読切怪奇談話集(仮)

やなぎ怜

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呪われていたかもしれない

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 ここのところネットで怖い話を読み漁っていて思い出したんで、小学校高学年のときの話をしたい。


 当時は、遠出するなら自転車を乗り回していた。

 子供用のちっちゃめのやつでよく友達と一緒に隣の市まで自転車こいで遊びに行ってた。

 俺が当時住んでた家は住宅街の中にあって、公園も近くにあったけど狭かったんで高学年にもなると自転車で遠出してた。

 その自転車の前カゴのところに、ときどき紙くずが入っていることがあった。

 適当にくしゃくしゃにしました、って感じのまさに紙くず。

 ただ不思議に思ったことがあって、その紙くずって自宅に置いているときに入れられてるっぽかったんだよね。

 これが駅前の駐輪場とかに置いてるあいだに入れられたとかならまあ「もらったチラシを捨てたのかな?」とか、あるていど理屈は通ると思うんだけど。

 俺がカゴに入れられた紙くずに気づくのって、いつも自宅で自転車乗るかーっていうときだったから、あるとき「おかしくね?」って気づいた。

 先に書いたけど、当時の自宅は似たような一軒家ばかりが並ぶ住宅街の中にあった。

 俺の自転車はいつも門扉の内側に置いてた。

 そこは郵便受けから近かったから、家族のだれかが投函されたチラシを俺の自転車のカゴに入れたのかと考えた。

 でもそういうことする家族に心当たりがなかったし、普通に家の中に入ってゴミ箱に捨てればいいだけの話だし。

 実際、俺もカゴに入れられていた紙くずはめんどくさいと思いつつもちゃんと家の中のごみ箱に捨ててたし。

 その違和感に気づいて、なんの気なしにくしゃくしゃに丸められた紙くずを元の形に開いてみたんだよね。

 白い、長方形のよくある便箋って感じの紙だった。

 俺はそれをチラシだと思ってたんだけど、違うことに気づいた。

 両親の名前と、俺の名前が書いてあって、その下にびっちり恨み節って感じの文章が書かれてた。

 俺はビビってすぐ家の中のごみ箱にその紙を捨てた。

 便箋に書かれてた文章は正確には覚えてないんだけど、字は直筆で汚かったし、紙いっぱいにびっちり書かれてるせいで一文字が小さかったし。

 でも俺の両親をひどく恨んでいる、その両親の子供である俺のことも憎い、という印象の輪郭だけは今でも強烈に覚えているというか。

 両親には言わなかったというか、言えなかった。

 なにがあったかなんてわかんないから逆恨みかもしれないけど、両親がそんな風にだれかから強烈に恨まれているんだという事実が当時の俺にはショックだったというか。

 まあまあ普通の家庭で、そんなベタベタした距離感の家族じゃなかったから言えなかったところもある。


 でも自分の心にしまっておくにはちょっとショックすぎて、親しかった友達にだけ話したんだよね。

 いつメンの四人で集まったときに、「このあいだこういうキモいことがあってさー」って感じで。

 本当は結構ショックを受けていたんだけど、わざと明るく話したのは覚えてる。

 そしたら俺以外の三人がおかしくなった。

 返事をすると「あいあい」とか、「らりるれろ」みたいなら行が多めのセリフしか言わなくなった。

 俺が話し終えたら突然そうなって、俺がちびりそうなくらいビビってるあいだに三人は普通に戻った。

 けどなんかおかしい受け答えをしていたときの記憶はないらしい。

 たぶん一分くらいの出来事だったんだけど、おかしいと認識しているのは俺だけだった。

 必死に俺がそのときのことを説明すると、三人は嘘とは決めつけずに興味を持ってくれた。

 ただ半信半疑って感じではあった。でも一応真面目なほうで通ってた俺が主張することだから、半分は信じてくれたって感じ。

 それで三人のうち一人が、俺がした「キモい話」が原因なら実験すればわかるんじゃね?って言い出した。

 内容は単純に、一人にだけ耳元で俺の話を聞かせる。

 それでその聞かされた一人だけが俺が説明した通りに受け答えがおかしくなったら、俺は嘘をついていないということになる。

 俺は単に嘘つきにされたくなくて、その実験に乗った。

 結論から書くと、俺があの自転車に入れられた紙くずというか、怪文書?の話をするとほぼ全員受け答えがおかしくなった。

 最初は「なにこれすげー」みたいな扱いだったんだけど、何度かその実験を繰り返したら俺自身が「きしょ」扱いされるようになって、それで小学校卒業するまでイジメられて、今でもトラウマ。

 ちなみにそのときの実験で又聞きだと効力がないことはわかってる。

 たぶんテキストで読んでも効果はないと思うから、ここに書いた。

 当時の同級生とは全員縁が切れてるし、イジメ受けたのが本当にトラウマで最近まですっかり忘れてた。

 今大学生で、イジメが原因で人間不信こじらせてて人生詰み気味でわりと洒落にならんのが一番怖いかも。

 あとあの紙くずは俺が中身を読んだあともしばらくは自転車のカゴに入れられてたんだけど、いつごろからそれがなくなったかは思い出せない。

 イジメのせいでそれどころじゃなかったから、覚えてないんだと思う。

 それと両親は俺が中学生に上がったくらいからずっと別居してる。

 離婚はまだしてないっぽいんだけど、そういう状態だからあの紙に書かれていた恨み節については今でもわからん。

 もしかしたら両親は心当たりがあったかもしれないけど、たぶん俺が聞く機会はこの先もないと思われ。


 まあ家庭は壊れたし、俺もちゃんと就職できるか怪しいくらいのコミュ障になったし、恨み節書いた相手はそれなりに満足したのかなとかは思った。
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