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◆一章 ◆ 始まりの場所

優月様。

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 清兵衛は「優月様」をこの地に逃がすまでの経緯を話し始めた。




 それは遡ること753年前…。



 国には大王オオキミと言う皇帝が頂点に君臨し、その下に武家と貴族がどちらが政権を握るか争いが続いていた。




 一人は東側の国をほぼ制圧していた貴族『月鷲 忠興げっしゅう ただおき 』

 そしてもう一人は西側の国を治めていた豪族上がりの武将『鷹我 安成おうが やすなり 』
 

 元々は皇帝の護衛として、いくつかの公家や武家が支えていたが、月鷲の年寄としより達は、大王を頂点から引きずり下ろし無き者にして、月鷲家が頂点へ君臨しようと…謀反を起こそうとしていた。。元は大王を守る二つの家臣だったのだが、大王の父上『天守様』の逝去により、月鷲家の年寄りどもは好き勝手に政権を動かし始めた…。
 税の横領…強奪…女、子供にも容赦のない力政治。
 その頃同時に都付近に「妖魔」なる者が出没し始め住民達は不安になっていた。

 妖魔も実は月鷲の手先では無いかと噂されていた。





 元々、天守様は、鷹我家のその素質を見抜いて居たのか真面目で忠義を尽くす鷹我 安成を信頼しており、鷹我家に三種の神器の警護を任せていたのだ。それを面白くない月鷲家年寄りは神器を奪い、大王を消し、月鷲が頂点に立ち私腹を肥やそうと若い忠興を担ぎ上げ謀反の首謀者とし、影で甘い汁をすすっていた。


 そこから『鷲鷹の戦い 』の火蓋が切られた。


 あの手この手を使い、月鷲の勢力はとどまることを知らず鷹我家は都を追われる始末、どんどん南下し最終決戦『鬼岬きさきの戦い 』で、三種の神器と鷹我 安成おうが やすなりを亡くす。


 鷹我軍のほとんどは戦死、自害し、捕まった者達は拷問に合い死ぬか、生き残れば奴隷として死ぬまで使われる。

 その追手を掻い潜り、鷹美 清兵衛は『優月』を人知れず山の中に隠し生涯を終えた。

 この、『優月』と言う者…都では陰陽師として活躍していた。
 その当時、妖魔なる者が都の人間を呪い、疫病が流行したり、人攫いをしたりと悪事を働いていた。

 そこで力を発揮したのが、陰陽師の家系に生まれたまだ若い明堂院 優月みょうどういん ゆうげつと言う男児だった。

 優月はその頃齢13、まだ幼さが残る姿だが、その容姿はどことなく大人びてクリクリとした瞳からは妖艶さすら感じられる程だ。長い髪を高く結びヒラヒラ揺れると、催眠術に掛けられた様に見惚れてしまう程だ。純白の着物の上に薄手の藤色の羽織がなびき、誰もが釘付けになる…そしてその霊力は大人以上の力を秘め…瞬く間に妖魔を倒した。

 天守様はそんな優月をいたく気に入り皇室御抱えの陰陽師として招き入れた。


 優月は優秀で、星読みも出来た(占い)。


 月鷲家はそんな優月の力も利用し権力を我が物にしようとその身を狙っていた。

 謀反とは、三種の神器と優月を狙い戦を始めたみたいなものだった。
 
 そして最後の戦場で、優月を必用な追手の手から命からがら清兵衛らが守り逃げ延びたのだった。


 

 しばらくは、穏やな生活が続いていたが、優月は傷と旅の疲れ、心労から病に倒れその年の春にその生涯を閉じた。齢25の頃だった。



「と、言うわけでここに優月様の墓を建てたが、追手に分からぬ様、祠風にしたのだ、そしてその裏には我々優月様と共にこの地に腰をおろした者の墓を建て、代々我々鷹美家がひっそりと人知れず墓守りし続けている…と言う事だ! 」


 清兵衛の長い話を聞き終えた理功はその遠い歴史の中の彼らの思いに真剣な表情になっていた。

「清兵衛さん…大変ご苦労なされたんですね…僕達、現代人はその話を学校で学びましたが、優月様の事は記されてなかった…歴史の裏側でも壮絶な歴史があったんですね…ごめんなさい…お墓もないがしろにしてしまって…これからは僕も、僕の子孫にもこの話を伝えて、しっかりと墓守りしていくので、どうか安らかに成仏してください! 」

 理功は清兵衛に手を合わせた。

 すると、清兵衛はムッとした顔になり焦り口調で説明を始めた。


「いやいやいやいや…!!まだ成仏はできんのだ! 」


 理功はきょとんとして話を聞いている。


「聞いてくれ!実は最近、不穏な空気がこの近くを彷徨っている…嫌な空気だ…実は優月様の墓の下に八咫の鏡を隠している!そう、三種の神器の一つだ…それの気配を消していたのだが、永い年月の間に術が薄れ、少しずつ鏡の気配が外に流れてしまっている様だ…理功よ、来る途中、黒い影など見やせなんだか? 」


 理功はハッとした。


「確かに昨日ここの回りを黒い影がウロウロしてた様な…やっぱりそう言う類いの影なんですか?僕にも母さんみたいな霊力があるんでしょうか? 」


「お…前……自分の力をまだ知らないのか?お前の力は私には見えておるぞ!お前はその得体の知れない者を恐れるがゆえ、知らぬ間にその力を自ら封印しておる様だ…私には、お前の霊力しか見えておらん! 」


 理功は『んっ』と思い、清兵衛に聞き返した。


「えっと…そっちからは僕の姿はぼんやりしてるって事ですか? 」

「あぁ!そうだ!私にはお前は霊力の人形ひとがたにしか見えん、顔立ちや表情は分からん…見えておらん…!!アハハハハハハハハハハハハハ!!  」

 その自信満々の毛むくじゃらに少し呆れて理功は答える。

「しかし、僕には清兵衛さんはハッキリ見えて居ますが、髪の毛や髭など延び放題で表情や顔付きは見えません!物乞いの人みたいです… 」

「な!?何と!?お前はそんな所までハッキリ見えているのか?と、言うか、物乞いの様な姿とは!無礼者なり!!世が世なら切り捨てられるぞ!!  」


 毛むくじゃらは鼻息で髭が揺れる程怒っているが、理功は、ふと我に返りスマホを見ると仕事の時間が近付いている事に気がついた。

「いやぁー!!!?遅刻する!!ヤバい!!ヤバい!!清兵衛さん!!今日はこれで失礼します!!また近い内に来ますんで!でわ!! 」

 理功は慌ててその場を去ろうとしたが清兵衛に止められる。

「いや!待て!お主は今、中途半端に力を付けておる!危険だ!!注意せい! 」

 清兵衛は怪訝そうに理功に言うが、理功はかまっている時間は無いとばかりに適当にあしらう。


「わかりました!!また聞きに来ますんで!でわ!清兵衛さん!  」


 理功は転がる様に山から下りたのだった。


 清兵衛は一つため息を付くと、滝壺に向かった。そして写るはずもない自分の毛むくじゃらの顔を水面に写したがやはり見る事が出来なかった。




    
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