トマトジュースは弟の味

ななな

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9. 兄さんのお見舞い

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 今日は兄さんのお見舞いに行く日だ。
 療養中の病院はなんとびっくり、目と鼻の先だった。オレには内緒で、母さんは毎日足を運んでいたに違いない。

「チャユ、大丈夫?ごめんなさいね、無理言って。気分悪くなぁい?」

 病院の廊下を歩いていると、母さんが不安そうな顔で覗きこんできた。オレによく似た眉元が八の字になっている。

「平気です。母さんもそばにいてくれるんですよね。それに兄さんだって、随分良くなっているんでしょう?」

「ええ、そうよ。この頃はおかしなことを言わなくなったし、とても穏やかなの。チャユのことを話しても興味がなさそうで、私もちょっとびっくりしてるわ」

 母さんはそう言いながら弱々しく笑う。俺は小さな針でツンツンと、胸を突っつかれているようだった。
 兄さんがオレに…興味がない?あれだけそばにいてくれって、すがってきたくせに…?


 あれから半年、オレは穏やかな日々を過ごしていた。うなされたり、兄さんで頭がいっぱいになることもなくなった。
 だから、今日の見舞いもきっと大丈夫……そう思っていたけど、なんだか少し自信がなくなってしまった。







「カヌ、入りますよ」

 コンコンと戸を叩き、母さんが病室の中へと入って行く。その隙間からベッドに横たわる兄さんの姿が見え、オレは身体に妙な力が入るのがわかった。どうしよう、なんて声をかけよう。
 悩んでいると、「チャユ、ほら入りましょう」と母さんに促される。「チャユ?チャユもいるのか?」と兄さんが体を起こしている様子が伺えた。「そうよ。今日は特別にね。またちょっと大きくなったのよ」「へぇ」そんなことを話している。オレは顔が強張っていくのをどうにも抑えることが出来なかった。

「チャユ、早く。大丈夫よ、あなたのお兄ちゃんよ」
「いいですよ母さん、無理には。俺のことがまだ怖いんですよ」

 なんだろう、なんというか…うぅん。
 言葉では言い表せないような…苛立ちを感じたわけだ。奇妙な感情に戸惑ってしまう。  
 それを確かめたくてか、オレはツカツカと中へ入り込む。するとそこには、以前よりも少し痩せ細った兄さんが、涼しい顔をして座っていた。

「チャユ、久しぶりだな。母さんの言う通り、少し大きくなったなぁ」

 昔の…兄さんがそこにはいた。本当にすまないことをした。ごめんな、チャユ……って。
 いかにもそういう風な顔をして、兄さんは謝罪の言葉を口にした。オレの心はザワつく一方だった。

「兄さん…元気になったら、また勉強を見てよ」
「…チャユ、ありがとう」

 結局、兄さんとは大した話はしなかった。
 家に帰った時のオレは抜け殻で、心配した母さんがちょっとお昼寝しなさいと言う。だから、眠くもないけど横になっていた。するといつの間にか、夕飯の時間になっていた。
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