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◆第二章◆ プロセス。
クチドメ。
しおりを挟む鉱山の事件は翌日には事件が起きた遺跡かも知れない場所が封鎖された。
そして社員達は口外を禁じられ、口々に不満がつのった。
「あんな事件が起きたのに何故公にしないんだ? 」
一人の若い男性作業員が口にした。
「しっ!!そんな大きな声でその件に触れるな! 」
もう一人の中年の作業員が人差し指を口に当て、若い作業員の肩に手を回し事務所の角まで連れて来ると小声で話し始めた。
「何でも、重大な遺跡かも知れないって言う話だ!?で、月鷲財閥の会長がよ、あちこちに手回しして内々にしたらしいぞ!?警察も手が出せないって!そして、死んだ連中は作業中の岩盤崩落事故として処理されたんだと!信じられない金額を口止め料として配られたらしいぜ… 」
どこから聞いてきた噂なのか、中年は目を見開き不満げに語った。
「!?それじゃ…何だか後ろめたい事でも有るみたいなやり方じゃ無いですか!?死んでるんですよ?人が! 」
「この件は何か有るに違いないが、俺達ではどうすることも出来ないみたいだ…マスコミにも手が回ってるらしく、この件には関われないんじゃないかな? 」
二人ともモヤモヤとしていると、若者の背後に気配がした。
「まぁ、何の無駄話をしているのですか?あなた達は業務に戻りなさい!ここの責任者は誰ですか? 」
そこには月鷲財閥本社の尊富の第二秘書の霧谷と名乗る三十代半ば程のグラマラスな女性が腕を組み仁王立ちに二人の作業員に話しかけた。
あまりのインパクトに作業員二人は霧谷に見惚れて何も言えないで居ると奥から主任が出てきた。
「コレは!!申し訳ありません!責任者は私でございます! 」
霧谷は主任が現れると、ズカズカと主任の目の前に立ちその顔に指を当て額から顎までなぞり顎をクイッと指先で持ち上げ顔を近づけ息を吹き掛けた。
「ふぅぅ…職員教育はキチンとお願いしますね、ちゃんと見張ってもらわないと、こんなにもペラペラと無駄口ばかりで仕事にもなりません…おしゃべりする暇が有るなら、一つでも多く鉱石でも掘り出しなさい!!それに今回の件は他言無用ですよ…守秘義務違反で出るとこに出してもいいんですよ? 」
主任は青白い顔になり、ガタガタと震えだしその場に土下座した。
霧谷は見下す様に主任の背中に足を乗せ、見世物にしている。いや……コレは見せしめだ。
二人の作業員も主任の後ろに行き、同じく土下座をし秘書の霧谷の前に頭を下げる。
「ホホホホ…分かれば良いのよ!分かれば!!さぁ!面を上げなさい!私の目を見て謝罪して!!…… 」
その言葉に二人は秘書の顔を見る、目があった瞬間に秘書の瞳に吸い込まれる様に釘付けになり、呪術の様なものをかけられた。
それから作業員は顔が青ざめ言葉と表情を無くした。
しばらくして、尊富が会長自ら現場の視察に訪れた。
鉱山に現れる事はほぼ無かったので、従業員達は緊張の半面、いつものテレビ等で見ている本物に会えると言う事もあり皆、興奮していた。
この日は大きな黒いワンボックスタイプの車で現れた。
いつもの様に、例の秘書兼運転手がドアを開けると後部座席からグレーのスーツに身を包んだ尊富が現れた。
足場の悪い場所に行くだけあって、珍しく足元は長靴だ。しかし、ブーツに見立てた洒落た物であった。
「会長…到着しました。事務所には寄って行かれますか? 」
秘書は無表情に淡々と訪ねる。
すると尊富は少しニヤケて口を開く。
「あぁ、従業員にもパフォーマンスしておくとするか、今回の件は他所に広めて貰っては困るからな 」
「かしこまりました…でわ、こちらを… 」
秘書は返事をすると、尊富に杖を渡した。だが、普通の杖ではなかった…その握りには丸い水晶が使われており、何か不思議な力を蓄えているようだ。
そして、事務所に立ち寄ると、案の定、従業員達は拍手で喜び歓迎し、女性職員に至っては泣き出す者も居た。
「こ…コレは!月鷲会長!お初にお目にかかります!私は鷲尾鉱山の主任をしております!源本と言います!本日はお忙しい中、御足労頂き誠に恐縮しております! 」
代表して主任が声をかけると、尊富はそれに答えた。
「ご丁寧にありがとうございます、この度は皆さんには辛い思いをさせてしまいましたね…業務中の事故であったにしても、この様な結果になってしまったこと…心よりご御詫び申し上げると共にご冥福を祈って、皆で黙祷を捧げる事にしましょう…源本さん、フロアに全従業員を集めて貰えますか? 」
ニッコリと優しく微笑む尊富の表情にドキドキしながら源本は了解し、数十分で全ての従業員を大フロアに集めた。
先ずは、鉱山の主任源本が挨拶をした。
「皆さん、本日はこの鉱山のオーナーでもある月鷲財閥「月鷲 尊富会長」が、お見えになりました!会長自ら今回の事故の件で視察調査及び慰霊に足を運んで頂いたとの事です。そして皆に挨拶がしたいとご多忙の中この様にお見えになりました!では、会長お願いいたします 」
すると、源本の横からスッと前に出ると、拍手が起こった。しかし、尊富は、静粛にと右手の手の平を前に見せ、先ず皆に深々と一礼した。
従業員達は一同に静まり、同じく繰り返すように一礼すると、面を上げ尊富の方に集中した。
「この度は皆さんこの様な事故に遇われ尊い命が犠牲になった事に深い悲しみと冥福を御祈りすると共に黙祷を
捧げたいと思います…では、黙祷!! 」
「………………… 」
全員で少しの間黙祷を捧げた。
その時、尊富は、秘書に渡された水晶の杖を自分の前に置き構えると、皆に声をかけた。
「では、面を上げて下さい 」
一斉に、全員が顔を上げ尊富に集中した瞬間、尊富はピカッと水晶を光らせた。
すると、従業員達はカメラのフラッシュを浴びて目が眩んだ様にしばらく眩しさに目を閉じ、ゆっくり目を開けると口々に話を始めた。
「主任!!皆集まりました!尊富会長はもうお越しなんですかね?! 」
何もなかったように一人の従業員が話し始めた。
「あっ……… 」
一拍間を空けて主任は言葉を発した。
「今日は……月鷲会長がお見えになるんだ!年に一度の視察に!もう来賓室にはお見えになられている! 」
さっき会ったばかりの尊富の事は無かった事になっているようだ。挙げ句の果て、記憶まで改ざんされている。
そして、主任はあたかも今日初めて会ったかの様に来賓室をノックして尊富と対面したのだった。
「お忙しい中、御足労頂き誠に恐縮でございます!鷲尾鉱山の主任をさせて頂いております、源本と申します!本日は会長のお越しを職員一同心待にしておりました!ささっ、こちらへお越し下さい!是非とも激励のお言葉など頂けたらと思います! 」
そして尊富は何食わぬ顔で従業員の前に現れると皆からは拍手喝采に女性職員からは悲鳴や涙を流す者まで現れ大盛況に始まり、職員に向け激励の言葉を冗談を交え口達者に話終えると皆の心を掴んだと同時に事件の事も皆の頭から消し無かった事にした。作業員達は興奮冷めやらぬまま各々持ち場へ戻り、尊富は例の現場へ足を向けた。
例の現場は既に注連縄に紙垂を垂らし結界が張られており、普通の人間の目にはただの岩にしか見えなくなっていた。
すると、岩戸の番人と化した研究者の助手として山に入っていた山邑が尊富の前に飛び出してきて行くてを阻んだ。
「ココヨリ…サキハ…オオキミサマノ…ネムル…ヤシロ…ナンビトタリトモ…チカヅクコトヲ…コバム…タダチニ…タチサルガヨイ…… 」
ギラリと目を紅く光らせ尊富に飛び掛かると、素早く彼を守るように秘書が前に出る。
『キンッ 』
っと、金属音が響く。秘書の杖から刀が現れ、山邑の爪の攻撃を防いだ。
そこへ尊富が出てきて持っていた拳銃で山邑の頭を撃ち抜いた。
『パンッ 』
あっという間の出来事だった。山邑は白目を向き仰向けに倒れ、二度と起きてこなかった。
「九条、コイツを片付けておけ… 」
尊富は秘書兼運転手の男を「九条」と呼び、その始末を任せると、九条の後ろに付いてきていた第二秘書の女を呼んだ。
「彌生!こちらへおいで… 」
女は、嬉しそうに猫なで声で尊富に媚を売る。
「はぁい!何なりと~!」
彌生と言う女は内股で小走りに尊富の腕に胸を押し付け近寄ると、その女の腰に手を回しイヤらしい手付きで尻に手をあてがい先へ進む。
尊富の護衛らしき黒服の男達も後へ続いた。
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