヤバイ。ヤバすぎる。
雑誌の後ろにある怪しげな広告なら笑ってすませられるが、これは現実に起こっていることである。明らかにヤバすぎる。
それでもシビルとハリエットの通称「邪神サークル」――もちろん命名者はわたしである――の引力たるやすさまじく、気がつけばわたしは体験会に無理やり参加させられていた。
一応、ハリエットに対してこのときのわたしは後ろめたさのようなものを感じていたらしい。その罪滅ぼしとまではいかないにしても、「ハリエットに付き合ってやるか」と上から目線が過ぎる――このときのわたしが思う――寛容な態度を取ったようだ。
シビルとハリエットはわたしを歓待してくれた。ちなみに、このときの体験会の参加者はわたしひとりだった。当たり前か。
態度のクソでかいクソ女であるわたしは、当然のようにふたりの話を聞き流した。しかし今思い返すに、これはあながち失礼な態度とも言えないような気がする。
なにせ主にシビルが話す内容は「絶対力」だの「極次元」だの「オーバーレイヤーの思念体」だのの造語がもっぱら飛び交うのだ。妄想にどっぷりつかっているさしものわたしも「電波が刺さる!」と心中で悲鳴を上げたのは無理もないことだろう。
「私がこの世界に生まれい出たのもすべてはフギロシャネソララ様の御意志あってのこと。以前の私は信仰薄かりし地において志半ばにして斃れましたが、フギロシャネソララ様の御意志によってこの極次元に再び舞い降りることが出来たのです」
ハリエットはシビルの語る受難に涙ぐみながら耳を傾けている。わたしは大あくびをしそうになって慌てて噛み殺した。
「シビル様の前世はどのようなものでしたの?」
ハリエットはすでに信仰心が溢れ出て止まらないらしく、このころにはシビルのことを「様」付けで呼んでいた。
わたしはそんなハリエットを遠い目で見るしかない。わたしの知るハリエットはもういないのかな……ってなもんだ。原因の一端がわたしになくもないのが、その思考の滑稽なところだが。
しかしそんな風に話を聞き流していたわたしの耳に、とんでもない言葉が飛び込んできて、一度に目が覚めた。
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