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◆第二章◆ プロセス。

カクセイノヒ。

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「兄ちゃん…さっきの人、こっち見たね?行ってみる?それよりか、あの小さい子供は兄ちゃんの小さい時の写真にそっくりだね! 」

 将成がそれに気が付いた。

「そ…そうだね、僕の小さい時みたいだ…だけどみんな着物みたいなの着てるし、髪の毛も束ねる程長いよ! それにあの兄上とか呼ばれてた人は将成に似てたね?!お侍みたいだ… 」

 儀則は、その場の雰囲気も少し様子がおかしいことに気が付いた。

 それはまさに儀則が今学校で習っている歴史の一幕の様な雰囲気だった。


「だけど、僕達は何処に居るんだろう?海に落ちたんだよね…? 」

 儀則はさっきまでの自分の記憶を整理した。


「うん…ボクは蹴られて落とされた…急だったからビックリして水をいっぱい飲んじゃったんだ…そしたら苦しくて…苦しくて、息が出来なくなってそこからは覚えてないんだ…気が付いたらここに居たよ 」

 将成は涙ながらに儀則に答えた。

「そうだよ…僕は将を助けなくちゃと思って飛び込んで探し回った…そしたらいつの間にか沖に流されてて…で、不思議な光を見つけたんだ…それを目指し潜ったら将が光の中に居たんだ!それで将を捕まえてからは記憶が無いんだ… 」


 そんな話をしていると、いつの間にか二人は屋敷の中に移動していた。


「兄ちゃん…ボクたち部屋に入ってるね… 」

 将成はビックリしていたが、儀則も同じく突然の事に驚いていた。

「……あぁ 」


 そこには傷だらけの安成と清兵衛が隣同しに座り、優月は時信を膝に乗せ安成の正面に座っていた。



「時信!!優月殿は忙しいのだ!!そこから降りろ! 」


 安成は時信に注意をすると時信はフンッとそっぽを向き、優月にしがみつく。
 それにイラッとした安成だが、優月と目が合いニッコリと微笑まれ手も足も出ない。 


「まったくお二人は仲が良いのか悪いのか…しかし今は争い合ってる場合ではありませんよ!」


「くっ…… 」

 安成は顔を赤くして下を向いた。


 すると優月は急に不思議な話を始めた。


「この世にはよく分からない不思議な事が起こる事があります…こうしている今も何か不思議な感覚が私の側にあります…安成様…貴方にも分かるはず…時信様はもうその気配に気が付かれておりますよ…フフ… 」

 優月は儀則と将成の気配に気が付いていた。それは幼い時信も感じていた。


「気配? 」

 安成はまだ半信半疑な様子だった。優月はそんな安成を諭すように言った。


「刀を握り集中する時の様に心静かに回りを感じて見て下さい… 」

 安成は静かに目を閉じ集中し始めた。


「………… 」



 その頃部屋の隅に居た儀則と将成は身体の変化を感じ取っていた。


『兄ちゃん…身体が熱いよ……フワフワする…… 』

 将成は涙をためてオロオロと戸惑っているが、兄、儀則もどうしていいかわからず固まっていた。

『将!僕に掴まってて!大丈夫だよ… 』

 兄弟は身体を抱きしめ合い震えていた。


「………何か感じる……何か……」

 安成も何かに気が付くと優月が皆を導く様に目を閉じゆっくり話し始める。



「さぁ、彷徨える者達よ今こそ目覚めの時…導かれるままその魂を身体に宿しなさい…そして悠久の時を超越し目覚めるのです… 」


 その言葉と共に儀則と将成はフワッと宙を浮き、各々の身体に吸い込まれた…。

 儀則は時信に…、将成は安成に…それは当たり前の様に導かれスゥッと各々の身体に吸収された次の瞬間、二人は走馬燈のように時信と安成の意識と経験したことが鮮明に、その死の瞬間まで頭の中に刻まれ、儀則と将成は吸い込まれる様に意識を失った。


 次に目を開けた時には病院のベッドの上だった。


「将成!?儀則!? 」


 二人は同時に目を開けた。

 視線の先には父親と、お手伝いの和子さんの泣きじゃくる顔があった。 

 その顔に安心したのか、将成はわんわんと大泣きを始め、連られる様に儀則もグズグズと泣いたのだった。

 目覚めた二人は、その時は不思議な体験の事を忘れる程安心し泣きじゃくり父親に甘え、泣き疲れた二人はまた眠りに付いた。

 そしてその夜、儀則と将成が二人になった時、儀則が将成に問いかけた。


「将……僕達変な夢見なかったかい? 」

 儀則はそこそこ将成に聞くと、将成は儀則のベットに入り込むや兄の手をギュッと握り収まらない視線でキョロキョロしながら話し始めた。


「見た…兄ちゃんがボクの弟で、刀を持って着物来てた…いっぱいオバケが出て来て、ボクはそれをやっつけた………そして好きな子が…… 」

 将成は自分が見た事を儀則に話し始めたが、最後の決戦の話しになるとあまりの恐怖に口を噤んだ。
 幼い将成には到底付いていけない話しだ。

 儀則は、もう高校生だし元々頭の、回転が早くだいたいの事は把握していた。

 と言うか、儀則はこの時ある程度覚醒したが、将成が理解できる歳になるまでは夢の話にしようと心に決めた。

 そして、彼の心が壊れない様に最愛の優月の最後は聞かれるまでは心に留めて置く事にした。

 その日を境に、儀則は古い書物を読み漁り輪廻についても勉強した。しかし将成にはまだ理解しきれず覚醒までには至ってなかった。

 そんな将成に、溺れた時に見た夢は大切に頭にしまっておきなさいと念を押し、将成の覚醒を待った。

 しかしまだ子供の将成は日々の生活と共にあの日経験した事の記憶は薄らいでいったのだった。



 それから数年した将成が中学二年の秋の事…将成は修学旅行に参加していた。 

 将成の学校では都会には行かず、美しい自然豊かな温泉街に来ていた。

 温泉街には一時間程で回りきれる様な小さな遊園地やお土産売り場等はあった。

 しかし子供達は、某テーマパークや、都会の買い物に憧れて居たのに、大人の趣味で勝手に温泉地になった。それはそれは子供達には不評だったが、臨機応変な柔軟な頭を持っている子供達はしぶしぶ気持ちを切り替え温泉街は温泉街で楽しく過ごしていた。



 すると数人の女の子達が将成に走りより声をかけてきた。


将成まさなりくん!一緒に遊園地行こうよ!お願い! 」


 その女子の中の一人は下を向き恥ずかしそうにしていた。見た目に大人しそうではあったが、修学旅行の勢いもあってか、いつも後ろで縛ってある髪の毛は下ろし、色の付いたリップを塗って少し大人びて見えた、多分将成に片思い中で、この修学旅行で彼女にまでのしあがろうとする気だ。
 いつの時代も女子は強い!


「あっ…すまん!俺、斎藤達に先に誘われてるんだ 」


  将成は同級生の男子達から予約が入っていた。

「えーぇー!!マジ…どうする?明日香? 」

「……だから言ったでしょ…ほっといてって… 」

 下を向き赤面している女子は明日香と呼ばれた。明日香はもっとバツが悪そうに下を向き表情が赤から青に変わり走って何処かに消えた。


「明日香ー!!?ったく、情けない奴!ちょっと面倒ーなんですけどー! 」

 グループのボス的女子はブツブツ言いながら明日香の走り去った後を睨み付ける。
 もう一人の女子は将成に申し訳なさそうに話した。

「あ…ごめんね…何か面倒臭くなってきちゃった…アイツ、将成君のこと好きみたいで私達…無理に連れてきたんだよ…ちょっと考えて上げて!いつも影で将成君の事見てたのが歯痒くて、無理に連れてきちゃった……ちょっとお節介だったかな? 」

 するとボス的女子が慌ててもう一人の女子に口止めした。今更遅いが……。


「ちょっ!!それは言っちゃダメだよ!ったく…あ~あ…まぁ明日香恥ずかしがりだから…イライラしてるのは分かるけど……って将成君この話聞いたからには少しは考えてね 」


「いや…お節介とか、考えてとかじゃなくて、あの娘の気持ちとか気にしないで連れてきたのか?…それはどうかと思うぞ…まったく……居なくなると問題が増えるから、みんなで手分けして探すぞ!斎藤達にも言ってみるから 」

 将成は居なくなった好きでもない女の子の心配をした。


「そうだよね…先生に知られたらヤバいよ!! 」


 ボス的な女子も焦った様にキョロキョロし始めた。遊びどころではなくなった。


 そして斎藤にも声を掛けた。
 
 斎藤は協力を快く受けてくれた、何せそのボス的女子の事が気になっていて、良いところを見せたかったからなのだ。

 そして他の男子も、女の子に良い格好を見せたいが為に協力してくれた。が……辺りを探し回るがどこを探しても見つからなかった。


 しばらくして、一人の女子が慌てて将成達の側に走ってきた。

「ちょっと!明日香が一人で遊園地に居たって情報が入ったんだけどー! 」

 


 その知らせに一同は遊園地に急いだ。
 
 







 

 
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