読切怪奇談話集(仮)

やなぎ怜

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死体になる夢を見る

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 フェイクマシマシ、だいぶ前の話。


 大学に入って仲良くなった友人の中に、「死体になる夢」を見るというやつがいた。

 と聞くと「殺される夢」を見るのかと思ったんだが、ちょっと違うらしい。

 殺されるまでの過程は見ずに、突然死体になっているらしい。

 そいつは、「死体に憑依している感じ」とか「死体の中に自分の意識が入っている感じ」とか言っていた。

 その死体はそいつ自身じゃなくて、まったく知らないやつらしい。で、その死体の中に「入っている感じ」なんだと。

 その死体の素性とかはさっぱりわからんと言っていた。死体の視点だから、老若男女などの特徴もわからないとか。

 もうだいぶ前の話だから細かいディティールなんかはぼんやりとしていて思い出せないんだけど、「死体になると重くて体が疲れる」と言っていたのはなんか印象に残っていて覚えてる。

 そいつによると、その「死体になる夢」は覚えている限りで小学生のころから見ていたと言っていた。

 夢の中の状況は様々で、坊さんの読経の声が聞こえることもあると言っていた。たぶん葬式の最中なんだろうと。ただ死体が目をつぶっていたり、布をかぶせられてるときなんかは周りの状況を見ることができないと言っていた。

 逆に、死体のまぶたが開いていて顔を覆うものがないときは周囲が見える。

 でもそういう状況はロクな状況じゃなくて、だいたいだれかに殺された死体の夢だと言っていた。「死体になる夢」の中で一番イヤなパターンがこれだとそいつは言っていた。

 まあ夢の話ほど益体のないものもないし、内容が内容だから、そいつが「死体になる夢」について話すことはあんまりなかった。ただ、怖い話を披露しあう場とかでは結構しゃべってたけど。

 そいつが俺に「死体になる夢」についてたびたび話してくれたのは、俺がオカルト好きだったからだと思う。

 俺も「その夢は実は現実に起こっている出来事か、予知夢かも」だなんて無責任に言ったりしてた。

 ぶっちゃけなにも真剣に考えてなかった。俺もあいつも。でもまあ、大学生なんてだいたいそんなもんだと思う。

 でもあるとき、そいつが言ったんだよ。「あの夢、現実にあったことかもしれん」って。

 俺たちが通う大学の隣県で、詳細は省くけど殺人事件があった。詳細についてはマジで勘弁して。ググったらすぐにヒットしちゃうから。

 で、書かなくても予想がつくと思うけど、そいつ、その殺人事件の被害者の死体になっている夢を見たらしい。

 俺はオカルト好きだけど、なんていうか本気で幽霊とか存在するって信じているわけじゃなくて。だから、そいつの話も疑ってかかってた。事件のニュースを見てそういう夢を見たんじゃないかって。

 でもそいつによるとニュースを目にする前に「死体になる夢」を見て、事件のニュースを見て「もしかして」って感じで気づいたらしい。本当かどうかはわからん。

 たぶん報道されてない部分についてもそいつはこと細かにしゃべっていて、俺はそこでちょっと怖くなった。といってもそいつの頭がおかしくなったんじゃないかっていう方向なんだけど。

 ただそいつはちょっと興奮してはいたけど、わりと怯えている様子もあって、そこはなんだか演技じゃなくてガチっぽくて、俺も「もしかして?」とか思い始めた。

 そのとき、その時点では殺人事件の犯人は捕まってなかった。でも、そいつは夢の中で犯人をばっちりと見たらしい。

 でもさ、そこからじゃあどうすんのよって話でもあった。

 「夢の中で犯人の顔を見ました」とか言えないし。かといって「犯人の顔を知っている」とかだと絶対にそいつがあやしまれるし。

 でもそいつは「ダメもとで警察に行ってみる」って言って。俺だったら知らんふりを決め込んでたけど、そいつは変なところで生真面目なやつだった。

 俺はさすがに警察に行くのはビビっちゃって。今までお世話になったこともないし。

 俺が及び腰になっているのがわかったのか、そいつは「おれひとりで行くよ」って言った。「お前にも変な疑いかかったらいやだし」って。俺は思わず「ごめん」って言ったけど、そいつは「いいよいいよ」って。

 で、まあどうなったか結論を書くと、そいつ死んじゃったんだよね。

 俺もそいつも、学生寮として借り上げられてるマンションに住んでたんだけど、そいつ帰ってこなくて。

 小川の上にある短い橋の下のところに倒れてたのが見つかったのは、朝になってからだったかな。

 他殺体だった。こっちも未だに事件当時のニュース記事とか残ってるから、詳細は省く。

 同じ寮生で親しくしてた俺のところにも警察が来たりしたけど、今でも犯人が捕まったって話は聞いてない。

 「死体になる夢」については話さなかった。だいぶ悩んだけど……でもやっぱり荒唐無稽だし、変な疑いを呼ぶのが怖くて。

 そいつが「死体になる夢」を頻繁に見るって話は、あいつと親しければ一度は聞いた話だったから、「正夢になっちゃった?」とか不謹慎なこと言うやつもいたな。

 俺はそれから普通に大学を卒業して、故郷ともぜんぜん違うところに就職して、そいつの顔とか声とかも年々おぼろげになってきてるけど、この話だけはたぶん一生忘れられないと思う。

 俺は今でもそいつは口封じに殺されたんじゃないかって思うことがある。

 あの殺人事件の犯人と生活圏がかぶっていて、たまたまそいつと俺の会話を犯人が聞いてしまったとしたら?

 それこそ荒唐無稽だと思うけど、どうしてもその考えがぬぐえなくて、卒業してから母校のある県には一度も行ってない。
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