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3. わかるよな?
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「朝のうちに買い物へ行くんだけど…二人はどう?一緒に来る?」
朝食を食べていると、母さんがそんなことを尋ねてきた。
まだ宿題が残ってるから…とオレが断ったら、兄さんも行かないと答えた。父さんは仕事だそう。
「じゃあカヌ、チャユのことをお願いね。昼までには戻ってくるから」
その言葉の通り、兄さんはオレの勉強に付きっ切りになってくれた。「さすがチャユ、のみ込みが早いな。これならあっという間に終わっちゃうぞ」なんて調子だ。
よく言うよ、とオレは心の中でひっそりと毒突く。兄さんに比べたら、ねぇ…
だからって、羨ましいとは口が裂けても言えなかった。兄さんはオレの身代わりになってくれている。父さんの期待を一身に背負っているんだ。
いつからだっけ……あの怪獣と同じ、濁った目になったのは。
「兄さん、ごめんな。オレがもっとしっかりしてりゃ、父さんもあんなにカリカリしてなかったのに…」
堪らず吐き出した言葉に、「ん?どうした、いきなり」と兄さんは笑う。
「チャユはよくやってるじゃないか。父さんはな、何やったって父さんだよ…あの人はああいう人なんだ。それに、俺は優しい母さんと可愛いチャユがいるから平気さ」
オレの疑念は募っていく一方だった。本気で…そんなことを思っているのだろうか。
オレが兄さんなら、どうにかして父さんをこの家から追い出していると思う。あんなに頭が固くて、レールを引きたがる人は知らない。
「兄さん…オレに出来ることがあれば、なんでも言って?その…力になりたいんだ」
なんだか兄さんの顔をまともに見られず、ちらちらと様子をうかがう。兄さんは驚いたような、嬉しそうな顔をしているようだった。
「ははは…チャユがそんなことを言うなんて…雪でも降るのか?」とか言ってからかってくる。「今日はぽっかぽかだ!」とオレはむきになった。
「そうか。んー…本当になんでもいいのか」
「おう、男に二言はないぜ」
か、かっこいい……一度は言ってみたかったんだ、このセリフを。
兄さんの方もますます顔を綻ばせ、喜んでいるようだった。何もしていないのに、良いことをしたような清々しさで心が満たされてゆく。なんでもどんとこいだ。
「じゃあチャユ、兄ちゃんとえっちしてくれるか」
なんでもどんと…こい、だ。
「チャユも大きくなったろ。兄ちゃんの言ってる意味、わかるよな?」
わかるって……
何が。
何が…わかるわけ?
「冗談きついよ、兄さん…」
そうだ。本当に笑えないくらい、きつい冗談。兄さんは昔から時々、本当に時々、おかしなことを言う。
「チャユ、まだ駄目なのか?俺はいつまで待てばいいんだ」
じわりと、額に汗がにじむ。その濁った目が、オレのことをジッと捕らえて離さない。
「お前のことを心の底から愛している。だから、なぁ?」
…勉強のしすぎで、頭が馬鹿になっているんだ。そんなになるまで、追い詰められていたなんて。
「兄さん…オレ、え…えっちなんてしたことないから…わかんないよ」
震える唇をやっとの思いで動かし、許しを請う。けれど兄さんは、「それなら心配いらない。お前はただ、俺に身を任せていたらいいんだ」と。
なんで、あんなことを言ってしまったんだろう。そう後悔するものの、遅かれ早かれこんな結末は変わらないような気がして。
「それは…オレじゃないと駄目なわけ?」
「当たり前だろ。チャユ以外となんかまっぴらごめんだ」
「母さんは…知ってんの」
「知ってるわけないさ。言えば、俺とチャユを引き離すに決まってる」
「悪いと分かってて、こんなことをすんの?」
「悪いだなんて思ってない。好きな人と愛し合うことの何が悪いんだ。ただ、心配するといけないから黙っていようっていう話さ」
「オレの気持ちは?オレの気持ちはどうなるんだよ」
「チャユだって、兄ちゃんのこと好きだろ?」
「好きって…兄さんとはそんなことはしたくないっ!」
バンッと立ち上がり、泣きそうになるのを必死に堪える。どうしよう、兄さんがおかしくなっちゃった。とんでもないことになったぞ。
「チャユ、男に二言はないって嘘だったのか」という言葉には構わず、ドアノブめがけて走って行った。そうして勢いよく回したけれど、ガチャリと音を立てるだけで、開くことはなかった。
「あぁそれ、鍵をかけられるんだ。俺が持っている鍵を使わないと開けられない」
お前が小さい時、熱が出ているのに外へ遊びに行ったりしないか心配だからって、母さんに頼み込んで作ってもらっていたんだよ。でも、お前は良い子だからそんな悪さはしなかった。
今回だって、きっとそうだと思っていたんだけど…まいったな。
冷たい汗が背中を静かに流れてゆく。震えは全身へ広がり、「に、兄さん…お願い、母さん達には絶対に言ったりしないから、だから、やめて、そ、そんなことしたくない」と首を振りながら、へたりと座り込んだ。
「…チャユ、なぜそこまで嫌がる。気持ちいいんだぞ?すごく。それに俺達は…もっと仲良くなれる」
昔から兄さんは、何かとオレを気にかけてくれる。今日からまた、一緒に暮らせるんだ…って、そう思っていたのに。
兄さんは穏やかな笑みを浮かべていた。オレはただ、受け入れ難い現実を見つめることしかできなかった。
朝食を食べていると、母さんがそんなことを尋ねてきた。
まだ宿題が残ってるから…とオレが断ったら、兄さんも行かないと答えた。父さんは仕事だそう。
「じゃあカヌ、チャユのことをお願いね。昼までには戻ってくるから」
その言葉の通り、兄さんはオレの勉強に付きっ切りになってくれた。「さすがチャユ、のみ込みが早いな。これならあっという間に終わっちゃうぞ」なんて調子だ。
よく言うよ、とオレは心の中でひっそりと毒突く。兄さんに比べたら、ねぇ…
だからって、羨ましいとは口が裂けても言えなかった。兄さんはオレの身代わりになってくれている。父さんの期待を一身に背負っているんだ。
いつからだっけ……あの怪獣と同じ、濁った目になったのは。
「兄さん、ごめんな。オレがもっとしっかりしてりゃ、父さんもあんなにカリカリしてなかったのに…」
堪らず吐き出した言葉に、「ん?どうした、いきなり」と兄さんは笑う。
「チャユはよくやってるじゃないか。父さんはな、何やったって父さんだよ…あの人はああいう人なんだ。それに、俺は優しい母さんと可愛いチャユがいるから平気さ」
オレの疑念は募っていく一方だった。本気で…そんなことを思っているのだろうか。
オレが兄さんなら、どうにかして父さんをこの家から追い出していると思う。あんなに頭が固くて、レールを引きたがる人は知らない。
「兄さん…オレに出来ることがあれば、なんでも言って?その…力になりたいんだ」
なんだか兄さんの顔をまともに見られず、ちらちらと様子をうかがう。兄さんは驚いたような、嬉しそうな顔をしているようだった。
「ははは…チャユがそんなことを言うなんて…雪でも降るのか?」とか言ってからかってくる。「今日はぽっかぽかだ!」とオレはむきになった。
「そうか。んー…本当になんでもいいのか」
「おう、男に二言はないぜ」
か、かっこいい……一度は言ってみたかったんだ、このセリフを。
兄さんの方もますます顔を綻ばせ、喜んでいるようだった。何もしていないのに、良いことをしたような清々しさで心が満たされてゆく。なんでもどんとこいだ。
「じゃあチャユ、兄ちゃんとえっちしてくれるか」
なんでもどんと…こい、だ。
「チャユも大きくなったろ。兄ちゃんの言ってる意味、わかるよな?」
わかるって……
何が。
何が…わかるわけ?
「冗談きついよ、兄さん…」
そうだ。本当に笑えないくらい、きつい冗談。兄さんは昔から時々、本当に時々、おかしなことを言う。
「チャユ、まだ駄目なのか?俺はいつまで待てばいいんだ」
じわりと、額に汗がにじむ。その濁った目が、オレのことをジッと捕らえて離さない。
「お前のことを心の底から愛している。だから、なぁ?」
…勉強のしすぎで、頭が馬鹿になっているんだ。そんなになるまで、追い詰められていたなんて。
「兄さん…オレ、え…えっちなんてしたことないから…わかんないよ」
震える唇をやっとの思いで動かし、許しを請う。けれど兄さんは、「それなら心配いらない。お前はただ、俺に身を任せていたらいいんだ」と。
なんで、あんなことを言ってしまったんだろう。そう後悔するものの、遅かれ早かれこんな結末は変わらないような気がして。
「それは…オレじゃないと駄目なわけ?」
「当たり前だろ。チャユ以外となんかまっぴらごめんだ」
「母さんは…知ってんの」
「知ってるわけないさ。言えば、俺とチャユを引き離すに決まってる」
「悪いと分かってて、こんなことをすんの?」
「悪いだなんて思ってない。好きな人と愛し合うことの何が悪いんだ。ただ、心配するといけないから黙っていようっていう話さ」
「オレの気持ちは?オレの気持ちはどうなるんだよ」
「チャユだって、兄ちゃんのこと好きだろ?」
「好きって…兄さんとはそんなことはしたくないっ!」
バンッと立ち上がり、泣きそうになるのを必死に堪える。どうしよう、兄さんがおかしくなっちゃった。とんでもないことになったぞ。
「チャユ、男に二言はないって嘘だったのか」という言葉には構わず、ドアノブめがけて走って行った。そうして勢いよく回したけれど、ガチャリと音を立てるだけで、開くことはなかった。
「あぁそれ、鍵をかけられるんだ。俺が持っている鍵を使わないと開けられない」
お前が小さい時、熱が出ているのに外へ遊びに行ったりしないか心配だからって、母さんに頼み込んで作ってもらっていたんだよ。でも、お前は良い子だからそんな悪さはしなかった。
今回だって、きっとそうだと思っていたんだけど…まいったな。
冷たい汗が背中を静かに流れてゆく。震えは全身へ広がり、「に、兄さん…お願い、母さん達には絶対に言ったりしないから、だから、やめて、そ、そんなことしたくない」と首を振りながら、へたりと座り込んだ。
「…チャユ、なぜそこまで嫌がる。気持ちいいんだぞ?すごく。それに俺達は…もっと仲良くなれる」
昔から兄さんは、何かとオレを気にかけてくれる。今日からまた、一緒に暮らせるんだ…って、そう思っていたのに。
兄さんは穏やかな笑みを浮かべていた。オレはただ、受け入れ難い現実を見つめることしかできなかった。
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