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第二話 「ディンバー公子学校へ行く」
第十七歩 アーウィンのお仕事
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「ドラグーン!! 乗る乗る!!」
宿に帰るなり、ドラゴンに乗るか船に乗るかと言う選択を迫ってみたら、キールは身を乗り出してドラゴンを選択した。
「正確には竜に乗るのであって、ドラグーンは竜騎士であって」
「どっちでもいい! 空、飛べるんだろ! 断然そっち」
キールはアーウィンの説明を遮り、ご丁寧に手を上げて主張した。
「……って、なんでディッツはそんな複雑な表情浮かべんてんの?」
はたと手を下してキールが首をかしげた。
「ああ、これは「挨拶めんどくせ」っていう顔ですよ。良く見かけます。派生形として、「着替えんのめんどくせ」「部屋に戻るのめんどくせ」「イベントごとめんどくせ」等がございますね」
「めんどくせ、ばっかりじゃん」
「ディンバー様の八割はめんどくせ要素ですよ」
「……残りの二割は?」
アーウィンが細い顎に指を当てて、一瞬思案する。
「そうですね……昆虫がらみが一割五分、食欲が四分、いかがわしいことが一分くらいでしょうか。私としては、もう少し成年男子らしく」
「俺はアーウィンの評価の中に、いかがわしいことが入っていたことに驚きだよ」
ディンバーは評価には馴れた様子でため息をついた。
「私の評価、と言うわけではございません。公爵家の評価です」
「公爵家の評価? だったらなおさら」
「はい。ですから私が僭越ながら、ディンバー様の男気要素をプラスするために、屋敷の男性陣のアンケートのもと「母に見つかっても「あらやだ、うちの子ったら」という評価で収まる一冊」を勝手に隠して、勝手に見つけ出し、ご報告いたしました」
ディンバーはパクパクと口を開けたり閉めたりしたが、やがてがっくりと肩を落とした。
「だからか。だからなんか母さんが異常に絡んでくるときがあったと思ったら……。メイド服替えたのよ、とか、化粧品のチラシを見せてきたりとか」
「はい」
「どこそこのお嬢さんはスタイルが良いとか、なんとか……半月くらい前からやけに熱心にそんなこと言ってたな。そのあと婚約者がどうのってなったから、その流れかと思ってたけど」
「違いますね」
アーウィンは完ぺきな笑みを浮かべてそう言いきった。
「ちなみに、バストサイズは通常よりも大きめの、ややぽっちゃりした女性を好む男性陣が多いことから、隠した一冊もそのように」
「ああ……」
思わずそう言う女性をイメージしてからキールが頷くと、アーウィンは得意げに「ほら」とキールを示す。
「……っちょっと、アーウィンさん!? 俺がそう言うのが好きってわけじゃないからね。まぁ、嫌いでもないけど」
「そうなんですか。細身の方がよろしいと? ディンバー様もそうなのでしょうか」
「ディッツは多分巨乳ず」
キールがそう言いかけた時、ディンバーが放り投げた汗臭いシャツがキールの顔に命中した。
「くっせ。まじくっせ。なんだよ。本当の事じゃねぇか。どっかのアリューシャちゃんに乗っかられた時だって、ちゃっかり胸のでかさはチェックしたじゃねぇか」
「うるさい。そう言うこと不用意に言うと、ほら、ほら」
ディンバーがアーウィンを指差した。キールも思わずアーウィンを見ると、アーウィンは実にうれしそうに口角を持ち上げている。
心なしか鼻息も荒い。
「わかりました。わたくし全力で巨乳を、巨乳のアリューシャ様を探して参ります!」
「ほら。なんかスイッチ入っちゃった!!」
アーウィンは指先で眼鏡を持ち上げると、効果的にレンズを光らせた。
宿に帰るなり、ドラゴンに乗るか船に乗るかと言う選択を迫ってみたら、キールは身を乗り出してドラゴンを選択した。
「正確には竜に乗るのであって、ドラグーンは竜騎士であって」
「どっちでもいい! 空、飛べるんだろ! 断然そっち」
キールはアーウィンの説明を遮り、ご丁寧に手を上げて主張した。
「……って、なんでディッツはそんな複雑な表情浮かべんてんの?」
はたと手を下してキールが首をかしげた。
「ああ、これは「挨拶めんどくせ」っていう顔ですよ。良く見かけます。派生形として、「着替えんのめんどくせ」「部屋に戻るのめんどくせ」「イベントごとめんどくせ」等がございますね」
「めんどくせ、ばっかりじゃん」
「ディンバー様の八割はめんどくせ要素ですよ」
「……残りの二割は?」
アーウィンが細い顎に指を当てて、一瞬思案する。
「そうですね……昆虫がらみが一割五分、食欲が四分、いかがわしいことが一分くらいでしょうか。私としては、もう少し成年男子らしく」
「俺はアーウィンの評価の中に、いかがわしいことが入っていたことに驚きだよ」
ディンバーは評価には馴れた様子でため息をついた。
「私の評価、と言うわけではございません。公爵家の評価です」
「公爵家の評価? だったらなおさら」
「はい。ですから私が僭越ながら、ディンバー様の男気要素をプラスするために、屋敷の男性陣のアンケートのもと「母に見つかっても「あらやだ、うちの子ったら」という評価で収まる一冊」を勝手に隠して、勝手に見つけ出し、ご報告いたしました」
ディンバーはパクパクと口を開けたり閉めたりしたが、やがてがっくりと肩を落とした。
「だからか。だからなんか母さんが異常に絡んでくるときがあったと思ったら……。メイド服替えたのよ、とか、化粧品のチラシを見せてきたりとか」
「はい」
「どこそこのお嬢さんはスタイルが良いとか、なんとか……半月くらい前からやけに熱心にそんなこと言ってたな。そのあと婚約者がどうのってなったから、その流れかと思ってたけど」
「違いますね」
アーウィンは完ぺきな笑みを浮かべてそう言いきった。
「ちなみに、バストサイズは通常よりも大きめの、ややぽっちゃりした女性を好む男性陣が多いことから、隠した一冊もそのように」
「ああ……」
思わずそう言う女性をイメージしてからキールが頷くと、アーウィンは得意げに「ほら」とキールを示す。
「……っちょっと、アーウィンさん!? 俺がそう言うのが好きってわけじゃないからね。まぁ、嫌いでもないけど」
「そうなんですか。細身の方がよろしいと? ディンバー様もそうなのでしょうか」
「ディッツは多分巨乳ず」
キールがそう言いかけた時、ディンバーが放り投げた汗臭いシャツがキールの顔に命中した。
「くっせ。まじくっせ。なんだよ。本当の事じゃねぇか。どっかのアリューシャちゃんに乗っかられた時だって、ちゃっかり胸のでかさはチェックしたじゃねぇか」
「うるさい。そう言うこと不用意に言うと、ほら、ほら」
ディンバーがアーウィンを指差した。キールも思わずアーウィンを見ると、アーウィンは実にうれしそうに口角を持ち上げている。
心なしか鼻息も荒い。
「わかりました。わたくし全力で巨乳を、巨乳のアリューシャ様を探して参ります!」
「ほら。なんかスイッチ入っちゃった!!」
アーウィンは指先で眼鏡を持ち上げると、効果的にレンズを光らせた。
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