【ピュア青春BL】筋トレするふたりが結ばれる日まで~今日も輪島はあたたかい。

立坂雪花

文字の大きさ
10 / 11

第10話*気持ちを伝える

しおりを挟む
 密着取材の次の日は、昼過ぎに部室へ。

 部室に入った瞬間、壁にある『わじまおめでとう』のカラフルな文字が目に入ってきた。その文字は、折り紙で作られた赤い花に囲まれていた。そう、今日は『輪島優勝おめでとう会』の日だ。こないだ旅館で買った〝筋肉最強Tシャツ〟を渡す日。今は鞄に忍び込ませてある。

――はぁ、本当に渡すのドキドキだ。

「じゃあ、今日はいっぱいお菓子食べようぜ」

 青木副部長はお菓子がたくさん入った大きな袋を逆さまにして、広げた白い折りたたみテーブルの上に全部出した。中谷はペットボトルのお茶やジュースを並べる。

 明らかに小さいテーブルを、大きい男たちが囲んでいる、ぎっちぎちだ。

「なんか、このテーブル小さくね?」
「人がデカイんだ」

 俺が言うと森部長が答えた。

 多分、輪島の密着取材が放送されたら部員が増える予感がする。
 三年になって俺が正式な部長になった時、大きめのテーブルを買おうか。部費で買っても大丈夫なのか?

 それぞれ好きなペットボトルの飲み物を持った。俺はオレンジ味の炭酸を持つ。

 森部長は咳払いをしてから、叫んだ。

「では、輪島の『秋の全国高校生筋肉バトル』、優勝を祝って、乾杯!」
「「乾杯!」」

――いいな、こういうの。

 同じ目的の人が集まって、結果を出した人をみんなで祝う。こんな世界に関われるなんて。輪島のお陰で、世界も広がった。

 それぞれチョコやスナック菓子を食べたりして、筋肉バトルの話で盛り上がる。

「中谷、俺たちも応援頑張ったよな!」
「ね、頑張ったよね!」

 俺と中谷は旗作りの話で盛り上がる。

「なぁ、その旗、どうするんだ?」

 青木副部長が話に割って入ってきた。

「矢萩くん、どうしよっか?」
「部室に飾っとくか? 歴代の校長みたく」
「ちなみに、俺のは誰が担当したんだ?」
「青木先輩のは、僕が担当したよ」
「じゃあ、それちょうだい!」

 中谷は隅に置いてある袋から旗を出した。

 俺の顔、縦幅二個分で横幅は、五か六個分ぐらい?の大きさの旗だ。それぞれ別々の色を背景に黒で囲んだ白文字の名前。

「青木先輩のは、この青いのだよ!」

 中谷が棒の部分を持ち、旗をフリフリしながら青木副部長に渡した。

「ありがとな。筋肉部引退しても、ずっと、一生宝物にする」
「そういえば、先輩たちっていつ引退するんだ?」
「俺たちは、卒業までずっといるぞ」
「秋の全国高校生筋肉バトルが終わったら引退だって……」
「いや、まだ辞めない。辞めたくない!」

 話をしていると「あの、僕もほしい、です」と、秦も言ってきた。

「はい、どうぞ。秦くんはピンク色ね」
「ありがとうございます」

 秦は両手に旗を乗せ、ニコニコ嬉しそうにしている。

「森先輩は、緑です!」
「森だから緑か? ありがとな」

 森部長は微笑みながら、旗をフリフリさせていた。

「輪島くんは、これね! 矢萩くんが作ったよ!」
「先輩の手作りか……はぁ、嬉しい」

 輪島は両手で棒部分を持ち、目を細め、まるで愛おしいものをみるように、旗の文字をずっと見つめていた。

――輪島ならきっと、俺が選んだTシャツも、嫌な顔をしないで受け取ってくれるよな。

 隅に置いてある鞄のところへ行き、Tシャツを出した。そして「輪島!」と名前を呼ぶ。

「なんだ?」
「輪島に、渡したいものがある」

 わいわい盛り上がっている場所から離れて、輪島は俺のところに来た。

「……これ、輪島にプレゼント。俺とお揃いなんだけど」

 Tシャツを両手で輪島に差し出した。
 どんな反応をするんだろうか。

――あれ? 受け取らない。

 輪島は胸に手を当てながら呼吸を荒くしている。

「輪島、大丈夫か?」
「だめだ、大胸筋が激しくなって苦しいし、泣きそう」

 俺は他の部員たちの様子をチラ見した。相変わらず盛り上がっている。

「ちょっと話したいこともあるし、外に出ようか?」

 輪島が頷くと、ふたりで外に出た。
 校舎から出て、適当に歩いた。

 輪島に渡すTシャツをぎゅっと抱きしめる。

「このTシャツな、筋肉バトルの日に泊まった旅館で買った。温泉上がってそのまま土産屋行ったから財布がなくて、これを買うために、一瞬だけ中谷からお金を借りたんだ……渡す日まで内緒にしていたくて、お金借りた理由言えなくて、ごめんな」

 ずっと心の中に突っかかっていたものを吐きだした。輪島は持ったままの旗を見つめ何も言わない。

「怒ってる?」

 俺は輪島の顔を下から覗き込んだ。
 しばらく何も答えなかった輪島は、話し始めた。

「一回目は、指摘したい部分がありすぎて、ただ可愛いと思った……」
「……なんの話だ?」
「二回目は本音で気持ちを伝えたのに、返しがセリフそのままだったから、嫌だった」
「だから、何の話だよ?」

 どうした輪島。俺じゃない他の奴とした話を勘違いしているのか?

「……俺たち付き合っているわけじゃないし作戦の話だ」
「な、なんで知ってるんだ?」
「先輩たちのコソコソ声が、旅館の休憩室から聞こえてきたから、部長とふたりで聞いていた」
「嘘だろ? 俺たちはかなり気をつけて小さな声で話をしていたはず」
「いや、結構声が大きかった……」
「マ!?」

――本当に聞かれていたなら、本気で恥ずかしいぞ。

 作戦実行した一回目は、旅館の部屋で輪島たちが取材の話をしてた時だ。たしか取材で遊んでる姿も撮る的な話をしている時に「一緒に出かけるか?」って言っても「取材が……」と渋る輪島に対して「一緒に出かけるのも微妙だよな。別に、俺たち付き合っているわけじゃないし」って言った時だ。

 二回目は……先輩が他の人からお金を借りるのは嫌だ的なことを輪島が言った時だ。うん、作戦を聞いていたんだったら、セリフそのまま返されるの、腹立つよな。輪島は本音で話していたのに。

「輪島、本当にあの時は、ごめん! これからは本当に、輪島が本音で話してくれた時も……いつも自分の言葉で気持ちを伝えるから!」
「もう大丈夫だ。お金借りた理由も今、聞いたしな」

――待って? あの時、話を聞いていたってことは?

「輪島と恋人になりたいって俺が思っていることも、知ったってことか?」
「あぁ、聞こえてた」

 聞かれてた、気持ちを知られてた……。

「それについては、ど、どうなんだ? 俺とこ、恋人に……」
「なれない!」

 やっと、ずっと言いたかった言葉を伝えられた。いつ言おうか、どんな言葉で気持ちを伝えようか。最近ずっと考えていた。言えた。正直、輪島なら受け入れてくれると思っていた。〝恋人になりたい〟が届けば、輪島と付き合えて、中谷たちのようになって、今よりも俺たちは深い仲になれると、思っていた――。

 全部言う前に断られた……。

「せめて最後まで俺の話を聞けよ! 恋人にはなりたくないから、最後まで聞く程のことではないってことか?」

 はっきりと振られた――。

 もやもやもやもや……輪島の「なれない」のひと言が、俺の気持ちを底に落としていく。

「輪島が好きだ……好きなんだよ! 俺と付き合ってくれよ」

 鼻水が出てくる。
 目も涙でぼやけてきて、輪島が見えなくなってくる。

 こんなぐしゃぐしゃな俺、輪島には見られたくない。俺は、輪島の前から逃げたくなって背を向けた。そして、走った。

 輪島のいないところならどこでもいい、どこかへ――。

 輪島が追いかけてきて、俺の手首が輪島の手に捕まった。立ち止まって振り返ると、輪島も泣きそうな様子だった。

「だって先輩、お姫様抱っこが――」

 晴れていたのに曇りだして、空から小雨が降ってきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

【完結】番になれなくても

加賀ユカリ
BL
アルファに溺愛されるベータの話。 新木貴斗と天橋和樹は中学時代からの友人である。高校生となりアルファである貴斗とベータである和樹は、それぞれ別のクラスになったが、交流は続いていた。 和樹はこれまで貴斗から何度も告白されてきたが、その度に「自分はふさわしくない」と断ってきた。それでも貴斗からのアプローチは止まらなかった。 和樹が自分の気持ちに向き合おうとした時、二人の前に貴斗の運命の番が現れた── 新木貴斗(あらき たかと):アルファ。高校2年 天橋和樹(あまはし かずき):ベータ。高校2年 ・オメガバースの独自設定があります ・ビッチング(ベータ→オメガ)はありません ・最終話まで執筆済みです(全12話) ・19時更新 ※なろう、カクヨムにも掲載しています。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?

perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。 その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。 彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。 ……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。 口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。 ――「光希、俺はお前が好きだ。」 次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。

【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました! 応援ありがとうございました! ******************* その日、澤下壱月は王子様に恋をした―― 高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。 見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。 けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。 けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど―― このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。

処理中です...