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◆第二章◆ プロセス。

フウイン。

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 そもそも、何故月鷲げっしゅうが動き始めたのか……と言うのは、鷹我 儀則おうが よしつねが議員に立候補した頃に遡る。




 それまで息を潜めていた鷹我の人々だったが、儀則が立候補を期に過去の因縁などは既に薄れ忘れ去られ、正々堂々と主張し始めた。


 儀則は歪み始めた国を建て直し、皆が平等に生きると言う最低限の政策を背負い政治の世界に足を入れた。


 一方の月鷲 尊富は、代々続く月鷲財閥の御曹司として名を知られ、その、強大な財閥の影響力を利用し、表向きは経営コンサルタントとしてメディアや書籍など多方面で活躍していたが、反面、影では議員と金で繋がっていた。自分の地位を守るためにはどんな手をも使った。 


 そう、その昔と同じように権力に身を任せていた。


 邪魔とあらば簡単に人を消す事も厭わなかった。




 そして儀則が表舞台に出現した頃と時を同じくして、月鷲の所有する地方の山深い鉱山で、あるものが発見され、運命は回り始める。







「おい!こっち来てくれ!! 」


 一人の作業員が大声で同僚を呼びつけた。

「どうした?何か出たのか? 」


 鉱山の現場ではよく有る話らしいが、今回のモノは少しいつものとは違っていた。


「それが、何だか変な模様が出てきたんだ!これって……何だ?石の蓋か扉の様だが… 」



 そこには人の背丈より少し大きな石の扉らしき物が現れた。
扉の表には五芒星が書かれており、数枚の札で封印されたようになっていた。
 明らかに怪しさ満点なその石の壁は作業員達を戸惑わせた。


「おい…触るなよ!変な札が貼ってあるし、何かの祟りをもらうかも知れないぞ!? 」


「今時、祟りなんてあるもんかよ!って言って触ったらやっぱり祟られましたって具合かもな!?アハハハハ!」


 一人の作業員は面白おかしくわらった。

「お前!そんなバカにしてると一番に祟られるぞ!しかしどーするよこれ? 」

「取り敢えず現場主任に報告しよう!仕事進まないしな! 」


 作業員はすぐ上へ報告すると、それからしばらくそこの作業は中断し、作業員達は他の現場の応援に行った。



 遺跡かも知れないと言う事も在り、現場主任は上へ相談の連絡をすると直ぐ様、専門家に連絡が行きその日の内に現場検証が始まった。






「現場はここですか? 」

 考古学者の初老の男と腰の低いメガネの中年の男がやって来た。
 時刻はもう15時を過ぎ夕方に向かっていた。


「こちらです、足場が悪いので気を付けて下さい 」

 現場主任と数人の作業員達は後に続く。


 すると一人の作業員が前に出ると詳しく見付けた時の状況を説明しながら案内を始めた。


「さぁ、到着しました! この岩の裏手です 」


 その岩の裏手に回り込むと正面に五芒星が刻まれた岩戸が現れた。
 やはり見た目は札で封印されている様だ。


 「おおっ!コレは!? 」

 初老の学者は目を見開き壁に走り寄りまじまじと観察し始めた。
 メガネの助手は1テンポ遅れて追い掛けた。


「フムフム……山邑くん!これは歴代の王の墓の特徴に似ていると思わないか! 」

 初老の学者は助手のメガネを山邑くんと呼び意見を求めた。

「はい……この五芒星に色付けしている塗料を調べれば大体の時代が解るかと思います…が、この札は?歴代の王の墓にはこの様に大量には貼られて居ません… 」


 メガネを指でずり上げながら考え深げに答えた。

「うむ…そこなんだよ山邑くん!この札の量は尋常じゃない!それに見てくれ!この五芒星はよく観ると可動式になっている!むぅー!!うぉー!!  」


 初老は五芒星を力いっぱい押し込もうとしたがピクリともしない。


「はぁ…はぁ…観ての通り動かない!何かの罠なのか、鍵の様なモノが必要なのか…はたまた人の手意外で押し込むのか?まぁ、それをこれから研究して行くだけだ!しかし不思議な形式だな…これは世紀の大発見になるかもしれんな! 」

 初老の学者は鼻息荒くあからさまに興奮していたが、メガネは冷静に答えた。

「しかし、この不思議な札で封印?されているのなら科学の力では解明できない事が起こるかもしれませんし、慎重に進めるのが好ましいかと…先ずは多方面の専門家の先生方にも協力願うのが最善でしょうね… 」

 メガネが話して居ると太陽が段々傾きはじめ五芒星とその日の傾きが同じ位置に達した。

 今までは長い年月闇に閉ざされていたが、今回の工事でむき出しになった五芒星に陽が当たると、星は光を仄かに放ったが、回りがまだ明るいため学者も作業員も誰も変化に気が付かない、それどころか話に夢中だった。

 が、メガネの山邑は背後に異様な気配を感じゆっくり振り返る。

「……ぁ… 」

 山邑は五芒星の光に目が離せなくなり、彼自身の意識もその光に支配された様にその場にぼんやりと立ち尽くしている。


 山邑以外のメンバーはまだ彼の変化に気が付く者はなく、今後の話などしていたが、長い間話に参加しない山邑を不思議に思った現場主任がふと彼に目を向けた。


『んっ?どうしたんだろう?さっきまで話に参加していたのに急に壁をぼんやり見ている?しかもピクリともしないな… 』

 現場主任が心の中で呟いていると、彼の視線の先が気になった作業員らが次々と主任の見ている方向を見た。

「んっ?主任どうかされましたか? 」


「あれ?いつの間に山邑さんは壁の方へ行ってたんですかね?スゴい壁を見てますが何か見付けたんでしょうかね? 」


 それぞれが山邑を見て言った。

 山邑の上司の初老の学者は彼に声をかけた。


「山邑くん!何か見付けたのかね!?本格的な作業は明日から始めるとして、今日は写真を撮ってそろそろ引き上げようじゃないか! 」

 そう声をかけると初老の学者は山邑に近づき肩をポンと掴んだ。


「……………オマエハ…ダレダ………ワタシハ……オオキミヲマモルモノ……ヨウガナイノナラ……タダチニ…タチサルガヨイ…… 」


 山邑は兎の様に目が紅くなり、上司に牙を剥き威嚇するが、驚いた上司はその状況が飲み込めずオロオロと山邑に話続けた。


「や…山邑くん…どうしたんだ?何を言っているんだ?気分がすぐれないのか? 」

「……タチサラヌカ?…オオキミノ…ネムリヲ……サマタゲルモノハ……ハイジョスル…… 」


「排除?どうしたんだね?山邑くん!しっかりしたまえ!!? 」


 初老の学者は山邑の手を掴み帰ろうと引くと、山邑は自らの手を振り上げ空高く上司を放り投げ岩場に投げ落とした、すると熟したトマトが落ちて弾けた様に学者は即死した。


「サラヌモノ…ハイジョ…スル…… 」


 作業員達はその光景に驚き恐怖のあまり、動けなくなった者や、夢中に逃げ出す者がいた。


 山邑は動けない作業員達を次々と凪払ったり放り投げたり様々なやり方で排除していった。


 運良く逃げ延びたのは現場主任と一人の作業員だけだった。




 慌てて事務所に入るなり、一人の作業員は気がおかしくなり、高笑いを始めた。




「アハハハハハハハハハハハハハ!人って投げたら死ぬんだ!!潰れて死ぬんだ!アハハハハハハハ!アイツ死んだ!!アハハハハハハハハハハ……… 」

 そして目を見開きガタガタ震えながら黙り込んだ。


「しっかりしろ!! 」


 現場主任は気が狂った作業員の肩を掴み平手打ちをした。

「………俺も…死ぬのか……死にたくない…ううぅ…死ぬのか………?……うわぁァァァァーーー!! 」


 その作業員は事務所から飛び出すと山中に消えた。



「ど…どうしたんです?何が?何があったんです?  」


事務所に居た他の作業員が主任に詰め寄る。



「あっ……あぁ…それは…信じてもらえるか…定かじゃないが……… 」


 主任は今体験した事をすべて話した。


「えっ?……そんな事…… 」


 半信半疑で問い返した。


「嘘であって欲しい……これは事実なんだ……悪いが、本社に連絡をしてくれないか?……俺は部長へ連絡を入れる……あっ…警察には上と相談してから考える。取りあえず今はここだけの話しだ… 」


 現場主任は疲れきった表情のまま連絡を始めた。

 事務所に居た作業員もそれぞれに連絡をつけた。






 そしてその話しは月鷲グループの会長、月鷲 尊富の耳に入ったのだった。





「あぁ…分かった……その件は内々にしろ!他には広めるな!あぁ…上とマスコミへの口止めもいつもの手筈でやれ! 」


 尊富は電話の相手にそう言うと、部屋の椅子にどっしりと腰をおろし、静かに笑い始めた。



「………ククク………フフ……フハハハ!!運が私に味方し始めたか!アハハハハハハハ!それとも罠か!?アハハハハハハハ…どちらにせよコレは好機!!アハハハハハハハ!!見ておれ!鷹我!今度こそお前らを滅ぼし、我が手にこの世界を!!……フハハハ…フフ……アハハハハハハハハハハ!!  」



 この事件から月鷲が動き始める。






 




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