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回想/少年編
4.血みどろキス
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それでも子どもの俺は本気でドゥルースの役に立ったと思っていたんだから救えない。
ありえないくらいの血をだばだば吐いて、男たちと同じようにのたうち回りながらも初めて魔法が使えた! なんて喜んでたしな。
人を殺して喜ぶくらいだし、この頃にはすでに頭がぶっ壊れてたんだろうな。きっと。
「えーっと……君、死ぬの?」
背中が震えるくらい冷たい手に頬を触られたけど、血で口の中が乾いていて言葉が出なかった。
カフカフ言いながら血のカスを吐き出してただけだったんじゃないか? 俺。
「苦しそうだね」
まだ話しかけてくるのかと思って、頑張って子どもの俺が目を向けた。なのに見えないんだ。
真っ暗けな中に三日月だけがゆらゆら揺れてんだよ。
たまたま涙かなんかが口の中に入って喋れるようになった俺が「あなたも死ぬの?」って、不吉なことを言った。
ソイツは困惑しながらも「うん……そうだな。死にたいんだけど」って返してきたのを覚えている。
なんでか訊いたら、体の輪郭をガクガク揺らして「好きな……人! が、死んだ、からっ」とか叫んで不気味だった。
「それって、誰?」
「離れの白い城に住んでる、忍冬って呼ばれてる御妃様」
口を開くと白い牙が見えて、人間じゃないんだなって分かった。
図体もでかくて恐ろしげなのに、やけに棒読みで話すし動作も不安定だった。
「金銀花って異名がある。白銀の髪が光の下だと金にも見えたから、その名前で呼ばれているんだ」
そうだ、まるで言わされてるみたいに。誰かに操られているみたいに――。
なのに子どもの俺は妃の名前なんか訊ねやがって、エディスだ綺麗な名前だと言われてぼろ泣きして。
自分を捨てた親に急に希望を見出して、生きてほしがられているんだとか思って。
ドゥルースとのことを天秤にかけた。
その結果、「生きたいか?」って質問に、「生きなくちゃ、いけない」とか息も絶え絶えのくせに言って。
人間でもない奴に命乞いをした。
「じゃあ、俺の命をお前にやる」
しゃがまれて、ようやく顔が露わになる。
まあ、ドゥルースの方が男前だったよ。
すぐに首を噛まれて血を吸われたし、いい思い出とは言い難い。
劇で取り扱われるようなロマンチックさなんて毛ほどもないだろ、向こうだって引いてたし。
「ありがとう」
なんて言って、頬に口づけた。ドゥルースにするみたいに、ただ触れるだけのキス。
冷たい肌で、やっぱり死んでるのかなって笑った。
最後の夢なのかもしれない――そう思ったんだよ、本当に。
*** *** *** *** ***
次に起きたら誰もいなかった。正確には、生きている奴は誰もいなかった。辺り一面、死骸だらけだ。
泣きそうになった俺のところに、それはぷかぷか浮いてやって来た。
最初は丸い光に見えた。
次第に球型から人の形に変わったソイツは、恐らく全裸のまま俺に話しかけてきた。
その時の俺には理解ができない、聞いたことのない言語だった。
「え? ごめんな、さい。僕には、分からない」
俺が分からないのだと気がついたソイツは実に悲しげな顔をした。
実際には顔は判別が付かなかったんだが、なんて言うのか……雰囲気がそう物語っていた。
だから、同情した俺は無意識のうちに口を開いてしまっていた。
「いつか、いつか……分かるように、なるからっ。だから、悲しそうにしないで?」
伸び上がって手を握った俺の確証のない言葉にでも良かったのか、ソイツは満足したように俺の髪を撫でた。
「ごめんなさい。僕、頑張るから」
そう言った途端、ソイツはパンッと派手に鳴って飛び散った。
驚いて伸ばした腕の中に潜り込んで、小さな欠片になった光は俺の体の中に入ってきた。
「……生きよう」
結局、最後に残ったのはそれだけだった。浅ましくそう思うしかなかった。
ありえないくらいの血をだばだば吐いて、男たちと同じようにのたうち回りながらも初めて魔法が使えた! なんて喜んでたしな。
人を殺して喜ぶくらいだし、この頃にはすでに頭がぶっ壊れてたんだろうな。きっと。
「えーっと……君、死ぬの?」
背中が震えるくらい冷たい手に頬を触られたけど、血で口の中が乾いていて言葉が出なかった。
カフカフ言いながら血のカスを吐き出してただけだったんじゃないか? 俺。
「苦しそうだね」
まだ話しかけてくるのかと思って、頑張って子どもの俺が目を向けた。なのに見えないんだ。
真っ暗けな中に三日月だけがゆらゆら揺れてんだよ。
たまたま涙かなんかが口の中に入って喋れるようになった俺が「あなたも死ぬの?」って、不吉なことを言った。
ソイツは困惑しながらも「うん……そうだな。死にたいんだけど」って返してきたのを覚えている。
なんでか訊いたら、体の輪郭をガクガク揺らして「好きな……人! が、死んだ、からっ」とか叫んで不気味だった。
「それって、誰?」
「離れの白い城に住んでる、忍冬って呼ばれてる御妃様」
口を開くと白い牙が見えて、人間じゃないんだなって分かった。
図体もでかくて恐ろしげなのに、やけに棒読みで話すし動作も不安定だった。
「金銀花って異名がある。白銀の髪が光の下だと金にも見えたから、その名前で呼ばれているんだ」
そうだ、まるで言わされてるみたいに。誰かに操られているみたいに――。
なのに子どもの俺は妃の名前なんか訊ねやがって、エディスだ綺麗な名前だと言われてぼろ泣きして。
自分を捨てた親に急に希望を見出して、生きてほしがられているんだとか思って。
ドゥルースとのことを天秤にかけた。
その結果、「生きたいか?」って質問に、「生きなくちゃ、いけない」とか息も絶え絶えのくせに言って。
人間でもない奴に命乞いをした。
「じゃあ、俺の命をお前にやる」
しゃがまれて、ようやく顔が露わになる。
まあ、ドゥルースの方が男前だったよ。
すぐに首を噛まれて血を吸われたし、いい思い出とは言い難い。
劇で取り扱われるようなロマンチックさなんて毛ほどもないだろ、向こうだって引いてたし。
「ありがとう」
なんて言って、頬に口づけた。ドゥルースにするみたいに、ただ触れるだけのキス。
冷たい肌で、やっぱり死んでるのかなって笑った。
最後の夢なのかもしれない――そう思ったんだよ、本当に。
*** *** *** *** ***
次に起きたら誰もいなかった。正確には、生きている奴は誰もいなかった。辺り一面、死骸だらけだ。
泣きそうになった俺のところに、それはぷかぷか浮いてやって来た。
最初は丸い光に見えた。
次第に球型から人の形に変わったソイツは、恐らく全裸のまま俺に話しかけてきた。
その時の俺には理解ができない、聞いたことのない言語だった。
「え? ごめんな、さい。僕には、分からない」
俺が分からないのだと気がついたソイツは実に悲しげな顔をした。
実際には顔は判別が付かなかったんだが、なんて言うのか……雰囲気がそう物語っていた。
だから、同情した俺は無意識のうちに口を開いてしまっていた。
「いつか、いつか……分かるように、なるからっ。だから、悲しそうにしないで?」
伸び上がって手を握った俺の確証のない言葉にでも良かったのか、ソイツは満足したように俺の髪を撫でた。
「ごめんなさい。僕、頑張るから」
そう言った途端、ソイツはパンッと派手に鳴って飛び散った。
驚いて伸ばした腕の中に潜り込んで、小さな欠片になった光は俺の体の中に入ってきた。
「……生きよう」
結局、最後に残ったのはそれだけだった。浅ましくそう思うしかなかった。
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