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澤村香津子、一六歳。
高校二年生の春、悪魔に出会いました。
「ホンマこの時代にありがたいこっちゃで」
ネコの鋭い爪によってできた引っかき傷が痛々しい……二足歩行をする二頭身のブタのキャラクターといった風体の生物(?)は、そう言ってため息をついた。
いつもと同じ、学校からの帰り道。近所に住んでいる野良ネコがいるなーと思ったら、なにやらシッポをブラシ状に逆立たせて、前脚でなにかを弄んでいた。
「なにしてるのかな?」と軽率にネコの手元を覗き込めば、地面にうずくまっている二頭身のナニカ……。はじめ、わたしはアイボリーカラーのそれをぬいぐるみだと思った。けれどもすぐに、その推測は間違っていたということがわかる。
「そっ、そこのお嬢ちゃん! わいが見えてるんか?! ちょ、ちょっと助けてーな!」
途端、野良ネコはフニ゛ャーッと唸り声を上げ、怪しげな関西弁を繰り出してきた二頭身のブタに一撃を喰らわせた。関西弁をしゃべるブタは「ギニャーッ!」と叫び声を上げる。それが断末魔のように鋭かったので、わたしは一瞬ブタが死んだかと思った。
しかしどっこいブタは生きていた。ネコの引っかき傷をつけた痛々しい顔をわたしに向けて、再び助けを乞う。
「ドヒーッ! このネコちゃんホンマ手加減ナシやわ! お嬢ちゃん! このネコちゃんどけてんかー?! どけてくれたらお礼しまっせ!」
わたしはなにがなんだかよくわからなかったが、しかし助けを求められて見捨てるわけにもいくまい。……たとえ助けを求めてきている相手が、怪しい関西弁を駆使する二頭身のブタだとしても。
小市民なわたしは、なんとなく後味の悪い気持ちになりたくないという、至極身勝手な理由でそのブタを助けた。
堂々たる足取りで歩き去る野良ネコを見送ると、「やれやれ」という言葉と共にブタは置き上がった。
よくよくブタを見てみると、ブタは鬼のようなツノが額から二本生えており、背中にはコウモリのような翼を持っている。ブタはブタでも普通のブタではないようだ……と思ったところで、二頭身のブタなんて現実には存在しないことに遅まきながら気づいた。
ブタは全身に引っかき傷を負っており、非常に痛々しい見た目になっていた。穿いているピッチリとしたタイツのような黒いパンツも、ネコの一撃を受けたのか、表面がほつれている。
「あの……絆創膏、いります?」
「えっ?! ええんか?」
「三枚しかないですけど……よかったら」
「ホンマありがとうなー嬢ちゃん! グスッ。優しさが目にしみますわ! おおきにおおきに!」
学校の指定カバンに常備していた絆創膏を取り出す。なんでわたしが絆創膏を常備しているかと問われれば、わたしが小心者な上にボッチだからとしか言えない。……つまり、なにかあっても他人になかなか気安く助けを求められない気性――と環境――だから、万が一の備えをしている、というわけなのである。
しかし、こんなところで役に立つ日がこようとは……。わたしはごく普通の絆創膏を三枚、ブタに渡した。
ブタの手はブタらしく(?)ひづめがあった。どうやって受け取るんだろうと思っていると、不意に絆創膏がまるで磁石のようにブタのひづめに吸いつく。ここにきてわたしはなにやら謎の生物と相対しているらしいぞ、という思いを強めた。
が、強めただけでどうすればいいのかわからなかった。頭の回転が至極遅いわたしは、ひとまずブタが絆創膏を体に貼り終えるのを見ているしかできなかった。
「ホンマお嬢ちゃんは優しいお人でんなあ……グスッ。おっちゃん、助かったわ」
――おっさんだったのか。
ブタの年齢はよくわからない。そこらへんにいるデフォルメされたブタのキャラクターといった風体であるからだ。しかし自身を「おっちゃん」などと言うからには、わたしより年上なのかもしれない。
「あの……おじさん? はいったい……」
「あー! 自己紹介が遅れてえろうすんまへんな! わいの名前はブダナウス! ――悪魔や!」
「……ブタナウス?」
「ブタとちゃうわい! ブダでんがな! 『タ』やなくて『ダ』! そこ、間違えんといてくれるかー?!」
「ご、ごめんなさい……えーっと……ブダナウスさん」
「え?! 悪魔?!」――と思うよりも先にわたしの脳裏をよぎったのはやっぱりブタなんだ……という思いだった。実際はブ「タ」じゃなくてブ「ダ」だったわけだが。
「ブダナウスさんは悪魔? なんですか?」
「せやで。これでも立派な権能を持つ悪魔やねん」
「ケンノウ?」
「まあ、おおざっぱに言えば使える能力のことや」
「へー」
いきなり悪魔と宣言されても常人なら戸惑うだろう。けれどもわたしはあまりの非現実感に逆にワクワクしてしまっていた。悲しきかな、わたしは根っからのオタクなのである。
加えて悪魔を自称するブダナウスさんの見た目があんまり怖くなかったことも、影響しているだろう。これで身長二メートルを超えるヤギ頭の悪魔なんてものが出てきていたら、わたしは恐怖のあまり漏らしてしまっていたかもしれない。
しかし現実にはブダナウスさんはネコに負ける、ちっちゃい二頭身のデフォルメされたブタみたいな見た目だった。しゃべり方もあんまりえらそうじゃない。本当に、関西弁のおじさんをそこらから連れてきた、という感じだった。
「せや、お嬢ちゃんにはお礼せなアカンな」
「え……別に、いいですよ。お礼なんて」
「謙虚なお嬢ちゃんやな~。でも貰えるもんは貰えるときにもろとき!」
「でも……」
「ええねんええねん! もろときもろとき!」
どちらかといえば今度は関西弁をしゃべるおばさん、みたいな感じになったブダナウスさんに押され、小市民なわたしは「そこまで言うなら……」と彼のお礼を受けることにした。
「ほなちょっとスマホ出してんか」
「……お礼ってなんなんですか?」
「アプリや」
「ア、アプリ……」
悪魔といえば連想するのは旧時代的なものと(わたしの中では)相場が決まっていた。それが急にその悪魔の口から現代的な単語が飛び出てきたので、面食らった。そういうわけである。
いや、でも、お礼にアプリをプレゼントするというのは、現代でもなかなか聞かない言葉ではあると思う。
わたしはスマートフォンをカバンから取り出しつつ、変なアプリをインストールされたらどうしようと、内心でちょっと怯えた。
なにせ、悪魔だ。お礼と見せかけてこちらを罠にハメるようなことをしてきても、おかしくないのではないだろうか?
今さらながらに軽率に返事をしてしまったことを後悔しつつ、わたしはブダナウスさんに自分のスマートフォンを見せた。
「ほなちょっとインストールさせてもらうで~。――ぬーーーーーーーん! ぬんぬんぬん! ぬん!!!!!! ……ハアハア……オッケー、インストール完了や!」
わたしはスマートフォンの画面を見る。たしかに、ホーム画面に並ぶアプリの中に、見慣れないアイコンが増えている。そしてアイコンの下には――
「『Sアプリ』……?」
「『催眠アプリ』の略や。ホーム画面に堂々と『催眠アプリ』なんて出てたらいかん思てな」
「はあ……」
妙に気が回るブダナウスさんに感心しつつ、わたしは改めて先ほど告げられた「催眠アプリ」の語を思い出す。
「催眠アプリってあのー……」
「お嬢ちゃんかてわかっとるやろ? そらもー相手をエロエロな目に遭わせられるアプリや! どんな相手でもアプリでイチコロ! 思い通りにできるっちゅーわけや!」
わたしだってウブってわけじゃないし、耳年増なオタクだから一八禁なネタくらい知っている。
「催眠アプリ」といえば手軽にカワイイ女の子とチョメチョメできちゃうスーパーアイテムみたいな感じで、エロ漫画とかに出てくるってことだって――未成年だけど――知ってる。
知ってるには知ってるのだが……。
「アプリの使い方はカンタンや。アイコンをタップしてアプリを立ち上げるとカメラ機能が使える。で、そのカメラを使って相手を画面に映したら、催眠をかけたい相手をタップ! すると相手の動きが止まる。そのあいだにかけたい催眠の内容を吹き込んで、終わったらもう一度画面に映ってる相手をタップ! や。一度催眠をかけた相手やったらアプリにショートカットボタンができるはずやから、まああとはそれつこうてな。アプリ内にもマニュアルはあるから他の便利機能はそれ見てなー」
「いや、あの、これ……」
「心配せんでもだいじょうぶや! 催眠アプリをつこうて魂取られるっちゅうことはないからな! これはわいからの純粋な感謝の気持ちを込めたプレゼントやねん。安心してエロエロライフを送ってな~。ほな、わいはこれで失礼するわ! ほんまありがとうな、お嬢ちゃん!」
ブダナウスさんは言うだけ言うと、背中から生えている小さなコウモリのような翼をはばたかせ、スイーッと上空へと飛んで行き――やがて小さな点になって消えた。
残されたわたしは試しにホーム画面に現れた「Sアプリ」のアイコンを長押ししてみる。しかしどうやっても、アイコンの右上にアプリをアンインストールするための×ボタンが出なかった。
「え、えー?!」
「催眠アプリ」なんてものを貰っても、どうすればいいんだ……。ブダナウスさんは「エロエロライフを~」なんて言っていたけれども、正直に言ってそういう方向への興味はわたしの中にはない。
わたしはしばらくのあいだ困り果てていたが、別に使わなければなにも困ることはないのだ、ということに気づいた。
謝意でプレゼントしてくれたブダナウスさんには悪いが、「催眠アプリ」とやらはスマホのデータの肥やしになってもらおう……。
わたしはスマートフォンをカバンにしまい込むと、気を取り直して帰宅の途についた。
高校二年生の春、悪魔に出会いました。
「ホンマこの時代にありがたいこっちゃで」
ネコの鋭い爪によってできた引っかき傷が痛々しい……二足歩行をする二頭身のブタのキャラクターといった風体の生物(?)は、そう言ってため息をついた。
いつもと同じ、学校からの帰り道。近所に住んでいる野良ネコがいるなーと思ったら、なにやらシッポをブラシ状に逆立たせて、前脚でなにかを弄んでいた。
「なにしてるのかな?」と軽率にネコの手元を覗き込めば、地面にうずくまっている二頭身のナニカ……。はじめ、わたしはアイボリーカラーのそれをぬいぐるみだと思った。けれどもすぐに、その推測は間違っていたということがわかる。
「そっ、そこのお嬢ちゃん! わいが見えてるんか?! ちょ、ちょっと助けてーな!」
途端、野良ネコはフニ゛ャーッと唸り声を上げ、怪しげな関西弁を繰り出してきた二頭身のブタに一撃を喰らわせた。関西弁をしゃべるブタは「ギニャーッ!」と叫び声を上げる。それが断末魔のように鋭かったので、わたしは一瞬ブタが死んだかと思った。
しかしどっこいブタは生きていた。ネコの引っかき傷をつけた痛々しい顔をわたしに向けて、再び助けを乞う。
「ドヒーッ! このネコちゃんホンマ手加減ナシやわ! お嬢ちゃん! このネコちゃんどけてんかー?! どけてくれたらお礼しまっせ!」
わたしはなにがなんだかよくわからなかったが、しかし助けを求められて見捨てるわけにもいくまい。……たとえ助けを求めてきている相手が、怪しい関西弁を駆使する二頭身のブタだとしても。
小市民なわたしは、なんとなく後味の悪い気持ちになりたくないという、至極身勝手な理由でそのブタを助けた。
堂々たる足取りで歩き去る野良ネコを見送ると、「やれやれ」という言葉と共にブタは置き上がった。
よくよくブタを見てみると、ブタは鬼のようなツノが額から二本生えており、背中にはコウモリのような翼を持っている。ブタはブタでも普通のブタではないようだ……と思ったところで、二頭身のブタなんて現実には存在しないことに遅まきながら気づいた。
ブタは全身に引っかき傷を負っており、非常に痛々しい見た目になっていた。穿いているピッチリとしたタイツのような黒いパンツも、ネコの一撃を受けたのか、表面がほつれている。
「あの……絆創膏、いります?」
「えっ?! ええんか?」
「三枚しかないですけど……よかったら」
「ホンマありがとうなー嬢ちゃん! グスッ。優しさが目にしみますわ! おおきにおおきに!」
学校の指定カバンに常備していた絆創膏を取り出す。なんでわたしが絆創膏を常備しているかと問われれば、わたしが小心者な上にボッチだからとしか言えない。……つまり、なにかあっても他人になかなか気安く助けを求められない気性――と環境――だから、万が一の備えをしている、というわけなのである。
しかし、こんなところで役に立つ日がこようとは……。わたしはごく普通の絆創膏を三枚、ブタに渡した。
ブタの手はブタらしく(?)ひづめがあった。どうやって受け取るんだろうと思っていると、不意に絆創膏がまるで磁石のようにブタのひづめに吸いつく。ここにきてわたしはなにやら謎の生物と相対しているらしいぞ、という思いを強めた。
が、強めただけでどうすればいいのかわからなかった。頭の回転が至極遅いわたしは、ひとまずブタが絆創膏を体に貼り終えるのを見ているしかできなかった。
「ホンマお嬢ちゃんは優しいお人でんなあ……グスッ。おっちゃん、助かったわ」
――おっさんだったのか。
ブタの年齢はよくわからない。そこらへんにいるデフォルメされたブタのキャラクターといった風体であるからだ。しかし自身を「おっちゃん」などと言うからには、わたしより年上なのかもしれない。
「あの……おじさん? はいったい……」
「あー! 自己紹介が遅れてえろうすんまへんな! わいの名前はブダナウス! ――悪魔や!」
「……ブタナウス?」
「ブタとちゃうわい! ブダでんがな! 『タ』やなくて『ダ』! そこ、間違えんといてくれるかー?!」
「ご、ごめんなさい……えーっと……ブダナウスさん」
「え?! 悪魔?!」――と思うよりも先にわたしの脳裏をよぎったのはやっぱりブタなんだ……という思いだった。実際はブ「タ」じゃなくてブ「ダ」だったわけだが。
「ブダナウスさんは悪魔? なんですか?」
「せやで。これでも立派な権能を持つ悪魔やねん」
「ケンノウ?」
「まあ、おおざっぱに言えば使える能力のことや」
「へー」
いきなり悪魔と宣言されても常人なら戸惑うだろう。けれどもわたしはあまりの非現実感に逆にワクワクしてしまっていた。悲しきかな、わたしは根っからのオタクなのである。
加えて悪魔を自称するブダナウスさんの見た目があんまり怖くなかったことも、影響しているだろう。これで身長二メートルを超えるヤギ頭の悪魔なんてものが出てきていたら、わたしは恐怖のあまり漏らしてしまっていたかもしれない。
しかし現実にはブダナウスさんはネコに負ける、ちっちゃい二頭身のデフォルメされたブタみたいな見た目だった。しゃべり方もあんまりえらそうじゃない。本当に、関西弁のおじさんをそこらから連れてきた、という感じだった。
「せや、お嬢ちゃんにはお礼せなアカンな」
「え……別に、いいですよ。お礼なんて」
「謙虚なお嬢ちゃんやな~。でも貰えるもんは貰えるときにもろとき!」
「でも……」
「ええねんええねん! もろときもろとき!」
どちらかといえば今度は関西弁をしゃべるおばさん、みたいな感じになったブダナウスさんに押され、小市民なわたしは「そこまで言うなら……」と彼のお礼を受けることにした。
「ほなちょっとスマホ出してんか」
「……お礼ってなんなんですか?」
「アプリや」
「ア、アプリ……」
悪魔といえば連想するのは旧時代的なものと(わたしの中では)相場が決まっていた。それが急にその悪魔の口から現代的な単語が飛び出てきたので、面食らった。そういうわけである。
いや、でも、お礼にアプリをプレゼントするというのは、現代でもなかなか聞かない言葉ではあると思う。
わたしはスマートフォンをカバンから取り出しつつ、変なアプリをインストールされたらどうしようと、内心でちょっと怯えた。
なにせ、悪魔だ。お礼と見せかけてこちらを罠にハメるようなことをしてきても、おかしくないのではないだろうか?
今さらながらに軽率に返事をしてしまったことを後悔しつつ、わたしはブダナウスさんに自分のスマートフォンを見せた。
「ほなちょっとインストールさせてもらうで~。――ぬーーーーーーーん! ぬんぬんぬん! ぬん!!!!!! ……ハアハア……オッケー、インストール完了や!」
わたしはスマートフォンの画面を見る。たしかに、ホーム画面に並ぶアプリの中に、見慣れないアイコンが増えている。そしてアイコンの下には――
「『Sアプリ』……?」
「『催眠アプリ』の略や。ホーム画面に堂々と『催眠アプリ』なんて出てたらいかん思てな」
「はあ……」
妙に気が回るブダナウスさんに感心しつつ、わたしは改めて先ほど告げられた「催眠アプリ」の語を思い出す。
「催眠アプリってあのー……」
「お嬢ちゃんかてわかっとるやろ? そらもー相手をエロエロな目に遭わせられるアプリや! どんな相手でもアプリでイチコロ! 思い通りにできるっちゅーわけや!」
わたしだってウブってわけじゃないし、耳年増なオタクだから一八禁なネタくらい知っている。
「催眠アプリ」といえば手軽にカワイイ女の子とチョメチョメできちゃうスーパーアイテムみたいな感じで、エロ漫画とかに出てくるってことだって――未成年だけど――知ってる。
知ってるには知ってるのだが……。
「アプリの使い方はカンタンや。アイコンをタップしてアプリを立ち上げるとカメラ機能が使える。で、そのカメラを使って相手を画面に映したら、催眠をかけたい相手をタップ! すると相手の動きが止まる。そのあいだにかけたい催眠の内容を吹き込んで、終わったらもう一度画面に映ってる相手をタップ! や。一度催眠をかけた相手やったらアプリにショートカットボタンができるはずやから、まああとはそれつこうてな。アプリ内にもマニュアルはあるから他の便利機能はそれ見てなー」
「いや、あの、これ……」
「心配せんでもだいじょうぶや! 催眠アプリをつこうて魂取られるっちゅうことはないからな! これはわいからの純粋な感謝の気持ちを込めたプレゼントやねん。安心してエロエロライフを送ってな~。ほな、わいはこれで失礼するわ! ほんまありがとうな、お嬢ちゃん!」
ブダナウスさんは言うだけ言うと、背中から生えている小さなコウモリのような翼をはばたかせ、スイーッと上空へと飛んで行き――やがて小さな点になって消えた。
残されたわたしは試しにホーム画面に現れた「Sアプリ」のアイコンを長押ししてみる。しかしどうやっても、アイコンの右上にアプリをアンインストールするための×ボタンが出なかった。
「え、えー?!」
「催眠アプリ」なんてものを貰っても、どうすればいいんだ……。ブダナウスさんは「エロエロライフを~」なんて言っていたけれども、正直に言ってそういう方向への興味はわたしの中にはない。
わたしはしばらくのあいだ困り果てていたが、別に使わなければなにも困ることはないのだ、ということに気づいた。
謝意でプレゼントしてくれたブダナウスさんには悪いが、「催眠アプリ」とやらはスマホのデータの肥やしになってもらおう……。
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