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◆第二章◆ プロセス。

モウジャ。

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 小さな遊園地には、将成まさなり達の学校の同級生達がたくさん遊びに来ていた。


 そこにはお決まりのメリーゴーランドが鎮座し、楽しそうに男子、女子共にはしゃいでいた。

 そして絶叫マシンとは程遠い遊具がゴトゴトと高い位置を走り抜け、広場ではワンコインで動くパンダや熊などの縫いぐるみみたいな乗り物で各々に楽しそうにやっていた。

 ただ、将成は持ち前の責任感が働き楽しめずに明日香と言う女子を探していた。

 将成は涼しい時期なのに額に汗をかきながら必死だった。

 すると、その時、一人の生徒が湖の方を指差し叫んだ。

「ちょっとー!!ボートの上で立ってたら危ないよ!いったい、あの娘何してるの? 」


 将成達が走って行くと、そこには割りと大きな湖があり、そこには2人乗りの手漕ぎボートが何艘かあった。

 そして湖の中央にポツンと1艘のボートが出ておりそこに明日香がオールを湖に投げ捨てぼんやりと仁王立ちしていた。


「明日香!?何してるのー!?明日香!! 」

 明日香と将成を無理やりくっつけようとしたグループのボス的女子が大きな声で呼び掛けた。

 すると明日香は1拍間を置いて顔を上げ声を荒げた。


「ほっといてよ!!もう限界なの!!あなた達はいつも勝手に私の行動を指示する…私の気持ちなんかお構いなしよね…私はただあなた達と友達になりたかっただけなのに……なのに勝手に……相談するんじゃなかった……ちょっと浮かれてしまった私もバカだし……恥かいたし…死んでやる! 」


 明日香は船の上で興奮し少し動くと船は大きく揺れ落ちそうになった。

「止めろ!!動くな!!落ち着いて考えろ!! 」

 将成も大声をあげ止めようとするが明日香は逆上して余計自暴時になり泣き始める。


「落ち着いて……って!将成君がそんな事言わないでよ!!私の気持ちも知らないくせに!!じゃあ付き合ってよ!!付き合ってくれるなら私は湖に飛び込んだりしない!!出来ないでしょ?!だからそんな優しい事言わないでよ!! 」

 取引の様な話しになってきたが将成は落ち着いていた。


「そんな交換条件で付き合ったってお互い辛いだけだろ!?それなら飛び込めばいいさ!友達もこんなに心配して走り回ったのにそれも分からないのか? 」

 将成は明日香を煽って「飛び込めばいいさ!」と言ったが、彼女が飛び込んだ瞬間、将成も飛び込む気だった。


「明日香!!…もう止めてよ…ゴメン!!私達、あんたの気持ちも考えないで面白半分で……でも、あんたの為にって思ったんだよ!!ちゃんと謝りたいよ!!お願い!!戻ってきて!!これからはちゃんと明日香と向き合うから!もっと仲良くなろうよ! 」


 ボス的女子は必死に明日香に声を掛け、じゃぶじゃぶと湖に入っていったその姿に明日香はまた声を上げる。


「止めて!!溺れちゃうよ!……私こそゴメン…そっち……帰るから……岸に戻ってよ!……って私……  」


 明日香は、オールを湖に落としてしまっていた。


「……あっ、帰れない…… 」


「船に座って待ってろ!!迎えに行くから!おい!こいつを湖から上げろ!ココの管理者も呼んどけ! 」


 将成は回りに居た斎藤達に指示すると近くにあった船に乗り込みオールを漕いだ。


「…将成君…… 」


 明日香が座ろうとしたときだった。


 何処からともなく急に突風が吹き不安定に立っていた明日香は湖に落ちた。



「キャー!?!? 」
 

 ドボンッと大きな音と共に明日香は湖に消えた。

「将成君ー!!明日香は泳げないの!!どーしよぉー!! 」

 ボス的女子は顔面蒼白で叫ぶと、将成は考える前にもう飛び込んでいた。


 夏も終わり涼しくなった季節の湖の水温は冷たく、肌に刺さる様だったが、将成は必死にボートまで泳ぎ着いた、そしてそこから明日香の姿を探し潜った。

 湖は割りと深く、5mほどの湖底に明日香はゆっくり沈んでいた。

 将成は子供の頃から海で鍛えられて居たので、意図も簡単に底へ潜り明日香の手を取り引き上げた。

 しかし明日香は意識がない。



「ブハッ!!! 」



 湖面へ顔を出した将成は、救助に、駆けつけていた大人達に明日香を渡した。

「おい!?大丈夫か!兄ちゃん! 」

「ああ!俺は大丈夫です!この子を!! 」

 将成は明日香を引き渡すしホッと湖面に浮いて居ると何かが足に絡みついてきた。


「なっ!?!? 」


 そして、その絡んできたモノが将成を湖底に引きずり込もうとしてグッと足を引く力が増した。


「うっ!!? 」


 ものの数秒で将成の姿が湖に消えた。

 それを見ていた大人の一人が慌てて飛び込むも、すでに将成の姿は見当たらなかった。


「おい!さっきの男子が居なくなった!!救急に連絡してくれ!!レスキューを要請してくれ! 」

 回りは騒然とし慌ただしくなった。

 
一方、岸に付いた明日香は、懸命な救助もあり意識を取り戻し一命は取り留め、待機していた救急車で病院へ運ばれた。

 残った斎藤達は戸惑い将成の行方を岸から見つめるしかなかった。
 


その頃将成は……。 





『うぅ……苦しい…何だ!?何か足に……うぅ 』



 将成が足元を見ると、髪の毛の様な物が足に巻き付き、その髪の毛をミイラの様な筋ばった手が掴んで湖底に引きずり下ろそうとしていた。


『!?何だ!?バケモノか!?うぅ… 』

 その髪の毛の元を手繰ると赤く光る目と目があった。


『サア…オイデ……ココハサミシイ…ヒトリハサミシイ…オイデ…オイデ…イトシイダンナサマ…… 』

 それはミイラ化した老婆のバケモノに見えた。


『イヤだ!!離せ!! ブハッッ……!? 』


 将成は声を上げると、口の中の空気が抜け息が出来なくなりそのまま気を失った。












『ヤ……ヤス…ナリサマ……ヤス…ナリサマ…………安…成様……ダメ目を閉じないで!……私を見て……  』

 将成は薄れ行く意識の中、微かに目を開け声の方を見上げると、そこには大きく両手を伸ばす見覚えのある美しい人が居た。


「安成様……私の安成……まだダメです……あなたは生きるのです…… 」


『お……お前は…… 』 


 そう…将成が溺れた幼い日の夢で見たその美しい人は将成の両頰を優しく包むとニッコリと微笑みそのまま将成のあしに巻き付いてあるバケモノに襲いかかる。


『貴女の居場所はココではありません!!さぁ!成仏しなさい!!迷えし魂よ…光の浄化の元に!! 』

 そう言い天に両手を掲げると、一筋の光が老婆を射す。

『イヤダ……ワタシハ…ココデ……コノヒトト…イトシイ…オットトクラスノダ…… 』

 この湖では数年の間に何人かの男性が命を落としている。それは遡ること十年近く……。

 長年連れ添った夫が先立ち、後を追う様にこの湖に身を投げた老婆が居たと言う悲しい出来事があった。
 その老婆が成仏しきれず夫の影を探し、湖に入った男性を道連れにしてきたらしい。 


『貴女は間違っている!ご主人はもう成仏しあの世で貴女を待っています!目を覚ましなさい!そしてこの方は私の…… 』

 その人の話の途中で将成の意識は途切れた。


 
そして、将成はまた深い闇に落ちていった。



『ココは……どこに落ちて居るんだ……俺は……死んだのか…… 』

 それは暗くて回りも見えない闇の中…。

 将成は落ちていることしか分からない。


『寒い…… 』



『キーーーーンーーーー 』


 突然、金属の冷たく響く音が耳に響き、音の方へ目をやるとその先に淡いが目に入った。

 ゆっくりその光の方へ落ちていくと、それは近づくに連れ眩しい光となり、あまりの眩さにギュッと目蓋を閉じたが、その正体を見たい将成はゆっくり目を開ける……そこには自分の背丈ほどある透き通るように美しい刀身が淡く光り、将成を導く様に堂々とたたずむ。そしてゴツゴツとした岩場に垂直に突き刺さって居るではないか。


『……これは!?あっ!?……うっ! 』

 


 将成は見覚えのある刀にゆっくり触れた……すると次の瞬間、刀身は脈打つ様にドクンッと光を放ち、何かに頭を打たれた様に急に頭痛に襲われその場に踞った。


『あ……ぁ……頭が……痛い……割れそ…う……だ……… 』


 将成はそのまま意思を失った。

 



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