読切怪奇談話集(仮)

やなぎ怜

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火が誘う、火が止める

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 俺の地元の話。

 地元には火気厳禁の山がある。山の中には川が流れてるところもあるんだけど、そのそばであっても火を扱ってはならないと言われている。なぜなら、その山で火を焚くと、よくないことが起こると信じられているからだ。


 俺が小学生のころ、その山で殺人があった。加害者は地元出身の大学生で、被害者はその大学生の友人。動機は彼女を寝取られたからだそうだ。

 山の中でキャンプもどきをしているときに、ペグ? を打つハンマーで頭に一撃。でもそれでは死ななくて、最終的に川に顔をつけて溺死させたらしい。

 意外にもその山に誘ったのは加害者ではなく、被害者だったそうだ。山のいわれに興味を持った被害者が、あまり乗り気ではない加害者に連れて行ってもらう形だったと、両者の共通の友人が証言したそうだ。

 ということは、この加害者と被害者になったふたりは当然火を焚いたわけだ。

 ただ、加害者からの通報でかけつけた警官によれば、そのときにはもう焚火は鎮火していたそうだ。

 加害者は抵抗もせずに捕まって、動機についても素直にしゃべったらしい。さっき書いたように、被害者が加害者の彼女と結構長いこと通じていたことをなにかの拍子に知ってしまって、かなり思い悩んでいて、その末の犯行だと。

 けれども加害者は言うんだ。「殺すつもりはなかった」って。「“最初は”殺すつもりはなかった」と。

 じゃあなんで犯行に及んだかと問われて、加害者は「焚火を見ていたらどうしても殺したくなった」って答えたんだって。

 焚火の中に、ありとあらゆる殺し方が見えたらしい。

 それを見ているうちに「殺せる」と思って、犯行に。

 結構昔の話だからその加害者はもう出所していると思う。ただ、地元に帰ってきたっていう話は聞いていない。


 そんで殺人の現場になっちゃった山なんだけど、俺が高校生の頃に一帯を開発するという話が持ち上がった。

 古くからこの辺りに住んでいるじっちゃんばっちゃんなんかは、結構「やめとけ」って言ってたんだけど、地元の有力者だか土地の持ち主のひとりだとか、まあとにかくお偉いさんはそんなことで止めたりしない。

 それで、どういう流れでそうなったかは知らないんだけど、その山で一晩過ごすことになった。

 一晩焚火をたいて、それで山にかんする言い伝えはしょせん迷信だぞって、証明したかったんだということはわかる。

 で、結論から言うと山を開発する話はなくなった。

 いや、山で焚火をして一晩を過ごしたその人は普通に今も生きてる。でも、その晩になにがあったかはだれにも言っていないようだ。口にしてたならば爆速で広がる田舎だからね。本当にだれにも言っていないんだと思う。

 ただ、焚火の中になにかを見たらしいということだけは、もっともらしい噂として流れてる。その噂が真実かどうかはわからない。


 それで、これは俺の友人の話。

 小学校からの友人なんだけど進学先が違ってて、ついこのあいだ地元で再会した。

「そっちの大学どうよ」とか他愛のない話をしていたら、急に「おれ、人殺そうとしてたんだ」って言い出したからビビった。

 その友人は虫も殺せないような小心者で、でもすげえ優しいやつ。そんなやつから「人殺そうとしてた」って言われたから、かなりおどろいた。

 聞いたら、初めての彼女で結婚も考えていた相手が友達だと思っていたやつに寝取られてたらしい。

 でもなんか恥ずかしくて他の友人には相談できず、かと言って小心なやつだから、浮気者たちに詰め寄るなんてこともできなかったとか。

 それでどんどん思いつめて行って、最終的に彼女もその友達も殺そうと思ったらしい。

 その友達とはよくさびれたキャンプ地なんかを巡っていたから、地元の山に誘い込むのは簡単だったそうだ。なんで地元を選んだかと言うと、単に土地勘があって、死体を埋められるような場所がそこくらいしかなかったかららしい。

 友人とは地元が同じだったから、もちろん山のいわれは知っているし、最初に書いた殺人事件についても知っている。

 というか、友人はそのいわれを利用しようとしたらしい。

 殺したいほどその友達を憎んでいたけれども、元来から友人は小心者だったからふんぎりがつかず、火の力? みたいなものを借りようとしたんだと。

 その友達と山に入って、ごく自然な流れで河原で焚火をすることになった。

 日が出ているうちはなんともなかったそうだ。

 けど夕食を食い終わって焚火を囲んで枝に刺したマシュマロを焼いているときに、見たらしい。

 火を見ているとトランス状態に入ったかのような奇妙な浮遊感に襲われて、その友達を殺すところを見たんだそうだ。もちろん幻覚の話で、その友達は今も普通に生きているらしい。

 友人は先の殺人事件で加害者が言っていたことが事実だったことに興奮半分、恐怖半分といったところだったと言う。

 けれども次の瞬間に、焚火の中にその友達を殺したあとの展開が、ドラマみたいに見えたんだと。

 ネットで叩かれたり、面白おかしく書かれたり動画が作られたり。地元に住んでる家族が一軒家を手放さざるを得なくなったり。出所して就職したところへ、被害者の家族から嫌がらせをされて辞めざるを得なくなったり……。

 そういう光景が脳に直接投射されたように、鮮明に見えたらしい。

 それでもう小心者な友人はすっかりビビっちゃって、結局その友達を殺すのはやめたそうだ。


 あの山で火を焚くとなにがどうよくないのかは、結局俺にはよくわからない。

「あの山で見た火はなんというか……悪魔的だった」

 友人の言葉通りなら、あの山で火を焚くと、人間をもてあそぶ悪魔でも宿るのかもしれない。
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