3 / 15
梶塚家にご挨拶3
しおりを挟む
口元を隠している手も、顔も、その体全体も、華奢で可愛らしいはずなのに、少し釣り目がちで印象的な目が彼女の勝気さを滲ませていて、ただ可愛いだけの子ではないことを窺わせる。どんな手入れをしているのか、サラサラと肩下まで伸びた黒髪は艶やかで、煌めいているようにも見えるほど綺麗だ。
その美少女が、にこりと笑みを浮かべながら綺麗なお辞儀をした。
「初めまして、祥子さん」
「え……えっ!?」
知らない美少女に微笑まれ、名前を呼ばれて驚くわたしにその子はにこやかに続けた。
「梶塚郁真の妹の幸音です。今日お会いできるのを楽しみにしていたのでつい、こうしてお迎えに来てしまいました。外で立ち話もなんですし、どうぞ中でお寛ぎください」
「祥子さん、どうします?帰りますか?」
「えぇっ?」
梶塚くんの妹を名乗った美少女をまるで無視した梶塚くんの発言に目を剥いていると、美少女幸音さんが涼やかな声で呼び止めた。
「兄さん、いつまでも外にいたら祥子さんが疲れるよ?それに、せっかくここまで来たのに祥子さんに無駄足を踏ませるつもりなの?そもそも祥子さんが挨拶したいって言って来てくれたんだよね?そのお願いを無下にするつもりなの?」
「勘違いしないでください。祥子さんに確認しているだけでしょう。祥子さんもまだ色々と疲れているでしょうから、日を改めたほうがいいと思って提案しただけです」
……仲、悪いのかしら?
そう思うほど、対する梶塚くんは今まで見せていた笑顔をすんと潜めて、学校で見慣れていたはずの無表情とも言い難い喜怒哀楽の淡い表情を浮かべて幸音さんに応えている。
見慣れていたはずのその表情に見慣れなさを感じて、わたしは不思議な気持ちになった。
「どうかしましたか、祥子さん」
「……えっ、え、う、」
すると梶塚くんが最近見慣れた笑顔でわたしの顔をのぞき込むものだから、先ほどとはまた違う顔の近さに動揺した。
だって幸音さんの、美少女の兄である郁真くんも、よく見ると整った顔立ちなのだ。いままであまり気にしてなかったけれど、『好き』だからそう見えるんじゃないかと思ったこともあったくらい気にしていなかったけれど、改めて明るいところで間近に、真正面から迫る迫力には思わず身が引いてしまう。
「ちょっと兄さん、」
「そういえば、さっきまた名前で呼んでくれませんでしたね?今度からペナルティでも付けましょうか?」
「えっ!?」
そうだったかしら?
言いかけた気はするけれど、しかし言わなかったという自信もない。
疑問には思ったけれど、まるで漫画やゲームに出てくるようなセリフに、過去読んだことのある『話』が脳裏を掠めて大げさに体がビクッと反応し、浅い思考は霧散する。
そんなわたしの手を、かじ……郁真くんが掬い上げた。
「例えば、一回間違えたら一分間祥子さんの手を独占させてもらうとかどうです?」
「え……そ、それってペナルティなの?」
思ってたより恥ずかしいことでも怖いことでも大変なことでもなく、つい、そんなことを聞いてしまった。
そんなことがペナルティになるのかと、純粋に思ってしまったのだ。
「なりませんか?」
「えっ、ひっ……!?」
手を、指の間を、再びそっ……というよりも、つぅー……と、指先でなぞるように撫でられてぞわぞわする擽ったさに悲鳴を上げそうになる。
「っは、離してかじっ、郁真くんっ」
「ペナルティに、なりますよね?」
かじ……郁真くんはそのままつぅっと指の間を辿った後、手の甲や掌も五本の指を器用に使ってさわり、さわりと撫でていく。
「ぅ、っ……や……、なるっ、なるからもう離して……っ!」
撫でられた跡が、じわじわと続く擽ったさとは違うなにかを訴えていて落ち着かない。
ただ手を撫でられているだけだというのに、覚えのない妙に不思議で変な感覚が広がる。
撫でられた直後の擽ったさと、跡に残る別の感覚に手が、喉元が、頭が震えて、
「ごほんごほんっ!」
「!」
再び聞こえたわざとらしい咳払いに合わせてパっと手を引き寄せる。
……本当におかしい。
ただ手を握られ、撫でられていただけのはずなのに、変な感覚が残っている。
嫌ではないがイヤに気になって自分でそっと擦り撫でるが変な感覚などは感じないのに、まだ変な感覚が残っていてついつい思い起こそうとしてしまう。
いったい今のはなんだったのか、考えたいのに考えたくない。
矛盾する様々な気持ちと、残った感覚、そして手を握られてから幸音さんの存在をすっかり忘れていたことに、恥ずかしさが顔に熱を集め、心臓がどきどきと異常に鳴っている。
「えー……あの、父も待ってますし……いいですか?」
「ごっ、ごめんなさい……」
視線を玄関に向けながら言う幸音さんに、無性に居たたまれなくなり肩を縮めた。
「祥子さんが謝ることは無いですよ」
「そうですよ。でも兄さんは反省して」
「反省?それは幸音でしょう、可愛そうにこんなに委縮してしまって……」
わたしの肩を包むように添えられる郁真くんの大きな手にビクリとなぜか体が驚いたそのことに、わたし自身が驚いた。
「ち、違うのよ郁真くんこれはっ、」
「キモチワルイっ」
「え……」
郁真くんの言った『委縮』について否定しようとしたら、不意に「気持ち悪い」なんて言葉が飛んできた。
わたしがなにか粗相をしてしまったのか、不快な気持ちにさせてしまったのか、せっかくの初顔合わせでとんだ失態をしでかしてしまったのではないか。
心当たりがありすぎて、まだ赤い顔の熱がサアッと引くのを感じながら再び謝罪を口にする前に、幸音さんが勢いよく頭を下げた。
「ごめんなさい!違うんです、あまりにも兄……が!兄さんが気持ち悪くて気持ち悪くて気持ち悪くて!つい口が滑っただけなんですごめんなさい!」
「全く謝罪に聞こえませんが、祥子さんの手前許しましょう」
「はいっ!すみませんでした!ありがとうございます祥子さん!」
「えっ、え……?」
「仕方ありません。幸音の言うことにも一理ありますし、そろそろ上がりましょうか」
「ぇえっ?」
流れるように交わされた兄妹のやり取り。
その内容付いていけずに「えっ」と戸惑う間にまたいつの間にか取られていた手を引かれ、あれだけ悩み足踏みしていたはずの玄関を通り抜けてしまい、わたしはついに梶塚家へと足を踏み入れたのだった。
その美少女が、にこりと笑みを浮かべながら綺麗なお辞儀をした。
「初めまして、祥子さん」
「え……えっ!?」
知らない美少女に微笑まれ、名前を呼ばれて驚くわたしにその子はにこやかに続けた。
「梶塚郁真の妹の幸音です。今日お会いできるのを楽しみにしていたのでつい、こうしてお迎えに来てしまいました。外で立ち話もなんですし、どうぞ中でお寛ぎください」
「祥子さん、どうします?帰りますか?」
「えぇっ?」
梶塚くんの妹を名乗った美少女をまるで無視した梶塚くんの発言に目を剥いていると、美少女幸音さんが涼やかな声で呼び止めた。
「兄さん、いつまでも外にいたら祥子さんが疲れるよ?それに、せっかくここまで来たのに祥子さんに無駄足を踏ませるつもりなの?そもそも祥子さんが挨拶したいって言って来てくれたんだよね?そのお願いを無下にするつもりなの?」
「勘違いしないでください。祥子さんに確認しているだけでしょう。祥子さんもまだ色々と疲れているでしょうから、日を改めたほうがいいと思って提案しただけです」
……仲、悪いのかしら?
そう思うほど、対する梶塚くんは今まで見せていた笑顔をすんと潜めて、学校で見慣れていたはずの無表情とも言い難い喜怒哀楽の淡い表情を浮かべて幸音さんに応えている。
見慣れていたはずのその表情に見慣れなさを感じて、わたしは不思議な気持ちになった。
「どうかしましたか、祥子さん」
「……えっ、え、う、」
すると梶塚くんが最近見慣れた笑顔でわたしの顔をのぞき込むものだから、先ほどとはまた違う顔の近さに動揺した。
だって幸音さんの、美少女の兄である郁真くんも、よく見ると整った顔立ちなのだ。いままであまり気にしてなかったけれど、『好き』だからそう見えるんじゃないかと思ったこともあったくらい気にしていなかったけれど、改めて明るいところで間近に、真正面から迫る迫力には思わず身が引いてしまう。
「ちょっと兄さん、」
「そういえば、さっきまた名前で呼んでくれませんでしたね?今度からペナルティでも付けましょうか?」
「えっ!?」
そうだったかしら?
言いかけた気はするけれど、しかし言わなかったという自信もない。
疑問には思ったけれど、まるで漫画やゲームに出てくるようなセリフに、過去読んだことのある『話』が脳裏を掠めて大げさに体がビクッと反応し、浅い思考は霧散する。
そんなわたしの手を、かじ……郁真くんが掬い上げた。
「例えば、一回間違えたら一分間祥子さんの手を独占させてもらうとかどうです?」
「え……そ、それってペナルティなの?」
思ってたより恥ずかしいことでも怖いことでも大変なことでもなく、つい、そんなことを聞いてしまった。
そんなことがペナルティになるのかと、純粋に思ってしまったのだ。
「なりませんか?」
「えっ、ひっ……!?」
手を、指の間を、再びそっ……というよりも、つぅー……と、指先でなぞるように撫でられてぞわぞわする擽ったさに悲鳴を上げそうになる。
「っは、離してかじっ、郁真くんっ」
「ペナルティに、なりますよね?」
かじ……郁真くんはそのままつぅっと指の間を辿った後、手の甲や掌も五本の指を器用に使ってさわり、さわりと撫でていく。
「ぅ、っ……や……、なるっ、なるからもう離して……っ!」
撫でられた跡が、じわじわと続く擽ったさとは違うなにかを訴えていて落ち着かない。
ただ手を撫でられているだけだというのに、覚えのない妙に不思議で変な感覚が広がる。
撫でられた直後の擽ったさと、跡に残る別の感覚に手が、喉元が、頭が震えて、
「ごほんごほんっ!」
「!」
再び聞こえたわざとらしい咳払いに合わせてパっと手を引き寄せる。
……本当におかしい。
ただ手を握られ、撫でられていただけのはずなのに、変な感覚が残っている。
嫌ではないがイヤに気になって自分でそっと擦り撫でるが変な感覚などは感じないのに、まだ変な感覚が残っていてついつい思い起こそうとしてしまう。
いったい今のはなんだったのか、考えたいのに考えたくない。
矛盾する様々な気持ちと、残った感覚、そして手を握られてから幸音さんの存在をすっかり忘れていたことに、恥ずかしさが顔に熱を集め、心臓がどきどきと異常に鳴っている。
「えー……あの、父も待ってますし……いいですか?」
「ごっ、ごめんなさい……」
視線を玄関に向けながら言う幸音さんに、無性に居たたまれなくなり肩を縮めた。
「祥子さんが謝ることは無いですよ」
「そうですよ。でも兄さんは反省して」
「反省?それは幸音でしょう、可愛そうにこんなに委縮してしまって……」
わたしの肩を包むように添えられる郁真くんの大きな手にビクリとなぜか体が驚いたそのことに、わたし自身が驚いた。
「ち、違うのよ郁真くんこれはっ、」
「キモチワルイっ」
「え……」
郁真くんの言った『委縮』について否定しようとしたら、不意に「気持ち悪い」なんて言葉が飛んできた。
わたしがなにか粗相をしてしまったのか、不快な気持ちにさせてしまったのか、せっかくの初顔合わせでとんだ失態をしでかしてしまったのではないか。
心当たりがありすぎて、まだ赤い顔の熱がサアッと引くのを感じながら再び謝罪を口にする前に、幸音さんが勢いよく頭を下げた。
「ごめんなさい!違うんです、あまりにも兄……が!兄さんが気持ち悪くて気持ち悪くて気持ち悪くて!つい口が滑っただけなんですごめんなさい!」
「全く謝罪に聞こえませんが、祥子さんの手前許しましょう」
「はいっ!すみませんでした!ありがとうございます祥子さん!」
「えっ、え……?」
「仕方ありません。幸音の言うことにも一理ありますし、そろそろ上がりましょうか」
「ぇえっ?」
流れるように交わされた兄妹のやり取り。
その内容付いていけずに「えっ」と戸惑う間にまたいつの間にか取られていた手を引かれ、あれだけ悩み足踏みしていたはずの玄関を通り抜けてしまい、わたしはついに梶塚家へと足を踏み入れたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる