【第2部完結】悪役王女の跡継ぎはバッドエンドですか?

結月てでぃ

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入隊編

6.成金と没落貴族部屋

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「あー、やっと一息つけたなー」

 シルベリアに髪を乾かしてもらったシュウが空になったカップを床に置いて、口を開いた。
 そしてシュウが来たことで横に退いたエディスの方を向き、手を差し出してきた。

「俺は軍兵器開発部所属にしている、シュウ・ブラッドだ」

 その手を見た時、手を握り返すべきだと思った。だというのに、全く体が動かない。

「……ブラッド?」

 まさか、こんな所で出会うとは。
 シュウは慣れているのか、「そうだよ」と苦笑いを浮かべる。

 ブラッド家――医療器具から殺人兵器、ぬいぐるみから大人用の人形まで。
 子どもから大人、男から女まで幅広い方の手にお望みの商品をお届けする商売人の一家。

 シュウはベッドの傍らに置いていたライフルを手に取り、エディスに渡してきた。
 一通り学んだものの銃火器がそれほど得意ではないエディスは、慌てて抱えるようにして受け取る。
 ずしりと重い銃身には、金で囲まれた盾の中に細長いシルエットのライフルが交差している家紋が彫られていた。

「これか、よく見るな。なんにでもついてる」

 いい商売をしていると思う。そう言って、シュウの目を正面から見返して笑ってみせる。
 面食らった様子だったシュウは、「どうも」と言って自分に向かって差し出されたライフルを手に取った。
 そして手首で回して跳ばし、最初と同じベッドの傍らに戻す。

「まあ。上の連中からすると、この国一番の成金だがな」

 辟易して髪を掻くシュウに、エディスは「信念のない貴族なんて、嫌味しか言わない生き物だ」と息を吐く。
 乱れたシュウの髪をシルベリアが手櫛で直す。

「商売にしろ軍にしろ、全てが全て貴族上位だ。その輪から外れてる奴らの中で自分勝手に振舞えるなんて、王族とブラッド家くらいだろうさ」

 心底嫌そうにシルベリアがシュウの肩に腕を回してもたれかかる。

「それ以外の奴は、貴族に媚びなければ昇進すらできないからなあ」

 そして、今度は二人揃って盛大にため息を吐き出す。
 ブラッド家だから安泰なんじゃないのか? とエディスは考え――「ああ」と合点がいった声を出した。

「呪われてるから一族に追い出されたのか」

 思わず口に出すと、シュウが苦虫を噛み潰したような顔になって「追い出されちゃいねえよ」と口を引き結ぶ。

「呪われてるのは否定しないけど、俺はこれでも一応人間だぞ」

 普通の人間の形をしている耳を引張りながら言うので、エディスは膝の上に肘をついて「見れば分かる」とぶっきらぼうに吐く。

「なんでそんなことなったんだよ」

「たまたまだ。数年前に狼男に遭遇して……」

 まさかコイツ「呪いを避けそびれた、とか」そんなわけがないよなと思って口にすると「うるせえな」と返ってきたのでまさかだったらしい。

「雨の日だけ、あんな風になんだよ」

 爪は便利な時もあるからいいんだけどよ、とぶすくれた顔をするシュウを観察する。
 どこに呪いが当たったのか、すぐに分かった。
 首の左側だ。蜘蛛の足のような傷だが、獣の爪痕に見えないこともない。

「それだけだ! ほら、次シルベリアな」

「なんで律儀に自己紹介する流れになってんの」

 軟派に笑うシルベリアの脇を肘でついて促す。
 とことんこの男に弱いのかシルベリアは「はいはい」と頭を撫でてからエディスの方に向き直る。

「俺の名前はシルベリア・レストリエッジ。地位も所属もシュウと同じ少尉で軍兵器開発部」

「やっていることは全然違うけどな」

 エディスはうわ結構階級上だなコイツらと今更取り繕おうと胡坐を崩そうとした。
 だが、「今更遅いって」「気にしないから」と二人から言われたので、少々恥ずかしいものの甘んじる。

「俺は主にアンドロイドを作ってる。後は銃とかの武器とかも」

 アンドロイド。
 半年ほど前、いきなり軍兵器開発部が熱心にやり始めた研究の一つだ。
 ある程度理解できる頭は持っていても開発部の一員ではないエディスが説明を聞いても、そう簡単には理解できない仕組みで出来ていた。

 人工の髪の毛に人工の皮膚に人工の眼球。
 それをはめ込んだり貼りつけたりしているのは、重い金属らしい。
 内臓の代わりにつまっているのは大量の螺子だったり、歯車やら金属板だそうで。繊細すぎて意味不明だ。
 エディスからすると硬い硬い金属を耳鳴りがしそうなほどに削るより、古文書の一つでも読んでいた方が確実に有意義な気がする。

「俺はそうだな、魔法装置や生態研究を主にしている」

 魔法装置? とエディスが首を傾げる前にシュウが「馬鹿野郎!」と大声を張り上げた。
 それに驚いて見ると、シュウもシルベリアも互いの口を抑え視線を下にして、眉間に皺を寄せている。これは”しまった”の顔だ。

「忘れてくれ」

「いや無理だろ……」

 できれば忘れてやりたいところだったが、あいにくエディスは常人より記憶力は良い。だからどう考えても無理だ。

「悪い、シュウ」

「……お前、マジで馬鹿だろ」

 シュウが片膝に顔をうずめて、はーっとため息をついた。それから低い声で「口外しないよな」と脅してくる。

「俺開発部じゃないから事情知らないし、チクったりしねえよ? それに、後でちゃんと提出するんだろ」

 でないと研究する意味がない……よな? という気持ちをこめてシルベリアを見ると、肯定するように頷かれた。

「残念だが魔法装置はまだ研究に入ったばかりの物なんだ。なにしろ資料が一つもない、俺の完全創作品だから」

 ふーっとシルベリアが肩を少しだけ浮かせ、目を閉じた。

「なにに使うかも決めていない物を上に提出するの避けたいんだよ。研究費の無駄って言われかねないし」

「っつーわけだから、大人しく口を閉じてろ。いいな」

 シュウが自分にできる最大限の怖い顔をしてきているらしいが、あの獣耳姿を見た後じゃ怖くもなんともない。
 今生えていたらピンと立っていたんだろうなと想像するくらいだ。

「はいはい、了解しました。少尉殿」

 だけどわざと明るい調子で両手を挙げて降参を示すと、雰囲気が和らいだのを感じ取ったシルベリアが再度口を開いてくれる。

「もう一つの生態研究は……まあ、魔物だったり、能力者だったり、半魔物なんかを調べているだけだ。民間の調査期間の大規模バージョン、といったところだなあ」

「えっ、それって事務部の仕事じゃなかったのか!?」

 能力者。その名で呼ぶ者は少なく、多くの者は畏怖と侮蔑を込めて『人間兵器』と呼ぶ。
 彼らは科学でも魔法でもない不思議な力を持っている為、戦闘にて活用され続ける。
 ”兵器”という嫌な言葉がついていることから分かるだろうが、人間ではなく武器としての扱いだ。
 かといって、非人道的というまでの扱いを受けてはいない。

 なぜただの人間がそんな力を持ってしまったのかは未だ不明だ。
 一切の書類が残っていないことから、一度世界が滅んだ後にできた現象だとか荒唐無稽なことを言う者がいたり、魔物に原因があることだけしか分かっていない。

 どうしてだか、全ての能力者は魔物に襲われた時に自分の中の力に気付いたのだという。
 だが、魔物に襲い掛かられても、能力が開花せず餌食になってしまう者が大半だ。
 研究者にとって頭を傾げることばかりだった。

 軍における人間兵器の種類は二つある。

 一つは一人の人間と共鳴することで兵器化し、能力を発動させる憑人タイプ。
 もう一つはどの人間とも共鳴することができる兵器タイプ。
 兵器タイプの方が人数的に考えると人数が少なく希少だが、能力の種類を見ると、憑人タイプの方が上だ。

「事務部にやってもらっているのはそれのファイリングや管理な。調査は開発部の仕事だ。時々、医療部に手伝ってもらうこともあるが」

 へえ、とエディスは息のような声を出した。まさか医療部が開発部と手を組んでそんなことをしているとは思ってもいなかった。
 なるべく近寄らないようにと気を付けていたから、というのもあるが。
 他の部署――特に医療部以外――とはあまり交流を持たないでいる戦闘科とは違い、開発部は随分と親密な関係を各所に持っているようだ。

「他は、俺はただの変哲もない軍人だ。まあ、身分はコイツと違ってあまりよくはないが」

 そう言うとシュウが目を吊り上げて、叱るように名前を呼ぶ。
 その様子に「変哲なくないんじゃないのか」と言うと、シルベリアはシュウのこめかみに拳を押し当てて捩じる。

「いやあ~、ほんっとただの……没落貴族ってだけで」

「そりゃ珍しいな」

 珍品だらけじゃねえかこの部屋と言うと、シュウに頭を叩かれた。

「お前、口で身を滅ぼすぞ」

「ちょっと素直すぎる」

 おかげで上官からは嫌われてますよと言うこともできず、エディスは悪いと頭を下げる。

「まあお前が言う通り、貴族さま、王族さま、万々歳! な国で没落するのは珍しいんだけどな。でも別にまだ貴族としての地位を剥奪されてはいないんだぜ」

 辛うじてと笑ったシルベリアが目を閉じ、「今に見ていろ。また昇りつめてやるから」と呟く。
 随分と簡単に言うが、そういえる自信よりも上の力を持っているのだろう。先ほどからなにを言っても姿勢が揺らいでいない。

「そんな感じだ、よろしくな」

 腕を組み、妖艶な笑みを浮かべる。
 シルベリアはそんな表情やしぐさがとても良く似合う男だった。

 腰までの長い髪は白色――というよりも光の加減にとって色が変わるので極彩色と評した方がいいだろうか――をしている。
 瞳は美しい月の光のような、淡い金色をしている。
 鼻梁は高く、睫毛は長く量が多い。唇には黒っぽい赤色の紅をつけていた。
 女性的な容姿だが、一本芯の通った雰囲気が確かに男なのだということを知らしめていた。

「よろしく」

 くすりと微笑む、気高い薔薇のようなシルベリア。一見不愛想に見えるが優しさを内面に閉じ込めた、黒百合のようなシュウ。

「よろしく!」

 エディスは二人の手を握り返し、笑った。
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