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◆第二章◆ プロセス。

ウバワレタモノ。

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 将成は騒ぎの元へ走り出した。

「将!!待てよ!置いていくなよ!! 」

 十兵衛は、将成と松風より遅れを取った。だが、将成はそれどころではない。


 現場へ到着すると、やはりオークション会場が燃えていた。と言うよりも爆発の後の様な有り様だった。

 将成は呆然と立ち尽くしその様を見渡す。

 松風は、早速、現場の人間に事情を聴いて回っていた。遅れてやってきた十兵衛は息を切らし、その騒がしさに圧倒される様にキョロキョロと挙動不審になっていた。


「親方様!少し状況がわかりました。」

 松風の声に将成は我に返った様に眼を見開き、その仕入れた情報を聞く為声の方へ体を向けると松風は冷静に報告を始めた。

 現場で消火に当たっていた消防士によると、オークションの商品保管庫付近から爆発音がし、それに気が付いた会場の警備員が保管庫へ駆け付けると手がつけられない程現場は木端微塵に物は飛び散り散乱し、勢いのよい火の手の前になす術もなかったのだとか…。
 他にも、爆発音がすると爆発と共に天井を突き破り何かが吹き飛び、光を放つとそのまま飛び去るのを確認したとか。

 別の会場スタッフによると、爆発の起こる少し前に怪しい人影が走り去るのを見たと、言う証言もあった。しかし、顔や、男か女か…など不明だとか。


「皆さん!!ここは危険ですので、離れて下さい!!消火活動の邪魔になります! 」


 近くの消防隊の怒鳴る声がそこら中に響き渡り、近くに居た野次馬達を遠ざける。

 そんな中オークション会場の建物の裏口から怪しい人影が飛び出して物影に隠れたのを松風は見逃さなかった。

「親方様、席を外します… 」

 松風はそう言うと風の様にスッと居なくなった。

「あいつ何処にきえたんで!? 」

 驚いた十兵衛は将成に聞く。

「……何かが動いた… 」

「はぁ?!まぁ、松風も目が良い…何か見えたのかいな? 」

「今はあいつを信じて、少し下がって様子を見よう 」

 将成は大人しく規制線の後ろまで下がり眉間にシワを寄せ辺りを睨み付けながら何かを考えている。そんな将成をよそに十兵衛は落ち着きなく行ったり来たり、そこらをぐるぐる回っている。

 と、泥まみれ煤まみれの会場スタッフらしき人物が歩いて出てきた。
 側には、警察らしき人物が居て、何か話しているのが聞こえた。



「……です。はい、そうなんです…急に…風が吹き…大きな音が…爆発音が…で、見たんです……怪しい…黒い…服…うぅ…頭が…頭がぁぁぁ… 」

「ちょっと!?あなた!!大丈夫ですか?誰か!!救急車を!!救急車を呼んで!! 」


 スタッフらしき人物は話の途中に頭を抱え込み頭痛を訴えながら倒れた。


「うぁあああぁ!!…ギァア!っ」

『バンッ』

 大きな音と共にスタッフは何もないのに自ら爆発し側に居た警察も巻き沿いに合い吹き飛ばされ辺りは騒然となった。

「!?」

 爆風で塵や埃や砂が巻き上がり一瞬で目の前の視界が消え、将成は近くにあった車の影に身を隠し、只ならない雰囲気を感じ取っている。

「将!!将ー!親方!どこでー!?一人にしないでくれよ!」

「…やかましい!!早くこっちに来い!」

 相変わらず十兵衛はコロコロと転がりながら将成の後ろに隠れた。


「少し黙ってろ!何かがおかしい… 」

「なっ!? 」



『ゴオオオォォォ……』


 突然地響きがする。


 次の瞬間、ガタガタと地面が小さく揺れ始め、あっと言う間に座っているのもやっとと言う程の大きな揺れに変わり、次々と悲鳴や爆発音がそこら中から響き渡った。


「うおおおぉぉー母ちゃんー!!」

「…… 」


 十兵衛は何故か母を呼び、将成は歯を食い縛り耐えている。

 そして、長く感じた揺れも、あっと言う間に静まり、辺りからざわざわと声が聞こえ始める。
 すすり泣く声や、誰かを探す声に、避難を呼び掛ける声…そんな中、将成は片膝を付いた姿勢から、ゆっくりと回りを見渡す。

「……何だったんだ?地震か?  」

 十兵衛は近くにあったトラックの下に頭を隠し丸い大きなお尻は隠しきれていない格好でぶるぶる震えていた。
 将成はそんな十兵衛の尻をサッカーボールの様に思い切り蹴り挙げた。

『ボコんっ!! 』

「いっ!?痛ってー!! 」

「いい加減にしろ!立て!!十兵衛!! 」

「っつ…痛っ…何しやがる!もっと優しくしろ!」

 尻もちを付いた格好で十兵衛はぶつぶつ文句を言う。

「うるさい!早く立て!辺りを調べるぞ!」

「はい、はい…っ痛…調べりゃいいんだろ!調べりゃ!相変わらず容赦ないな… 」


 将成は、地震でパニックになり手薄になったオークション会場の方へ向かった。

 中に入ると、パチパチと火花を散らしながら断線された電気コードが天井や足元に無造作に垂れ下がり、さっきまでの消火活動で水溜まりが至るところに出来ていた。
 感電しないように慎重に奥へ進むと、一段と激しく爆発したであろう、倉庫らしき部屋にたどり着いた。

 そこには、美術品や骨董品などの破壊された破片がそこら中に散らばっていた。
 そして奥の方へ進むと厳重に保管されていた様な背丈以上の大きな木箱がボロボロに壊れ中身が取り除かれた様に何の残骸も無かった。

「こ…これは… 」

 将成がその木箱に触れた時だった。後方から声がした。

「その木箱の中には草薙の剣が保管されていました。」

 振り返った将成は目を疑った。

 何とその人物は身体に怪我をおい血が滴った右腕を庇いながらニッコリと微笑む儀則よしつね(時信)が壁にもたれ掛かり立っていた。

「時信!?」

「兄様…すいません…私は相変わらすおっちょこちょいで、尊富に捕まってしまうなんて…」

 その場に膝から崩れ落ち壁を背にし話を続ける。

「時信!大丈夫か!?無理はするな!」

「私は大丈夫…です…兄…様…草薙の剣…は…何故か姿を消しました…ゴホッ 」

「もう喋るな!!」

 血を吐きながら時信は続ける。

「聞いて下さい…兄…様…お願い…剣が消えたのは…尊富が盗んだの…では…ありません……尊…富は…オークションの前に…剣を奪おうとこの場に来…ました…その時…、倉庫の辺りの空間が歪み…地鳴りがした次の瞬間、爆発が起きました……尊富は…すぐに中に入ると、穴の空いた天井から草薙の剣らしき物が…吸い取られる様に空に消えるのを見付け…顔色を変え、護衛を従え…剣の行方を追いました…その隙に私は逃げようとしたんですが…他の護衛に見つかり……情け…無い… 」

「もう喋るな…頼む…」

 将成はすぐに時信に近寄り抱き抱えると悔しい表情でその腕に力を入れた。

「あ…兄…様…」

 時信は安心したのかゆっくり目を閉じた。

「時信…」

「うおーおおぉ!死ぬな時信!!うわぁぁぁ!」

 十兵衛は倒れ込み時信の足にしがみついた。

「……十…兵衛…私は死んでません…少し身体が辛いので、黙ってろ…」

「あっ!?」

 時信の言葉に十兵衛は穴があったら入りたい様な表情でしばらくおどおどしていた。

「いい加減にしろ!今は時信の治療が先だ!!取りあえず、近くの医者を当たる!!お前はすぐに松風に連絡しもう一度体制をたてなおすぞ!」

「あっ……ああぁ!わかった! 」

 そして、将成らはその場を後にし、傷ついた儀則を連れ近くの病院を探した。


 程なくして、会場から少し離れた場所に割りと大きな病院があったが、先程の騒動で救急車が引っ切り無しに入っては出ていって、建物内の受付ロビーも怪我人でごったがやしていた。


「くそっ!これじゃ、時信の手当てにならんじゃないか!!こんなにも怪我人が出ているとは…いったい何が起きたんだ!?清兵衛も居なくなるし…くっ… 」

 将成はやり場のない悔しさで、思わず時信を支える手に力が入った。


「いっ… 」

 すると時信は握られた肩に痛みが走り声を漏らす。

「すっ!すまん!!大丈夫か!?悪い、つい力が入ってしまった… 」


 焦って時信に断りを入れると、時信は驚いた顔で将成に詰めよった。

「兄様!?今、清兵衛様が消えた!?と仰いましたが、それはまことですか!?」

「あっ…あぁ、本当だ…」

「いつ!?何処に行ってしまわれたのです!? 」

 あまりの慌て様に将成は少し焦った。何故なら、いつも冷静で、文句の一つも言わない、それでいて笑顔の絶えない優しい男だからゆえに、見たことのない時信に戸惑った。

「……時信、どうした?わかったから、ゆっくり話すから落ち着け!今はこんな状態だし、お前もぼろぼろだ!まずは治療が先だ!」

「……あ……す、すいません…つい… 」


 そんな時だった。背後から聞き覚えのない声が時信を呼び掛けた。


「すいません!鷹我議員ではありませんか!? 」

 将成はとっさに時信を守るようにかばった。


「あっ、すいません!あの怪しい者では…今回の訪問団の副大臣の秘書を勤めている者です」

 時信はしばらくその男の顔を眺めると、ハッとした様に思い出した。

「あっ…あなたは、副大臣に付いていらっしゃった方ですよね… 」

「そうです、ですが、その副大臣が今回の爆破に巻き込まれまして… 」


「えっ!?うっ…ゴホゴホ…痛っ!」

 びっくりした時信は思わず自分のケガの事を忘れ咳き込んだ。

「儀則!? 」

 慌てて将成が抱きかかえると、その秘書はオロオロしながら問い掛けてきた。

「大丈夫ですか!?議員!?…で、あなたは議員の? 」

 将成は時信の背中を擦りながら、護衛に答えた。

「弟です…」

「どうりで、似ていらっしゃる!しかし、議員もひどくケガを!?ここの病院は我々のつてがあります、
さっ!こちらへ…ちょうど副大臣も治療を終えたところです。」

 そして将成達は、副大臣秘書の案内で治療を終えホテルへ戻った。
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