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第8話*不安なのは
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輪島が優勝してから一週間後の土曜日。ついに輪島が取材される日が来た。午前中朝飯を食べたあと、部室で筋トレをしているところから取材は始まる。そして筋トレが終わると昼飯を食べて、そのあと輪島と街で遊ぶ予定。今は部屋の中で顔を洗ったり着替えたりしていた。買い物はよく一緒に行くけど、遊ぶのは初めてだ。実は緊張している。俺と一緒に遊んで、輪島は楽しんでくれるのかな?
――今日は、輪島の友達として一緒にいるんだよな。
「友達、か……」
輪島に聞こえないように俺は呟いた。
まだ輪島と俺は、恋人ではない。秦のアドバイスを旅館でもう一回実行してみた。ちなみに実行してみたのは寝る前、中谷に五千円を返す時だった。
「お金、返すわ。ありがとな」と中谷に五千円を渡した直後に、輪島がムッとした様子で「どうして中谷先輩に五千円も借りた?」と、聞いてきた。
「いや、プライベートでちょっと?」と濁すと「必要なら、自分が貸したのに。先輩が自分に聞かずに他の人からお金を借りる行為は……嫌だ」と詰め寄ってきた。
借りた理由は、輪島のプレゼントを買ったからだよ!とは、まだ言えなくて。ちなみにプレゼントを渡す予定の〝輪島優勝おめでとう会〟は、取材のために部室を大掃除したりしていたら結局まだやれてなくて、取材の次の日にやろうということに。
「借りたのは一瞬だし。それに、輪島以外から借りてもいいじゃん。別に、俺たちは付き合ってるとか、特別な関係なわけじゃないんだし」
「……そうだな」
それから輪島は、ふっと炎が消えたように、冷静になり俺から離れていった。アドバイスでは、付き合う話を輪島がしてくる予想だったのに――。
その時の表情を思い出す。食らいついてくれる表情から諦めたような表情になっていた。明らかに俺たちのやり取りを見ていた秦も、俺が秦の方を、じろっと見ると気まずそうに目をそらしてくるし。
――もう、その作戦は辞めよう。なんか、言葉を発したあとの後味が悪い。現実を突きつけられて、虚しくなってくる。
そんな遠回りしなくても、ただ「恋人になりたい」って伝えればいいだけなのに。
伝えて、もしも断られたら?
そんな関係までは望んでいないと距離を置かれたら?
――もう、ひとりにはなりたくない。輪島にはずっと俺のことを気にしていて欲しい。
「どうした?」
気がつけば輪島を目で追っていて、輪島はそれに気がついた。
「いや、今日輪島と遊ぶの楽しみだなって考えてた」
「そうだな!」
俺たちは準備を終え、朝飯を食べると部室に向かった。
部室に入ると、他の部員四人と、カメラを持ってる二十代っぽい男がいた。三年生ふたりは筋肉バトルが終われば引退だったような? だけどいるし。そして三年生の髪型は、いつも筋トレをする時は洗いたてみたいな感じなのに、今日はびしっと整っている。中谷と秦はふわっといつも通りだ。
「初めまして、輪島浩介さん。本日密着取材させていただきます、エンタメわっしょい菊池の河村と申します。今日はよろしくお願いします!」
「よろしく!」
ん? この男の名前は菊池か? 河村か?
早口で聞き取れなかった。
取材の男が輪島に名刺を渡すと、堂々と輪島はタメ口で名刺を受け取った。受け取り方も、さすがだな。
「では、早速ですが、僕はいないと思って、いつも通りに活動をしてください」
いつも通り、ラジオ体操が始まった。
もう見慣れてはいるが、いつみても輪島のラジオ体操はしなやかで、美。俺はあえて輪島の斜め後ろに並んで、輪島を見本としながらいつも体操にはげんでいる。今日も美しい――。
ラジオ体操が終われば、それぞれ筋トレが始まる。
「あの、いつも通りって僕いいましたけど、映像に映えるようなトレーニングを多めにお願いできたりします?」
「それは、無理だ」
男に聞かれて迷わずそう答える輪島。
例え撮影中でも、筋トレに妥協は許さない。
「ですよね、では、いつものようにお願いします」
いつものようにあれやこれやトレーニングをした。懸垂バーやダンベルを使った筋トレ、というか輪島自体が映像に映えると思うからこのシーンは大成功だ。ローカル番組とネットで放送されるらしく。放送日が待ち遠しい、永久保存版だ。
そして昼になった。食堂にも取材の男はついてきた。いつものように輪島とお揃いのメニューを俺は注文する。今日は日替わりの生姜焼き定食。輪島はいつも大盛りで、単品おかずもプラス注文している。今日は豆腐を頼んでいた。まずは毎日飲んでいる牛乳を一気飲みする俺と輪島。カメラは俺までもじーと見ていて、少しだけそわそわ。輪島は、やっぱり堂々としている。コップに入れた牛乳を飲み終えると、輪島は俺の顔をじっとみている。
「な、なんだ?」
真剣な眼差しで見つめられ、少し顔が熱くなる。
「口のとこ、今日も牛乳ヒゲがついてる。カメラに撮られてるけど、大丈夫か?」
俺は慌ててテーブルの上にあるティッシュで拭いた。
「『今日も』って、他の日にもついてたのか?」
「あぁ、ついていた」
「教えろよ! なんで教えなかった?」
俺の耳元に輪島の顔が寄ってきた。
「……だって、可愛かったから」
予想外の言葉をいきなり言われ、ぱっと輪島から顔を離す。そして輪島の顔をみると、顔がポッとしていた。俺もつられてポッとした気持ちになる。
――他の奴らに言われるのは想像するだけで嫌だけど、輪島から言われる『可愛い』は、気持ちがいいな。
そういえば、今撮影中だった。このシーンは使わないでと意味を込めて、カメラの男と目を合わせ、俺は首を振った。男は微笑みながら頷いた。言葉にしなくても、通じたようだ。
そんな感じで昼飯を食べ、次はとうとうデートだ。
――今日は、輪島の友達として一緒にいるんだよな。
「友達、か……」
輪島に聞こえないように俺は呟いた。
まだ輪島と俺は、恋人ではない。秦のアドバイスを旅館でもう一回実行してみた。ちなみに実行してみたのは寝る前、中谷に五千円を返す時だった。
「お金、返すわ。ありがとな」と中谷に五千円を渡した直後に、輪島がムッとした様子で「どうして中谷先輩に五千円も借りた?」と、聞いてきた。
「いや、プライベートでちょっと?」と濁すと「必要なら、自分が貸したのに。先輩が自分に聞かずに他の人からお金を借りる行為は……嫌だ」と詰め寄ってきた。
借りた理由は、輪島のプレゼントを買ったからだよ!とは、まだ言えなくて。ちなみにプレゼントを渡す予定の〝輪島優勝おめでとう会〟は、取材のために部室を大掃除したりしていたら結局まだやれてなくて、取材の次の日にやろうということに。
「借りたのは一瞬だし。それに、輪島以外から借りてもいいじゃん。別に、俺たちは付き合ってるとか、特別な関係なわけじゃないんだし」
「……そうだな」
それから輪島は、ふっと炎が消えたように、冷静になり俺から離れていった。アドバイスでは、付き合う話を輪島がしてくる予想だったのに――。
その時の表情を思い出す。食らいついてくれる表情から諦めたような表情になっていた。明らかに俺たちのやり取りを見ていた秦も、俺が秦の方を、じろっと見ると気まずそうに目をそらしてくるし。
――もう、その作戦は辞めよう。なんか、言葉を発したあとの後味が悪い。現実を突きつけられて、虚しくなってくる。
そんな遠回りしなくても、ただ「恋人になりたい」って伝えればいいだけなのに。
伝えて、もしも断られたら?
そんな関係までは望んでいないと距離を置かれたら?
――もう、ひとりにはなりたくない。輪島にはずっと俺のことを気にしていて欲しい。
「どうした?」
気がつけば輪島を目で追っていて、輪島はそれに気がついた。
「いや、今日輪島と遊ぶの楽しみだなって考えてた」
「そうだな!」
俺たちは準備を終え、朝飯を食べると部室に向かった。
部室に入ると、他の部員四人と、カメラを持ってる二十代っぽい男がいた。三年生ふたりは筋肉バトルが終われば引退だったような? だけどいるし。そして三年生の髪型は、いつも筋トレをする時は洗いたてみたいな感じなのに、今日はびしっと整っている。中谷と秦はふわっといつも通りだ。
「初めまして、輪島浩介さん。本日密着取材させていただきます、エンタメわっしょい菊池の河村と申します。今日はよろしくお願いします!」
「よろしく!」
ん? この男の名前は菊池か? 河村か?
早口で聞き取れなかった。
取材の男が輪島に名刺を渡すと、堂々と輪島はタメ口で名刺を受け取った。受け取り方も、さすがだな。
「では、早速ですが、僕はいないと思って、いつも通りに活動をしてください」
いつも通り、ラジオ体操が始まった。
もう見慣れてはいるが、いつみても輪島のラジオ体操はしなやかで、美。俺はあえて輪島の斜め後ろに並んで、輪島を見本としながらいつも体操にはげんでいる。今日も美しい――。
ラジオ体操が終われば、それぞれ筋トレが始まる。
「あの、いつも通りって僕いいましたけど、映像に映えるようなトレーニングを多めにお願いできたりします?」
「それは、無理だ」
男に聞かれて迷わずそう答える輪島。
例え撮影中でも、筋トレに妥協は許さない。
「ですよね、では、いつものようにお願いします」
いつものようにあれやこれやトレーニングをした。懸垂バーやダンベルを使った筋トレ、というか輪島自体が映像に映えると思うからこのシーンは大成功だ。ローカル番組とネットで放送されるらしく。放送日が待ち遠しい、永久保存版だ。
そして昼になった。食堂にも取材の男はついてきた。いつものように輪島とお揃いのメニューを俺は注文する。今日は日替わりの生姜焼き定食。輪島はいつも大盛りで、単品おかずもプラス注文している。今日は豆腐を頼んでいた。まずは毎日飲んでいる牛乳を一気飲みする俺と輪島。カメラは俺までもじーと見ていて、少しだけそわそわ。輪島は、やっぱり堂々としている。コップに入れた牛乳を飲み終えると、輪島は俺の顔をじっとみている。
「な、なんだ?」
真剣な眼差しで見つめられ、少し顔が熱くなる。
「口のとこ、今日も牛乳ヒゲがついてる。カメラに撮られてるけど、大丈夫か?」
俺は慌ててテーブルの上にあるティッシュで拭いた。
「『今日も』って、他の日にもついてたのか?」
「あぁ、ついていた」
「教えろよ! なんで教えなかった?」
俺の耳元に輪島の顔が寄ってきた。
「……だって、可愛かったから」
予想外の言葉をいきなり言われ、ぱっと輪島から顔を離す。そして輪島の顔をみると、顔がポッとしていた。俺もつられてポッとした気持ちになる。
――他の奴らに言われるのは想像するだけで嫌だけど、輪島から言われる『可愛い』は、気持ちがいいな。
そういえば、今撮影中だった。このシーンは使わないでと意味を込めて、カメラの男と目を合わせ、俺は首を振った。男は微笑みながら頷いた。言葉にしなくても、通じたようだ。
そんな感じで昼飯を食べ、次はとうとうデートだ。
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