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◆一章 ◆ 始まりの場所

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 幾つもの時を越えて再開を果たした将成と理巧は二人の海を漂った。

 情熱的な時間は過ぎ穏やかな波打ち際の様な心地よさと理巧の呪文によって将成は深い眠りに着いた。


「…… 」


 眠った振りをしていた理巧は隣に居る最愛の男の深い寝息を確認すると、一筋の涙を溢し思い詰めた表情でその唇にもう一度そっと触れるとゆっくりベットから抜け出した。

 寝間着の浴衣を羽織り裸足のまま理巧は部屋の扉の前で一瞬決意が鈍る…『振り向きもう一度あの腕に抱かれ眠りたい… 』ドアノブを握る手が緩むと、大きく息を吸ってノブを強く握り部屋を出た。

 人知れず涙を流し誰にも見付からない様に鷹我家から出ようとした時、庭を警備していた清兵衛がその姿を見付け声を掛ける。


「理巧!!?大丈夫か?こんな夜更けにどこへ行く?動いても平気なのか? 」

 理巧の不穏な雰囲気に清兵衛は気が付いていた。

「………清兵衛……うん、迷惑かけたね……体調はだいぶ良いんだ…ちょっと外の空気吸いたくて出てきた…気にしないで…少し1人にさせて欲しい… 」

 笑顔の中に涙の後があからさまに見える表情の理巧は、不穏な表情を悟られまいとすぐに清兵衛に背を向けその場を離れた。

 清兵衛はその表情と、不自然な行動に困惑したが不穏に思い後を付けた。
 
 理巧は再び歩きだし門の方へ向かう……すると車のライトが外に現れ理巧は車の方へ向かう。


 ある程度距離を保ちながら様子を見ていた清兵衛は走り出した。


「理巧!? 」

 車に向かおうとする理巧に近づきながら清兵衛は叫んだ。


 理巧を迎えに来たのは、あの黒い外国車だった。外国車の後部座席を例の執事の男が開け理巧はそこに乗り込もうとしたが清兵衛の声に気が付くと清兵衛に向かって答えた。


「ゴメン…こうするしかないんだ…だから……見逃して欲しい!お願いだ清兵衛! 」

 涙をポロポロ溢しながら答えると清兵衛は『納得が出来ない!! 』と理巧を取り戻そうと執事に飛び掛かるも、執事は素早く理巧を車に押し込み、また仕込み銃で発砲してきた。


「パンッ!! 」



 ギリギリの所で清兵衛は避けたが、その乾いた銃声は山間に響き渡った。

 車はあっという間に闇に紛れ消え去り、理巧はまた居なくなった。

「理巧ーーーー!!!!!! 」


 その場に崩れ込んだ清兵衛は引き留められなかった悔しさと、無念さ……理巧の思い詰めた表情が頭から離れない…色々な感情で訳が分からなくなって居ると、銃声を聞き付けた十兵衛が倒れ込んでいる清兵衛を見付け大慌てで飛んできた。


「清兵衛!!!? 」


 清兵衛を抱え上げる様に起こすと、涙でぐちゃぐちゃになった清兵衛の顔に驚いた。

「おい!!?清兵衛!?何処か撃たれたのか!?大丈夫か!?痛むのか!? 」

「………撃たれては無い 」


 一瞬驚いた顔を見せた十兵衛だったが、撃たれてないと分かりほっと肩の力が抜けた。

「よかった……ケガは無いのか? 」

 聞き返すも、涙が止まらない清兵衛に戸惑い始める十兵衛だった。 


「理巧が………理巧が…… 」

「理巧がどうした!? 」

 十兵衛が聞き返すと清兵衛は慌てた様にさっきの出来事を思い出し将成を探す。

「おい!清兵衛!?どうしたんだよ!! 」

「将成に!将成に…償わなければならない…!あいつは何処だ!? 」

 すると、騒ぎを聞き付けた和子さんが眠い目を擦りながら現れた。

「何ですか?!騒々しい!今の大きな音は何です?で、あなた達は何を慌てて居るんです? 」

 十兵衛は相変わらずの言葉で和子に答えた。


「おっ!おばちゃん!将はどこだ!?問題が発生した!すぐに知らせないといけねーんだ! 」

 何の事情も聞かされてない十兵衛だったが、変な所は機転が利くというか…清兵衛は焦りと動揺で視点が定まらない。

「将成坊っちゃんは、地下の怪我をされてる坊っちゃんの付き添いにいつも行かれては朝帰ってきますよ!今頃あの男の子の付き添いにお部屋に居るのでは? 」

 すると清兵衛は地下室に向け走り出した。

「ちょっと!あなた達!?もう夜中なのですよ!静かにして下さいね!!! 」

 和子は清兵衛達にそういったが!清兵衛達は慌ててその場を去っていった。

「まったく…失礼な人達だわ!特に石田!フンッ!寝ましょ!寝ましょ! 」

 そう言うとプンプンと興奮気味に部屋に戻る和子だった。







 地下室に着くと、清兵衛は慌てて扉を開け、眠って居る将成を見付けた。


「将成!!将成!! 」

 何故か何度呼び掛けても目覚めない将成は夢の中にいた。



 

 
 将成はまた深い深い暗闇に飲み込まれていた。


 ポコポコ……と水泡が湧き出ては上へ上へと上がっていく、しかし上は何処まで続けば辿り着けるのか……光りすら見えない。


「またか…… 」

 絶望的な暗闇のなかで将成は身を丸めその感覚に身を委ねている。

「寒い……何故こんなにも寒いんだ…… 」


暗闇に追い討ちを掛け寒気まで襲ってきた。微睡みの途中の感覚の将成の背筋に一滴の雫の様なものがポトンと落ちてきた。


「うっ…冷たい…水滴か?ここは水の中だろう? 」



『り………ま……さ……まさ……な…り… 』

「んっ……誰だ?俺は眠いんだ…… 」


 将成は誰かの呼ぶ声に反応を示した。

 すると草薙の剣が光ながら現れ暗闇を断ち切った。



『将成!!起きろ! 』


 ビクッと目を開けると行きなり眩しい光が差し込んできた。将成はその光が眩しく目を瞑った。

 次に目を開けた時には部屋に戻っていた。


「………あぁ……んっ?理巧……?……あ?清兵衛!? 」


 将成は目を覚まし腕の中の理巧を探したが腕の中にはもうなにもなく、ものすごい形相で目の前に清兵衛が跪き将成に事の素性を話し始めた。

「どうした……清兵衛? 」

 裸の将成は取り敢えず身なりを整えた。

「すまん……私は償わねばならん……将成…心して聞いてくれ!! 」

 そう言うと清兵衛は土下座の姿勢になり両手を床に突き先程の理巧の事の経緯を話した。


「なっ……!?何!?」

将成は話しの途中にも立ち上がり動揺し声を荒げた。

「全て私の責任…いくら土下座をしようが許される事では無い…すまぬ……すまぬ!!うぅ… 」

 清兵衛はその場で泣き崩れ、バッと服の腹の辺りをめくりあげ刀を突き付けようとした。

「待て!!清兵衛!! 」

 清兵衛はまたビクッとして手を止めた。

「何を考えている!!お前が腹を斬ろうが理巧は帰ってこない!!それにお前は腹を斬っても死なん!! 」

 清兵衛はハッとして刀を落とし泣き崩れた。

「……うぅ…うっうぅ…あぁぁ… 」

 将成はゆっくり清兵衛の前に座り肩に手を当てた。

「清兵衛…お前の責任でも誰の責任でもない…これは理巧が決めた事……俺達を傷付けたく無い、町を守りたいと望んだ理巧の思い……あいつを安心させて繋ぎ止められなかった俺の責任だ…だから自分を責めるな! 」

 将成は悔しさを押し殺しているのか、清兵衛を掴む手がワナワナと、震えていた。

「…将成? 」

 清兵衛は顔を上げ将成を見た。

「……大丈夫だ!今は冷静を保つのが必死だが… 」


 すると一部始終を見ていた十兵衛はほっと胸を撫で下ろし一言呟く。


「清兵衛よぉ…気持ちは分かるが、お前は…腹を斬っても死ねねーだろ?幽霊なんだからよ… 」

 将成と清兵衛はハッとお互いを見つめ合うと、張り積めた緊張感が解けたのか清兵衛は顔を真っ赤にして自分の行為を恥じらった。

 将成もその事を思いだし「フンッ」と、鼻で笑い立ち上がり背中を向けた。

「清兵衛……そして十兵衛…また俺に力を貸して欲しい!理巧を取り戻す為……月鷲の目論みを果たせさせない為、俺は今一度棘の道を突き進む!その為にはお前達が絶対に必要だ… 」

 クルリと振り返り深々と頭を下げる主君に、なんとも誇らしげな家臣達には切って切れない深い繋がりが見えた。


「親方!!当たり前だべ!そんな事よー!あんたに命預けてるからよ!好きに使ってくれ! 」

 短い人差し指で丸い鼻を擦りながら十兵衛は答えた。

「私は……命は無いが…在るものとして変わらずにお前に尽くす所存だ…この魂が尽きるまで共に戦う! 」

 清兵衛は、幽霊なのを恥ずかしそうに頭をかきながら将成に誓った。


「お前達…… 」


 そこへ遅れること松風もやって来た。

「将成殿!!私も忘れては居ませんか!?私も彼らと同様あなたと共に在ります!共に戦いましょう! 」


「……ありがとう…これからが想像出来ないが、とにかく頼む!!本当に…良き家臣に恵まれた… 」


 将成は胸が熱くなりまた背中を向けた。

 すると十兵衛が売り言葉に買い言葉で返す。


「こっちこそだべ!良き主君に恵まれた!って所だ!ガハハハ!! 」


「フン!バカ野郎が… 」

 張り積めた空気が少し和み将成は冷静さを少し取り戻した。


 四人は新たに絆を確かめ合い誓い合った。そして次なる目標を定め歩きだしたのだった。





  
第一章「始まりの場所」完


 

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