【ピュア青春BL】筋トレするふたりが結ばれる日まで~今日も輪島はあたたかい。

立坂雪花

文字の大きさ
9 / 11

第9話*初遊びデート

しおりを挟む
 学校の近くで一番賑わっている駅周辺に着いた。賑わっていると言っても、休日なのにそんなに人はいない。

 まさか、撮影される状況で〝初遊びデート〟をするなんて、全く思わなかったな。

 今日の輪島は、風が冷たくなってきたから、上は黒い無地の長袖パーカーで下はダボッと系のデニムの姿。Tシャツ姿よりも筋肉を感じない。実は脱いだら凄いんだ!と、この辺を歩いている知らない人たちにも自慢したい気もする。ちなみに俺は白い無地のパーカーで合わせてみた。パーカー色違いのお揃い感。

「そういえば、今日のデー……遊び、何も考えてなかったけど、何する?」
「プランはいくつかまとめてある。どれがいい?」

 輪島はポケットから紙切れを三枚出した。

 ショッピングコース、筋トレジム体験コース、ボーリングとオススメ場所めぐり、か……。やっぱりデートだから、いつもと違うことしたいかな。

「これがいい」

 俺は迷わずにボーリングとオススメ場所めぐりを選んだ。そしてボーリング場に向かうために歩き始めた。俺は後ろからついてくる取材の男をちらちら気にしながら歩くが、輪島は一切気にしていない。そしてちょっと歩くと、ボーリング場に着いた。

「輪島は、ボーリングしたことあるの?」
「……ない」
「でも輪島なら、すぐに上手くなりそうだな」

 俺は中学のころ、ヤンキーの先輩に連れられて何度か来たことがある。ただ流されてやっていたから、楽しいと思える記憶はなかったな――。

 受付で靴を借りてから、ボールを選ぶ。

「ボールの重さって、どのぐらいのがいいんだろう」
「情報によると、体重の十分の一ぐらいがいいのだとか」

 細かい所まで調べている輪島。
 本当に輪島は天才だな!

「俺は〝12〟ぐらいにしておこうかな?」

 俺は自分の体重が何キロか忘れたから、適当に重すぎないボールを選んだ。輪島は迷わず店の中で一番重たい〝15〟と書いてあるボールを選んだ。

「どっちが先に投げる?」
「輪島、先に投げていいぞ」

 ボーリングのボール、いきなり端っこに行って一本もピン倒せなかったら嫌だな。

――輪島に見られるの、なんか恥ずかしい。

 輪島は機械に名前を入力する。
 そして腕をまくり、並んでいるピンをじっと眺めた。

 そしてついに、輪島がボールをピンに向けてコロコロした。

 ボールは右側を勢いよくコロコロし、なんと、ピンの直前でいきなり左にカーブした。

 見上げるとみえる、目の前の画面にはストライクの文字がズドンと現れた。

「輪島、すげー! かっこよすぎだから」
「次は先輩だ」
「お、おぅ」

 輪島が完璧に決めたあとに俺の番。先にやればよかったかな?
 というか、輪島、ボーリング本当に初めて?

 ドキドキドキドキ……。

 緊張しながらボールをコロコロさせると、端っこの溝にゴロンした。輪島の顔を見ると、黙って頷いてきた。

――俺も、かっこいいところ、輪島に見せたかったな。なんか、落ち込む。

「先輩は、ボールに回転をかけない方がいいかもな。あと、真ん中の三角印のところを目掛けて転がしてみろ、こうだ!」と、言いながら輪島が俺の背後から、俺の持っているボールに触れ、投げ方講座を。

 なんか、後ろから抱きしめられてるみたいだ。
 ボーリングに集中できない。

「先輩、ボーリングに集中して! 難しいか?」
「いや、集中出来るし……」
「じゃあ、やってみろ!」

 輪島は俺から離れ、俺は輪島におしえてもらった通りにボールをコロコロした。ボールは中心をまっすぐに走っていく。そして――。

「やった! 全部倒れた!」

 俺は輪島と両手をパチンとした。
 ボーリングってめちゃくちゃ楽しいな!

「もうそろそろ、ボーリングは終わるぞ」
「いや、もう1ゲームだ!」

 そんな会話が繰り返され、あっという間に時間は過ぎていった。

 ボーリングが終わり外に出ると、空がうっすら赤くなり始めていた。

「ワンワン胸キュンランド、間に合わないかも……」
「他に行く予定のところか?」
「そうだ。最終受付十七時だ」

 今は、十六時二十分。

「ごめんな……俺がボーリングを何ゲームもやりたいって、しつこく言ったから」
「いや、いいんだ。今日は先輩が楽しむ日だ」
「違うだろ? 今日は輪島の取材の日で……俺だけが楽しんでいた気がして……ごめんな」
「謝ることは、ない! 先輩の笑顔が見られて、今日は幸せだった」

――輪島から『幸せ』という言葉が出てくると、ほっこりした気持ちになれる。

「輪島が幸せで、よかった!」
 
 俺たちは微笑みながら、見つめあった。
 

「……あの、お取り込み中のところ申し訳ございません」

 あ、そういえば今は撮影中だった!

「タクシーで行けば十五分あれば余裕で着きますよ! タクシー代はこちら側で出しますので、乗りませんか? 経費は会社で出ますし、そこまで歩くの正直疲れそうで……」
「じゃあ、頼む! 感謝する」

 タクシーで行くことになり、輪島おすすめの『ワンワン胸キュンランド』に、時間内に無事着いた。

「すみません。取材許可の件でご連絡いたしました……」

 取材の男と受付の人が話をしている。あらかじめ連絡してあったのか。そういえばボーリング場でも、取材の男は店員と話をしていた。ということは、輪島とこの男は、俺たちのデートプランの打ち合わせをすでにしていた? 輪島は三個のプランから俺がボーリング&おすすめコースを選ぶの、分かっていたんだな。すげー、すげーよ、輪島。

『わんわんは、おおきなおとにビックリしちゃうから、しずかにしようね』
『ぜったいにたたかないで、さくのそとからやさしくさわろうね』
『いやそうなときは、しつこくしないでそっとしといてね』

 分かった!と、注意事項が書いてある紙に頷くと、奥へ進んでみる。

 いくつもの木でできた柵があり、それぞれの柵の中に、可愛い犬がいた。ふわふわで小さいの、大きくてさらさらしているの……色々いっぱいいた。

「可愛いな、おい!」

 俺は柵の中にいる犬たちにささやきながら歩き回った。小さくてふわふわふな茶色の犬と目が合い、その犬がいる柵の前でしゃがんだ。柵の中にそっと手を入れるとくんくん匂いを嗅いできた。

「可愛すぎて、やべー」

 そっと優しくふわふわな頭を撫でた。

「本当に可愛いな、おい!」

 撫でたあと、ふと輪島を見る。輪島は腰に手を当てながら、俺をじっと見て微笑んでいた。俺が微笑み返すと、輪島も犬みたいに寄ってくる。

「先輩は、この犬が好みか?」
「うーん、全部だ!」
「そっか」

 輪島も手を柵の中に入れた。犬は伏せ、顔も床につけた。

「リラックスしてますね!」と、ここで働いているエプロン姿のベテランっぽい女が声をかけてきた。

「輪島が手を出した瞬間にゴロンしたな」
「偶然だ」

――輪島は、犬にもなんか特別な能力を発揮してそうだな!

 ふたりでしばらくその犬の前でぼーっとして、輪島が立ち上がったから俺も立った。他の犬たちも触ったあとはお土産コーナーへ。犬柄の箸とかぬいぐるみとか……色々ある。

「このTシャツ、可愛いな!」

 白い生地の中に、さっき触った犬が真ん中にドンしているTシャツを見ながら呟いた。

「これが好きか? 買ってくる!」

 輪島はそのTシャツを手に取り、レジに行こうとした。

「いや、いいよ。自分で買うから」
「いや、買ってくる……」

 俺が俺がしていると、急に輪島が「トイレに行きたくはないか?」と聞いてきた。

 全く行きたくはなかったけど、何回も聞いてきたからトイレに行きたくなってきた気がした。

「トイレは、あっちだ!」
「分かった! 行ってみる!」

 輪島が指をさした方向に歩いた。

――それにしても、なんで輪島は急に俺がトイレに行きたくなる予言をしてきたんだ?

 トイレから戻ると、輪島は大きな袋を抱えていた。

「何か買ったのか?」
「ぬいぐるみと筋トレ用にTシャツを二枚買った」

 袋をちらっと覗くと、茶色くて大きなぬいぐるみの頭と、さっき俺が見ていたTシャツが見えた。

「輪島も、犬が好きなんだな」
「好きだ」
「可愛いもんな!」
「うん、可愛い……さて、そろそろ帰るぞ」

 外に出ると、もう暗くなっていた。タクシーで寮の前まで送ってもらうと、取材の男は去っていった。

 お腹がすいていたから晩飯を食べ、部屋に戻る。輪島はさっき買っていた犬のぬいぐるみとTシャツ一枚を俺のベッドの上に置いた。

「なんだ、俺のところに置いて……」
「Tシャツは、筋トレ用に使え!」
「Tシャツ、くれるのか? 嬉しい、ありがとな! ぬいぐるみは……抱っこしていいのか?」
「いいぞ」

 ぬいぐるみを抱っこしてみる。
 大きさは、俺の頭二個分ぐらいか?

「ふわふわで気持ちいいな。さっきいっぱい触った犬に似てるな!」
「そのぬいぐるみと、一緒に寝てもいい」
「マジか……輪島、ありがとな!」

 俺はぬいぐるみを抱きしめながらベッドの上で仰向けになる。そして上半身を起こしたり倒したり、腹筋トレーニングをした。

 正直、ふたりで筋トレ以外のことをしても楽しめるのか不安だった。だけど――。

 俺は座り直し、ぬいぐるみを抱きしめたまま輪島を見る。

「輪島、本当に今日は楽しかった!」

 笑顔でいると、輪島はこっちに向かってきた。

「今日は、ぬいぐるみと先輩を一緒にお姫様抱っこだ」と、いつものように俺を持ち上げ、お姫様抱っこをした。

 また、一緒にどこかへ行けたらいいな――。
 ずっと、輪島と幸せな時間が過ごせたらいいな――。

 今日も輪島は、あたたかい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

【完結】番になれなくても

加賀ユカリ
BL
アルファに溺愛されるベータの話。 新木貴斗と天橋和樹は中学時代からの友人である。高校生となりアルファである貴斗とベータである和樹は、それぞれ別のクラスになったが、交流は続いていた。 和樹はこれまで貴斗から何度も告白されてきたが、その度に「自分はふさわしくない」と断ってきた。それでも貴斗からのアプローチは止まらなかった。 和樹が自分の気持ちに向き合おうとした時、二人の前に貴斗の運命の番が現れた── 新木貴斗(あらき たかと):アルファ。高校2年 天橋和樹(あまはし かずき):ベータ。高校2年 ・オメガバースの独自設定があります ・ビッチング(ベータ→オメガ)はありません ・最終話まで執筆済みです(全12話) ・19時更新 ※なろう、カクヨムにも掲載しています。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?

perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。 その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。 彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。 ……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。 口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。 ――「光希、俺はお前が好きだ。」 次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。

【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました! 応援ありがとうございました! ******************* その日、澤下壱月は王子様に恋をした―― 高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。 見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。 けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。 けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど―― このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。

処理中です...