羽衣伝説 ー おじさま達に病愛されて ー

ななな

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1. 仙人の暮らし

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 ここは仙界、仙人の住まう桃源郷。お師匠様と僕だけが暮らすのどかな世界です。僕の一日はお師匠様の腕の中から始まります。

「お師匠様、起きて下さい。日が昇りましたよ」
「うぅん、もうちょっと」

 お師匠様は一度揺り動かしたくらいでは必ず起きません。ぎゅぎゅっと、僕を抱きしめるその腕に力が入ってゆきます。
「お師匠様、池の鯉に餌をやりませんと」
「うぅん…ボムギュ…お師匠より鯉の方が大事なのかい」
 
 僕は困ってしまいます。お師匠様は毎朝こうやって僕を困らせるのがお好きなようです。けれども、「僕の大切な方はお師匠様、ただお一人だけですよ」こう言いますと、お師匠様はスルスルと僕から離れてゆきました。

「ボムギュ、顔を洗ってから行っておいで。あぁ、温かいお湯に変えてから洗うんじゃよ。風邪を引いたら大変だからの」
 僕も一応仙人の端くれなのですから、風邪なんて引きやしません。でも、お師匠様はいつも心配してくれます。それがちょっと…嬉しかったりします。


「ほぉら、餌だよぉ。お食べぇ」

 僕が餌を放り投げると、鯉達は我先にと群がってきました。その様子が面白くて、僕はこの餌やりの役を欠かさず引き受けているのです。
「ふん、この鯉共も人をよく見ておる。わしがばら撒いても食い付きが悪い。魚のくせにしわしわのジジィは嫌らしい」
「考えすぎだと思いますよ」

 本当にその通りで、お師匠様は何かとご自分のことを卑下なさりますが、お美しい方だと思います。それに、僕のことをとても大事にして下さいます。
「ボムギュ、飯の支度ができたからおいで」
「シャケの骨は取っておいたからの、ゆっくりお食べ」
 優しく、温かいお人柄のお師匠様…僕はお師匠様のことが大好きです。早く一人前になって、お師匠様に御恩返しが少しでも出来たらいいなぁ、そう思っています。


「今日は俗界とこの仙界を行き来する鏡を使うてみようぞ」

 俗界!?僕は大興奮しておりました。そんな僕をお師匠様は、「まぁまぁ、そんなに慌てるでない。ちーっと覗いてみるだけじゃ」と柔らかく制します。なぁんだ、降りないんだぁ。口にこそ出しませんでしたが、顔の方には書いてあったようです。

「俗界はとても危険なんじゃよ。ひよっこのお前さんではとても生きてゆけるようなところじゃない…それに引き替え、ここはボムギュの大好きなお花だってずっと綺麗なまんまじゃ」
 お師匠様の言葉に、僕は静かに返事をします。ここに来る前、と言いましてもいつからここに来たのかも覚えていませんが、以前の僕は俗界で生きていた…そうです。それゆえでしょうか、僕は俗界に対する好奇心が強いようです。
 仙界では、俗界で染み付いてしまった俗心を浄化すべく、それ以前の記憶を綺麗さっぱり流してしまうのであります。
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