28 / 32
カチャおじ
しおりを挟む
子供のころにいた変なおっさんの話する。怖くはない。
変質者の話だからちょっとキモい表現が入るのは堪忍な。
今から二十年は前の話。
そいつは小学生から見ておっさんだったけど、実際の年齢は不明。
住宅街とかを徘徊していて、見た目は明らかに小汚い。
なんか服とかが薄汚れている感じとか、髪がボサボサだとかそんな感じ。
どこに住んでるかとかも親は知ってたかもしれないけど、俺らガキどもは知らなかった。
いつもジャムのガラス製の小瓶を手に持って、金属製のスプーンを瓶の中に入れて「カチャカチャ」って音を立てて徘徊していたんで、そのおっさんは「ジャムおじさん」とか「カチャカチャおじさん」とか言われてた。
当時は前者の名称のほうが浸透していた印象があるんだけど、ここでは便宜上「カチャおじ」としておく。
カチャおじに関しては、ガキのあいだでは色々と噂があったけど、正直今振り返れば眉唾なものが多いと思う。
怒らせるとジャムを食べさせてくるとかいう話もあった。
あ、カチャおじが持ってたジャムの小瓶はいつも中身が入ってたんだよな。
赤いイチゴジャムで、だから持っているガラスの小瓶がジャムの小瓶だっていうのがわかった。
で、ちょっとキモい話になるんだけど、そのジャムにはカチャおじのツバが入っているとかいう話もあって、ガキでもさすがに聞いたとき鳥肌が立ったな。
まあその話を置いておいても、カチャおじの見た目は衛生的じゃなかったから、死んでもカチャおじのジャムなんて口にしたくはなかったが……。
でもカチャおじは小汚い見た目だったから、そういう噂も妙に信憑性があるように聞こえた。
カチャおじは肝試しの対象でもあった。
やんちゃっていうか、まあクソガキがちょっかいかけるのにちょうどいい相手と見られていたというか。
「怒らせたらジャムを食わせられる」って噂があったけど、実際カチャおじが怒ったという話は聞いたことがなかった。
隣のクラスのだれそれがカチャおじにちょっかいかけた~というような話はよく流れてきたけど。
俺はと言えば、大人しいタイプだったから特にカチャおじにちょっかいかけたこともない。
友達の家に行く道と、カチャおじが徘徊するルートがちょっとかぶってて、何度か遠目に見たり、すれ違ったことがあるくらい。
面白みがなくてすまん。
でもビビりなガキだったから、カチャおじとすれ違うだけでもドキドキだった。
カチャおじは前述のとおり小汚い見た目だから、それだけでもかかわりあいになりたくないのに、なんかジャム瓶をスプーンでカチャカチャしてるのは、意味不明すぎてやっぱ近くで見ると怖かったな。
なんかカチャおじの世界ではちゃんと論理に沿った行動だったのかもしれないけど……。
カチャおじは俺が中学生のときに死んだ。
川にかかった橋のたもとであおむけに転がっているのが見つかったと聞いた。
顔面に粉々になったジャム瓶のガラス片が突き刺さってて、右か左かは知らないんだけど、目玉に金属製のスプーンが突き刺さっていたらしい。
事故で片づけられたんだけど、俺らのあいだでは「殺人だろ!」って話になってたな。
殺人だとしたらカチャおじを殺したやつが地元にいるかもしれないということになるので、事故なら事故のほうがいいんだけど……。
カチャおじのことは今地元で暮らしてる小学生は知らない。二十年は前の話なんだから、当たり前だけど。
でも正月に帰省したときに甥っ子から「カチャカチャさん」っていう都市伝説を聞かされた。
夕方の通学路で「カチャカチャ」って音だけ追ってくる存在なんだと。
正直ちょっと鳥肌が立ったけど、同時になんか不思議な郷愁とでもいうべきか、懐かしい気持ちにもなった。
今小学生の甥っ子(怖がり)からすると、洒落にならん怪談らしいのだが。
「カチャカチャさん」=「カチャおじ」だったとしたら、今もあのおっさんはさまよっているんだろうか?
そうだとしたらもの悲しい話だなと思った。
変質者の話だからちょっとキモい表現が入るのは堪忍な。
今から二十年は前の話。
そいつは小学生から見ておっさんだったけど、実際の年齢は不明。
住宅街とかを徘徊していて、見た目は明らかに小汚い。
なんか服とかが薄汚れている感じとか、髪がボサボサだとかそんな感じ。
どこに住んでるかとかも親は知ってたかもしれないけど、俺らガキどもは知らなかった。
いつもジャムのガラス製の小瓶を手に持って、金属製のスプーンを瓶の中に入れて「カチャカチャ」って音を立てて徘徊していたんで、そのおっさんは「ジャムおじさん」とか「カチャカチャおじさん」とか言われてた。
当時は前者の名称のほうが浸透していた印象があるんだけど、ここでは便宜上「カチャおじ」としておく。
カチャおじに関しては、ガキのあいだでは色々と噂があったけど、正直今振り返れば眉唾なものが多いと思う。
怒らせるとジャムを食べさせてくるとかいう話もあった。
あ、カチャおじが持ってたジャムの小瓶はいつも中身が入ってたんだよな。
赤いイチゴジャムで、だから持っているガラスの小瓶がジャムの小瓶だっていうのがわかった。
で、ちょっとキモい話になるんだけど、そのジャムにはカチャおじのツバが入っているとかいう話もあって、ガキでもさすがに聞いたとき鳥肌が立ったな。
まあその話を置いておいても、カチャおじの見た目は衛生的じゃなかったから、死んでもカチャおじのジャムなんて口にしたくはなかったが……。
でもカチャおじは小汚い見た目だったから、そういう噂も妙に信憑性があるように聞こえた。
カチャおじは肝試しの対象でもあった。
やんちゃっていうか、まあクソガキがちょっかいかけるのにちょうどいい相手と見られていたというか。
「怒らせたらジャムを食わせられる」って噂があったけど、実際カチャおじが怒ったという話は聞いたことがなかった。
隣のクラスのだれそれがカチャおじにちょっかいかけた~というような話はよく流れてきたけど。
俺はと言えば、大人しいタイプだったから特にカチャおじにちょっかいかけたこともない。
友達の家に行く道と、カチャおじが徘徊するルートがちょっとかぶってて、何度か遠目に見たり、すれ違ったことがあるくらい。
面白みがなくてすまん。
でもビビりなガキだったから、カチャおじとすれ違うだけでもドキドキだった。
カチャおじは前述のとおり小汚い見た目だから、それだけでもかかわりあいになりたくないのに、なんかジャム瓶をスプーンでカチャカチャしてるのは、意味不明すぎてやっぱ近くで見ると怖かったな。
なんかカチャおじの世界ではちゃんと論理に沿った行動だったのかもしれないけど……。
カチャおじは俺が中学生のときに死んだ。
川にかかった橋のたもとであおむけに転がっているのが見つかったと聞いた。
顔面に粉々になったジャム瓶のガラス片が突き刺さってて、右か左かは知らないんだけど、目玉に金属製のスプーンが突き刺さっていたらしい。
事故で片づけられたんだけど、俺らのあいだでは「殺人だろ!」って話になってたな。
殺人だとしたらカチャおじを殺したやつが地元にいるかもしれないということになるので、事故なら事故のほうがいいんだけど……。
カチャおじのことは今地元で暮らしてる小学生は知らない。二十年は前の話なんだから、当たり前だけど。
でも正月に帰省したときに甥っ子から「カチャカチャさん」っていう都市伝説を聞かされた。
夕方の通学路で「カチャカチャ」って音だけ追ってくる存在なんだと。
正直ちょっと鳥肌が立ったけど、同時になんか不思議な郷愁とでもいうべきか、懐かしい気持ちにもなった。
今小学生の甥っ子(怖がり)からすると、洒落にならん怪談らしいのだが。
「カチャカチャさん」=「カチャおじ」だったとしたら、今もあのおっさんはさまよっているんだろうか?
そうだとしたらもの悲しい話だなと思った。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
静かに壊れていく日常
井浦
ホラー
──違和感から始まる十二の恐怖──
いつも通りの朝。
いつも通りの夜。
けれど、ほんの少しだけ、何かがおかしい。
鳴るはずのないインターホン。
いつもと違う帰り道。
知らない誰かの声。
そんな「違和感」に気づいたとき、もう“元の日常”には戻れない。
現実と幻想の境界が曖昧になる、全十二話の短編集。
一話完結で読める、静かな恐怖をあなたへ。
※表紙は生成AIで作成しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる